久遠の神話
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第七十九話 次期大統領としてその九
「果敢に進む、そして」
「そしてとは」
「周りを冷静に見ることも重要さも」
彼の持ち味であるこの資質もだ、今もしているアメリカンフットボールを通じて身に着けたものだというのである。
「学びました」
「そうですね、私も野球を自分ではしませんが」
「観て、ですね」
「そうです」
それで学んだというのだ、その森監督から。
「ですから」
「最悪の事態を考えて」
「そして前向きです」
この二つを併せ持ってそうして考えているというのだ。
「この戦いについても」
「では必ずですか」
「後の四人の方も」
まだ戦うことを続けている彼等もだというのだ。
「必ずです」
「そうなればいいですね」
「では貴方は」
「はい、今日にでも」
まさにだ、この日にだというのだ。
「戦いから降りて」
「そしてですね」
「そうです、一駐在武官に戻ります」
他の者達と何ら変わらないだ、それに戻るというのだ。
「ただの軍人に」
「ただの、ですか」
「日本にはずっといられないですが」
「ああ、そのことはですね」
「はい、無理です」
アメリカ軍の人間だ、それで日本にずっといられる筈がなかった。そして彼は大石に彼自身のこのことも話すのだった。
「そして近いうちに」
「近いうちにとは」
「縁談がありまして」
結婚、今するのはこの話だった。
「家庭を持つことになると思います」
「おめでとうございます」
「有り難うございます」
大石は縁談の話を聞いてまずは祝福の言葉を述べスペンサーもお礼の言葉で返す、そのやり取りから再び話すのだった。
「それで、です」
「はい、アメリカに戻られますか」
「一時でも」
結婚、その為にというのだ。
「式は休暇の時に祖国で挙げる予定になっています」
「いいことですね、それはまた」
「幸せを感じています。そのまま新婚旅行になるでしょう」
「余計に幸せですね」
「実に。シカゴで式を挙げ」
彼の故郷でだ、それからだというのだ。
「そこからオーストラリアに行きます」
「あの国が新婚旅行の行き先ですか」
「私達の」
「いいですね、オーストラリアには行ったことがありますが」
「自然が豊かで」
「特に海がいいです」
大石も温かい、過去を懐かしむ目で大石に話す。
「シドニーの海が」
「あの街に行きます」
「あそこはオペラハウスもありまして」
「牧師さんはオペラも観られますか」
「実は」
好きだとだ、やはり温かい顔で話す大石だった。
「好きです」
「そうでしたか」
「ヴェルディが好きです」
イタリアの偉大な音楽家だ、ワーグナーと同じ年に生まれたことでも知られている、非常に劇的な音楽である。
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