八条学園怪異譚
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第五十三話 空手部主将その二
「今暇?」
「聖花ちゃんのお家でお茶飲んでます」
愛実は茉莉也にありのまま話した。
「紅茶を」
「そうなのね、あの娘もいるのね」
「そうですけれど」
「じゃあ今からそっち行っていい?」
茉莉也は自分から行くと言い出した、ここで。
「ティーセット持って行くから」
「ティーセットって」
「そうよ、イギリスのね」
本場のそれをだというのだ。
「丁度薔薇の妖精の娘から貰ったのよ」
「ああ、あの娘からですか」
「そうよ、ただ量は結構あるから」
そのティーセットのだというのだ。
「私一人で食べるよりはって思ってね」
「私達もですか」
「一緒に」
「そう、どう?」
聖花も電話に出たが茉莉也は彼女にも誘いをかけた。
「私が今からそっちに持って行くわよ」
「すぐに来られるんですか?」
愛実は怪訝な声で茉莉也に返した。
「ティーセット持って来られて」
「ええ、すぐよ」
「学校からここまで結構な距離がありますよ」
「大丈夫よ、天狗さんの下駄借りてるから」
「天狗さんのですか」
「あれを使うとすぐに行きたい場所に行けるのよ」
そうした能力があるというのだ、天狗の下駄には。
「だからね、どう?」
「ううん、それじゃあ」
「丁度お茶菓子もなかったですから」
愛実も聖花もすぐに来られるのならと茉莉也に応える。
「それじゃあ今から」
「お願い出来ますか?」
「ええ、じゃあね」
こうしてだった、茉莉也は実際にこの電話を切った瞬間に聖花の家の店に入って来た、そのうえでこう言うのだった。
「お邪魔します」
「えっ、本当に速いですね」
「今電話を切られたばかりじゃないですか」
二人は店に出て驚きの顔で茉莉也を出迎えて言う。見れば茉莉也の手に三段ティーセットがある。90
「それでもうって」
「本当に速いですね」
「そうでしょ」
巫女姿の茉莉也は二人に笑顔で応える、見ればその足には歯が一つずつの山伏の下駄がある。
その下駄を見ながらだった、茉莉也は二人に話す。
「これ使ったからね」
「それが天狗さんの下駄ですか」
「今お話してた」
「そうよ、履いて歯を鳴らせばね」
それでだというのだ。
「思った場所にすぐに行くことが出来るのよ」
「また凄い便利ですね」
「いい道具ですね」
「団扇を使っても行けたけれどね」
天狗が持っている葉のそれである。
「あれだとティーセット持って来られないから」
「だからですね」
「下駄にされたんですね」
「そうなの、それでだけれど」
茉莉也は微笑んで二人にこうも言った。
「いいわね」
「はい、お茶ですね」
「紅茶を」
「イギリス風だからあれよね」
茉莉也はこれから飲む紅茶についても言及した。
「ミルクティーよね」
「今は別に」
「何も入れてないで飲んでましたけれど」
「じゃあレモンティーでもないのね」
「はい、そっちでもないです」
「レモンティーも飲んでなかったです」
ミルクティーはイギリスで飲まれる、それに対してレモンティーはアメリカだ。アメリカでミルクティーを飲むとイギリス人だと思われるという。
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