久遠の神話
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第七十四話 実った愛その二
「俺もわかっていた、戦いそれで誰かを倒して己の欲を満たすことはな」
「間違っていますね」
「戦争はまた別だろうがな」
「あれはですね」
「国家と国家はそこにいる国民全員が関わっている、だからだ」
「時としては」
「やるしかない」
その戦いをというのだ。
「そして勝つしかないだろうがな」
「個人のことはですね」
「エゴだ」
広瀬は表情は変えなかった、だが否定を露わにさせてそのうえで言い切った。
「それに過ぎない」
「貴方は本当は戦いは」
「願いが大きかった。それはあの先生と同じか」
高代、最初に戦いから降りた彼とだというのだ。
「俺は間違っているとわかっていても戦いを選んだ」
「そしてですね」
「そこに救いが来たか」
聡美達のことである、戦いに生き残らずとも戦いから降りる様にしてくれた彼女達のことに他ならない。その彼女達のことも言うのだった。
「幸せの女神達か」
「貴方を救ってくれた」
「感謝している、そして同時にだ」
「同時にとは」
「あんた達には申し訳ないことをしたな」
同時にこうも言った広瀬だった、女神達への感謝と共に。
「倒そうとしてな」
「お気になさらずに、終わったことですから」
「だからか」
「私も貴方と同じ立場ならわからなかったです」
戦いを選んだかも知れないというのだ、彼にしても。
「人の想いはこの世で最も強いものの一つですから」
「そうだな、想いはな」
「私も想いは強いです」
ここで大石が出すものとは。
「神への想いは」
「あんたはそれか」
「神は無限の愛を説かれています」
少なくとも彼が見るキリスト教の神はそうである、バチカンはその長い歴史の中で様々な悪も犯してはきたが。
「ですjから私は戦いではなく」
「戦いを止めることを選んだか」
「それが神のご意志ですので」
そしてそれへの想いがあるからだというのだ。
「今の様にしています」
「では若しだ」
「神が戦いを望まれるならか」
「その場合はどうしていた」
広瀬は大石のその目を見て問うた。
「あんたは戦っていたか」
「神はそうしたことを決して望まれません」
神への絶対の信頼、そこからの返答だった。
「ですからその問いは」
「成り立たないか」
「はい、そうなります」
穏やかな微笑みと共に出した言葉だった。
「神は戦いを望まれませんので」
「だからだな」
「ですから私は戦いません」
それを止めるというのだ。
「何があろうとも」
「そうか」
「ですから私は絶対に戦いません」
広瀬に再び話したのだった。
「そうなります」
「そうか」
「この場合の意味の戦いをしないということですが」
それはどういう意味かともだ、大石は話していく。
「確かに私は貴方とも他の方とも戦ってきました」
「戦いを止める為にだな」
「剣を止めるものは何か」
「剣だな」
「素手で止められるものではありません」
何も持たずに剣の前に出ても斬られるだけである、根拠のない非武装なぞは無意味で空虚なものでしかないのだ。
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