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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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第6話 「リンディとの再会」

 俺と高町、それとフェレット姿の少年は黒衣の執務官に次元航行艦に案内された。俺や少年のように魔法文化を知る人間には問題ないが、つい先日まで平凡な小学生だった高町には珍しいようだ。これといって何もない通路を歩いているのにも関わらず、辺りをキョロキョロと見ている。

「……ぁ」

 俺が様子を見ていたこともあって、高町と視線が重なった。だが彼女は、すぐさま俺から視線を外してさ迷わせ始める。

 まあ……大声を出されるよりはマシか。

 予想ではここに来る前に大声を出されるかと思っていたのだが、どうやら高町の中では驚きよりも戸惑いの方が強いようで、視線が重なったりすると今のような反応を取られる。当然といえば当然の反応なので傷ついたりはしないが。

〔……えっと、ここどこだろうね?〕

 無言が気まずいのか、純粋に気になっているだけなのかは分からないが、高町が念話で訪ねてきた。いまさら魔導師じゃないと誤魔化せるわけもないため、素直に返事を返すことにする。

〔十中八九、管理局の次元航行艦の中だろう〕
〔え……夜月くん、知ってるの?〕
〔ああ〕
〔えっと、何で夜月くんは知ってるの? 私と一緒で魔法なんてない世界に住んでて、普通に学校に通ってたはずなのに〕
〔それは……〕

 返事をしようとした瞬間、前を歩いていた少年が何かを思い出したように声を発しながら振り返った。

「君たち、バリアジャケットは解除して」
「あっ、はい」
「はい」

 高町と俺は返事を返し、バリアジャケットを解除して制服姿に戻った。ファラの姿を見せると面倒なことになりそうだったため、誰にも見えないようにすぐさまポケットに仕舞う。
 荒かったのか変なところでも触ってしまったのか、ポケットの中にいるファラから殴られてしまった。ほとんど痛くないので何も反応しなかった。
 管理局の少年に視線を向けられたが、俺が首を傾げて何か言いたいことでもあるのかと訪ねると彼は首を横に振った。
 高町が何か言いたげな表情でこちらを見てきたが、彼女が口を開く前に管理局の少年が視線をフェレットに向けて言った。

「君もだ。その姿が本来の姿じゃないんだろ?」
「……あ、そういえば」

 気になった高町はフェレットを覗き込むようにして屈んだ。
 フェレットの身体が発光し始めると、人型へと変わり始める。それと同時に覗き込んでいた高町がしりもちをついたのは言うまでもない。光が収まると、前に夢で見た金髪の少年の姿が現れた。

「なのはにこの姿を見せるのは久しぶりだっけ?」
「あ、ああ……あああ」

 いや、どこからどう見ても高町は初めて見たって反応だろう。
 俺は魔法を知っていたこともあって、あの夢を気にして覚えていたが、高町は普通に忘れていただろうから無理もない。
 金髪の少年は高町の手を取って立ち上がらせる。高町は立ち上がるのと同時に口を開いた。

「ユーノくんって……普通の人間の男の子だったの?」
「あれ? なのはにこの姿で会ったことは……」
「ううん、ううん、ううん!」

 激しく首を横に振りながら否定する高町。このふたりは一緒に行動していたはずなのだ。ユーノと呼ばれた少年が男だと知らないで生活していたとすれば恥ずかしい思いを……いや、考えるのはやめておこう。俺がどうこう口を挟む問題ではない。

「とりあえず、こちらを優先させてもらってもいいか?」
「「あっ、はい」」

 再び歩き始めた俺達は、ある一室に入ることになった。

「…………」

 部屋に入った俺は思わず言葉をなくした。艦内だというのに桜にししおどしが存在していたからだ。視線を部屋の中央に向ければ、茶道に用いられる道具まで用意されている。日本に住んでいる人間でさえ異質に感じる空間だ。
 部屋の中央に静かに正座している女性は、おそらく艦長またはクロノという少年の上司に当たる人物だろう。

「どうぞ」

 中に招き入れられた俺達は女性の元に向かって進み、彼女の前に並んで正座した。順番に顔を見た女性は、俺と視線が重なると驚きの表情を浮かべる。

「あなたは……まさか」
「お久しぶりですね……リンディさん」

 俺に全ての視線が集中した気がした。次元航行艦の艦長と魔法文化のない世界の子供が知り合いだったのだから、俺が別の立場だったならば同じような反応をしていることだろう。

「……本当に久しぶりね」

 リンディさんの瞳には、優しさや寂しさといった様々な感情が混じっているように見える。
 彼女と初めて会ったのは、両親の葬式だった気がする。そのときは泣いてばかりいて、誰が来ていたのかはよく覚えていない。
 だが俺はこれまでに叔母に連れられて何度かミッドチルダに行ったことがある。そのときにリンディさんが訪ねてきたことがある。

「艦長、彼とお知り合いだったんですか?」
「ええ、彼のお父さんは元々管理局で技術者として働いていたから。技術者の中でも結構独特の研究をしていたわ」
「独特……デバイスに関する何かですか?」
「あら、鋭いわね」
「彼は先ほどバリアジャケットを解除したとき、誰にも見せないようにデバイスをしまってましたから」

 俺とあまり変わらないのに執務官になっているだけあって洞察眼はかなりのもののようだ。
 待てよ……記憶は曖昧だけど、リンディさんの息子さんは俺より5つくらい上だったか。執務官の少年はクロノ・ハラオウンと名乗っていたから、おそらくリンディさんの息子さんのはず。背丈は俺とあまり変わらないけれど、あっちのほうが年上なんだよな。
 などと考えていると、いつの間にか全員の視線が集まっていた。デバイスのことが気になっているのだろう。
 高町の前で出すと誤解されそうだが……変に隠し続けてバレたときのほうが誤解されるか。そう思った俺は、ポケットからファラを取り出した。全員の視線はファラへと移る。

「艦長……」
「この子は人型フレームを採用して作られた最初のインテリジェント・デバイス。名前はファラ……正式名称はファントムブラスターだったかしら」
「女の子の……デバイス?」
「え、えっと……」
「……マスター」

 ファラは視線をさ迷わせた後、こちらに助けを求めてきた。人間と同じような反応するものだと感心する。だがファラよりも先に相手をしなければならない子がいる。言うまでもなく、何かしら誤解していそうな高町だ。

「高町、言っておくけど女の子みたいな趣味はないから」
「え……あっ、うん」
「…………」
「疑ってない、疑ってないから!」

 そこまで必死に否定されるほうが、こちらとして余計に疑ってしまう。しかし、こちらまで必死になってしまうとかえって疑われる恐れがある。このへんで終わっておいたほうがいいだろう。
 ファラを胸ポケットに入れながら、リンディさんに話しかける。

「リンディさん。こちらから言うのも変ですが、そろそろ本題に入りませんか?」
「それもそうね」

 こほん、と咳払いしたリンディさんの顔つきが真剣みを帯びたものに変わった。俺達は、改めて姿勢を正して彼女に向かい合う。

「まずは……そうね、ショウくん。君はどこまで分かってるのかしら?」
「首を突っ込むなと言われてましたから、そこにいるふたりほどは……。はっきり分かってることは名称くらいですね」
「……充分に突っ込んでると思うけどね」
「突っ込みたくて突っ込んだんじゃないですよ」

 執務官の独り言に、視線はリンディさんに向けたまま返事をした。
 彼の言葉は事実であり、最もなことだ。俺にも事情はあったが、ここは聞き流すのが正解だった。
 そんな風に言い終わってから後悔する。それと同時に、同年代よりも精神年齢が高いだの、子供らしくないだの言われていても、自分はまだまだ子供なのだと実感した。
 微妙な気まずさが流れ始めたが、リンディさんは気にした様子もなく、本題の話を始めた。リンディさんはユーノという少年に事の経緯の説明を求めた。少年は責任を感じているような顔をしながら話し始めた。

「……そう。ロストロギア《ジュエルシード》を発掘したのは、あなただったんですね」
「……はい」
「あの……ロストロギアって?」

 高町の質問に、リンディさんは困ったような笑みを浮かべた。魔法文化に詳しくない高町に、どのように説明したらいいか迷っているのだろう。

「うーん……遺失世界の遺産って言っても分からないわね」

 ロストロギアについて簡単に説明するために、リンディさんは次元世界には多くの世界があること。その世界の中には、間違った方向で技術や科学が進化してしまった世界があることを説明した。

「進化しすぎてしまった技術らで自らの世界を滅ぼしてしまって、あとに取り残された危険な遺産」
「それらを総称してロストロギアと呼ぶ」
「そう、私達管理局や保護組織が正しく管理していなければならない品物。それがあなた達が探しているジュエルシード」

 リンディさんは一度お茶を飲み、その後ジュエルシードについて詳しい説明をし始めた。彼女は近くにあった角砂糖をお茶の中に入れる。
 俺は事前にリンディさんが甘党だと知っていたためどうにか我慢できたが、高町は声を上げてしまった。高町の反応は地球――日本に住んでる者としては当然の反応だろう。俺も面識がなかったなら、彼女のように声を上げていたはずだ。

「君とあの子がぶつかったときに生じた振動と爆発。あれが次元震だよ」
「あっ……」
「たったひとつのジュエルシードでもあれだけの威力があるんだ」

 何もなかった空間にジュエルシードが映ったモニターが出現する。それは執務官の説明に合わせて変化していく。

「複数個で発動した際の影響は計り知れない」
「大規模な次元震やその上の災害《次元断層》が起きれば、世界のひとつやふたつ簡単に消滅してしまうわ。そんな事態は防がなきゃ」

 そこまで言うとリンディさんは、砂糖だけでなくミルクも加えたお茶を飲んだ。甘いものは平気だが、あのお茶の味を想像すると吐き気を覚えてしまう。
 一息ついたリンディさんは、笑みを浮かべながら俺達に告げる。

「だから、これよりジュエルシードの回収は私達が担当します」
「え……」
「…………」

 リンディさんの言葉に、高町は声を上げ、ユーノという少年は膝の上に置いていた拳をより強く握り締めた。子供ながらに責任感や正義感を感じているのだろう。

「君達は今回のことを忘れて、それぞれの世界に帰るといい」

 執務官の言葉を聞いたとき、俺の胸の中にある疑問が巻き起こった。 
 なぜリンディさんは、高町にロストロギアのことやジュエルシードの危険性を簡潔にではあるが話したんだ。自分達が回収を引き継ぎ、これ以上関わらせないようにするなら話す必要はなかったはずだ。これから導き出される答えは……

「でも……!」
「まあ急に言われても気持ちの整理はつかないでしょう。今夜一晩ふたりで話し合って、それから改めてお話をしましょ」

 そう言ってリンディさんはにこりと笑った。
 おそらくリンディさん達は、高町達を協力者として迎え入れたいと考えているはず。自分達から協力してほしいと言わないのは、対等な関係ではなく指揮下に置きたいからだろう。
 高町のような高い潜在能力を持つ魔導師は、魔法文化のある世界でも極めて稀な存在。存在する世界に対して、管理局員の数は全然足りていないという話も聞いたことがある。俺の出した答えは、ほぼ間違いないだろう。
 自分達だけでも解決できるのだろうが、今後のために優秀な魔導師のスカウトも忘れない。叔母が言っていたように、リンディさんは仕事ができる女性のようだ。
 などと考えてしまったものの、ただの考えすぎかもしれない。いくら高い能力を持っていようと、リンディさん達からすれば素人なのだから。

「……あの」
「何かしら?」
「今ふたりって言いましたよね? その、夜月くんは?」
「ふたりって言葉に、別に深い意味はないのよ。ショウくんはあなた達と別行動だったでしょ?」

 微笑みながら言われた言葉に、高町は納得したような顔を浮かべる。もちろん今のも理由だろうが、他にも理由があるだろう。
 俺には家族に管理局に関わっている人間がいる。それに人型フレームを採用したデバイス《ファラ》を所持している。これ以上首を突っ込まないように厳しく注意されるか、保護されることになるだろう。

「さて、時間も時間だからあなた達はもう帰りなさい。あ、ショウくんは残ってね。もうちょっとお話があるから」
「え……」
「大丈夫だよ高町。リンディさんは多分個人的な話をするだけだろうから。俺の父さんと知り合いだったって、さっきも言ってただろ?」
「あ……うん」

 それからすぐに高町達は家へと帰って行った。帰されたという表現の方が正しいかもしれないが。
 先ほどまでの様子を見る限り、おそらく彼女達の答えは決まっている。時間を置いても無駄だろう。リンディさん達がどういう答えを出すかは分からないが……他人の事よりもまずは自分のことか。

「さて……何から話したらいいかしら」
「何からでも構いませんよ。リンディさんがしたい話でも、俺の今後の話でも……。時間はたっぷりありますから」
「君は何を言っているんだ。あまり遅くなると親御さんが心配するだろう」
「リンディさんから聞いてないんですか?」

 俺の問いに執務官は小首を傾げた。冷静に考えてみれば、俺のことを知らなかった時点で聞いていないに決まっている。
 あまり他人に話したいことではないが、彼は執務官になっているほど優秀な人間なのだから、疑問を持たれたらすぐにでも真実に辿り着かれることだろう。素直に話しておいたほうが、高町達に知られないように協力してくれるかもしれない。

「……俺にはもういませんよ。大分前に亡くなりましたから」
「そうだったのか……すまない」
「いえ、構いませんよ。俺にはファラもいますし、今は叔母が親代わりになってくれてますから……今は仕事で地球にはいないんですけど」
「……その人が何をしているのかは分からないけど、家に帰ってくるように言ったほうがいいと思うよ。君のほうで連絡が取れないようなら、こちら側で手回しして連絡してもいい」
「ありがとうございます。じゃあ家には帰ってこなくてもいいけど、今後はこっちからの留守電とかは聞くようにって言っておいてください。そうしたら俺が首を突っ込まなくてもよかったかもしれないので」
「…………艦長」
「うん、言いたいことは分かるわ。でもね、彼女ってほとんど家事ができないのよ。技術者としては優秀なんだけど……優秀過ぎるから今回のような問題も起きているわけだけど」


 
 

 
後書き
 ジュエルシードの回収は管理局が行うことになった。今回のことは忘れて自分の世界に帰れと言われたなのは達だったが、それぞれの思いを胸に自分達も協力したいと申し出る。ショウは特殊なデバイスを所持していることもあって保護されることになった。
 ショウ達がアースラに移って10日目。管理局に見つからないように密かに行動していたフェイトが動きを見せる。

 次回、第7話「協力と襲撃」

 
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