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金木犀

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第六章

 暑さは変わらない、野菊は今もやれやれといった顔で家事をするのだった。
 夏休みが終わって九月になってもまだ暑い、娘達は学校がはじまったが。
 それでこれまで以上にうんざりとした顔でだ、野菊は家に帰って来た健一にこう言うのだった。
「今秋よね」
「九月だからな」
「スーパーに行ったらもう季節ものが出てるけれど」
「それでもか」
「全然涼しくならないわよ」
 暑いままだというのだ。
「これってどういうことなのかしら」
「それはな」
「仕方ないっていうのね」
「あと少しだろ、暑いのも」
 これが健一の言葉だった。
「そのうち台風でも来てな」
「涼しくなるっていうのね」
「一気にな、それまではな」
「我慢なのね」
「ああ、それしかないだろ」
「早く涼しくなって欲しいわ」
 しみじみとして言う野菊だった、よく冷やした麦茶を飲みながら。
「さもないと死ぬわ」
「御前本当に暑さに弱いな」
「今年は特別よ」 
 あまりにも暑いからだというのだ。
「まだ三十七度あるのよ」
「三十七度か」
「日差しも凄いから」
「確かに秋の気温じゃないけれどな」
「だからよ、どうにかなりそうよ」
 暑さでへばりそうだというのだ。
「困るわ」
「まあ本当にな」
「あと少しっていうのね」
「頑張ろうな」
「その言葉信じていいのね」
「こんなことで嘘言っても何にもならないだろ」
 気温のことでだというのだ、嘘を言って暑くなる訳でもなければ涼しくなる訳でもないからだ。
「そうだろ」
「それもそうね」
「台風か大雨になればな」
 それでだというのだ。
「一気に変わるからな」
「それじゃあね」
「待っていろよ」
「ええ」
 野菊はへばりきった顔で夫の言葉に頷く、そして涼しくなるのを待った。まだまだ暑かったが敬老の日になりそして彼岸が近くなり。
 ここでだ、遂にだった。
 大雨が来た、それも一日だけでなく。
 三日間降った、ゲリラ豪雨級の大雨が三日も降ったのだ。娘達は学校からびしょ濡れで帰って来て言うのだった。
「凄過ぎるわね」
「もう靴下もスカートもびしょ濡れよ」
「スコールみたいじゃない」
「何よこれ」
「早く服を着替えて拭きなさい」
 野菊はその娘達にこう告げる。
「いいわね」
「風邪ひくからよね」
「それでよね」
「そう、すぐにね」
 そうしろというのだ。
「いいわね」
「そうね、じゃあね」
「すぐにね」
「身体冷えてたらお風呂に入りなさい」
 娘達にこのことを言うことも忘れない。 
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