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万華鏡

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第五十二話 文化祭のはじまりその十四

「ああいうの?」
「そう、リボンの騎士とか」
「だからそういうのは」
 好きではないというのだ、どうしても。
「私も他の娘もね」
「美優ちゃんなんか似合いそうだけれど」
「それでもなの」
 嫌だというのだ。
「そういうのはね」
「そこまで言うのならね」
「確かに面白いけれど」
 だがそれでもだった。
「趣味じゃないから」
「そうなのね」
「そう、やるのならやっぱり女の子の格好よ」
 それがいいというのだ。
「歌舞伎でもね」
「わかったわ、まあとにかく歌舞伎は例えだから」
「目立ってこそっていうのね」
「そう、そのことはわかっておいてね」
 こう琴乃に言うのだった。
「目立ってこそよ」
「その論理だと」
 雪女の娘の話からだ、琴乃はあのことを思い出してそのうえで言った。
「先代将軍様の集団での裸はね」
「毒ね」
「インパクトがあるわよね」
「あってもね」
 それだけは、というのだ。
「あれはきついから」
「気の弱い人ならショック死するでしょ、私言ったけれど」
「インパクトも強烈過ぎてしかもそれが猛毒だとね」
「よくないわよね」
「だってあの人普通に精神衛生的に悪い顔だったから」
「その所業と相まってね」
 国民を餓えさせて自分だけ贅沢三昧の独裁者だ、しかも気まぐれで側近でも気が向けばすぐに粛清だ。尚且つ女好きで金銭欲もかなりだ。 
 それだけ揃っているからだ、琴乃も言うのだ。
「えげつないまでのインパクトだから」
「私も流石に先代将軍様はね」
「NGなのね」
「暗がりで、でしょ。しかも」
「お化け屋敷だからね」
 明るいお化け屋敷なぞない、それだけでもうお化け屋敷でなくなる。
「それはね」
「そうよね、だからね」
「怖いなんてものじゃないわよ」
「しかも下は下着一枚でね」
 おまけにその下着は白ブリーフだ、裸に白ブリーフだと余計に変態に見えるのは何故であろうか。
「やっぱり怖いわよね」
「暗がりの中でいきなりヒトラーとかスターリンが出て来てもね」
 こうした恐怖の独裁者達でもだというのだ。
「蝋人形でもね」
「それもかなり怖いわよね」
「二人共目が怖いからね」
 このクラスでのヒトラーの目のことが語られる、その尋常でない眼光の鋭さはあの髭があるからこそ宥められている。
「だからよね」
「そうそう、あの二人でも怖いのに」
 その精神衛生的に悪い先代将軍様ならとだ、雪女の娘も言う。
「あの人はね」
「三代続いてよね」
「今の将軍様もね」
 彼等にしてもだというのだ。
「あれだから」
「だから看板にもなったしね」
「あれ位ならまだいいけれど」
 毒が弱いというのだ。
「先代将軍様は蟲毒みたいだから」
「それ呪術よね」
「絶対にやったらいけない呪術よ」
 呪術といっても色々だ、そしてその中でもなのだ。
 この蟲毒の術はだ、それこそ何があってもなのだ。
「人を呪わば穴二つだから」
「あれって何か色々な生き物を一杯集めて閉じ込めて戦わせるのよね」
「そうそう、そうして残った最後の一匹を使うから」
 それが蟲毒だ、噂ではこれを人間同士で行う場合もあるらしい。
「とんでもない術よ」
「そんなのする人いるのね」
「いるみたいね、これが」
 実際にそうらしいというのだ。
「私呪術は嫌いだから」
「嫌いというかやったら駄目でしょ」
 琴乃も顔を顰めさせてこう返す。
「特にそれは」
「だから、先代将軍様もね」
「蟲毒並の毒だからなのね」
「そう、危険よ」
 お化け屋敷に使うことすらというのだ。
「やってたら本当にショック死する人出てたかもね」
「怖いを通り越して」
「そのうちクローン技術でやる人いるかも知れないけれど」
 裸の先代将軍様に人を囲ませる拷問だ、それに実行が加われば耐えられる者は正気ならばいないであろう。
「悪魔もびっくりの所業ね」
「そうね、そんなことする人いたらね」
「地獄に落ちるから」
 絶対にだというのだ。
「というか想像するだけで吐きそうになるわ」
「本当に精神衛生的に悪い顔だからね」
「ええ、だからこのお話はこれで止めてね」
「そうしてよね」
 こうした話をしてだった、琴乃は今はお化け屋敷に専念した。しかし彼女の文化祭はクラスだけでなく多忙な状況が続くのだった。


第五十二話   完


                      2013・9・30 
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