あかりの碁
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プロローグ
ありがとうあかり
あかりのことをよく考えてみる。
幼なじみのあかりのことを女として考えたことはほとんどなかった。
碁で忙しかったから。
塔矢を追うこととタイトルを取ることに集中して
タイトルを取ったら取ったで強い奴と戦いたいとか、
囲碁を広めるためにどういうことができるかとか、そんなことを考えていた。
そうだ。最後に飛行機に乗った時も、あかりは何をしていたのだろう。
そうやって記憶を整理する。
あかりのことは、ほとんど覚えていない。
その程度の関係だったのだろう。俺にとっては。
碁が、いや、佐為が俺の恋人で。
だから碁に生きて碁に死ぬ。それが俺のこれまでの生き様。
だがこうしてよく考えてみれば、どうしてあかりを嫁にしなかったのだろうか。
佐為と出会うまでの問題児でしかなかった俺の面倒を見てくれたあかり。
囲碁に理解があり、俺の碁を、そして中学の部活の皆の碁を常に守り続けてくれたあかり。
常に俺を気遣ってくれたあかり。
今改めて考えると、間違いなく彼女こそ俺の最大の理解者であり、
そして俺を今までずっと支えてくれた恩人だ。
そのあかりを今までずっと無視していた。
ははは。最低じゃん俺。
もっとあかりを大事にしておけばよかった。
まさか、当の本人になって気づくとか本当に笑えない。
思えば俺の人生、猪突猛進だった。
もちろん、だからこそプロとなって4冠を勝ち得ることができたと思ってる。
猪突猛進でなければ、俺が勝ち得たタイトルは半分に満たなかっただろう。
だから、この性格は否定できない。
ならばせめて、気づいた大切な人がいるときは大事にする。
佐為を大事にできなかったこと。
あかりを大事にできなかったこと。
結局俺はいつもそうだった。
失って始めて気づくんだ。その人がどれだけ大事だったのか。
ありがとう。あかり。
自分自身になってしまった幼なじみへの感謝を口に出そうとして、
そういえばここには空気がなかったし、そもそも生まれる前の胎児だから
声も出せなかったと思い出した。
でもまあ、そろそろ俺も産まれるだろう。もう子宮もだいぶ狭くなってきたしな。
そうすればいくらでも感謝の言葉を口にできる。
だから今はこのまま、心の中でありがとうを言おう。
俺の恩人であり、俺の理解者である藤崎あかりとしての人生が、もうすぐ始まる。
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