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自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ

作者:SF-825T
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第四話

ホアンは議長就任の翌日に帝国本土、ラインハルトに対し釈明を行った。このとき初めて帝国本土高官の一部を除く人間はレンネンカンプが死んだことを知り、その数日後ハイネセンのラッツェル大佐からもレンネンカンプが拉致されたことを知った。ホワンはラインハルトの性格を考慮してあえて不利な情報を隠さないことにより、誠実さを強調しようとした。
 帝国への釈明と同時にヤン提督が宇宙艦隊総司令官になったことを公表した。同盟国内に流れるウワサを多少なりとも「ヤン提督健在」と言う形で収拾するためのものだった。またそのウワサと同時に広まっていた同盟政府に対する市民の不信感や不安を取り除くための必要な処置だった。もし何もせず放置したならば同盟に所属している一部の星系が分離独立しかねないレベルにまで達しており放置するわけには行かなかった。
 「ヤン提督健在」の報は同盟内部を安定させる効果を持っていたが、同時に帝国を刺激させる効果も持つ。下手をしたら同盟が艦隊を三個艦隊編成しましたと言うよりも刺激があったかもしれない。どちらにしろホアンは国内情勢の安定を優先した。


 フェザーン旧自治領の一角、新銀河帝国の再開発を免れたバーはフェザーン商人達がよく訪れていた。再開発されて小奇麗なところには、彼らにとって見たくもない帝国兵士がうじゃうじゃいるのが原因だろう。
「なあ、最近ここの物の出入りが激しくないか?」
「そりゃ当然だろう。帝国のやつらはフェザーン丸ごと再開発つもりなんだから」
「いや、それにしては物資がおかしい。宇宙船の燃料が多く集まっているようだが、あんな上等なやつ民間じゃじゃ使わない。使うとしても緊急の物資を運ぶ船や、危険な探査に出かける船だけだ。つまりありゃ軍用船の燃料だとおもうぞ」
 周りの人々が聞き耳を寄せ始めた。商談のにおいがしたのだろう。
「ほうそりゃまた。つい数ヶ月前にどんぱちやったくせに帝国にしろ同盟にしろ本当に戦い好きだね」
 今現在フェザーン商人の活動は大きく制限されていた。帝国領と同盟領をまたいだ交易にはいままで無かった制限がかかっている。同盟領内部だけでの交易もまた同じだった。帝国領内部に限った貿易が一番ひどく、ほとんどまともに動けない状況だ。帝国領内部では体制の変化により経済が活発化しているが、あまり活発な発展は格差を呼び込むため大掛かりな交易は制限されている。いずれ緩和されるだろうがそれが数十年単位のものであるのは間違い。そのためまことに不快な事ながら彼らの今の主な仕事はただ運ぶこと、それもフェザーンの再開発に使う物資も大量にでその雇い主は新銀河帝国だった。
 フェザーン商人が扱うのは物資だけではない。情報もその範疇に入る。たとえば帝国がどの資源をどのくらい必要としているのかの情報を同盟に、その逆もだ。そして彼らはそこに多少の贔屓と言うおまけをつけていく。前者には多めに後者にはマイナスに。

 ヤン・ウェンリーという人物はラインハルトより運命に対して受容的で、かつ受容性に富んでいた。ラインハルトと比べなくてもそうである。ヤンほどの才幹を持ちながらそれをあくまで自分の頭の中だけで軍事ゲームとしてもてあそぶにとどめるのは、彼でなくては無理だったろう。ヤンは自分の行動を制限しすぎる。自らの権限に慎重になりすぎるがゆえに過剰に制限する。このことを危惧するのは自由惑星同盟軍統合作戦本部長アレクサンドル・ビュコック元帥を含め幾人かいる。受容性に富むとは言い換えれば積極性に欠けるという事になる。なお危惧はしなくても面白がって焚きつけようとしているのがシェーンコップだった。今までのことはおいておいてもそれのままでは困るのが現状だった。


 八月十五日同盟政府は帝国軍に動きがあることを様々な情報から判断した。どれだけの規模なのかはまだ正確には分からないが第一次ラグナロック作戦と同規模の動きがあるのは間違いがないように同盟側には思われた。フェザーンの政府が崩壊した後ルビンスキーからの情報は得られなくなったが、代わりに帝国に反発する元フェザーン商人から完全とはいえずとも、物資の流れを知ることができた。その結果合計1000万人を超える軍事行動を隠すことは不可能になる。 
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