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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―悪魔の囁き―

「なんでだよ……」

 デュエル・アカデミアの地下通路、十代の疑問を呈する呟きが響き渡った。そんな小さい呟きが聞こえるほど、その場は静まり返っていた。

「なんでなんだよ!?」

 遂には爆発するかのように大声を出したものの、その声に答える者はいない。名指しでは無かったが、質問をされている者は分かっている筈なのだが。

「なんでだよ……遊矢……」

 異世界に来てからの彼の初の本格的なデュエルは、友人である黒崎遊矢とだった。その後ろには黒幕であるマルタンの姿が控えているが、遊矢には操られている様子や、デュエルゾンビになっている様子はない。

 彼はいたって正気のまま、マルタンの姿をした怪物の尖兵として、十代とデュエルする道を選んだのだった。

 ――時は少しだけ遡る。

 遊矢と明日香が背中合わせにデュエルを開始し、デュエルゾンビに対して勝ち目のない戦いに徹している時のことだ。異世界に来る前も含めたデスデュエルにより、体力を既に限界まで酷使していた遊矢が遂に、相手からの必殺の攻撃を受けた。

 ……いや、受けるところだった。そのモンスターは覚悟していた遊矢のモンスターには向かわず、明日香の方へと向かっていたからだ。

「リバースカード、《ドゥーブルパッセ》を発動!」

 明日香の力強い声が響き渡り、モンスターのダイレクトアタックは明日香へと向けられる。《ドゥーブルパッセ》……明日香の愛用するカードの一枚であり、ダイレクトアタックを自身で受ける代わりに、自身のモンスターを相手に攻撃させるピーキーな罠カード。

 かくしてモンスターの攻撃を明日香が受け、《ドゥーブルパッセ》による一撃がデュエルゾンビを蹴散らした隙をつき、二人は壊していた壁から脱出した。そのまま地下通路へと抜け、デュエル・アカデミアにある地下迷宮へと逃げることに成功したのだ。

 ――だが、直接攻撃を受けた明日香はそこで限界だった。ライフポイントは残っていたものの、その一撃によって気絶しており――デスデュエルによって体力を無くして、そのまま衰弱死してしまう危険性すらあった。

「待ってろ、明日香……」

 遊矢は明日香を背負って、三沢との合流地点である体育館に向かったものの――もちろん彼も倒れる寸前である――二人の前に立ちはだかる影があった。

 遊矢が言うところの《マルタンの姿をした怪物》。悪魔の右腕をしたデュエルゾンビの親玉……いや、今回の事件の黒幕である。彼はニヤリと笑いながら、手から火球を出して遊矢に向かって放つ。

 無論遊矢にそれが避けられる筈もなく、あっけなく吹き飛んだ後に、背負っていた明日香をマルタンの姿をした怪物に奪われてしまう。気絶した明日香の首筋に腕をかざし、いつでも殺せる、とでも言いたげな笑みを浮かべながら。

「明日香をっ……返せ……!」

 遊矢の精一杯の声に、悪魔は相変わらず薄く笑みを浮かべながら答えた。

『遊城十代を出来るだけ追い込んでデュエルすれば返してやる』――と。

 それはまさに悪魔の囁きだったものの……その時の遊矢に、断ることなど出来はしなかった。

 ――そして冒頭へと戻ることになる。行方不明のアモンを除く三人の留学生が、マルタンがけしかけた悪魔と生徒を合成したモンスターとデュエルしている時と同時刻、『一人で地下迷宮に来るように』と条件をつけられた、十代の相手である。

「あんまりゆっくり話してる時間はないんだ……行くぞ、十代!」

 十代の質問には答えず、遊矢は急ぎデュエルディスクを展開する。明日香には何よりも、時間がないこともあるが……理由を知ってしまえば、十代は必ず手加減してしまうだろうから。

「くそっ……やるしかないのかよ……」

 対する十代も、生き残った生徒たちの代表として、勝たねばならない理由がある。その顔を苦々しく歪めながらも、デュエルディスクを展開し、双方ともデュエルの準備が完了する。

『デュエル!』

遊矢LP4000
十代LP4000

 ……かくしてお互いがお互いのポリシーである、『楽しいデュエル』などと思うことすらせず……悪魔の手のひらの上でのデュエルは始まった。

「……俺の先攻。ドロー」

 先手をデュエルディスクが選んだのは十代。まだ挙動には迷いがあり、訝しい顔をしながらカードをドローする。

「俺は《E・HERO クレイマン》を、守備表示で召喚して、ターンエンド!」

E・HERO クレイマン
ATK800
DEF2000

 粘土の体をした守備に長けるヒーロー。クレイマンを守備表示で召喚したのみで、十代はターンを終了する。

「俺のターン、ドロー!」

 対する遊矢は気迫を見せながらカードを引く。体力は限界に達しているものの、ここで気を抜いて倒れる訳にはいかない。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに手札を二枚捨て、二枚ドローする!」

 初手からの積極的な手札交換を図り、お互いに二枚の交換を成功させる。十代は墓地にE・HEROを送ることに成功し、遊矢は……フィールドに一陣の風が舞い込んだ。

「俺が捨てたのは《リミッター・ブレイク》! デッキから守備表示で現れろ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トァァァァッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 守備表示だが、一ターン目から現れるマイフェイバリットカード。もちろんこれで終わるはずもなく、遊矢の行動はさらに続く。

「《ミスティック・バイパー》を守備表示で召喚し、これで俺のフィールドには二体の守備表示モンスター……よって、《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚する!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

 スピード・ウォリアーと、新たに守備表示で召喚されたミスティック・バイパーの間を切り裂いて、重火器の機械戦士《バックアップ・ウォリアー》が特殊召喚される。一ターン目からのこの遊矢の布陣に、十代は遊矢が本気だということを思い知らされた。

「バックアップ・ウォリアーに装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備し、バトル! バックアップ・ウォリアーでクレイマンを攻撃、サポート・アタック!」

 《ファイティング・スピリッツ》を装備したバックアップ・ウォリアーの攻撃力は2400、いくらクレイマンでも適う相手ではない。重火器による攻撃で、クレイマンは瞬く間に蜂の巣にされる。

「メインフェイズ2、《ミスティック・バイパー》をリリースすることでドローする。引いたのはレベル1、《チューニング・サポーター》! よってもう一枚ドロー!」

 笛を持つ機械戦士がその笛を鳴らして消え、その姿をドローに変換する。そして引いたモンスターがレベル1ということで、さらにカードを一枚ドローする。

「ターンエンドだ。……お前も本気で来いよ十代。こっちと同じように、お前にだって負けられない理由があるはずだ!」

 生き残った生徒の代表である留学生と十代が勝てば、アカデミアからゾンビを撤退させて返還する――これがマルタンから出された条件。逆を言えば一人でも負ければそれは適わず、生き残った生徒たちの不満は爆発してしまうだろう。

「分かったぜ、遊矢……俺のターン! ドロー!」

 十代にとて負けられない理由がある。彼はそのことを思い出し、覚悟を決めてカードを引く。

 遊矢の《手札断殺》で十代の手札も交換されたものの、遊矢のフィールドは厄介な布陣であることに変わりはない。しかし十代は、それを突破するカードを持っていた。

「魔法カード《闇の量産工場》を発動! 墓地から、通常モンスターのクレイマンとスパークマンを手札に戻し、《融合》を発動!」

 E・HEROで通常モンスターであるという豊富なサポートを活かし、戦闘破壊されたクレイマンと、《手札断殺》で墓地に送ったスパークマンを手札に戻し、発動されるのは十代の代名詞とも言える魔法カード《融合》。

 スパークマンとクレイマンが手札から時空の穴に吸い込まれていき、新たなモンスターが融合される。

「融合召喚! 《E・HERO サンダー・ジャイアント》!」

E・HERO サンダー・ジャイアント
ATK2400
DEF1500

 融合召喚されたのは雷を纏う巨人のE・HERO。融合召喚されたそのモンスターを見て、遊矢は十代の考えを悟る。

「サンダー・ジャイアントの効果! 手札を一枚捨てることで、バックアップ・ウォリアーを破壊する! ヴェイパー・スパーク!」

「バックアップ・ウォリアー……!」

 サンダー・ジャイアントは手札を一枚捨てることで、相手の攻撃力が自身より劣るモンスターを破壊することが出来る。バックアップ・ウォリアーも、ファイティング・スピリッツにより攻撃力が上がっていたものの、サンダー・ジャイアントが参照にするのは元々の攻撃力。

 《ファイティング・スピリッツ》の戦闘破壊耐性を無為にしながら、バックアップ・ウォリアーがクレイマンにやったように、サンダー・ジャイアントの雷に呆気なく破壊された。

「バトル! サンダー・ジャイアントでスピード・ウォリアーに攻撃! ボルティック・サンダー!」

 続いて遊矢のマイフェイバリットカードを破壊したものの、守備表示なので遊矢にダメージは通らない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 バックアップ・ウォリアーを始めとした布陣は、一ターンと持たずにサンダー・ジャイアントによって突破される。だが、この程度ならば予想の範囲内だ。

「俺のフィールドにモンスターはいない! よって、《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 デュエル中に一度だけ使用出来る特殊召喚効果を使用し、黒い円盤状のシンクロンが姿を現す。さらに先のターンで《ミスティック・バイパー》でドローした、レベル1モンスターに手を伸ばす。

「さらに《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動! デッキからさらに二体の《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 中華鍋を被ったような機械人形が現れるとともに増殖し、遊矢のフィールドにはあっという間に四体のモンスターが召喚される。……しかし、もちろんこの状態でサンダー・ジャイアントに勝てるわけもなく。

 狙いは当然、シンクロ召喚でしかない。

「レベル2とすることが出来る《チューニング・サポーター》三体に、レベル1、《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」

 十代が融合召喚ならば遊矢はシンクロ召喚で対応する。《アンノウン・シンクロン》が緑色の輪となり、チューニング・サポーターたちを包み込むと、シンクロ召喚が始まっていく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 シンクロモンスターのラッキーカード、《パワー・ツール・ドラゴン》がシンクロ召喚をされ、その黄色の鋼鉄のボディを見せた。ボディの中からは力の解放を待つ竜が嘶いている。

「チューニング・サポーターがシンクロ素材になった時、一枚ドロー出来る。よって三枚ドロー! ……そして、パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから装備魔法カードを三枚選び、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 手札に加わるように選んだカードは《団結の力》・《ダブルツールD&C》・《デーモンの斧》。どれも汎用性に富んだ、攻撃力を増強させる装備カードである。

「……真ん中を選ぶぜ」

「……装備魔法《団結の力》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備!」

 十代の選んだカードを手札に加えて即座にパワー・ツール・ドラゴンに装備し、攻撃力が十代のサンダー・ジャイアントを超える。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンでサンダー・ジャイアントに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 ならば攻撃する以外他に手はない。パワー・ツール・ドラゴンの右手に装備された、巨大なショベルがサンダー・ジャイアントを薙払……おうとした時、サンダー・ジャイアントが十代のフィールドから消え失せる。

「速攻魔法《融合解除》! サンダー・ジャイアントの融合を解除する!」

 十代のリバースカードは融合モンスターをエクストラデッキに戻すことで、融合素材を墓地から特殊召喚する、速攻魔法《融合解除》。先のターンに発動すれば、スパークマンとクレイマンで遊矢にダイレクトアタックが出来ていただろう。だが、まだデュエルは始まったばかり……十代は守備に《融合解除》を使うことを選択した。

 結果としてその判断は正解だったのか、パワー・ツール・ドラゴンの前には、二体のE・HEROが守備表示で特殊召喚されていた。

「……ならばスパークマンに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 巻き戻しが起こったことにより、パワー・ツール・ドラゴンは再度攻撃宣言を行う。狙いは融合素材として優秀なスパークマンの方で、パワー・ツール・ドラゴンには適わずあっさりと破壊された。

「カードをセットしターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃を凌いだものの、結果としてフィールドに残ったクレイマンではパワー・ツール・ドラゴンには太刀打ち出来ない。ならばここからは、新たなヒーローの出番だとばかりに、まずは墓地から半透明のモンスターが姿を現した。

「墓地の《E・HERO ネクロダークマン》の効果! 手札のE・HEROを、リリース無しで召喚できる! 現れろ、《E・HERO ネオス》!」

E・HERO ネオス
ATK2500
DEF2000

 ネオスペースから新たに十代が手に入れた新ヒーロー、ネオス。そんな売り文句ももはや過去のことであり、今や十代のデッキの中核を成している。

「ネオスとクレイマンで、どうやってパワー・ツール・ドラゴンを倒すんだ?」

「いや、更に魔法カード《ENシャッフル》を発動! フィールドのE・HEROを墓地に送り、デッキから効果を無効にしてネオスペーシアンを特殊召喚する! 《N・グラン・モール》!」

N・グラン・モール
ATK900
DEF300

 クレイマンとその名の通りシャッフルされるように特殊召喚されたのは、ネオスペーシアンの一人であるグラン・モール。パワー・ツール・ドラゴンを突破出来る効果を秘めているものの、その効果は《ENシャッフル》のデメリット効果により、無効となっている。

 だがネオスペーシアンは、ネオスとコンタクト融合をすることにより、更なる力を発揮する。

「《E・HERO ネオス》と、《N・グラン・モール》でコンタクト融合!」

 《融合》の魔法カードを使わずとも、ネオスとグラン・モールが時空の穴に吸い込まれていく。これならばグラン・モールの効果が無効化されていようと問題なく、時空の穴から新たなHEROが現れる。

「現れろ、《E・HERO グラン・ネオス》!」

E・HERO グラン・ネオス
ATK2500
DEF2000

 グラン・モールの巨大なドリルを右腕に装着し、全身にアーマーを付けた大地のコンタクト融合ネオス。つい今し方、潜水艦から脱出した際にも活躍したHEROである。

「グラン・ネオスの効果! パワー・ツール・ドラゴンをエクストラデッキに戻してもらうぜ!」

 ステータスは変わらないものの、融合素材となったグラン・モールの効果は進化して受け継がれている。一ターンに一度、相手のモンスターを手札に戻す効果であり……破壊耐性を持つパワー・ツール・ドラゴンでも、バウンスには無力だ。

 もちろん、発動出来ればの話だが。

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動。グラン・モールの効果を無効にする!」

「なにっ!?」

 ラッキーカードこと《エフェクト・ヴェーラー》が遊矢の手札から飛び出し、その羽衣で包み込みグラン・ネオスの効果を無効化する。いくら強力なバウンス効果を持っていようと、無効化されては発揮することはない。

「……《インスタント・ネオスペース》をグラン・ネオスに装備して、カードを一枚伏せてターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 結果として、《パワー・ツール・ドラゴン》は遊矢のフィールドに健在のままであり、グラン・ネオスは攻撃表示で放置されている。その状況を見て、ここが好機とばかりに、遊矢は《パワー・ツール・ドラゴン》の効果の発動を宣言する。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果! 三枚のカードを選んでもらう! パワー・サーチ!」

 パワー・ツール・ドラゴンのいななきと共に、再び十代の前に三枚の装備カードが裏向きで表示される。遊矢が選んだカードは《ダブルツールD&C》、《デーモンの斧》、《魔導師の力》。《団結の力》が既に装備されているにもかかわらず、更なる火力の向上を狙っていた。

「……右のカードだ」

「なら俺は、《ダブルツールD&C》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備する!」

 十代が選んだカードは《ダブルツールD&C》。パワー・ツール・ドラゴンに、新たにドリルとカッターが装備されていく。

「さらに《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚する……」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

 腕甲を持つ機械戦士が守備表示で召喚されるとともに、そのエネルギーが《パワー・ツール・ドラゴン》に吸収されていく。《団結の力》によって攻撃力がさらに上昇しているのだ。

「バトル! 《パワー・ツール・ドラゴン》で、グラン・ネオスで攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は計4900。グラン・ネオスにその攻撃は受け止めることすら出来ず、そのドリルによって貫かれてしまう。

「うわあああっ!」

十代LP4000→1600

 当然ながら十代のライフポイントを大幅に削り、グラン・ネオスは戦闘破壊されてしまうものの……十代のフィールドには、円型の物体が浮遊していた。

「グラン・ネオスに装備していた、《インスタント・ネオスペース》の効果発動! 装備モンスターがフィールドから離れた時、デッキからネオスを特殊召喚する!」

 円型の浮遊していた物体は小型の《ネオスペース》。仲間がやられた叫びに応え、ネオスが再びフィールドに舞い戻る。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢のフィールドは《パワー・ツール・ドラゴン》と《ガントレット・ウォリアー》。そしてパワー・ツール・ドラゴンに装備されている《団結の力》と《ダブルツールD&C》に、リバースカードが一枚。

 対する十代はネオスが一体のみ……遊矢のフィールドはかなり盤石であり、十代の手札ではその布陣を突破することは難しい。しかし遊矢は、十代ならネオスを使って必ず突破してくると予想していたが……

「魔法カード《《馬の骨の対価》を発動! ネオスを墓地に送り二枚ドロー!」

 遊矢の予想を裏切り十代は自らネオスを手放した。十代にしてみても、この局面でネオスを失うのは痛手だったが、ネオスペーシアンがいない今、ネオスではパワー・ツール・ドラゴンを突破できない。

 そしてその決断が、新たなる希望を呼ぶカードを引かせる。

「さらに魔法カード《ホープ・オブ・フィフス》! 墓地のE・HEROをデッキに戻すことで、ニ枚ドローする!」

 E・HEROに限定された《貪欲な壺》の下位互換――とも言われがちなこの魔法カードだが、十代ならばこの局面でのドローというのは驚異的な効果を発揮する。

 計四枚のドローによって呼び寄せたモンスターを、十代はニヤリと笑いながらデュエルディスクに置いた。

「俺は《N・グロー・モス》を召喚!」

N・グロー・モス
ATK300
DEF900

 またもやネオスペーシアンの一体である、光る苔のような姿をしたグロー・モスが召喚される。パワー・ツール・ドラゴンとのその攻撃力の差は、実に4600もの数値。

「まだまだ! 魔法カード《NEX》を発動! グロー・モスを《N・ティンクル・モス》に進化させる!」

N・ティンクル・モスATK500
DEF1100

 グロー・モスには他のネオスペーシアンとしても珍しい、進化する能力が備えられている。十代の魔法カードの発動により、不定形だったその身体に、がっしりとした形が形成されていく。

 ティンクル・モスにもこの布陣を突破する能力はないが……十代が考えたのは簡単な話。布陣を突破するカードがないなら、そのカードをドローすれば良い。

「バトル! ティンクル・モスでガントレット・ウォリアーに攻撃!」

「……攻撃!?」

 ネオスペーシアンはステータスは貧弱であり、進化したティンクル・モスですら例外ではない。機械戦士での守備の要たる《ガントレット・ウォリアー》に適うはずもなく、遊矢はどんな効果を持っているのか警戒する。

「ティンクル・モスの効果発動! バトルの時に一枚ドローし、そのカードによって効果が発動する! シグナル・チェック!」

 ティンクル・モスの効果は、遊矢が警戒していたような破壊効果ではなかったが、地味ながら強力なバトルする際に一枚ドローする効果。十代がドローしたカード《ネオスペース》に対応し、ティンクル・モスが緑色に光り輝いていく。

「魔法カードを引いた時、ティンクル・モスはダイレクトアタック出来る! ティンクル・フラッシュ!」

「そういう効果か……」

遊矢LP4000→3500

 ティンクル・モスの光線が遊矢を貫いたものの、大したダメージではない。とはいえ、今の身体には大ダメージだが……十代に警戒されないように、遊矢は平気な演技に徹する。

「バトルを終わるぜ。ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢はカードをドローしつつ、十代のフィールドを見渡す。攻撃したからと言えば当然だが、ティンクル・モスはパワー・ツール・ドラゴンを前にして攻撃表示のままだ。
ティンクル・モスの効果で防ごうにも、パワー・ツール・ドラゴンに装備された《ダブルツールD&C》には、戦闘時に相手モンスターの効果を無効にする効果がある。

 だが十代も、それを覚えていない筈がない。ならばあのリバースカードで防ぐ気か、と当たりをつけると、パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動する。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果発動! パワー・サーチ!」

 三回目のパワー・ツール・ドラゴンの効果の発動。十代の前に表示されるのは《パイル・アーム》・《サイクロン・ウィング》・《魔界の足枷》の三枚であり、遊矢が狙うのはリバースカードの破壊。

「俺が引いたのは《パイル・アーム》! パワー・ツール・ドラゴンに装備し、そのリバースカードを破壊させてもらう!」

 遊矢が手札に加え、そして発動した装備魔法は《パイル・アーム》。装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせ、さらに相手の魔法・罠カードを一枚破壊する効果を持つ。

 パワー・ツール・ドラゴンの右腕に装備された《パイル・アーム》より、銃弾のような巨大な釘が発射され、十代のフィールドに伏せられていたリバースカードを貫いた。だがそのリバースカードは、貫かれながらも表側となる。

「チェーンして《和睦の使者》を発動! このターン、戦闘は意味ないぜ!」

 いくら破壊しようとしようが、十代が伏せたのはフリーチェーンである《和睦の使者》。ティンクル・モスを効果破壊する手段がない今、遊矢の攻撃は全て封殺された。

「……ターンエンド」

 下級モンスターを召喚することなくターンエンド。しかしフィールドには、装備魔法を四枚伏せた《パワー・ツール・ドラゴン》に《ガントレット・ウォリアー》、リバースカードが一枚という強固な布陣。

「俺のターン、ドロー!」

 対する十代はリバースカードもなく、フィールドには攻撃力が1000にも満たない《N・ティンクル・モス》のみ。フィールドだけを見れば、遊矢の方が圧倒的に有利だが……先の《和睦の使者》によって、流れだけは十代の物だ。

「《N・エア・ハミングバード》守備表示で召喚!」

N・エア・ハミングバード
ATK800
DEF600

 全身に赤い服を着た鳥人のような、風属性を担当するネオスペーシアンが守りを固める。ただ、ネオスペーシアンとしては相変わらずのステータスだが。

「エア・ハミングバードの効果発動! 相手の手札×500ポイントのライフを回復する! ハニー・サック!」

 エア・ハミングバードが十代のフィールドから飛び上がると、遊矢の手札1枚1枚から大きな花が生えて来る。遊矢が驚いて身動きが出来ない間にも、エア・ハミングバードがその花から蜜を吸うことで十代のライフを回復する。

 もちろん《パワー・ツール・ドラゴン》を対処する効果などではないものの、少なからず強力な効果である事には間違いはない。遊矢の手札の枚数は三枚……よって十代のライフは1500ポイント回復する。

十代LP1600→3100

「さらにバトル! ティンクル・モスでパワー・ツール・ドラゴンに攻撃!」

 《ダブルツールD&C》の攻撃モンスターの効果を無効化する効果は、遊矢のターンに攻撃する時のみしか発動しない。よってティンクル・モスの攻撃時の効果は防げず、戦闘も行わないために防御時の効果も意味はなさない。

「ドローしたカードは罠カード《N・シグナル》! よってティンクル・モスは守備表示になる」

 十代の引いたカードに対応してティンクル・モスが赤く光り輝き、攻撃を中断して守備表示となる。いずれにせよ自爆特攻で十代のライフが0になる、などという自滅などはせず、一枚ずつカードをドローしていく。

「カードを一枚伏せてターンエンドだぜ」

「俺のターン、ドロー!」

 《N・ティンクル・モス》のトリッキーな効果によって、すっかり調子を崩されてしまってはいるものの、遊矢のフィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》が未だ健在。さらに盤石にすべくパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動する。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! パワー・サーチ!」

 都合四回目となる《パワー・ツール・ドラゴン》の効果の発動に選ばれたのは、《メテオ・ストライク》・《サイクロン・ウィング》・《バスターランチャー》の三種類。遊矢の魔法・罠ゾーンには、すでに三枚の装備魔法とリバースカード一枚があり、これ以上の装備魔法の発動は危険なものの……《メテオ・ストライク》を装備出来れば、貫通ダメージで十代のライフを0に出来る。さらに、十中八九《N・シグナル》であるリバースカードを破壊する装備魔法、《サイクロン・ウィング》であれば、十代の反撃の芽を潰すことが出来る……

「…………ッ!」

 三枚の装備魔法カードの内一枚を選ぶ十代にもそれは良く分かっており、声を出すだけにも重いプレッシャーがのしかかり、嫌な汗が顔を垂れていく。

「……右のカードだ!」

 プレッシャーを振り切った十代が叫ぶカードは右のカード。遊矢の読み通り、リバースカードは《N・シグナル》であるため、《メテオ・ストライク》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》から、ネオスペーシアンを守り貫通ダメージを防ぐ手段は十代にはない……!

「くっ……」

 十代の祈りが通じたのか、遊矢の手札に加えられたのは、大型モンスターを破壊する用の《バスターランチャー》。遊矢にはこのターンで十代を倒す手段はない。

「……バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、ティンクル・モスに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 パワー・ツール・ドラゴンのドリルによる一撃がティンクル・モスを削り取る。《ダブルツールD&C》の効果により、ティンクル・モスの効果は無効になったものの……充分にその役割は果たし、さらにその破壊はシグナルとなって仲間を呼び覚ます。

「リバースカード《N・シグナル》! モンスターが破壊された時、デッキからネオスペーシアンを特殊召喚出来る! 現れろ、《N・アクア・ドルフィン》!」

N・アクア・ドルフィン
ATK600
DEF800

 仲間がやられたシグナルによって駆けつけたのは、十代と始めて出会ったネオスペーシアン《N・アクア・ドルフィン》。青い魚人がフィールドに現れ、パワー・ツール・ドラゴンに立ちはだかる。

「……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢のフィールドは三枚のカードが装備された《パワー・ツール・ドラゴン》と、守備表示の《ガントレット・ウォリアー》にリバースカードが一枚。ライフポイントは残り3500。

 十代のフィールドは二体のネオスペーシアン《N・アクア・ドルフィン》と《N・エア・ハミングバード》。リバースカードはなく、ライフポイントは残り3100。

 依然として《パワー・ツール・ドラゴン》がフィールドを制圧しているような印象を受けるし、確かに見る限りではそうだろう。……しかし、フィールドでは見えない流れという要素は、十代が支配していた。

「エア・ハミングバードの効果を発動! ハニー・サック!」

 再びエア・ハミングバードの効果が発動し、遊矢の手札五枚から飛び出た花の養分を吸収し、十代のライフポイントを2500ポイント回復する。これで十代のライフは5600と、遊矢のライフどころか初期ライフを越えていく。

 しかしこれで、遊矢が警戒していたエアー・ネオスの可能性を自ら消した。フレア・ネオスと並び、ハイパワーなコンタクト融合体だが、皮肉にも融合素材であるエア・ハミングバードの効果によって回復した、そのライフポイントでは効果は活かせない。

「《O-オーバソウル》を発動! 墓地からネオスを特殊召喚!」

 そして満を持して墓地から蘇る十代のエースモンスター、ネオス。遊矢はもちろんネオスとネオスペーシアンが並ぶ、という状況を警戒こそするものの、フィールドにいるネオスペーシアンが腑に落ちない。

 アクア・ネオスを融合してもパワー・ツール・ドラゴンに対応出来ず、エアー・ネオスは前述の通りその効果を活かすことは出来ない。

 ……デスデュエルで倒れていた遊矢は知らない。その存在を聞いてはいたが、その時は融合素材が違ったからか、遊矢はその考えに至らない。

 十代がやろうとしていることを、遊矢は知らない。ネオスペーシアンを二体使った、トリプルコンタクト融合……!

「行くぜ遊矢! ネオスとアクア・ドルフィンとエア・ハミングバードで、トリプルコンタクト融合!」

「――――ッ!?」

 佐藤先生やプロフェッサー・コブラといった、今までにない楽しんでいるだけではいられないデュエルを乗り越えた、十代が手に入れた新たなコンタクト融合体。アクア・ドルフィンの水とエア・風がネオスと混じり合っていき、そこで新たに生まれるのは――嵐。

「3つの力が1つとなった時、はるか大宇宙の彼方から、最強の戦士を呼び覚ます! トリプルコンタクト融合! 銀河の渦の中より現れよ! 《E・HERO ストーム・ネオス》!」

E・HERO ストーム・ネオス
ATK3000
DEF2500

 まさに嵐を象徴するかのような青色の尖鋭的なボディと、両腕に装着された巨大な鍵爪が一際目立つ。攻撃力も3000という疎かに出来ない数値だが、遊矢としてはそれより効果の方が最重要……!

「ストーム・ネオスの効果発動! 一ターンに一度、フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する! アルティメット・タイフーン!」

「なっ……!?」

 新たなトリプルコンタクト融合体、ストーム・ネオスの効果とは、言わずもがな強力なカード《大嵐》と同じ効果。その召喚条件に相応しく強力な効果で、遊矢のフィールドの魔法カードを全て破壊していく。

 遊矢のフィールドにあった魔法・罠カードである、《パワー・ツール・ドラゴン》に装備されていた、三枚の装備カードとリバースカードを全て破壊する。強固な耐性と攻撃力を備えたパワー・ツール・ドラゴンは、一瞬にしてその状態を瓦解されたのだった。

「フィールド魔法《ネオスペース》を発動し、バトル!」

 フィールドがアカデミアの地下通路から、どことなく神秘的な宇宙へと変化していく。自らの故郷と同じ場所に戦場を移したストーム・ネオスはさらに攻撃力を上げ、パワー・ツール・ドラゴンを破壊せんと飛び上がった。

「ストーム・ネオスでパワー・ツール・ドラゴンを攻撃! アルティメット・ハリケーン!》

 巻き上がるカマイタチとともに振り払われる剛爪。装備カードを失い、無防備となったパワー・ツール・ドラゴンのボディを切り裂き、そのままカマイタチが俺を襲う。

「ぐあっ……!」

遊矢LP3500→2300

 長らくフィールドを制圧していた《パワー・ツール・ドラゴン》も、ストーム・ネオスの攻撃によって爆散する。そして《パワー・ツール・ドラゴン》が庇ってくれたものの、カマイタチを受けた遊矢も膝をついてしまう。

「遊矢!」

「……これぐらい……大丈夫だ! さあ、もっと来いよ十代!」

 駆けつけようとした十代を制止し、無理やり身体に活を入れて身を起こす。十代もその場に止まったものの……我慢できないとばかりに叫びだした。

「何でこんなデュエルをする必要があるんだ! 楽しくともなんともないデュエルを……何で!」

 十代の心からの叫びが地下通路に響き渡り、遊矢もそんな十代を見て目を伏せる。しかし、遊矢にもデュエルをやらなくてはいけない理由がある……たとえ悪魔の手のひらで踊っていようとも。

「……明日香が……人質にされてるんだよ……」

「明日香が……?」

 天上院明日香はマルタンの姿をした悪魔に捕らえられ、命を握られていると言っても過言ではない状況にある。救うためには十代とデュエルをするしかない……そう、マルタンの姿をした悪魔に脅迫されているのだと、遊矢は十代に説明した。

「だから本気で来い! お前が俺を本気で倒さなければ明日香が死ぬぞ!」

 自らの力不足でこのような最悪な状況になっている、という感覚に苛まれながらも遊矢は鬼気迫る表情で十代に叫ぶ。――今の十代に知る由はないが、遊矢は佐藤先生やプロフェッサー・コブラと並ぶ……黒幕からの刺客も同然なのだから。

「……くそっ! カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 やりきれない気持ちを毒づきながらも、負けるわけにはいかない十代もターンを進行する。コンタクト融合体であるストーム・ネオスは、フィールド魔法《ネオスペース》の効果によりフィールドに留まり続けることが出来る。

「俺のターン、ドロー!」

 対する遊矢も明日香の命が人質にされている以上、このデュエルで十代に勝つしかない。ラッキーカードたる《パワー・ツール・ドラゴン》は破壊されてしまったが、彼には未だ手札がある。

「俺はカードをセットし、《ブラスティック・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊し二枚ドロー!」

 ただセットカードを破壊するだけでは、この魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》は手札交換の魔法カードにしかならない。しかし、もちろんと言うべきかフィールドには一陣の旋風が巻き起こっていく。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから現れよ、《スピード・ウォリアー》!」

 初手の《バックアップ・ウォリアー》の召喚の布石以来の登場となる、遊矢のマイフェイバリットカード、《スピード・ウォリアー》。ただ召喚されるだけならば、ネオスにすら匹敵するそのサポートにより驚きはしないのだが……十代が驚愕したのが、スピード・ウォリアーが攻撃表示だという点。

 遊矢は先のターン《パワー・ツール・ドラゴン》の効果により、先んじて対切り札用の装備魔法《バスターランチャー》を手札に加えてはいたが、その効果による上昇値は2500。破格の数値ではあるものの、それでは《ネオスペース》で強化されたストーム・ネオスには適わない。しかし遊矢の《スピード・ウォリアー》は何をして来るか分からない……と、十代は警戒を強める。

「そしてこのカードがドローによって手札に加わった時、このモンスターは特殊召喚出来る! 《スカウティング・ウォリアー》を特殊召喚!」

スカウティング・ウォリアー
ATK1000
DEF1000

 さらに《スピード・ウォリアー》とともに新たな機械戦士が並び立つ。手札に加えた時に特殊召喚される機械戦士《スカウティング・ウォリアー》だ。

「さらに《ガントレット・ウォリアー》をリリースすることで、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚する!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1500
DEF1900

 フィールドに生き残っていた《ガントレット・ウォリアー》をリリースして召喚されたのは、機械戦士としては珍しい上級機械戦士。そのまま背後に背負っていた網を墓地に投げ、自身の効果を発動する。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功した時、墓地からチューナーを一体特殊召喚する! 来い、《ニトロ・シンクロン》!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

「ニトロ・シンクロン!?」

 墓地から現れたチューナーモンスターは十代の予想外のモンスター。それも当然であり、《ニトロ・シンクロン》は最初の《手札断殺》の時に墓地に送っていたカードなのだから。

「まだだ! 通常魔法《ワン・フォー・ワン》を発動!」

 機械戦士の中でもハイパワーな《ニトロ・シンクロン》のシンクロ召喚。十代の予想はまたもや覆される。

「手札から一枚モンスターを捨てることで、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! 来い、《チェンジ・シンクロン》!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 もっとも小型のシンクロンである、《チェンジ・シンクロン》がデッキから特殊召喚される。まだだという遊矢の言葉通り、《チェンジ・シンクロン》で終わりではない。

 フィールドがチューナーモンスターを含む、五体のモンスターで埋まったのだから……むしろ、ここから始まるのだから。

「行くぞ十代……シンクロ召喚!」

 執念によってモンスターを五体展開させてみせた遊矢に応えるように、機械戦士たちは二つのシンクロ召喚を発生させる。一つはレベル5の《サルベージ・ウォリアー》とレベル2の《ニトロ・シンクロン》。もう一つは、レベル4の《スカウティング・ウォリアー》とレベル1の《チェンジ・シンクロン》。

「――現れろ、《ニトロ・ウォリアー》! 《スカー・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 主力カードだった《パワー・ツール・ドラゴン》を破壊した、その次のターンにもかかわらず、遊矢は次々と特殊召喚してフィールドを整える。その結果がこの遊矢のフィールドであり、二体のシンクロモンスターと《スピード・ウォリアー》が遊矢を守るように立ちはだかっていた。

「チェンジ・シンクロンの効果でストーム・ネオスの表示形式を守備表示に変更! さらに、《ニトロ・シンクロン》がシンクロ素材になったことにより一枚ドローする!」

 半透明の《チェンジ・シンクロン》が浮かび上がり、ストーム・ネオスを強制的に守備表示にするとともに、《ニトロ・シンクロン》の効果によって遊矢はカードを一枚ドローする。シンクロ召喚によって発生した効果の処理は終わり、さらに十八番たる装備魔法を二枚、デュエルディスクにセットする。

「《スピード・ウォリアー》に《バスターランチャー》を装備! さらにストーム・ネオスに《ニトロユニット》を装備する!」

スピード・ウォリアーに巨大なレーザーキャノンとストーム・ネオスの胸部に巨大な爆弾が装備され、遊矢がこのターンのメインフェイズで出来ることが終わる。さらに魔法カードを発動したことにより、《ニトロ・ウォリアー》の攻撃力を上げる効果の発動条件を満たす。

「遊矢、お前……」

「…………バトル! スピード・ウォリアーでストーム・ネオスに攻撃! バスターランチャー、シュート!」

 何か言いたげな十代の台詞にはあえて答えることはせず、遊矢はスピード・ウォリアーに攻撃を命じる。ストーム・ネオスの守備力は2500、《バスターランチャー》の効果の適応条件を満たしているため、スピード・ウォリアーの攻撃力は3400にまで上昇する。

 十代にその一撃を防ぐことは出来ず、ストーム・ネオスはあまりにも呆気なく、《バスターランチャー》によって胸部の《ニトロユニット》を狙い撃たれて破壊された。さらに《ニトロユニット》の効果が発動する。

「《ニトロユニット》の効果! 装備モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「っ……!」

十代LP5600→2600

 ストーム・ネオスの元々の攻撃力は3000。切り札に相応しいその攻撃力が、皮肉にも十代へと牙を向く。しかしエア・ハミングバードの効果のおかげもあり、未だそのライフは半分を切らない。

「さらに、スカー・ウォリアーでダイレクトアタック! ブレイブ・ダガー!」

 ストーム・ネオスを破壊したことにより、がら空きとなった十代に向かって攻撃に行くものの、突如としてスカー・ウォリアーの前にモンスターが現れる。スカー・ウォリアーに比べれば、かなり小さなモンスターではあったが……そのモンスターは、この窮地を凌げるモンスターだった。

「伏せてあった《クリボーを呼ぶ笛》を発動! デッキから《ハネクリボー》を守備表示で特殊召喚!」

ハネクリボー
ATK300
DEF200

 その正体は十代の相棒こと《ハネクリボー》。遊矢は攻撃を一旦中止した後、再び《スカー・ウォリアー》によって破壊されてしまうものの、その効果により十代はそれ以上の追撃を受けることはない。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢は確実にライフポイントを0にしにいっていたにもかかわらず、十代は《ハネクリボー》によって、紙一重だったものの防ぎきることに成功する。そしてその攻撃は、遊矢が本気を越えているような状態であることを、改めて十代に感じさせた。

「……なら俺もやらせてもらうぜ、遊矢! 《E・HERO プリズマー》を召喚!」

E・HERO プリズマー
ATK1700
DEF1200

 光り輝くクリスタルで構成されたような、新たなE・HEROが召喚される。遊矢もそのE・HEROのことは知らず、融合召喚かと思考する。

「プリズマーの効果発動! 融合素材をデッキから墓地に送ることで、そのカードの名前を得ることが出来る! リフレクト・チェンジ!」

 プリズマーの効果対象に選ばれたカードは、コンタクト融合によってデッキに戻っていた《E・HERO ネオス》。ネオスが墓地に送られるとともに、その姿形がネオスと瓜二つとなっていく。

「さらに魔法カード《ラス・オブ・ネオス》! ネオスをデッキに戻すことで……フィールド上のカードを全て破壊する!」

「……全て破壊だと!?」

 ネオスの必殺技と同じ効果を持った魔法カード。フィールドにはネオスの姿と名前を得たプリズマーがいるため、その効果を問題なく発動することが出来る。

「行け、プリズマー! ラス・オブ・ネオス!」

 ネオスの姿をしたプリズマーが飛び上がった後にすぐさま急降下し、手刀を《ネオスペース》に打ち込むとともに、フィールド上の全てのカードが爆発していく。十代のカードとて例外はなく、プリズマー自身が耐えきれなくなり、デッキに戻っていって爆発は収まっていくが、フィールドにはもう何もない。

 いや、何もない筈だった。だが、遊矢のフィールドには見違えるはずもなく、黄色の身体をしたドラゴンが拘束具を解き放ち、遊矢のフィールドに君臨していた。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》……!」

 十代が信じられない気持ちのまま呟いたように、遊矢のフィールドには《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が顕現していた。もちろん、他の機械戦士たちは十代と同様にプリズマーの自爆に巻き込まれてはいたが。

「俺はチェーンして《シンクロコール》を発動していた……!」

 墓地のチューナーモンスターと非チューナーモンスター一体ずつを除外することにより、墓地でチューニングを可能とする罠カード《シンクロコール》。プリズマーの自爆にチェーンする形で、《エフェクト・ヴェーラー》と《パワー・ツール・ドラゴン》をチューニングし、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》はシンクロ召喚されていた。

 もちろんチェーン処理の影響によって、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》もプリズマーの自爆の影響を受けたものの、それは自らの効果によって破壊を免れている。残念ながらスペルスピードの影響により、ライフ・ストリーム・ドラゴンのライフを回復する効果は発動しなかったものの、それはこの状況を作り出せたのならば些細なことだと遊矢は考えていた。

 事実、フィールドがリセットされたにもかかわらず、フィールドにいる《ライフ・ストリーム・ドラゴン》というのは、十代にとっては危機的な状況であるのだから。

「……《カードガンナー》を守備表示で召喚」

カードガンナー
ATK400
DEF400

 突如として現れたモンスターに対し、守備に回せるのは《カードガンナー》のみとあまりにも頼りない。プリズマーの《ラス・オブ・ネオス》を発動するしかない状況だったものの、依然としてフィールドは十代が劣勢のままだった。

「《カードガンナー》の効果を発動して、ターンエンド……」

「俺のターン、ドロー……!」

 遊矢も起死回生の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》のシンクロ召喚に成功したが、残念ながらここから《カードガンナー》を突破し、十代とライフを0にできるカードは手札にはない。場持ちやステータスは高いものの、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果は攻撃向けの効果ではないのだから。

「バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンでカードガンナーに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが放った光弾は、あっさりとカードガンナーを破壊するが、カードガンナーの効果により十代は一枚ドローする。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! ……《コンバート・コンタクト》を発動!」

 十代がドローしたカードは希望を呼び寄せるドローソース。フィールドにモンスターがいない時、という厳しい条件はあるものの、二枚のネオスペーシアンを墓地に送りながら、手札交換を果たすことが出来る優秀なカード。

 そして十代は、デッキから望むカードを引き寄せる。

「……《ミラクル・コンタクト》を発動! 墓地のネオスとネオスペーシアンたちをデッキに戻すことで、コンタクト融合が出来る!」

 プリズマーの効果で墓地に送っていたネオスと、《コンバート・コンタクト》によって墓地に送った、二体のネオスペーシアンが半透明のままフィールドに現れる。融合素材が三体ということならば……再び切り札たる、トリプルコンタクト融合だ。

「《E・HERO ネオス》と《N・フレア・スカラベ》と《N・グラン・モール》をトリプルコンタクト融合! ……現れろ、《E・HERO マグマ・ネオス》!」

E・HERO マグマ・ネオス
ATK3000
DEF2500

 先のストーム・ネオスが風と水の融合ということならば、新たに現れたトリプルコンタクト融合体は炎と地――故にネオスが纏うのは大地とそれを焼き尽くすほどの火炎で生じる灼熱のマグマ。

 プロフェッサー・コブラの切り札を正面から打倒した、E・HERO マグマ・ネオス。

「さらに魔法カード《アームズ・ホール》を発動し、墓地から《インスタント・ネオスペース》を手札に加えて装備する!」

 グラン・ネオスに装備していた、小型のネオスペースをサルベージして装備する。《アームズ・ホール》のデメリット効果により、十代は通常召喚が封じられてしまうが……そもそも十代の手札はもはや一枚もない。

「バトル! マグマ・ネオスでライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! スーパーヒートメテオ!」

 マグマ・ネオスの効果はフィールドにあるカードの数×400ポイント、自身の攻撃力を上げる効果を持つ。コブラ戦後にその効果のことは遊矢も聞き及んでいたので知ってはいるが、対処出来るかと言えば話は別。フィールドにあるカードは、マグマ・ネオス自身と装備された《インスタント・ネオスペース》。遊矢のフィールドの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の計三枚であり、よってマグマ・ネオスの攻撃力は1600ポイントアップし、4600。

 しかし《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果により、墓地の装備魔法を除外することで破壊を免れる効果を持っている。遊矢の墓地には《パワー・ツール・ドラゴン》で手札に加えた四枚と、《ファイティング・スピリッツ》と《ニトロユニット》の合計六枚の装備魔法カードがある。

 十代の多用する除外カード《ヒーローズルール1 ファイブ・フリーダムス》でも除外しきれない数だったが、十代はその効果の対処策を既に持っていた。手札が0枚の十代ならば対処策はないと、遊矢は考えていたが……十代は墓地から罠カードを発動した。

「墓地から罠カード発動! 《ブレイクスルー・スキル》! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果を無効にする!」

「……《カードガンナー》の時か……!」

 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の攻撃の壁となって破壊されていた、《カードガンナー》の効果によって墓地に送られていた罠カード《ブレイクスルー・スキル》。墓地からこのカードを除外することで、相手モンスターの効果を無効にする――《カードガンナー》はただ破壊されただけではなく、自らの役割は全うしていた。

 そのまま攻撃を防ぐことは出来ず、破壊耐性効果も無効化されてしまった《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に、マグマ・ネオスの渾身の一撃が炸裂する。

遊矢LP2300→600

「……ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し二枚ドロー!」

 強大なマグマ・ネオス相手にも怯むことはなく、遊矢も負けじと《貪欲な壺》で二枚ドローする。そしてドローしたカードを見て目を見開くと、そのカードをデュエルディスクにセットした。

「俺は《ミラクルシンクロフュージョン》を発動!」

 遊矢がドローしたカードも、十代の《ミラクル・コンタクト》と同様の、墓地の仲間の力を併せて切り札を呼び寄せるキーカード。

「墓地の《スピード・ウォリアー》と、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の力を一つに! 現れろ、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2100

 《スピード・ウォリアー》と《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が時空の穴に吸い込まれていき、力を一つに融合することで現れる、【機械戦士】の切り札《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。雄々しく翼をはためかせてマグマ・ネオスと向かい合い、その槍を構えて攻撃する意を示す。

「……波動竜騎士 ドラゴエクィテスで、マグマ・ネオスに攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

「攻撃!?」

 マグマ・ネオスの効果は攻撃をする時のみという訳ではなく、常時その攻撃力をアップさせる効果のため、未だマグマ・ネオスの攻撃力は4600。ドラゴエクィテスは戦闘時に攻撃力をアップさせる効果はないので、このままでは正真正銘の自爆特攻。

 この不毛なデュエルを自爆特攻で終わらせようとしているのでなければ、遊矢の手札には何かがあるはずだ、と自身の手札が0枚なことも併せて十代は考える。遊矢の墓地には、もはや十代が把握していないカードはない筈なのだから。

「……墓地から《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! このカードを除外し、戦闘を無効にする!」

 何があるにせよ戦闘を起こさせなければ意味はない、と十代は墓地に落ちていた《ネクロ・ガードナー》の効果を起動する。半透明の戦士がマグマ・ネオスの攻撃を代わりに受け、ドラゴエクィテスの攻撃を無効にしたのだ。

 ――にもかかわらず、ドラゴエクィテスは再び起動する。マグマ・ネオスに対し、自身の出来る最高の勢いでの一撃を叩き込まんと、大きく槍を振りかぶる。

「お前が攻撃を無効にしたことにより、《ダブル・アップ・チャンス》の効果が発動する! ドラゴエクィテスの攻撃力を二倍にし――再びマグマ・ネオスに攻撃する!」

 《スピード・ウォリアー》とともに、遊矢の代名詞とも言えるカードとなっている速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》。遊矢の手札には最初から――このカード以外には――コンバットトリックなどなく、《カードガンナー》と《アームズ・ホール》の効果により、《ネクロ・ガードナー》が落ちていて発動することに賭けたギャンブル。

 結果は成功。十代ならば確実に《ネクロ・ガードナー》を落としていただろうし、あのタイミングで《収縮》などを警戒しないことなど、遊矢のデッキを良く知っていて、かつ《ダブル・アップ・チャンス》へとたどり着くことの出来る予測力を持った人物――例えば三沢大地にしか不可能であろう。

 ……いや、この異世界という極限状態では三沢大地とて出来たかどうか。結果として遊矢はギャンブルに勝ち、マグマ・ネオスはドラゴエクィテスの投げ槍によって風穴が空くこととなる。

 ドラゴエクィテスの攻撃力は《ダブル・アップ・チャンス》によって6400――いくらハイパワーが持ち味であるマグマ・ネオスとて、この数値では相手が悪いだろう。

十代LP2600→800

 そして十代も、遂にライフポイントが危険域へと達したものの――マグマ・ネオスが託した希望が、未だフィールドに残っていた。

「マグマ・ネオスに装備されていた《インスタント・ネオスペース》の効果! デッキから《E・HERO ネオス》を特殊召喚する!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の破壊を皮きりに、お互いのモンスター達が一進一退の攻防を繰り返していた。そして最後にドラゴエクィテスと向き合うこととなったのは、通常状態であるネオス。

「……カードを一枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン――」

 お互いにもう手札もライフポイントも出せるモンスターもなく。悪魔の手のひらで踊るデュエルは、遊矢のフィールドには《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》にリバースカード、十代のフィールドには《E・HERO ネオスという布陣で最終局面を迎える。

 このドローでドラゴエクィテスを倒すだけでなく、遊矢のライフポイントを0にしなければ後はないと、十代はデッキを見つめながら思った。その考えは偶然にも間違いではなく、遊矢のデッキトップは――二人とも知る由はないが――ダイレクトアタックを可能とする《ラピッド・ウォリアー》。

 いくら守備を固めていようとも意味をなさず、ドラゴエクィテスを破壊するだけでは意味がない。そんな状況で十代は今、カードをドローする……!

「来い、十代……!」

「――ドロー!」

 ――悪魔が見守るながら十代がドローしたカードは――

「装備魔法《ネオス・フォース》をネオスに装備する!」

 ――装備魔法《ネオス・フォース》。ネオスにしか装備することしか出来ないものの、装備モンスターの攻撃力を800ポイントアップさせるとともに、戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力のダメージを相手に与える効果。

 コンタクト融合体と同様に、エンドフェイズ時にデッキに戻ってしまうデメリットはあるものの――上昇値を併せれば攻撃力はドラゴエクィテスを超え、破壊すればそのバーンダメージによって遊矢のライフポイントは0になる――そんな装備魔法。

「バトル! ネオスでドラゴエクィテスを攻撃! ネオス・フォース!」

 普段から使うラス・オブ・ネオスとは違い、全身に循環する《ネオス・フォース》を腕に集結させ、それを相手に向けて発射するという一撃。《ネオス・フォース》のエネルギー弾とも言うべきそれが、高速でドラゴエクィテスに迫っていく。

「リバースカード――」

 ……遊矢が伏せてあり、そして今から発動する罠カードは《くず鉄のかかし》。もはや効果の説明は不要となつているほどの、遊矢のデッキの守備の要によってネオスの攻撃は防がれ、次のターンに《ラピッド・ウォリアー》の攻撃で十代は敗北する。

 ――このデュエルの結果はそうなるはずだった。だが、現実はそうなることはなく……遊矢がリバースカードを発動しようとした時、彼のデュエルディスクを装着した右腕に、マルタンの姿をした悪魔から光弾が放たれていた。

「何っ……ぐっ!?」

 反射的に右腕で庇ってしまった結果、放たれていた光弾はデュエルディスクに直撃する。そのおかげで遊矢本人には大したダメージは無かったものの、デュエルディスクには甚大なダメージが発生してしまう。

「遊矢!」

 そして攻撃宣言をした《ネオス・フォース》が止まることはなく。遊矢のリバースカードは発動せず、その気弾がドラゴエクィテスを貫いた。

遊矢LP2300→2200

「ネオス! もう良い、止めてくれ!」

 十代の悲痛な叫びもネオスには届かない。《ネオス・フォース》の効果は強制効果であり、もはやネオスにも止めることは適わないのだから。そしてネオスから放たれた、ドラゴエクィテスの攻撃力分のエネルギー弾が、寸分違わず遊矢本人へと直撃した。

「ぐああああっ……!」

遊矢LP2200→0

 遊矢のライフポイントが0になってこのデュエルは終了し、破損したデュエルディスクから【機械戦士】デッキが大量にこぼれ落ちていく。なんとか意識だけは保っていたものの、遊矢もその場に倒れ伏して動けなくなってしまう。

「……みんな……!」

 デュエルディスクから床にバラまかれてしまった機械戦士に、意識が朦朧としながらも遊矢は手を伸ばしたが、その腕を潰すかのような勢いで踏みつける者がいた。当然ながら、マルタンの姿をした悪魔の仕業だ。

「……くっ。遊矢を放せ!」

「おっと。動かない方が良いよ、十代」

 十代にも、デス・デュエルによる疲労感が身体中を襲うものの、遊矢ほどのダメージはない。マルタンの姿をした悪魔に詰め寄ろうとしたものの、マルタンが遊矢を踏みつける力を増していくのを見て、その動きを止める。

「それにしても危なかったじゃないか、十代……ボクが助けないと、キミが負けちゃうところだったよ?」

 遊矢の壊れたデュエルディスクから《ティンクル・ウォール》のカードを拾い上げ、ニヤニヤと笑いながら十代に見せつける。……そして踏みつけられた遊矢が、マルタンの姿をした悪魔の言葉に反応する。

「……助けた、だと……」

「ああそうさ。十代、ボクに感謝してよ?」

 意識がはっきりとしている平常時ならば、そんなマルタンの姿をした悪魔のセリフなど、遊矢には一笑に付すことが出来ただろう。だが意識がはっきりとしない今……遊矢は倒れながらも十代を見た。

「違う! お前誰なんだよ、何でこんなことをするんだ!」

「……本当にボクのことを忘れちゃってるんだね……ボクがやっていることはね、十代。全てキミのためにやっていることなんだよ」

 今の十代には、マルタンの姿をした悪魔が何が言いたいのか、何も理解することは出来はしない。しかしその言葉は、遊矢の猜疑心を高めさせるのは充分すぎるほどだった。

「……ふざけんなよ! 遊矢を、みんなをこんなにした何が俺の為だ!」

「また後で話してあげるよ、十代。……それよりまず、敗者に罰ゲームをする方が先かな」

 マルタンの悪魔の右腕がデュエルディスクに変化していき、一枚の魔法カードをポケットから取り出して発動した。その魔法カードとは《暗黒界に続く結界通路》。

 遊矢の背後に他の異世界へと繋がっている穴が出現し、遊矢を吸い込まんとその穴から悪魔が遊矢の足に手を伸ばす。マルタンの姿をした悪魔が足で踏んでいるおかげで、何とか遊矢はこの世界にいることが出来た。

「もう一人の……明日香、だっけ? もう既にどっかに送ってあるからさ。再会出来ると良いね」

 マルタンの姿をした悪魔が足を放すと、遊矢は何も抵抗することは出来ず、暗黒界に続く結界通路に引きずり込まれていく。

 ――最期にこぼれ落ちた【機械戦士】たちと十代を見て、明日香のことを思いながら。そして結界通路の中で、十代の叫び声だけが耳に聞こえていた。

「遊矢ぁぁぁぁぁっ!」


 
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