魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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第5話 「管理局、到着」
高町がフェイト相手に奮闘した日。帰ったあとでファラから聞かされたが、ジュエルシードからはこれまでよりも遥かに膨大な力が発生していたらしい。おそらく魔法文化のある世界で次元震と呼ばれる事象だろう。
小規模であれだけの力が生じるとなると、高町とフェイトのデバイスの破損や聞いたことしかないロストロギアや次元震によって世界が崩壊するという話にも頷ける。
「……さて、これからどうなることやら」
教室の窓から空を見上げながらポツリと呟く。先生は月の満ち欠けについて話し、クラスメイトたちは真面目に授業を聞いている。魔法に関わっていない普通の子供だったならば、俺も平和でのんびりとした日々を送れたのかもしれない。
まあ平和だとしても、ふとしたことがきっかけでケンカをしたりするわけだが……。バニングス、自分から高町と距離を置こうとしていたのに、授業中に何度も様子を窺うあたり本当は仲直りしたいんだろうな。
「……ぁ」
バニングスの視線に気が付いたのか、高町が彼女の方に顔を向けた。バニングスは視線をさ迷わせたあと、素っ気無く顔を背けた。どうやら素直に仲直りするつもりはないらしい。
そんなバニングスに対して高町は、彼女らしい反応だとでも思ったのか笑顔を浮かべた。ふたりを心配そうに見ていた月村は、高町に何かあったのかなといったような目で見ている。
まだ時間はかかるようだけど、改善に向かっているならいいことだな。
仲の良い3人と認識されてるため、気にしているクラスメイトも多い。クラスに気まずい空気があるのは誰だって嫌なものだ。できるだけ早く改善されることを祈ろう。
「ぁ……」
ふと高町と目があった。視線で前を向いたほうがいいと返すと、彼女は慌てて前を向いた。
介入したことで俺が魔導師だと疑われ始めると思ったが、デバイスが破損しているために魔力反応を調べたりしていないのか、これといって変化は見られない。とはいえ、そろそろ高町のデバイスも修理が完了してもおかしくない。これまで以上に隠蔽に勤めなければすぐにバレるだろう。
傍観者に徹するつもりだったんだけどな……
だが次元震が起き、あのふたりのデバイスが破損していた状況じゃ仕方がないか。高町ではなく、フェイトという少女を助ける形で介入するとは予想外だったが……結果的には高町も助けたようなものか。俺が介入しなければどうなっていたか分からない。
そう考えれば、どうにか自分の気持ちに折り合いをつけることができる。
……本格的に介入するとしたら俺はどっちの味方をするのだろうか?
普通に考えれば、安全のために封印していると予想される高町側に付くべきだ。叔母の立場も考えれば、確実にそのほうがいい。フェイト側には何かしらの目的があるのは目に見えているのだから。
だが……あの子は何のためにあそこまで必死になるのか気になる。
これまで見てきた限り、あの子には必要以上の戦闘をするつもりはないように思える。俺に手出しをしてこないことが何よりも理由になるはずだ。
あの子は優しい心の持ち主だと予想できる。なのに……他人を傷つけてでも成し遂げようとする意志がある。彼女の瞳に宿った寂しさが関係しているように思えるが……
「……何を考えてるんだ」
自分から他人に踏み込もうなんてどうかしている。人には人の事情があるんだ。彼女が何を思い、何のために行動するかなんて俺には関係ないはずだ。俺の目的はあくまで街に被害を出さない、出すにしても最低限にすることなんだから。
★
夕方。ジュエルシードの気配を感じていた俺は、高町のあとを追うように海辺にあるコンテナが山のように積まれた場所に向かった。これまでと同様にバリアジャケットを身に纏った状態で離れた場所から様子を窺う。
高町と同じタイミングでフェイトも到着したようで、ふたりはジュエルシードからお互いへと視線を移したようだ。フェイトがデバイスを出現させると、高町も同様にデバイスを出現させる。
「あの……フェイトちゃん?」
高町が顔色を窺うように名前を呼んだ。するとフェイトの表情が変わった――が、それも一瞬ですぐに戻る。
「……フェイト・テスタロッサ」
これまでと同様の展開になるかと思ったが、意外にもフェイトは高町に名乗り返した。高町は嬉しかったのか微笑みを浮かべ、再度話しかける。
「うん……私はフェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど」
「ジュエルシードは……譲れないから」
高町に返事を返すのと同時に、フェイト――テスタロッサの服装がバリアジャケットに変わった。
「私も譲れない」
高町もバリアジャケットを身に纏い、デバイスを構えた。
「理由を聞きたいから。何でフェイトちゃんがジュエルシードを集めているのか……何でそんなに寂しそうな目をしているのか」
「……!?」
高町の最後の言葉に驚きに何かが混ざった表情を浮かべるテスタロッサ。だが生じた感情を振り払うかのように、高町に敵意のある目を向けた。
「私が勝ったら……お話聞かせてくれる?」
高町の問いにテスタロッサは答えなかった。フェレット姿の少年やテスタロッサの使い魔も黙って様子を窺っている。
白と黒の魔導師はほぼ同時に走り出して距離を詰め、それぞれデバイスを振った――
「「……!」」
――いや、振ろうとした瞬間に水色の光がふたりの間に落ちた。光の収束と共に現れたのは黒衣の少年だった。
「そこまでだ」
少年が言葉を発したのと同時に、高町とテスタロッサの手足にはバインドがかけられた。高町はまだしも、テスタロッサに悟られずにバインドをかける速度からして熟練した魔導師だと分かる。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」
やっと管理局が来たと安堵にも似た感情を抱いたが、結局今日まで叔母から連絡は返ってこなかった。叔母経由で情報が伝わったというより、先日の次元震が起きたから様子を見に来た。そういう流れのほうが納得できる。
叔母が大変なのは分かるが……もう少し私生活に時間を割いて欲しい。
おそらく高町と顔を会わせることになるだろうと内心で諦める一方で、そんな風に思わずにはいられなかった。
「詳しく事情を聞かせてもらおうか?」
黒衣の少年は高町とテスタロッサの顔を交互に見ながら言った。その矢先、彼に向けてオレンジ色の魔力弾が飛んで行った。それを察した少年は、防御魔法を展開して防いだ。
「フェイト、撤退するよ」
魔力弾を放ったのはテスタロッサの使い魔だった。
少年はデバイスを使い魔へと向けて魔力弾の生成にかかったが、後方に高町がいることに気が付き、即座に広範囲の防御魔法に切り替えたようだ。防御魔法が展開されると、すぐさま魔力弾が雨のように降り注いだ。
バインドが解けたようで、テスタロッサが土煙の中から現れる。どうやらジュエルシードの方へ向かっているようだ。その行動は使い魔にとっても予想外だったのか、魔力弾を撃つのをやめた。
その機を少年が見逃すはずもなく、ジュエルシードへと向かうテスタロッサに3発の魔力弾が放たれた。魔力弾はテスタロッサに直撃し、彼女を吹き飛ばす。
「フェイト!」
使い魔は血相を変えてテスタロッサの元へと駆け寄り、彼女を抱きかかえた。
土煙が完全に晴れてデバイスをテスタロッサたちに向けた少年とバインドされたままの高町の姿が現れる。少年は表情を変えることなく、魔力弾を生成し始めた。使い魔は自分が壁になろうと、テスタロッサを力強く抱き締める。
「だめぇッ!」
「ぁ……」
「撃っちゃダメ!」
少年は高町の声に気を取られた。その隙に使い魔はテスタロッサを抱きかかえて上空へと跳び上がり、転移して消えた。
『クロノ執務官、お疲れ様』
「すみません艦長、片方逃がしました」
『うん、大丈夫よ。詳しい話を聞きたいわ。その子達と彼をアースラまでご案内して』
「了解」
「……彼?」
どうやらテスタロッサのあとを追うことよりも、高町達から事情を聞くことを優先するようだ。その前に俺にも同行しろと指示があるだろうが。
〔君も一緒に来てもらうよ〕
〔分かっていますよ。そちらに行けばいいですか?〕
〔ああ、そうしてくれると手間が省ける〕
俺は深いため息を一度した後、少年達のいる場所へと飛んで行った。
「…………」
「え……」
少年のほうは「それじゃ行こうか」といった表情をするだけだった。だが高町はというと、予想していたとおり完全に困惑している顔だ。
「夜月……くん?」
後書き
管理局の到着がきっかけで、ショウとなのははクラスメイトとしてではなく魔導師として接触した。なのはは急なことで理解できず、戸惑ってしまう。そのためでショウに詳しいことを聞けないまま、クロノの案内で彼女達はアースラへと向かった。
アースラでショウ達を待っていたのは、艦長のリンディ・ハラオウン。彼女はショウの家庭事情を知る数少ない人物でもあった。
次回、第6話「リンディとの再会」
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