IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―
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Development
第三十七話 真名
ずっと待ち望んでいた戦い。
一対一では叶わなかったが、そのことを補ってあまりあるほどにこの戦いは充実していた。
僅か数分の攻防、それで十分だった。
その間に楯無は紫苑の、そして妹である簪の実力をその身に感じることができた。
それどころか、二人の連携はタッグを組んで一週間程度とは思えないほどのものであり、その事実は楯無に若干の動揺を与える。
簪と紫苑の関係が改善されつつあることは、紫苑から聞かされて知ってはいた。とはいえ以前の険悪な関係も知っているので、それが僅かな時間でここまで息の合った連携を取るに至っていることに、彼女は嫉妬のようなものすら感じてしまった。
それは、未だ自身がうまく向かい合うことが出来ない妹とあっさり仲良くなった紫苑に対してなのか、それとも……。
しかし今の楯無には、そんな自身の未知の感情の考察をしている余裕はない。
以前にも増して動きの鋭くなった紫苑の猛攻に加え、嫌らしいタイミングで簪の援護が入る。楯無のパートナーであるシャルも簪による射撃で身動きが取れずにいる。
ひたすら猛攻に耐え続け、ようやく楯無と紫苑との距離が離れたと思った一瞬。
再び刀身を伸ばした剣による一閃、それ自体はなんとかガードするもそれすら布石。楯無は振り返ることなく、そのままシャルが紫苑の一撃をその身に受けたことを察する。
しかし、この一瞬こそがチャンスだと見極め一気に紫苑へと肉薄する……も、それは彼女に想定外の一撃をもたらした。紫苑を壁とした死角からの射撃、一切の予備動作なく行われたそれは一歩間違えば彼自身に当たっていた。だからこそ、事も無げにそれをやってのけた二人に対して楯無の感情は強まる。
そして、覚悟を決めた。もとより無傷で勝てるなどとは彼女も思っていないが、そのリスクをさらに高める。自身を巻き込んでのクリア・パッション……そして、まもなく動き出せるであろうシャルへの連携。楯無のダメージも小さくはないが、それは確かに成功してシャルのパイルバンカーが直撃、紫苑に対して致命的なダメージを与えることができた……はずだった。
『ぐ……』
『西園寺さん!』
しかし、直後に聞こえる紫苑の呻き声と簪の叫び声。
同時に感じる原因不明の震え。
(この感覚、さっきの試合でも一瞬感じた……なんなのこれは!? まさか……ミステリアス・レイディが、震えてる……?)
ラウラが暴走した瞬間、異変を感じた者は対峙している人間だけではなかった。
紫苑がラウラを感じた共鳴を、専用機を持つ者たちは多かれ少なかれ感じていた。
だが、いま彼女らが感じているそれは先ほどの比ではない。もっとおぞましい何かだった。共鳴、などという生易しいものではなく、文字通りそのコアは震えていた。まるでそれらに意志があり、何かに恐怖するかのように……。
考えたくはなかったが、紫苑とラウラの試合の際にも何事か起こっていたことは楯無も理解している。それ故に、これから起こるであろう戦いも壮絶なものになるかもしれない、と意識を集中する。例えこの戦いが彼女の望まぬ形になってしまったとしても……。
だが、その覚悟もあっさりと意味を成さなくなった。
先ほどまであたりを覆っていた圧迫感、そしてコアから感じていた震えが急になくなったのだ。
そして今までの攻防で会場内に充満していた砂煙が晴れていく中、先ほどの圧力の震源地とも言える場所にいたのは、ただ力なく倒れている紫苑の姿だった。
『紫音ちゃん!』
『……!? 私たちは棄権します』
その姿を見るや、楯無らは紫苑の元へと駆け寄る。同時に、簪はこれ以上試合を続けられる状況では無いと悟り自分らの敗北を宣言、試合はこの時点で終了した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん……ここは?」
紫苑は、いまだハッキリしない意識のまま周囲をぼんやりと見渡した。
そこが不本意ながらも、もはや見慣れた感のある保健室だということに気づき自身が先ほどまで試合をしていたことを思い出す。
「そうだ、試合は!?」
そして寝かされていたベッドから飛びだそうとして、ふとその動きを阻害するように体に重みのようなものを感じることに気づく。
「ん……って、えぇ! 楯無さん!?」
彼が見たのは、横に置かれた椅子に座ったままベッドに体を預けて眠っている楯無の姿だった。
「やれやれ、その女の次はお前か……静かに寝かせて欲しいのだが」
突然聞こえてきた声に、再び紫苑は驚く。それもそのはずだ、先ほど楯無を見たときに彼があげた声はほとんど素のものだったから。
「ボ、ボーデヴィッヒさん? 何故ここに?」
そして、声の主が隣のベッドで寝ていたラウラだったから。
内容はともかくとして、彼女がこうして声をかけてくること自体が今まではあり得ないことだった。
「先にここに運ばれたのは私なんだがな……お前が運び込まれてから騒がしくなって静かに眠ることすらできん。その女はお前を看病していたようだぞ、ギャーギャー取り乱して五月蠅いことこの上なかったがな」
「え……?」
ラウラはムスっとしながらも、紫苑に状況を説明した。
その行為を意外そうに思いながらも彼は静かにラウラの話を聞く。
「その女と、似たような顔の……お前とペアを組んでいる更識簪とかいったか? そいつが次の試合がどうのと言い争って渋々その女は出て行ったが……ものの五分もしないうちに戻ってきて今度は強制的に更識簪のほうを追い出し、その後はずっと看病していたようだな」
その言葉に紫苑はいろいろ驚いた。
楯無が看病していたということもそうだが、何故か簪と言い争っていたことや試合に出て行ったはずなのに五分程度で戻ってきたことだ。つまりその短時間で試合を決した、ということだ。移動時間を考慮すれば文字通り瞬殺だったに違いない。
「ふん、ずいぶん人気があるんだな……お前が魔女などあり得ん、か」
「あ……その、本来なら私ではないと断言したいところなのですが、半年ほど記憶のない時期があるんです。だから……あなたが言っていたように、あなたの目で見極めてください」
ラウラの呟きの意味を悟った紫苑は、彼女に対して顔を向ける。
「……お前には迷惑をかけた。だが、次は負けん。あんな巫山戯た力に頼らずとも、な!」
ばつの悪そうな顔をしながら、ラウラはベッドから起き上がる。
そのまま照れ隠しのように語尾を荒げながら部屋から出て行ってしまった。
「はぁ……一方的に敵視されていた頃に比べれば改善した、かな」
とはいえ、箒の時といいセシリアの時といい簪の時といい何故最近の自分はこうも敵意をもって見られてしまうのか、ふと考えてしまってため息が漏れる。
「ん……?」
そんな折、漏れ出た声とその声の主……楯無がモゾモゾと動き出す。
紫苑がそちらに目をやると、やがて楯無が顔をあげ自然と二人は見つめ合う形となった。
だが、寝ぼけているのか動く素振りもなくそのまましばらく固まってしまう。
「……!? し、しお……紫音ちゃん!」
「は、はい!?」
突如、動き出す楯無。
彼女にしては珍しく、いくら二人きりとはいえそれが確認できないうちに紫苑の名前を出しそうになる。それだけ彼女が動揺していたということか。その鬼気迫る彼女に気後れしたのか、思わず紫苑はそのまま畏まった返事をしてしまう。
そんな紫苑の状況を知ってか知らずか、楯無はそのまま自分の顔を近づけながらペタペタと彼の顔を手で触り回す。
「大丈夫なの? 熱はない? ちゃんと試合のこと覚えてる?」
「は、はい。大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないでしょ! 私……達がどれだけ心配したと思っているの!?」
あまりの剣幕にたじろぐ紫苑。
もともとどんな時でも冷静沈着であり飄々としている彼女が、なぜ今こんなに取り乱しているのか紫苑には分からなかった。試合中に気絶するというのは以前もあったことであるし、いちいちその程度で毎回動揺していては体がもたない、と紫苑は自然と考えてしまった。
「そんな、大げさな……」
だからこそ、思ったことをそのまま呟いてしまう。
「……大げさ? あなた以前もそうやって倒れたわよね。それを繰り返してどうなったのかしら?」
「そ、それは……でも病気は完治したから大丈夫……ですよ?」
「大丈夫大丈夫って言って、あなたは半年もいなくなったんでしょ! 前科があるのになんで大丈夫って信じられるのよ……」
前科って、自分は犯罪者かなにかか……と思わず言いそうになったが彼女の真剣な目を見てそんな言葉は飲み込んだ。その目が、うっすらと涙ぐんでいたから。
「ごめんなさい……」
「あなた、ラウラちゃんの時にも無茶していたんでしょ。今回倒れたのはそれが原因?」
楯無は、公にはなっていないがラウラ戦の際に何事かがあったことは察している。それは既に終息し、大会中ということもあり詳細は終わってからと考えていたが、まさかそれが原因で自分の試合まで邪魔をされるとは思いもしなかった。
「それは……」
「あ、ちょっと待ってね……」
口を開いた紫苑を制止し、楯無は立ち上がり戸締まりを確認する。同時にミステリアス・レイディを部分展開してナノマシンを散布した。
「……これでよし。とりあえずこの部屋は安全よ」
彼女が散布したナノマシンは、周囲の機械類に干渉しカメラ類や録音器具などの類の妨害をする。
そんなことまで出来るのか、と感心半分呆れ半分で紫苑はここまでの経緯を話し始めた。
そもそも以前の自分がなぜ倒れるに至ったか、いかにしてあの爆発事故で生き残ったのか。
そこには話すことが躊躇われるものも含まれる。ゼロス・シフトによる暴走のこと、月読のこと、天照のこと、何故自分がISを動かすことができるのか、そして……遺伝子操作について。
最初は話すかどうか迷ったが、楯無の姿を見て紫苑は決心を固めた。
もちろん、束のことについて話せない部分もあるのだが自分が話せることは全て伝えることにしたのだ。
その話は楯無にとって驚くべきものであり、彼女のISに対する認識が大きく揺らぐものだった。
コアの暴走、いくら自分のものにはプロテクトがかけられているとはいえ、たった今話に聞いたラウラや紫苑のような暴走が起こりうるということ。そしてまるで意志があるかのような共鳴……。
楯無にとって紫苑の遺伝子操作については、確かに衝撃的な内容ではあるがそれだけだ。特に気にすることではないと彼女は思っている。何故なら、紫苑が男であるという事実のほうが周囲の人間にとってはよっぽど衝撃的な内容だろう。それに比べたらきっと遺伝子操作程度、たいしたことではないのだ。
「……いままで黙っていてごめん」
どうしても自分の出生や束の目的に関わってくる部分もあるため、話すのが憚られた。しかし、これ以上彼女に隠し事を続けるのは気が引ける。
なにしろ、彼女がライバルとして見てくれている自分は遺伝子操作によるもの、つまりは人為的なものであって言ってみれば反則のようなものだ、と彼は認識している。
「コアの暴走に関しては驚いたけれど、あなたの出生云々に関しては気にすることじゃないわ」
「……でも楯無さん!」
「もともとこの世界は公平なんかじゃないのよ。生まれに才能、周りの環境、不公平ばっかりよ。でも、あなたはここにくるまでずっと辛い思いをしてきた……だったら少しくらいの反則技、見返りとして貰っておきなさい」
だからこそ、彼女がこうもあっさりと受け入れてくれたことが意外で……嬉しかった。
思えば、彼女は自分が男だとわかっても忌避することなく接してくれた。本来であれば女と偽って学園に通う男など、そこに通う生徒にとってみれば忌み嫌うべきものである。にも関わらず、彼女は紫苑という存在を真っ直ぐ見て、その存在を受け入れた。
「楯無……さん」
「刀奈よ」
「え?」
「……私の本当の名前。楯無は代々襲名する当主の名前なの。だから、更識刀奈が私の本当の名前……もう使うことがないんだけれどね、でもあなたに知っておいて欲しかった」
その名を紫苑に伝える、それがどういう意味なのか彼は必死に思考をフル回転させる。
「ふふ、どうしてって顔してるわね。いい? これは鎖よ。この名前はもう使うことは許されない。でも、あなたはそれを知ってしまった……だから、簡単にいなくなったり……死んだりすることは許さないわよ?」
更識楯無、という当主の仮面を被っている彼女にとって、その真名を託すということは仮面の内側をさらけ出す行為である。
ただ本名を告げるだけ、などという簡単なことではなく、更識家当主にとって楯無の名は、私を捨て一族全てを背負う覚悟の象徴。彼女の行為はその覚悟に背く行為であり……楯無ではなく刀奈としてどうしても伝えたいことであった。
その重大さは紫苑も楯無も理解している。
だから、楯無は鎖と言ったのだ。
鎖は呪いと言い換えてもいい。重大さを理解しているからこそ、紫苑の中で占める楯無の割合が大きく変化するだろう。もちろん、今回のことがなくても彼は楯無に対して真摯に接するつもりでいる。しかし楯無の行為はそれを誓わせること。それはまるで……。
「……なんだか告白みたいだね」
そう、プロポーズそのものである。
本人にその気があったのか……いや、彼の言葉で真っ赤になっている彼女の顔を見るに指摘されて初めて気づいたのだろう。
「え、ち、違うわよ! 違わないかもしれないけど違うの! そりゃ確かに本来なら夫婦になる人間にしか話さないような風習もあるみたいだけど……ってそうじゃなくて!? 私が言いたいのは、私の本当の名前を知った人間なんだからもっと頼りなさいってこと、あと勝手にいなくなったりしないこと、いい!?」
明らかに狼狽しているが、そんな彼女の姿を見て紫苑はそんな呪いも悪くない、と静かに笑った。
「もう……あと、ごめんなさい。名前は教えたけれど呼ぶときは普段通りでお願い、二人きりのときでもね。そうしないと……仮面がはがれてしまいそう」
真っ赤だった顔も落ち着きを取り戻し、それどころか少し寂しそうになりながら呟く。最後の部分はほとんど紫苑には聞き取れなかったが、彼はただ頷いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そこは奇妙な部屋……いや、部屋というよりは物置と言ってもいいほどに様々なものが乱雑に置かれている。よく見ると、それらのほとんどが機械やケーブル類といったものだ。
そこを機械仕掛けのリスが走り回り、気まぐれに落ちている部品を囓りだしてガリガリと音を立てている。
その異様な光景、耳障りな音を気にすることも無く一人ディスプレイに向かって端末操作をする女性が一人……言うまでもなく篠ノ之束である。
そう、ここは束のラボである。
「ん~、ひまヒマ暇だぁ」
先ほどまで行っていた作業は、単なる暇つぶしだったのかある程度で中断して自分が座っているこれまた奇妙な形の椅子をグルグルと回転させて独りごちる。
と、そんなときに彼女の携帯電話が鳴る。
「お、もしやもしや?」
すぐさまその音の発信源に向かってダイブして電話に出る。
「やぁやぁ、久しぶりだね。ずっと待っていたんだよ~」
この電話が使われたことは今までに一度もない。
何故なら、この電話はたった一人との連絡用に作られたもの。千冬や紫苑ですらこの番号を知らない……もっとも彼らにも専用の電話回線があったりするのだが、現在とある理由で連絡を絶っているため使われることはない。
そして、そのたった一人とは……。
『……ね、姉さん』
篠ノ之箒だった。
「言わずとも用件はわかってるよ、欲しいんだよね? 箒ちゃんだけの力が……専用機が!」
『……あぁ、私は自分だけの力が欲しい。もう見ているだけは嫌なんだ。だから……姉さん!』
「むふふ、私が箒ちゃんのこと理解していない訳ないじゃないか。もう用意してあるよ……その名も、『紅椿』!」
『あか……つばき』
束が高らかと宣言した、新たな専用機の名をなぞるように箒が呟く。
今回のトーナメント、専用機持ちだけが別枠となった。
それは学園としては当然の措置であっても、箒にとってはあまりにも残酷な出来事だった。もし一般部門で優勝できていれば気が紛れたかもしれないが、結果は敗退。
一夏の周りには自然と専用機持ちが集まり、転校生までもが専用機を所持している。
圧倒的な疎外感、無力感。入学してから感じていたそれらが、どうしようもなく強まっていた。
だからこそ、彼女は頼った。唯一、自分の悩みを……それもあっさりと解決してくれる存在に。
「もう少ししたら直接持って行くから、期待して待っててね!」
『あ、あの……ありがとう』
「……箒ちゃん!? まさか……あの箒ちゃんがお礼を言うなんて、やっぱり箒ちゃんは束さんのこと大大大好きなんだね!」
久しく聞いていなかった、箒のお礼の言葉に感極まっている束だが、彼女が言葉の半分も言い終わらないうちに既に電話は切られていた。
それに気づいているのかいないのか、しばらく束は違う世界から戻ってくることはなかった。
そんな束を現実に引き戻したのは、先ほどとは違う着信音……違う携帯電話だった。
「まったく、人がいい気分に浸っているというのに」
明らかに不機嫌になった束。
もともと彼女に連絡を取る手段は限られている、故に誰からの連絡かなどは自ずとわかってしまう。
「何の用だい?」
『おや、いきなりご挨拶ですね』
聞こえてくるのは男性……それも壮年といっていいほどの、しかし貫禄のある声だった。
「人がせっかくいい気分だったのに邪魔されたんだから、電話に出てあげただけでも感謝するべきだと束さんは思うんだけどな?」
『それはそれは、感謝しなければいけませんね、失礼しました』
先ほどまでの箒との会話とは比べるまでもなく不機嫌そうに話す……いや、彼女にとって有象無象との会話は須くこのような感じではあるのだが。しかし、電話の相手はそんな彼女の相手に慣れているのか特に気分を害した様子もなく受け流す。
「それで?」
『えぇ、実はですね、VTシステムについてお尋ねしたいのですよ』
「ふ~ん……それはシステムの内容について? それとも……開発元の研究所が消えたことについて?」
軽いやり取りには似つかわしくない単語が出るも、どちらも気にせず会話を続ける。
『えぇ、その消えたことについてだったのですが、やはりあなたでしたか』
「そりゃ、あんな不完全なものをこの完全無欠の束さんが許すわけないじゃないか」
『はっはっはっ、それもそうでしたな』
端から見れば友人同士のようなやり取り、だがその会話の内容はやはり物騒なものだ。
「君たちも、余計な真似をしたら消えてもらうよ?」
『おや、それは怖いですな。肝に銘じておきましょう』
「用件はそれだけ?」
『えぇ、そうですね。あぁ、最後に……あなたのお気に入りですが、再びゼロに足を踏み入れそうになるも見事に耐えきりましたよ』
「……そう」
『言うまでもなくご存じでしたかな、それとも計算通りといったところですか? おっとこれ以上の詮索は消されてしまいそうなので、名残惜しいですがこれで失礼しますよ』
そう言うと、男はそのまま電話を切ってしまう。
最後まで自分のペースで話し続けた男のせいで、箒との会話で昂揚していた気分が台無しである。
「まったく、面倒くさい奴だよね。ん~、名前なんて言ったかな……ま、いっか」
連絡用、と渡された携帯電話。
そこに一件だけ記された連絡先にはこう記されていた。
轡木 十蔵、と。
後書き
これにて、第二章完です。
次話から第三章なのですが、ストック切れにつき以降は不定期更新になります。
以前は週一ペースだったのですが多忙につき、よくて月二前後になりそうです。
エタることはないように頑張りますので、是非今後ともお付き合いください。
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