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万華鏡

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第五十四話 音楽喫茶その八

 だからだ、先生は五人に言うのだ。
「死ぬ気で頑張ってきてね」
「真面目に、ですね」
「音楽も」
「音楽も勉強も遊びも寝ることもよ」
 そのどれもだというのだ。
「命を賭けてやるものよ」
「寝ることもですか」
 景子はそのことについてはやや怪訝な顔で問い返した。
「そこも」
「ええ、そうよ」
 こう話すのだった。
「何でも命賭けよ」
「他のことはわかりますけれど」
「寝ることまではっていうのね」
「寝るだけじゃないんですか?」
 首を傾げさせてそのうえで先生に問い返す。
「寝ることは」
「いやいや、睡眠は美容にいいっていうし寝ないと駄目でしょ」
「生きる為にですね」
「そう、だからね」
 それ故にだというのだ。
「寝ることにもね」
「命を賭けてですか」
「そうしないと駄目なのよ」
「つまり生きる為に命を賭けるんですか」
「そういうことなのよ」
「ううん、何か熱いですね」
「いやいや、熱くてもね」
 それでもだというのだ。
「楽しくよ」
「命を賭けてもですか」
「そう、楽しくよ」
 そのことは大事だというのだ。
「忘れないでね」
「部長さんらしいけれど」
 それでもだとだ、微妙な顔で先生に応える景子だった。
 そうした話をしてだった、先生はというと。
 ここでだ、こうも言うのだった。
「結婚なんてそれこそね」
「命賭けですか」
「男と女の真剣勝負よ」
 まさにそれだというのだ、結婚は。
「一瞬でも気を抜くとね」
「それで、ですか」
「大惨事になるから。育児もね」
「そういえば先生今年ですね」
「そうよね」
 景子以外のプラネッツの面々もここで気付いた、そして言うことはというと。
「お子さん幼稚園でしたね」
「入園されたんですね」
「その年頃になるとね、ちょっと手を離すと何処に行くかわからないから」
「交通事故ですか」
「その心配ですね」
「いや、ヤクザ屋さんが電車の中にいてね」
 最近めっきり減ったがいることにはいる、ヤクザ屋さんはある意味不滅だ。不滅でいて欲しいものではないが。
「スキンヘッドの今時いるかっていう人だったけれど」
「そのヤクザ屋さんにですか」
「何かしたんですか」
「指差してタコタコって言ったのよ」
 その言葉が髪型から来ることであるのは言うまでもない。
「わかるでしょ、それ」
「ああ、それ怖いですね」
「子供以外がやったら大変なことになりますね」
「私達だったらそれこそどうなるか」
「洒落にならないですね」
「慌てて子供の手を掴んでその車両から逃げたわ」
 そうしたというのだ、先生も。
「それでその電車からも次の駅で降りたわ」
「そうしないと大変ですからね」
「相手がヤクザ屋さんですから」
「ヤクザ屋さんより怖いのは漁師さんだけよ」
 それだけだというのだ。 
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