| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Element Magic Trinity

作者:緋色の空
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

涙を揮って馬謖を斬る


バトル・オブ・フェアリーテイルが終了してから翌日。
そこに争う妖精の姿はなく、ただ収穫祭ムード一色のマグノリアの街があった。

ファンタジア(大パレード)は明日の夜に延期だってよ」
「何があったんだ?」
「昨日はギルドの奴等が騒がしかったからな」

そんなマグノリアのとあるオープンカフェ。
そこでは数人の男性が会話をしていた。

「噂じゃマスターの容態がよくねぇらしいぞ」
「オイオイ、まさかあのじーさん引退しちまうんじゃ・・・」
「次のマスターはどうすんだよ」
「そこまでは解らねぇけど、普通に考えればラクサスじゃねーのか?」

その会話を遠くで聞いている初老の女性がいた。
女性の名はポーリュシカ。マカロフの古い知人である。

「あの暴れん坊がマスターねぇ」
「何か感慨深いものがあるな」
「アイツがガキだったころから知ってんもんな」
「うちらも歳をとったって事だ。はははっ!」

男達の談笑に背を向け、ポーリュシカは歩き出す。
その姿はすぐに人混みに紛れて見えなくなった。








「ポーリュシカさんのおかげで一命は取り留めたそうだ。安心してくれ、マスターは無事だ」

妖精の尻尾(フェアリーテイル)
エルザの報告を聞いたギルドメンバー達は一斉に安堵の声を上げた。

「よかったぁ、一時はどうなるかと思ったケド」
「あのじーさんがそう簡単にくたばる訳ねーんだ」
「だって僕達をまとめてるマスターだもんね!」

ルーシィ、グレイ、ルーがそう言うと、エルザは3人のいる方に目を向けた。

「しかしマスターもお歳だ。これ以上心労を重ねればまたお体を悪くする。皆もその事を忘れるな、特にティアは」
「はぁ?何で私なのよ」

エルザに忠告されたティアは怪訝そうな表情をする。
自分がギルド1の女問題児だとは自覚ないようだ。

「こんな状況で本当にファンタジアやるつもりなのか!?」
「マスターの意向だし・・・こんな状況だから、って考え方もあるわよ」
「ま、じーちゃんがそう言うならやるまでさ」

エルフマンとミラの言葉にアルカがケラケラと笑う。

「ジュビアもファンタジア観るの楽しみです」
「俺もだ。さぞかし素敵なんだろうな」
「アンタ達は参加する側よ」
「ええ!?」
「なっ!?」

カナの言葉にギルドに入って日の浅いジュビアとヴィーテルシアは驚く。

「だってジュビア、入ったばかりだし」
「俺達のような新人が参加して構わないものなのか?」
「んな事気にする必要ねーって。オレ達もギルド加入してすぐに参加したし。な、ヒルダ」
「確かにな」

ヴィーテルシアに跨ったスバルの言葉にヒルダが頷く。

「ケガ人多いからね。まともに動ける人は全員参加だって」
「プーン」
「じゃああたしも!?」
「当然だよ。ルーシィもギルドの一員だしね」

魚を食べるハッピーと棒付きキャンディーをなめるプルー、メロンパンを頬張るルーが口々にそう言う。
因みにルーはよっぽど空腹なのか、テーブルの上にからの袋が5つほど置いてあった。

「見てみなさいな。あんなのが参加出来るわけないでしょ」
「!」

呆れたように呟くティアの視線を追い、ルーシィは振り返る。
そこには、ラクサスと戦った2人がいた。

「・・・」

―――――ミイラかと勘違いしそうなほどに全身に包帯を巻いたナツとガジルが。

「だね」

あれほどの大怪我を負っている人間がパレードに参加するのは無理だろう。
ルーシィはティアの言葉に納得した。

「ふぁがふんごが、あげがあんがぐぐ」
「何言ってるか解んないし」
「バカね」
「んがごふぃがー!」

ちなみに最後のは「んだとティアー!」である。

「無理だね。参加出来る訳ねーだろ、クズが」
「おがえがべおごおご・・・」
「それは関係ねーだろ」

そして何故かガジルには通じていた。

「何で通じてるのかしら・・・」
「2人ともバカだからよ」
「あはは・・・厳しいな、姉さんは」

困ったように笑うクロス。
すると、そのティアの鋭い視線はクロスへと向いた。

「バカといえば、アンタも大バカよ!クロス」
「ぐっ・・・今回は悪かったよ、姉さん・・・」
「全く・・・魔力も体力も空に近い状態でかなりの怪我を負っているのに医務室を抜け出すなんて・・・ルーが治癒してくれたからいいものの、あのままだったらアンタ余裕で全治5か月よ?バカナツのバカがうつったかしら・・・」

溜息をつきながら額に手をやるティア。
ナツが「んがごふぃがー!」と叫んでいるのは余談だ。

「すまない、姉さん・・・」
「反省してるならいいわ。ちっとも直らないバカよりはね」

ちらりとナツに目を向け、溜息をつく。

「でもまぁこれで・・・ギルド内のごたごたも、一旦片付いた訳だ」

笑みを浮かべてそう呟くエルザ。
その目には昨日の事など無かったかのようにいつも通りに仲良く騒いでいるギルドメンバーの姿があった。
ロキもギルドに顔を出している。
すると、そこに1人の人物がやってくる。

『!』

ギルドに入ってきた人を見て、ギルドメンバーの表情が変わった。

「ラクサス!」
「お前・・・!」

それはラクサスだった。
ナツやガジル程ではないが包帯を巻き、いつも通りコートを肩から羽織っている。

「ジジィは?」

ラクサスは表情を変えず、ただ一言呟く。
もちろん、それに簡単に答えるメンバーではない。

「テメェ・・・どのツラさげてマスターに会いにきやがった!」
「そーだそーだ!」

バトル・オブ・フェアリーテイルなどという馬鹿げた事の首謀者はラクサスなのだ。
それを簡単に許せる訳が無い。



「マスターなら奥の医務室よ」



―――――――1人を除いて。

「ティア!?」
「姉さん!?」

興味なさげに頬杖をつき、よく通る声で一言言い放ったティアに目が向けられる。
が、彼女はやっぱり興味なさげに目線を逸らしていた。
それを聞いたラクサスは無言で奥へと向かっていく。

「んぐぁーっ!ふぁぐあぐー!」

すると、ラクサスの前にミイラ・・・ではなくナツが立ち塞がる。
ラクサスが足を止めた。

「ナツ」

エルザが呟いた、瞬間。

「ふふぉんふふぐぁふぁんふぁぐふぁふぁふぐふぁふぁぐ、ふぐふぉふぉふぇっふぇふふふぇ。ふふふぁふぉふふふふぉふぁぐあぐ!」

ラクサスを指さし、何か言った。
・・・が、口にまで包帯を巻いている為何を言っているかは全く、一言も解らず、周りはポカーンとする。

「もー、ナツってばー。皆に聞いてほしかったらもっと解りやすく言ってよー。最後の『ラクサス!』しか聞き取れなかったじゃーん」
「空気読んでくれる!?」

そしてやっぱり空気クラッシャーは健在だった。

「通訳」
「二対一でこんなんじゃ話にならねぇ、次こそはぜってー負けねぇ。いつかもう1度勝負しろラクサス!だとよ」

ティアに言われ、指示通り通訳するガジル。

「次こそは負けない・・・って、勝ったんでしょ?一応」
「オレもあれを勝ちとは言いたくねぇ。アイツはバケモンだ。ファントム戦に参加してたらと思うとゾッとするぜ・・・」
「私もです。あの方がいたら、一瞬で消されていたでしょう・・・」

ガジルの言葉にシュランが頷き、背筋を震わせる。
そしてラクサスはやはり無言でナツの横を歩いていく。

ふぁぐあぐ(ラクサス)!」

そんなラクサスに怒鳴るナツ。

「・・・」

ラクサスは何も言わず、スッと右手を挙げた。
返事はそれだけだったが、ナツは嬉しそうな表情をする。

「さあ皆、ファンタジアの準備をするぞ」
「オイ!いいのかよティア!ラクサスを行かせちまって」
「私はポーリュシカさんに頼まれた事をしただけよ。『ラクサスを連れてきなさい』って言われたから、連れてきてはないけどマスターのトコに行かせただけ。それの何に問題が?」
「大丈夫よ、きっと」
「てかミラちゃん!何でケガしてんだよ!?誰にやられたの!?」
「色々あったんだよ、気にすんな。なぁ?ミラ」
「ナツ・・・お前ラクサスよりひでーケガってどーゆー事よ」
「んがごがー!」
「こんなの何ともねーよ、だとよ」
「本当に何ともないの?じゃあ今の何ともない状態でティアと勝負してみてよ!」
「ナツー、血ィ!血出てる!」

いつも通りの騒がしさ。
ギルドは今日も騒がしく、楽しさで溢れていた。










「騒がしい奴等だ」

医務室の壁に凭れ掛かり、近くの扉の向こうからがやがやと聞こえてくる声にラクサスは呟く。
ベッドの上のマカロフが、ゆっくりと体を起こした。

「お前は・・・自分が何をしたか解っているのか」

マカロフの問いかけに、ラクサスは顔を背ける。

「ワシの目を見ろ」

が、マカロフに言われ、ラクサスはマカロフの目を真っ直ぐに見た。

「ギルドというのはな」

ベッドの上で胡坐をかき、マカロフは口を開く。

「仲間の集まる場所であり、仕事の仲介所であり、身寄りのねぇガキにとっては家でもある」

医務室の外。
そこではマカロフのガキ・・・ギルドのメンバー達が大パレードの準備をしていた。

「お前のものではない」

誰もいないベッドを間に挟み、祖父と孫は向き合う。

「ギルドは1人1人の信頼と義によって形となり、そしてそれはいかなるものより強固で堅固な絆となってきた」

ラクサスは何も言わない。
ただ黙ってマカロフの言葉を聞いている。

「お前は義に反し、仲間の命を脅かした。これは決して許される事ではない」
「解ってる」

マカロフの言葉に真っ直ぐ言い放つラクサス。
そして顔を下げ、自分の拳を握りしめた。

「オレは・・・このギルドをもっと強く・・・しようと・・・」

左拳を握りしめ、その拳を真っ直ぐに見つめるラクサス。
それを見たマカロフは小さく溜息をついた。

「全く・・・不器用な奴じゃの・・・もう少し肩の力を抜かんかい」

軽い足取りでマカロフはベッドから降りる。

「そうすれば、今まで見えなかったものが見えてくる。聞こえなかった言葉が聞こえてくる。人生はもっと楽しいぞ」

その言葉に、ラクサスは顔を背けた。
どこか辛そうなその表情は、今まで1度も見た事のない顔だった。

「ワシはな・・・お前の成長を見るのが生きがいだった。力などいらん。賢くなくてもいい・・・」

マカロフにとって、ラクサスはたった1人の孫。
その孫に力がなくても、特別賢くなくてもよかった。

「何より元気である。それだけで十分だった」

そう言って、マカロフは小さく俯く。
ラクサスは視線を落とし、その体が小刻みに震えた。

「ラクサス」

マカロフが呟く。
その握りしめた拳が震え――――――――




「お前を破門とする」




自らの手で、孫を破門にした。
今回の事は許される事ではない。たとえ家族であっても仲間の命を脅かす者はギルドにおいておけないのだ。
ラクサスの父親と同じように。

「ああ・・・世話になったな」

一瞬目を見開いたラクサスだったが、特に反論はしない。
くるりと踵を返し、医務室を出ていこうとする。
そして、ラクサスは最後に言い残す。




()()()




――――――それは昔の呼び方。
ラクサスにとってマカロフはギルドマスターである前に、祖父だった。

「体には気を付けてな」

それだけ言って、ラクサスは医務室から出ていく。
背を向けていたから、ラクサスは見ていない。

「出てい゛げ・・・」

震える声で言い放ったマカロフが。
―――――ボロボロと涙を流していた事は。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
これを更新している今日・・・フェアリーテイルベスト!は「ラクサスVSアレクセイ」でした。
はてさて何の偶然か。敵としてラクサスを書いている時に味方としてのラクサスを見るとは。
にしても変わったね。ラクサスは・・・と思う今日この頃。

感想・批評・ミスコン投票、お待ちしてます。
次回はファンタジア。その次の話で結果発表です! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧