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SR004~ジ・アドバンス~

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prologue

「kryyyy!!」

 薄暗い機械遺跡の中。兵器の残骸を無尽蔵に接合したような機械型クリーチャーが、二本のアームを振り下ろした。アームの先は緩く湾曲した刃になっており、一度でも命中すれば無事では済まないだろう。アキハルは地面を蹴り飛ばし、大きく右に飛んだ。クリーチャー……《廃棄兵器05型》と呼ばれるそいつの左腕の刃は、右腕に阻まれてアキハルを攻撃できない。

「kryyyy!」

 廃棄兵器は苛立ったようにキリキリと金属の擦れるような鳴き声を上げる。その背部に装着されたレーザー砲が火を噴く。閃光がアキハルを狙って飛来する。しかし、その攻撃はアキハルに命中する寸前、突如出現した紫色の半透明の障壁に阻まれる。

「サンキュー、イオリ!」
『どういたしまして!……来るわよ!』
「おうっ!」

 遠距離通話補助機……いわゆる《インカム》から響いた相棒の声に一つ頷き、アキハルは腰のホルスターから得物を抜き放った。

 黒銀色に鈍く光る重心を持つそれは、《機動銃》と呼ばれる銃火器だ。アキハルの取得職業(クラス)である《機士》は、この《機動銃》を使用するときにほかのクラスにはない補正をいくつか受けることができる。
 
 そのうちの一つが、《自動再装填》だ。《機動銃》はセットした弾薬が空になると、連射が効かなくなる。《機巧師》と呼ばれるクラスをとっていれば、ここに弾薬を再びセットできるのだが、それには時間がかかる。それに対して、《機士》補正を使用している場合、ストレージから自動的に弾薬が再装填(リロード)されるのだ。

「っぁッ!」

 トリガーを引くと、軽い反動と共に銃弾が発射される。螺旋形に回転しながら、高速で打ち出された弾丸は、狙い違わず廃棄兵器に炸裂した。火花が散る。同時に、廃棄兵器を構成するパーツの一部が壊れた。ごとり、と左のアームが壊れる。《機士》の補正の一つ、《命中精度補正》及び《威力補正》だ。クラス《銃士》をとっているために、さらにこれに付け加えて《銃士》の補正もかかる。《機士》のクラスをとるためには、事前に《剣士》《機巧師》《銃士》を一定レベルまで上げておく必要があるので、《機士》は必然的に《銃士》も兼任することになる。

 その中にあって、アキハルの攻撃力はほかの《機士》と比べて、少しではあるが突出していると言えた。理由は、アキハルのクラスレベルが、本人のレベルと同レベル帯の平均と比べて高い事。もう一つは、彼の装備する《機動銃》の性能の高さだ。

 アキハルの父親――――《プレイヤー》と呼ばれる一級の戦士が、若いころに所有していた神器級アイテムと、アキハル自身がダンジョンから発見してきた神話級アイテム。それらの二つを、相棒であるイオリが再構築して完成した、銘を《撃覇銃(ストライク・カノン)》。神話級アイテム《ブレイク・カノン》と、神器級アイテム《絶対撃覇(アブソーヴストライク)》を融合させた、超高性能《機動銃》だ。現在世界に存在する神器級アイテムの中でも最高級品に数えられるアイテムで、トップクラスの冒険者たちがこぞって欲しがっているが、アキハルはこれを手放す気はない。

「(なんてったって、父さんと相棒の魂が込められてんだからなっ)」
『アキハル、チャージ終ったわ!撃てる!』
「よっしゃぁ!」

 その相棒からの通信を受けて、アキハルは《ストライク・カノン》の隠された能力の一つを開放する。銃身に紫色の光線が走る。光は銃口に集約していき、やがてキィィィィ、というジェット機めいた音が鳴り出す。

『発射準備完了ッ!発射まで残り3秒!1、0!!』
「――――《天堕とし(スカイ・ドロップ)》!!」

 ゴォウッ!!と、空気を引き裂いてレーザーが飛ぶ。《機動銃》最高峰の攻撃力を誇る《機動レーザー銃》は、その威力と引き換えに、大きさにかかわらず異様に重い。しかし、この《ストライク・カノン》は、レーザー攻撃を『一定時間のチャージを必要とする《必殺技》』に限定したことによって、軽量化に成功している。

 極太のレーザーが大気を引き裂き、機械クリーチャーに迫る。じゅぁ、という溶解音と共に、《廃棄兵器05型》の中央重心がごっそりと消滅した。左右の側面だけが残った廃棄兵器は、淡い破砕サウンド共に無数のポリゴン片へと姿を変えて、消えた。

 途端に、バトルリザルトが視界いっぱいに表示される。普段は《聖命の記録結晶》を使うか、神聖石版のある場所でしか見ることのできない《詳細ステータス・データ》が、事細かにアキハルの前に現れる。【EXP】と書かれた部分が19865から20000に変更され、同時に【Lv】表記が【27】から【28】に変わった。

「よしっ!」

 アキハルは手をグッと握りしめる。レベルアップだ。

 細かい表示が消滅すると同時に、視界が先ほどまでの機械遺跡から、のっぺりとした白い空間に瞬時に移り変わる。真っ白な壁には、時々青い光のラインが通っていく。

 《訓練室(シミュレーションルーム)》と呼ばれるそこは、この世界のダンジョン戦闘を仮想体験させ、戦闘訓練を行うための場所だ。アキハルはレベル的にはまだ最初歩ダンジョンどころか、この街付近のフィールドですら戦闘可能かどうか怪しい。そのため、この《訓練室》でレベル上げと戦闘経験を積んでいるわけだ。

「やったわね、アキハル」

 背中がばしん、と叩かれる。振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。長く艶やかな黒髪を腰まで下ろし、真っ白い制服に身を包んでいる。短めのスカートから延びた足は、黒いハイソックスに覆われている。まつ毛の長い目に、オレンジ色を帯びた瞳。唇は薄い桜色。白い肌に、頬にはほんのりバラ色がさしている。

 彼女の名はイオリ。イオリ=アーシェルト。《ハーフチルドレン》と呼ばれる存在だ。アキハルとコンビを組んでいる《オペレーター》。同時に、アキハルの同級生でもある。

「おう!」
「最近調子いいわね。ランキングも上がってきてるわよ。見る?」
「いや、いいや。どーせグレイスの奴がトップだろ?」
「ご名答。まったく、憎らしい限りよね~。あんたも早く順位上げなさいよ。私の株が下がるじゃない」
「順調に上がってんだろ!これ以上何を求むという……」

 アキハルは《プレイヤー》の子孫と呼ばれる種族、《チルドレン》だ。しかし現在ランキングトップを独走中のグレイス=ドルガ・エスケティアは、《トッププレイヤー》と呼ばれる最強の戦士たちの子孫。彼自身は《プレイヤー》と《NPC》の混血児である、イオリと同じ《ハーフチルドレン》なのだが、その性能はそこいらのプレイヤーと比べても高い水準にある。

「ったく、何であいつはフィールドに出ないんだろうな」
「さぁ?満足してないんじゃないの、自分の実力に」
「嘘付け。確かもうレベル40近いだろ、あいつ」
「今37よ。あなたより10上ね」
「馬鹿言え。今日上がって9レべ差だ」
「それでも9レべよ。まだ遠いわ」
「……」

 グレイス(トップ)との差は大きい。しかしそのグレイスですら、この世界では『弱い』部類に入る。つまりアキハルは『もっと弱い』わけだ。

 それでも、アキハルは強くならなければならない。

 二十年前、父と母が辿り着いたと言われる、伝説のダンジョンの最奥部に行くために。そこに待つ景色を見るために。


 この世界の名は《SR004》。二十年の時を経て、いまだに終わりを見せない、本物の《異世界》であった。 
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