駄目親父としっかり娘の珍道中
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第49話 ライバル気取りもほどほどに
決意を新たに勇み足で万事屋前まで戻って来たなのははその場で立ち止まった。目の前で人だかりが出来ていたからだ。
その中には新八や神楽、お登勢やキャサリンと言ったお馴染みの面子が揃っている。が、その中に見慣れない者達の姿も見られた。
一人は老人だった。顔つきや着物からかなり羽振りの良さそうな感じにも見えた。白髪で髷を結っており、口元には綺麗に切りそろえられた髭を生やしており、そのパーツが更に羽振りの良さを物語っていた。
もう一人は若い女性だった。質素な感じの着物を着ており老人とは対照的に貧乏的な印象を物語っている。
その女性を二人の浪人が押さえ込み老人の前に着き出している光景が見えていた。
会話の内容は残念ながらなのはの方までは聞こえなかったが目の前の光景や老人の顔色から察するにとても仲良さそうな風には見えない。
乾いた音が響く。老人が女性の顔を平手打ちで叩いた音だった。
相当いきり立っている老人をお登勢が宥めたお陰でその場は穏便に済ませられた。その後で、老人は留めていた車に女性を押し込みそのまま走り去って行ってしまった。その光景をただ呆然と見つめているだけの一同。その場になのはは駆け寄ってきた。
「お登勢さん、今の人は?」
「おや、戻って来たのかい?」
なのはを見るなりそう訪ねて来たお登勢の言葉に、自分が勝手に飛び出して皆を心配させていた事を改めて思い出した。
幾ら赤子に嫉妬したからと言って余りにも身勝手なその行為。とても褒められた事じゃないのはなのは自身理解はしている。
だからそれを謝る為にこうして戻って来たのだ。
「御免なさい。心配かけちゃって……」
「良いさ。自分の親が他のガキにうつつを抜かしてたら嫉妬するのがガキってもんだしねぇ。それより、銀時とは会わなかったのかい? 丁度あんたを探しに店を出たんだけどさぁ」
お父さんが探しに行った?
お登勢の問いになのはは大きく首を横に振った。どうやら行き違いになってしまったのだろう。だとしたら、今頃銀時は赤子を背中に背負いながら必死に自分を探し回っているに違いない。
何と言う偶然の事故であろうか。だが、だからと言ってあそこにずっと居た所で銀時と会えるかと言ったらその可能性は極めて低い。
銀時が何所を探し回るか分からないのだから。
「お登勢さん、ちょっとこれ見て下さいよ!」
新八の慌てた声が聞こえてきた。見ると、彼の手には一枚の写真が握られていた。どうやらその写真が声を発した原因となっていたのだろう。
一体何がその写真に写っているのだろう。気になった二人は新八の元へ近づきその写真を見た。
其処に映っていたのは一人の赤子が映っていた。銀色の髪にやる気の感じられない目の形。その姿の赤子が映っていた。
だが、この赤ん坊を何所かで見たような気がする。
一体何処で見た赤子だっただろうか?
「この赤ん坊。銀さんが見つけた子にそっくりですよ!」
「もしかして、銀ちゃん何かに巻き込まれちゃったりしちゃったりしてないアルかぁ!?」
新八と神楽が心配そうな声をあげる。
あぁ、なんて事だ。なのはは激しく後悔の念に苛まれた。自分があの時家を飛び出していなければ、銀時は外を出歩く事などなかったと言うのに。
今銀時はあの老人の息が掛かった危険な浪人達がうろつき回っているに違いない。まぁ、銀時の腕前ならば浪人位何ともないだろう。だが、今の銀時には赤子と言う重荷が背負われている。
果たして何所まで立ち回れるだろうか?
なのはの胸中が不安一色に染め上げられていくのに早々時間は掛からなかった。顔色がどんどん暗く沈んで行き、目線が定まらず右往左往している。それほどまでに先ほどの写真の件がショックだったのだ。
しかし、そうなると疑問が残る。そもそもあの老人は何者だったのだろうか? 何故あの赤子を狙っているのだろうか?
話に参加していなかっただけに途切れ途切れとなった情報が頭の中に散らばってしまっている。ピースの揃っていないジグソーパズルを完成させようとしている感覚を思い起こされた。
これでは次に何をすれば良いのか判断が出来ない。まずは欠けたピースを探さなければならない。それからどう行動を起こすか考えるべきだったのだ。
闇雲に動いても結局は時間の無駄にしかならない。焦りは禁物だ。
「ねぇ、新八君。さっきのお爺さんって誰なの?」
「あぁ、あの人はね、橋田賀兵衛って言ってね、橋田屋って言うこの辺じゃ有名な商人なんだよ。ほら、あそこ……」
言うなり新八は上空を指差した。彼の指差す方向。青い空が支配している上空に悠然と聳え立つ一際大きな建物。言うなれば高層ビルが存在感をかもし出していた。他のビルよりも頭二つ分大きい。
その大きさから橋田屋が如何に絶大な力を持っているかが想像出来る。そして、力を持っていると言う事はそれ即ちその力を存分に振るってくると言う見解に行き着く。
あの老人の一声で一体どれだけの浪人が動き出すだろうか。100人、それとも200人?
それだけの浪人達が銀時の元に迫ったら……
「あのビルが橋田屋の所有してるビルなんだよ。分かった? なのはちゃ……」
説明を終えた新八が彼女の方を見た時には、既に其処に姿はなかった。場所を知るなり即座に行動を起こしたのだ。この行動力の速さは流石銀時に育てられただけの事はあると感心させられる。
しかし、感心してばかりもいられない。なのは一人で橋田屋に乗り込んだとあればそれはかなり危険な事だ。
今、あの高層ビルの中では、一際不気味な影が蠢いているのだから。
***
人気の少ない道筋を銀時と赤子は歩いていた。何時の間にか持ち出していたのか、歩行器を使いおぼつかない足取りながらも赤子は歩いている。その赤子の歩幅に会わせるかの様に銀時も歩いていた。
ビチャビチャと銀時が地に足をつける度に不気味な音が辺りに響く。見れば、銀時の体はずぶ濡れであった。なのはを追い駆けて江戸の町へ繰り出したは良かった物の、宛などまるでなく適当にぶらついていた銀時は、疲れたので近くの駄菓子屋で一息つこうと立ち寄った。
その際其処で公務をほっぽりだしてバリバリさぼりを決め込んでいる沖田を見つけたので、彼に赤子を預けようとしたのだが、全く取り入る素振りを見せず、それどころか完全に銀時の赤子と決め付けた挙句公務と言いながらも再び惰眠を貪り始めだした。その光景に銀時は切れて、後先を考える事もせずに彼の寝ていたベンチごと近くを流れる小川へと投げ捨ててしまった。
仕方なく赤子を連れて捜索を再開しようとしたのだが、その際に運悪く今度はお妙、そして猿飛あやめと鉢合わせしてしまう。
お妙は赤子の存在に気付いていかったが、あやめはいち早く察知し、銀時とお妙が出来ていると誤解し勝手に敗北宣言をして逃げ去る……かと、思いきや突如不意打ち+宣戦布告をしてくる有様。
余りに唐突なその振る舞いにお妙が銀時に説得を持ち掛けようとして振り返った際に、面倒毎から逃げようとする銀時と、その銀時に跨るようにしてくっついている赤子を発見。その赤子を見たお妙もまた後先考える事なく銀時を小川へと投げ捨ててしまった。
その際に赤子を濡れないように庇った銀時にはファインプレーの称号を与えたい。
そんな称号はないのだが。
そんな訳で銀時はずぶ濡れになってしまったのだ。
「全く、今日はついてねぇぜ」
濡れて重みを増した髪の毛を掻き毟りながら銀時は愚痴った。髪を揺らす度に水しぶきが辺りに飛び散る。水の重さが相まって更に歩く疲れが増している感覚がまた銀時の面倒臭さを煽り立てていた。
朝から新八、神楽は言う事を聞かないし、変な赤子を見つけて隠し子だ何だといちゃもんつけられて、挙句の果てには何故か嫉妬して飛び出して行ったなのはを捜索してずぶ濡れになってしまう。本当に今日はついてない。嫌、寧ろついている日なのかも知れない。
疫病神的な何かが。それならば今日のこの厄日も説明が行く。等としょうもない自問自答を繰り返しながら宛のない歩みを続けていた。
ふと、銀時は足を止めた。首筋がピリピリするのを感じる。辺りに気配を感じるのだ。背後、嫌正面。既に四方を取り囲まれている。
何人だ? 5人? 10人? 嫌、もっと居る。正確な数は分からないがかなりの人数がこちらを取り囲んでいるのが感じ取れた。
その存在はすぐさま姿を現した。付近の建物の間にある狭い路地からぞろぞろと気配の主達が現れてくる。
皆殺気にギラついた目をした浪人達だった。廃刀礼のご時世にも関わらず腰には立派とは言い難いが刀を帯刀している。
目線からして浪人達は明らかに銀時を直視している。だが、何故銀時を狙う必要があるのか?
自慢ではないが彼等に喧嘩を売るような行為は今回はした記憶がない。
ならば辻斬りか? だとしたらはた面倒な事この上ない。今日は厄日続きになりそうだ。ずぶ濡れになった後で今度は辻斬りに出くわすとは、これを厄日を言わず何と言えば良いのやら。
「その赤子を渡してもらおうか?」
浪人達の中、真ん中に居た男が一言きり出して来た。銀時の目の前、丁度まん前に居たかさ帽子を被った髭面の浪人だ。見ればその浪人の方が他の浪人に比べて若干だが着物や得物も良いのを持っている。が、所詮若干なので大した差はない。そんな浪人が銀時に向かいそう告げてきた。赤子、つまり銀時の横で歩行器を使って歩いている子を渡せと言って来たようだ。
正に銀時にとっては願ってもない発言と言えた。面倒毎が一つ消える。こいつらがこの赤子を使って何をするかなど知った事じゃない。早くこの赤子を渡して面倒毎からおさらばしたい。そうした後で身軽になった状態でなのはを探せば尚の事早く事が片付く。
服に違和感を感じた。見ると、赤子が銀時の着物を掴んで引っ張っているのだ。まるで赤ん坊が自分から離れようとする親にせがむように。そんな赤子の姿を見た銀時の脳裏で、過去の映像のフラッシュバックが起こった。
妙な親近感を感じる。この赤子を見ていると、まるで自分が過去にタイムスリップしたような錯覚を覚える。そう、あの時。自分がなのはを育てていた頃に戻ったような錯覚を覚える。
やれやれ、結局俺も父親って奴か。
例え赤の他人だったとしても子供は子供。その子供をこいつら浪人に渡して果たしてどんな末路を迎えるのか?
そんな事を想像してしまうととても赤子をこいつらには渡せない。
「どうした? 渡すのか渡さないのか? 返事位したらどうだ」
「そんなに返事が欲しいか? それならお前等のお望み通りにしてやるよ」
言うなり赤子の服を掴み挙げる。そのまま予備動作もなしに赤子を空高く放り投げた。浪人達の殆どが頭上を飛ぶ赤子に目線が言っている。
馬鹿野郎共が、腹ががら空きだ!
無言のまま腰に携えていた木刀を構え、一足の如く浪人達の中へと銀時は雪崩れ込んだ。浪人達が眼にしたのは、銀時が後ろに居た瞬間だけだった。その後、全ての浪人達は糸の切れた人形の様に地面に倒れ伏してしまった。
ドサリと重みのある落下音と砂埃が辺りに巻き起こる。それらが銀時の背後で起こっている現象だが、銀時にしてみれば関係のない事だ。
この一連の動作は別に計画された技でも策略でもない。積み重ねられた実戦から編み出した戦法の一種とも言える。故に即座に反応するのは至難の業と言えるだろう。
目の前に居る【こいつ】以外は……
「面白い喧嘩の仕方をするねぇ」
銀時の目の前に立っているそいつは他の浪人とは違っていた。銀時の必殺の一太刀を持っていた刀で受け止めていたのだ。それだけならば多少腕のある浪人だと納得出来る。だが、その浪人は目を開けていなかった。
盲目なのか、それとも単に目を開けてないだけなのか? どっちにしても銀時が知るべき事じゃない。赤子が重力に従い落ちてきた。それを察知したかの様に空いていた手をクッションの様に位置取り、赤子を受け止める。落下位置はドンピシャ。だが、こいつだけは例外だった。
「只強いだけじゃない。守る戦いに慣れている。赤ん坊をそんな風に扱う人間なんて早々は居ないだろうな」
「お前等だったらどう扱うってんだ? 見るからに童貞から卒業してなさそうな顔ぶればかりじゃねぇか。男ってなぁな、赤ん坊の世話が出来てようやく一人前なんだよ」
「その口ぶり、それにあんたからは血の臭いと一緒に何所となく乳臭い臭いがするねぇ。そのガキの他に赤子を育てたっぽいねぇ」
勘繰るように目の前のこいつは鼻をひくつかせてきた。その仕草が銀時には至極不愉快に思えた。まるで自分を嘗め回されているかの様な感覚だった。
気持ち悪い奴だ。見えるんだったらその目で見れば良いだろうが。
言いたくなる気持ちをぐっと抑えつつ、銀時は目の前に立つこいつを睨んだ。
「そろそろミルクの時間だ。急がねぇと愚図る。退け」
「その言いよう。あんた父親みたいだねぇ。そのガキじゃないにしても、それならばこの乳臭い臭いにも合点が行かぁな」
一人で勝手に納得している。不気味に笑いながら勘繰っているような素振りを見せている。それともフリなのか。
ふと、そいつは自ら刃を引いた。押し負けて前のめりに倒れる前に銀時もまた、自分から一歩引いた。
「あんたみたいな強い奴をやるのに片手が塞がってるようじゃつまらないねぇ。今度会う時は両手が開いてる時に会いたいねぇ。さっさと行きな」
「やれやれ、最近はライバルキャラ気取りの奴が多くて困るぜ」
意味深な発言を残しつつも銀時はその男を右手に避けて走り去って行った。走りつつも横目で先の男を見る。まさかとは思うが逃がしておいて後ろから斬り付けると言った真似はしないよな。
不安を感じつつ見つめたが、視線の先の男はその場から動こうとしない。無論持っていた刀をこちらに振り下ろす気配も見受けられない。
どうやら本当に逃がしてくれたようだ。
しかし、一体何故?
分かる事と言えば面倒で無駄な戦いをこいつのお陰でどうにか回避出来た事だろう。追っ手が来る前に早い所ずらからなければ更に面倒な目に会う。
そう危惧した銀時は一目散にその場から逃げ去った。
「岡田! 何故逃がした?」
銀時を逃がした後で、浪人【岡田似蔵】は仲間の浪人に攻め立てられていた。だが、その責めに対し岡田は平然と笑みを浮かべているだけだった。まるでお前達のことなど眼中にない。そう告げているかの様に。
「くそっ、追うぞ!」
岡田は使い物にならない。そう判断した浪人達は岡田をその場に残し、自分達だけで銀時と赤子を追いかけて行った。
そんな浪人達を尻目に、岡田は一人全く逆方向へと歩き出して行った。追跡をする気は毛頭ないのだ。今の岡田の中にあるのは銀髪の侍と本気でやりあう事。赤子になど毛程も興味はない。あのまま逃げ延びるにしても浪人達が無事捕まえるにしてもどっちにしても構いはしない。
岡田の胸中にそんなドス黒い思念が渦巻いていた。
***
江戸の中には数多くの高層ビルが立ち並ぶ。天人の襲来により江戸の文明は飛躍的に向上し、結果この様な風貌へと変化したのだ。
そのビルの中で一際大きな高層ビル、江戸でも有名な商人でもある【橋田屋】の本店でもある。きらびやかな佇まいとは裏腹に、その中では腹黒い商いなどを行い、終始浪人や攘夷志士達が出入りしている光景を目の当たりにしている。
そんな会社の内部、その廊下を一人せっせと掃除しているパートが居た。
パートの身分でありながらグラサンを粋に掛け、あごひげを生やしたちょっぴりダンディーな顔立ちをした男。しかし、そんな顔ぶれとは裏腹に見事なまでの転落人生を歩んでいるマダオこと長谷川その人であった。
「ったくよぉ、こないだは銀さん達に寿司奢ろうなんて馬鹿な事したせいでクビんなっちまったし、此処だって可愛いパートさんが居るって言うから来て見たら嘘っぱちじゃねぇか! 何所を見渡したって婆ばっかりだっつぅの!」
確かにパートで綺麗な女性は居るのだが、それらは全て下の事務系に回っている。なので長谷川が配属されている掃除などの雑用系には基本的に中年老婆クラスしか配備されていない。
まぁ、人生そんなものなのである。
「はぁ、此処の仕事もきついし、最近になって浪人とかの出入りが盛んになってきたみたいだしなぁ。このまま此処に勤めてるとまた何か厄介事に巻き込まれそうだし、早々に転職先探した方が良いかなぁ?」
【だが、そんな事言って簡単に見つかる物なのか? お前この職場だってどれ程苦労して見つけられたと思っているんだ?】
突如、長谷川に天の声が囁いた。その声を聞いた長谷川がふと思いとどまった。
そうだ、何を先走った考えをしてしまったんだ。確かに此処最近危なっかしいとは思っていたが、だと言って早々に仕事をくら替えしていたら最終的に就職できなくなってしまう。それだけは御免被りたいのだ。
「そうだそうだ、少し辛いと思っただけですぐ辞めちまう。最近辞め癖がついちまったみたいだな。やばいなぁ、このままだとマジでマダオになっちまうよ」
【そうだ、お前はもうマダオになってしまったんだ。このまま生きててもどうせ禄な事にならない。そうだ死のう。いっそ死んで楽になってしまおう】
あり? さっきまでの聖人君子とは裏腹にドス黒い声が聞こえてきたぞ?
即座に首を左右に激しく振り、頭に根付いた考えを払拭した。
「いやいやいや、おかしい! おかしいって! 確かに最近良い事なかったけどだからって死ぬのはおかしいから! こんな俺でも何時かは逆転して素晴らしい勝ち組ルートに返り咲ける筈だからさぁ!」
「何寝言じみた事言ってんだよ。お前は一生マダオルート独占組なんだよ。いい加減現実に目を向けて死ねやこのまるで駄目なおっさん、略してマダオ」
「いやだ、死にたくない! 俺はまだ死にたくないんだ! まだハツともやり直してないしやりたい事だって一杯あるのにまだ死にたくない……ってか、人の後ろで何不気味な事囁いてんだてめぇはぁ!」
どうやら後ろの存在に気付いていたようだ。即座に振り返り背後に居た神楽や新八に怒号を張り上げた。
其処に居たのは全く萌える格好には見えないメイド姿の神楽に長谷川と同じパート姿の新八が居た。どうやら二人して橋田屋に潜入したのだろう。
「何しに来たんだよお前等? まだ俺の仕事の邪魔しに来たのか?」
「長谷川さんこそまた再就職したんですか? 前の仕事はどうしたんですか?」
「その前の仕事を台無しにしたのはお前等だろ? ってか、何でお宅らが此処に来てんのさぁ? 最近此処物騒なんだし、早々に引き上げた方が良いんじゃないの?」
「そうしたいんですけどね、僕達も仕事で来てるんですよ」
新八が何時になく真剣そうな顔で言った。その目線を見た長谷川も何時になくシリアスモードな顔をしだした。何かやばい事にでも巻き込まれたのかも知れない。
そう思っていたのだろう。
「おいおい、今度は一体どんな仕事を引き受けたんだぁ?」
「赤ん坊のお母さんを助ける仕事ですよ」
意味深な事を言い終えると、新八と神楽は歩き始めた。まるで吸い込まれるかの様に廊下をひたすらに歩いて行く。
「お、おい待てよお前等!」
その列に何故か長谷川も加わってしまった。どうやら生来野次馬根性が根付いてるのだろう。悲しい運命と言う奴であった。
つづく
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