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自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ

作者:SF-825T
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第五話

盟政府が同盟軍部に要求したのは帝国軍の殲滅ではなく当然撤退をさせることだがそれだけでも今の同盟には無理難題に見える。
 同盟政府から万が一に備え対帝国用の防衛計画を立てるよう要請を受けた同盟軍部はその意を受け敵を撤退させることを念頭に作戦を立てた。さまざまな作戦案が提案されたがその作戦案のほぼすべてがあくまで全面的な交戦をさけ敵の補給能力の限界を待つという受動的な作戦だった。そのなかで一風変わった積極的な作戦案を提出した者がいた。それはやはりと言うべきかヤン・ウェンリーが発案したものだった。さまざまな議論が重ねられた結果、ヤンの案が大筋をなし細かいところが改変された作戦案が採用されることになる。

 帝国軍の再侵攻は確実。軍諜報部、旧フェザーン商人などさまざまな経由先を通って同盟政府首脳部にもたらされた情報は帝国軍の再侵攻は決定的と断定させるにいたった。前々から水面下で準備が進められていた同盟軍の拡張、再建はさらに加速されることになる。その時点で情報から間接的にもたらされた帝国軍の規模は侵攻軍だけで約十万から十五万隻規模と算出された。

「以上の情報を持ちまして帝国の再侵攻はほぼ間違いないと思われます」
 軍諜報部の報告を受けた同盟最高評議会のメンバーはうなだれた。現実をそれなりに見ているものなら今の同盟が帝国に軍事的に勝つなどとということは普通に考えて不可能、楽天的に考えても現実的ではないと考えるだろう。
「これ以上、情報を隠す必要を認めない。即刻事実を公表し帝国に宣戦布告するべきだ」
 というのは原理派、強硬派の意見。
「帝国とことを構えても勝てる見込みは寸分もない」
 というのが穏健派である。
 双方ともに前者は帝国と戦っても勝つのは難しく、かといって後者は戦争回避で切る可能性も低くとどちらも賭けの域を出ないのが現状だった。そして今のところ前者の方が優勢であるのはヤンの作戦案のせいだ。最高評議会のメンバーにはその作戦案がすばらしいものかどうか判断する能力はない。彼らは軍の専門家ではないのでそれはしょうがないことだろう。内容がわからないのでヤンの功績によって判断した結果作戦案は非常にすばらしいものということになった。なにもヤンが第二のロボスではないという保証はないのだが。



これに対し同盟軍が用意できるであろう艦隊は4万隻程度だと思われた。
 この時点で帝国軍はまだ出兵を決めてはいなかった。あくまでもしもの時のための準備程度に過ぎない。しかし帝国にとっての小規模は同盟にとっての大規模である。



 チュン・ウー・チュンは既に高齢であるビュコック元帥の変わって来たるべき帝国の迎撃の準備を急速に進めていた。ヤン・ウェンリーが立てその他多くの将兵の意見を取り入れた戦略は時間的に非常に厳しい条件を満たさなければ実行できない。結果彼は前の帝国軍の侵攻作戦の第一次ラグナロック作戦の時以上の激務を負う事となる。
 激務に追われたのはチュンを含めた事務処理を担当する者がほとんどで、前線を担当する者はあまり忙しそうではなかった。かといってやることがないのは事実でありまた実際に命を描ける可能性が高いのは前線を担当する方であるので非難されることは無かった。
 同盟政府からすれば宣戦布告が行われるとしたら帝国からではなく同盟からの方がいい。現状同盟政府がハイネセンで起きたヤンをめぐる争いに関する情報のほとんど市民に隠している。公にされているのはヤンが軍隊に復帰し無事であるということだけだ。帝国と同盟、どちらが行うにしろ宣戦布告と同時に大義名分として情報は公開される。帝国ならレンネンカンプが死んだ責任を問うとして、同盟なら内政干渉としてだ。レンネンカンプの死と内政干渉どちらを強調して伝えるかが違う。言った者勝ちだ。
 同盟にとっては宣戦布告と情報の公開は同時期になる。もし完全に情報を公開した場合同盟政府への非難があるだろうがそれと同時にレンネンカンプとそれを登用した帝国への反感も予想される。帝国への反感が死亡したレンネンカンプ個人に向かうかどうかは分からない。レンネンカンプが就いていた役職は高等弁務官であり、その役職は皇帝の代理として同盟政府と折衝・協議し、さらに同盟政府の諸会議を傍聴する資格を持つ。つまり制度的にレンネンカンプの勧告はそのまま皇帝の勧告ととられても不自然ではなくそしてレベロはそうとった。事実はレンネンカンプの独断とそれをオーベルシュタインが煽っただったがそれを知るものはいない。

  
  
 帝国、同盟両国民が情報に飢えていた。帝国の民衆はこれまでにかった皇帝の消極性に、同盟の市民は政府の情報の隠匿にそれぞれ不安を募らせていた。両国民に明確に答えが与えられたのは宇宙暦799年/新帝国暦1年 10月30日になる。
  自由惑星同盟首脳部は、帝国・同盟双方の補給や将兵の招集の準備、そして何とか保たれている同盟の求心力の限界を考えた結果宣戦布告をこれ以上先送りのできない決議した。
「同盟市民諸君、まず情報の開示を今日ここまで遅らせたことを謝罪させていだきたい。そして今この場で情報の開示とこれからの同盟の方針を述べさせていただく」
 そう前置きを置いたのち、同盟政府最高評議会議長ホアン・ルイによる演説は平日の昼間に行われた。
 帝国軍高等弁務官ヘルムート・レンネンカンプの要求と当時の同盟政府の決議。その結果として生じたレンネンカンプの死と、元最高評議会議長レベロの拘留、ヤン・ウェンリーの居場所。人々が待ち望んだ情報がすべて同盟により開示された。
 もちろんその情報をそのまま公開するほどホアンはで人ができていない。あくまで帝国政府の方が悪いと思わせるような言い方で言っている。
「ここ数日間にわたり同盟政府は帝国政府に和平を求めてきた。それに対する答えはいまだ与えられていないが、いまだにその答えが先延ばしにされているそのこととフェザーンに帝国軍が集結しているその事実自体が答えというべきだろう。我々は帝国の圧力に屈するわけにはいかない。自由惑星同盟に住む人を誰一人として、帝国の不当な要求で受け渡すことはできない。それはこの国が個人の自由と権利を守るためにこそ存在しているからだ」
 この同盟政府をよる放送は帝国・同盟問わずほぼすべての人々が知ることになる。同盟国民の反応は帝国への反発を募らせる人、帝国に勝てるわけがないと意気消沈している人さまざまな反応が見れた。一方の帝国国民はだいたいの人が今までと同じように皇帝が自分たちをいい方向に向かってくれるだろうといった感じだ。
 


 帝国軍の侵攻は宣戦布告の3日後にビッテンフェルト艦隊がフェザーン回廊を出立したことで始まる。
 小規模な戦闘が始まったのは、ビッテンフェルト上級大将率いる一万五千隻の艦隊を、ビューフォート准将率いる千隻にも満たない艦隊がゲリラ戦を仕掛けたことによってだった。この時すでにビッテンフェルト艦隊は同盟領深くに進行しており、この戦闘によりビッテンフェルト艦隊はビューフォートのかく乱により補給戦を遮断され、さらには本体との通信が取れなくなってしまう。
 
 大規模な戦闘は同盟の造兵廠がある惑星ルジアーナで行われた。ルジアーナは惑星に分類されるものの小さく大気圏内航行が不能な同盟の艦艇を製造していたことを表すように、サイズとが小さく重力がほとんどなかった。先発したビッテンフェルトに続き第二陣として出発したミッターマイヤー艦隊は航路とは外れた惑星ルジアーナを目指すことになる。造兵廠は戦略上の意味でも無視できる施設でないことは間違いない。 
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