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万華鏡

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第五十三話 音楽喫茶その二

「恥じらいが必要だから」
「恥じらいですね」
「幾ら見られてもいいものを穿いてたら絶対領域も守らないから」
「じゃあ先輩今は」
「そんなの穿いてないわよ」
 スパッツも半ズボンもだというのだ。
「下着一枚よ」
「本当に勝負ですね」
「もっと言えばガーターよ」
 不敵な笑みを浮かべてだ、部長は言った。
「ガーターストッキングよ」
「過激ですね、それはまた」
「そうでしょ、そこまでしてだから」
「見られない様にしてですか」
「絶対領域でいるのよ」
「自分を追い込むんですね」
 琴乃は部長の真意がわかった、そうしたことだったのだ。 
「そうなんですね」
「ええ、あんたもそうする?」
「見えそうで見えない、ですね」
「見られたらアウトよ」
 こうなるのだった。
「この格好はね」
「派手なだけでなく」
「言っておくけれど動くから」
 このことも忘れないのだった、そのこともまた。
「ステージでね、ただ」
「見えない様にですね」
「そうするから」
 これは絶対だというのだ。
「これでこそロックよ」
「何か先輩も傾きますね」
「傾かないとね」
 部長は傾く、安土桃山時代の傾奇者の言葉も出した。
「女もね」
「男だけじゃないんですね」
「そもそも歌舞伎って女の人がはじめたでしょ」
「出雲の阿国ですね」
「そうよ、ややこ踊りがどんなのかは知らないけれど」
「派手にやってかつ見せないですか」
「肝心なところはね」
 それこそが傾くことだというのだ。
「わかったわね」
「はい、それじゃあ」
「あんたも派手にやって見せないでいくのよ」
 部長は琴乃の背中を言葉で押した、その押しを受けたうえで。
 琴乃はプラネッツの四人に部長のことも話した、そして言うのだった。
「やっぱりね」
「傾く、か」
「そうみたいよ」
「成程な、見せないんだな」
 美優は琴乃の言葉に頷きながら言った。
「見えそうで」
「そうみたいよ」
「難しいよな」
「見せたらアウトなんだって」
「いや、あやしも見せるのはな」 
 それはとだ、美優も答える。
「やっぱりな」
「嫌よね」
「それでもか、ぎりぎりにか」
「そう、絶対領域ね」
「ミニスカートはぎりぎりか」
 超ミニだ、スカートならそれになるというのだ。
「本当にあと少しか」
「そうみたいよ」
「しかもスパッツも半ズボンもなしか」
「アンダースコートの類もね」
 それもだというのだ。
「駄目みたいよ」
「そういえば男子が言ってたわ」
 彩夏は自分のクラスのことを話した。 
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