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戦国異伝

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第百五十一話 四国と三河その八

「用意をしながらな」
「では」
「うむ、戦の用意を進めよ」
 今は、というのだ。
「わかったな」
「それでは」
 こうしてだった、家康は戦の用意をしながら彼等を待った、そしてだった。
 岡崎城を兵を率いて出る時にだ、城の正門を通ったところで。
 本多達が己の横に来るのを見た、彼等は家康の横に平伏してきた。前には兵達が並んでいるので出来なかったのだ。
「殿、申し訳ありませぬ」
「只今参上しました」
「我等、今まで迷っておりました」
「それ故に」
「どうしたのじゃ?」
 その彼等にだ、笑って応える家康だった。
 そのうえで自ら馬から降りてだ、彼等の前に来て言うのだった。
「すぐに具足を着るのじゃ」
「そうして宜しいのですか、我等も」
「一向宗である我等も」
「ははは、御主達は何じゃ」
 家康は優しい笑みで彼等に問うた。
「確かに一向宗じゃ、それでもじゃな」
「はい、徳川の臣です」
「左様でございます」
「ならば共に行くぞ」
 戦にだというのだ。
「徳川の家臣ならばな」
「殿と共に」
「そうせよと」
「ほれ、急げ」
 今度はこう言う家康だった。
「さもないと間に合わぬぞ」
「はい、では今から」
「用意します」
 本多達はあらためて頭を下げてだった、そうして、
 すぐに具足や陣羽織を着てだった、そのうえで家康と共に出陣したのだった。
 徳川家は一枚岩となった、それを見て石川が酒井に言う。
「いや、この度もまた」
「殿のことじゃな」
「うむ、お見事です」
 石川は唸りつつ酒井に述べる。二人は今馬を並べて進んでいるのだ。
「殿らしいと言うべきですな」
「そうじゃな、殿はな」
「とてもお優しく」
「しかも寛容じゃ」
 器が大きいとうのだ。
「非常にな」
「ですな、まことに」
「あの方ならば」
 酒井はここでこう言った。
「必ず大きな方になられる」
「ですな、百万石でしょうか」
 今川家の石高をだ、石川はここで出した。
「そこまで到れるでしょうか」
「いや、百万石でも凄いがな」
「それ以上ですか」
「そうやも知れぬ」
 家康の器は、というのだ。
「右大臣殿から背中を任せられるにな」
「ですな、右大臣殿も頼りにされておられますし」
「しかし殿には野心はない」
 家康には、というのだ。
「それはない」
「はい、それがまたいいのですが」
 家康は無欲だ、その生活も実に質素でそのうえで民のことを常に心掛けている、民にとっても非常によき者なのだ。
「そうした方だからこそ」
「大きいのじゃ」
「大器ですな」
「我等はその殿と共にある」
 酒井はそこに誇りさえ見出しながら語る。
「嬉しいことだ」
「では殿と共に」
「この度の戦も勝とうぞ」
 一向宗、彼等とのだというのだ。 
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