万華鏡
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第五十四話 音楽喫茶その十一
「強烈でしょ」
「殆どプロレスですね」
「それみたいですね」
「プロレスはショーだけれどね」
ただしこちらも怪我を覚悟してやっている。
「漁師さんは本気だからね」
「だからヤクザ屋さんより怖いんですね」
「そうした人もいるんですね」
「そうよ、ヤクザ屋さんも怖いけれどね」
先生が電車で子供を慌てて連れて行ったそのスキンヘッドの人の様にだ。
「もっと怖い人達がいることも覚えておいてね」
「はい、わかりました」
「絶対に忘れないです」
「あと自衛隊のこともね」
この人達のこともだというのだ。
「それぞれの自衛隊に表と裏があるのよ」
「他の世界もですね」
「どの世界も」
「先生の中には表しか言わない先生もいるけれどね」
建前と本音と言ってもいい、建前と言うが実際は建前を信じる人も結構いたりするのが世の中である。それが本人にとっては幸せであることも多い。
「裏もあるのよ」
「それで先生はですか」
「私達に裏も教えてくれるんですね」
「世の中の裏を」
「それを」
「そうよ、表と裏、理想と現実、光と影があってね」
そうしたものを全て知ってだというのだ。
「人間は生きていられるからね」
「だからですか」
「それでなんですね」
「世の中は綺麗ごとばかりでもないのよ」
汚い、醜いものもあるというのだ。
「善悪もあってね。というか学校自体そうでしょ」
「汚いことも一杯ありますね」
「醜いことも」
「嫌なことばって一杯あって」
「楽しいことばかりじゃないです」
「色々なことがあります」
五人もそれぞれこう言う。
「何かと」
「学校でも」
「完全に綺麗な世の中なんて作ろうと思ったら」
どうなるか、先生は五人に話した。
「ナチスとかソ連みたいになるわよ」
「全体主義国家ですよね」
彩夏はナチス、ソ連と聞いてこの言葉を出した。
「それですよね」
「そうよ、全体主義になるわよ」
「ファシズムですか」
「言っておくけれどソ連もファシズムだったから」
そしてスターリンはヒトラーに匹敵する独裁者だった、このことは長い間戦後日本の一部知識人達は様々な韜晦、詭弁を駆使して認めようとしなかった。
「ナチスと同じくね」
「そうですよね」
「それになるわよ」
「ナチスやソ連にですか」
「完全に綺麗にしようと思ったら異質なものは排除しないといけないから」
それ故にというのだ。
「全体主義になるのよ」
「どうしてそうなるんですか?」
「自分と違うもの、汚いものを全部掃除しようと思うからよ」
「だからですか」
「全体主義になるのよ、完璧に綺麗な世界にしようと思うと」
「綺麗なだけじゃ駄目なんですね」
「駄目よ、例えばナチスやソ連では確かに犯罪は極端に減ったし街からヤクザ屋さんとかもいなくなったわ」
このことは紛れもない事実だ、ナチス政権下のドイツの治安はワイマール体制下とうって変わって極めてよかった。街からならず者は全て排除されたのだ。
「イタリアでもね、マフィアがいなくなったのよ」
「えっ、イタリアって確か」
「そうよね」
五人もイタリアのこのことは聞いている、マフィアについて。
「マフィアが凄く強くて」
「日本のヤクザ屋さんなんか比べものにならなくて」
「好き勝手してるって」
「もう利権とか一杯握って」
「シチリアとかね」
ナポリは別系統のカモラと言われるものだがやっていることは大体同じだ。
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