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クラディールに憑依しました

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なんとか復活しました

「お前達の『少し』は長いからな、強行突破をさせてもらう」
「――――なっ!?」


 耳元!? いや、直ぐ傍で話しかけられているのに姿が見えない!?


「コリドー、オープン」


 あいつの声が聞こえると目の前の空間が歪む、爪先に水の流れを感じ、胸や背中の感覚から水が減っているのが解る。
 数秒もしない内にバスタブの湯が吸い込まれ空っぽになった――――って空!?


「行くぞシリカ、もう時間が無い」
「はい!」


 目の前に居たシリカが背後の空間に吸い込まれた、いや違う、あいつがコリドーで連れて行ったんだ。
 いや、それよりもッ!?
 あ、あ、あ――――――――見られたッ!? 全部見られたッ!?


「いやああぁあああぁあぁあぁあああぁああぁッッ!!」


 ――――――あたしが悲鳴を上げるよりも先に、アスナの悲鳴が上がった。
 そういえば侵入者はもう一人居たッ!?




………………
…………
……



 鼓膜が破壊されるほどの警戒音、じゃなかった、悲鳴により、何となくだが俺にも現状が解って来た。
 クラディールに言われるがまま、開かれたドアに飛び込み、サボテンと思われる大きさの物体を捕獲したつもりだった。

 ――――――――だが。

 今、俺の手の中には、捕獲するべきサボテンではなく、血盟騎士団の副団長様が居る。


「や、やあ、アスナ、こんな所で会うなんて奇遇だな」
「――――キリトくん」
「は、はい、何でしょうか、副団長さま」
「第一層の時といい、その後も階層を上る最中に何度か、いえ、何度もいつかはこうなるんじゃないかって思ってたけど。
 ――――――どうしてこうなったのか、説明して貰えるんでしょうね?」

「あ、ああ、クラディールの奴に、珍しいサボテンを捕獲してくれって頼まれて」
「へー、サボテンって、わたしの細剣がサボテンの棘だとでも言いたいのかしら?」
「お、それは上手い言い回し――――――――じゃないッ!? 全然そんな事ないですッ!! はいッ!」
「――――――――そろそろ、わたしの上からどいて貰えないかしら? ビーターさん」
「いやいや、それについては、もう少し話し合おう、話せば解る」


 アスナの両手首を押さえている俺の両腕が、物凄い力で押し返されそうになっている。
 俺よりも、AGI=スピードにポイントを振っている筈のアスナに、何故こんな力が出せるのだろうか?


「――――どうしても退かないって言うなら、退かせるまでよね」
「…………へ?」


 アスナは両手首を俺に掴まれたまま、万歳をする様に地面を擦りながら、頭の上に両手をスライドさせた。
 膝立ちをしていた俺はアスナに引っ張られる形でバランスを崩し、
 アスナの右と左、どちらに転ぶか迷った瞬間、下半身に強烈な一撃が走った。


「ぐあっ!?」
「こっちの世界じゃ、男性特有の痛みって無いんでしょ? これくらいで文句言わないで」
「そ、それでもシステムから内臓に込み上げる強烈な不快感って物がだなぁ」
「まぁ、状況は大体解ったわ、あいつに一杯食わされたのね」
「どうやらそうらし……い」


 起き上がってアスナへ振り返ると――――下着姿のサチが居た。


「…………キリト」
「ち――違うんだサチっ!? これは――――」
「うん、解ってるよキリト――――――後で一緒に黒鉄宮に行って自首しよう?」
「だから違うんだってッ!?」


……
…………
………………


 シリカを抱えたまま、思い出の丘を疾走する。


「ピナの心を用意しろ、直ぐにプネウマの花が咲く、時間が無い、此処で蘇生だ」
「はい!」


 シリカがメニューを操作して、下着装備をクリック、全防具装備をクリック、そしてピナの心を取り出した。
 空中庭園とも言える花畑の中央、その岩の上でアルゴが手を振っていた。


「こっちダ」
「何か問題はあったか?」
「特には無いナ」
「綺麗な所ですね」


 プネウマの花が咲くまでの間、少しだけ周りの風景を観賞する。


「シリカ、そろそろ花が咲くぞ」


 岩の上に一輪の花が咲き始めた。


「これで、ピナが生き返るんですよね」


 シリカがプネウマの花を手に取り、ピナの心に近づけた。
 プネウマの花から雫が落ちる。
 ピナの心が光り輝き、小竜の形を象って行く。


「きゅる」
「ピナっ!」


 復活したピナをシリカが抱きしめた。


「ピナ、おかえり、ピナ」


 シリカは涙を零しながらピナをずっと抱きしめ続けた。


 ふと、俺は気になった事を試してみた――――あ、結構普通に飲んだな。


「――――? 今ピナに何か食べさせました? 何か飲み込んだような感覚が?」
「ん? 気のせいだろ?」
「――――――感動の再会は終わったかしら?」


 振り返れば、そこにはいつもの――――血盟騎士団のユニフォームを着たアスナが腕を組んで立っていた。
 アスナの足元には、襟首を掴まれて引き摺られて来たのだろう、キリトがグッタリと座り込んでいる。
 いきなり此処に来れたって事は、キリトのコリドーを使ったな。


「…………とりあえず、ほとぼりが冷めるまで別行動を取らせて貰おうか」
「逃げられるとでも思ってるの?」
「まぁ、全力で逃げるさ、血盟騎士団の副団長様がオレンジになる訳にはいかないだろ?」
「大丈夫よオレンジになるのは、わたしじゃなくてキリトくんだから」


 どうやらキリトに俺を捕まえさせる心算らしい。


「それなら、ギルドメンバーしか入れないクエストへ逃げさせてもらおうか」
「――――無駄よ、キリトくんはもう血盟騎士団のメンバーだから」


 キリトのHPバーを見ると、血盟騎士団のギルドシンボルが追加されていた。
 …………ドタバタの責任を取らされたか。


「それなら、ソロのクエストを受けるまでだ」
「残念ながら、もう手遅れよ」


 ――――――俺の背後から聞こえたリズの声――――と同時に左手首から、ガチンっと金属音が聞こえた。
 左手の金属装備には奴隷用と思われる太い手錠がガッチリとかけられ、ゴッツイ鎖が溶接されていた。
 その鎖が伸びて、リズの左手の手錠に繋がっている。


「おい? 何だこの鎖は?」
「ギルドペナルティ専用アイテム、スローピング・チェーンよ、
 あたし達だって何時までもあんたにやられっ放しじゃないわ、こう言う時の対策ぐらい用意してるのよ」
「チッ! 放せッ!!」
「無駄よ、アスナがあんたのギルドペナルティを解除するまで、攻撃力はゼロのまま、逃げる事すら出来ないわ」


 左肘の簡易装備解除を操作――――反応しない、右手を振ってもメインメニューも開かない。
 ――――黒鉄宮と同じ扱いかよッ!


「さあ、街へ帰りましょか――――たっぷり躾けてあげるわ」


 リズが無造作に鎖を引くと俺の身体が何の抵抗も無く引き摺られる。
 slopingと言うだけあって、まさに坂を転がるがごとく引き摺られて行く。
 不味い、不味いぞ、この鎖は――――ふと、ピナを抱きしめるシリカと目が合った。
 特に何の期待もしてないが、もしかしたらアスナやリズに何か言ってくれるかもしれない…………。


「――――がんばってください」


 とても可愛い笑顔で死刑宣告しやがった。


 フローリアの街に戻った俺がどんな目にあったか――――記する事は遠慮したい。 
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