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ゲルググSEED DESTINY

作者:BK201
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第八十八話 黒衣の奴婢

「ネオ・ジェネシス、発射まであと200秒」

「狙いを正確に定めろ。味方部隊には射線から離れるように指示しておけ」

メサイアの司令部では今現在、戦況の報告と共にネオ・ジェネシスの発射準備を進めていた。戦略兵器であるネオ・ジェネシスは要塞であるメサイアの最大の矛だ。エネルギーの充填時間は旧式のジェネシスは愚か、連合のレクイエムやコロニーレーザーなどと比べても大幅に短い時間で済む。
その威力も計画の段階では低下させることを想定していたが、コロニーレーザーの技術を転用することによってほぼ以前のジェネシスと変わらない威力を発揮できるものとなっていた。欠点らしい欠点と言えば、射角の調整が要塞に取り付けられていることによって難しいという事と、砲撃自体の大きさがメサイアに依存する為、一回り程小さいこと位である。

「目標、正面十一時の方向、味方艦隊下がります」

メサイア周辺に展開されている陽電子リフレクターが解除され、ネオ・ジェネシス発射の準備が完了する。

「向こうもこちらが撃ってくることは理解している筈だ。艦隊を下がらせた以上、狙う位置も気づかれているだろう。そういった状況下から我々の目的は敵の殲滅ではなく議長含めた主力部隊の強襲援護、陽動だという事を忘れるな」

司令の命令はメサイアのネオ・ジェネシスすらも囮に使うという暴挙とも言える戦略だ。だが、あながちこの戦略は選択肢として間違いでもない。内乱に近い現状は誰が議長側からミネルバの方へと裏切るかも分からない状況だ。実際にシン・アスカやジュール隊の面々は裏切っている。
そんな中でネオ・ジェネシスはその存在は既に一度目の発射と共に露見しており、小回りが利きにくい大型戦略兵器は狙い撃とうとすれば、容易くその狙いも見破られるだろう。ならば使い方を変えた方がより有意義であるはずだ。あくまでもこちらへと注意を向けるための兵器として使う。それに連動して敵の動きを鈍らせたその瞬間に主力部隊による強襲を仕掛けるという策。

「敵もまさかこちらが囮だとは思うまい」

「ネオ・ジェネシス、エネルギー充填完了。いつでも発射可能です」

遂にネオ・ジェネシスの準備が完了し、発射可能となった。しかし、囮であるとはいっても元味方を撃つというのは気が引けるのだろう。司令部は全体的に緊張した様子を見せ、肌に刺さる様な雰囲気を感じる。

「味方部隊は射線軸から下がったか?」

「はい、既に九割以上は退避を完了しています」

「よし、ネオ・ジェネシスを発射せよ!この戦争を少しでも早く終わらせる!」

そして、遂にネオ・ジェネシスが発射される。ガンマ線の高エネルギーが星間ガスやスペースデブリを過熱させ、発光が光の渦のように見える。皮肉にも美しさすら感じるこの砲撃は、一直線に戦線を切り裂くかのごとく貫いた。







時間を遡り、ネオ・ジェネシスが発射される少し前まで戻る。主戦場からは僅かに外れつつも戦場として激しい銃撃戦が繰り返されている場所。そこでは見えない敵による攻撃と、それを迎撃するMSが戦闘を行っていた。

『クソッ!邪魔だ!』

「当然だろ?邪魔をして、落とすのが俺の仕事なんだから」

ミラージュコロイド搭載機による隠密部隊と先行して戦場に来た一部のジュール隊の戦い。ビームが、実弾が、と入り乱れ、その射撃戦は泥沼の様に続いていた。ジュール隊としては一刻も早く味方主力部隊との合流をしたい所なのだが、目の前の相手がそれを許そうとしない。

『チッ、ミラージュコロイドなんて厄介なものを使いやがって!』

『前大戦で何もできなかった私は、またこの戦いでも何もできないというの!』

ディアッカやシホもミラージュコロイドを搭載している敵を前に膠着状況が続き、全く好転しない事に焦りを募らせる。ケンプファーのショットガンは広範囲に弾がばら撒かれるためミラージュコロイドで隠れている敵に対しても有効ではある。だが、逆に言えばミラージュコロイドに対して有効な武装はディアッカのケンプファーにしかないという事だ。その弾薬も数が少ない為、ディアッカはジャイアントバズIIやライフルを使っていた。

「テメエ等もしつけぇな。いい加減落とされろや」

『ふざけるな!この俺がァ、こそこそと隠れて戦う事しか出来ない奴などに、負けるものかァ!!』

薄めの青い専用カラーを施されているイザークのリゲルグがダナのネロブリッツを狙うが、ミラージュコロイドを使い、消えては現れを繰り返すネロブリッツを捕捉することが出来ず、落とすことは愚か、まともに攻撃を命中させることも中々できない。
元々相性の面でも有利不利がはっきりとしてしまっている。純粋に機動力や性能を突き詰めて造られたリゲルグに対してネロブリッツはミラージュコロイドを搭載した特殊な機体だ。さらに言えばPS装甲でないリゲルグはネロブリッツの主兵装である実弾兵装も十分に脅威となる。

「何だかんだ言った所で、やっぱりザフトのエースっていうのは化け物じみてやがるな……」

しかし、相性では圧倒的に有利にも拘らず、未だに落とせないことからイザーク達ジュール隊が非常に優秀であることが分かる。ダナはネロブリッツのランサーダートを放つがイザークはそれを躱してすぐさま撃ってきた方向に向かってビームを放った。
当然、ダナはその場に止まることなどなく、攻撃を躱していく。先程からジュール隊とダナを中心としたミラージュコロイド搭載機の戦いはこれの繰り返しだった。千日手、とまではいかない。数も互いに少しずつではあるが減っている。落としては落とされてを繰り返し、規模がわずかながらに小さくなるものの決定打となる手段がお互いに存在しない。
だが、お互いの状況が変わらずとも外部の状況に変化はいずれ訪れる。彼らの膠着状態を崩したのは第三者による介入だった。

『ようやく見つけたぞ、ダナ・スニップ!』

「随分と遅い到着で、というか生きてやがったのな?」

『何だ、連合機?しかもストライクだと!?』

突然の第三者の介入――――ネオ・ロアノークがストライクEに乗って現れる。バックパックは旧式のエールストライカーだがそちらも改修が施されているのか、機動力は十分なものとなっていた。

「いくら再生機だからって、そんな装備で俺に勝てると本気で思ってるのかよ!」

『勝てるさ、勝たなくちゃならねえ!テメエに裏切られて何人の仲間が死んだと思ってやがる!お前は俺が落とす!そんでもって、あのバカみてえな要塞も落としてやるさ!!』

「――――アンタはもう少し合理的に判断できる奴だって思ってたんだがな。買被りだったかね、元隊長?」

ストライクEがビームサーベルを振り抜く。ダナはトリケロスでその攻撃を防ぐとともに大型アームで逆に捕らえ様とする。だがそこで、横合いからビームが放たれた――――リゲルグに乗るイザークだ。

『貴様ら、俺を無視するな!そこのストライク!!誰だか知らんが、奴を仕留めるというのであれば手を貸せ!』

敵の敵は味方――――とまではいかずとも互いに共通の敵が目の前にいることに変わりはない。イザークとネオは一時的な共闘を組むべきだと判断した。

「ヤロウッ!?」

この状況に焦るのは当然ダナだ。目の前で先程から戦っていたイザークの実力は勿論の事、この前の戦いからも生き残ってきたネオが弱いはずもない。二対一となれば確実にこちらが落とされることになる。そう考えたダナはいつものように逃げに走る。
戦争だろうが何であろうが最終的には逃げてでも生きていた方の勝ちだ。ダナはそのあたりの線引きをハッキリさせている分、逃げることも、仲間を見捨てる事にも躊躇いが無い。

『逃がすかよ!』

「相手してられっか!」

ストライクEが両腰についているビームライフルショーティーを取り出し、ばら撒く様に放った。ミラージュコロイドで隠れても広く弾幕を張るように撃てば命中するかもしれない。当たらなくとも牽制程度にはなるはずだ。イザークは逆に撃つのを止めて敵を探す。
即興で合わせた所で互いに調子を狂わすだけになるのであれば役割を分担してしまえばいい。索敵して敵を探す。だが、これまで多くの戦場を潜り抜けてきたのはダナとて同じだ。ダミーバルーンを発射し、自らに命中するビームは大型アームをクリスタル化させることで反射する。

『クッ!この程度でェ!?』

「精々無駄な足掻きでもしてるんだな!」

『しまった!?クソッ、待ちやがれ!!』

ダミーバルーンとクリスタル化による反射、そしてネロブリッツ自身の武装を同時に放つ事によって、まんまと動きを止められてしまう。そしてミラージュコロイドが展開されて距離を取られてしまえば最早見つける手段は無いに等しい。だが、そうは問屋が卸さない。イザークはダミーバルーンに阻まれつつもクリスタル化によって反射する瞬間を見定めた。
腕部ミサイルランチャーがネロブリッツに向かって放たれる。

「なッ!?やりやがって!」

衝撃で吹き飛ばされたネロブリッツ。それを追撃するイザークとネオ。しかし、次の瞬間、おもわず追撃を止めてしまうほどに衝撃的な出来事が起こった。
一筋の光――――ネオ・ジェネシスが発射されたのだ。主戦場からは離れていた彼らはネオ・ジェネシスに巻き込まれはしなかったものの、愕然としてしまう。ダナはその隙をついて今度こそ逃げに徹することにした。あの隙を狙えば落とせたかもしれないが、落とせるのは一機のみだろう。
であればリスクを考慮して今は離れるべきだと判断したのだ。

「今度こそ逃げさせてもらうぜ」

ミラージュコロイドを展開し、熱による感知を避けるためにアームと慣性を利用して逃げる。そうして距離を取る事に成功したダナはデブリの一つである沈没したナスカ級の艦に取りついてミラージュコロイドを解除すると共に息をついた。

「ったくよ、しつこい奴等だったな。危うく落とされるところだったぜ……このままもう一回攻めるっていうのもありだが、状況から考えてこのままじゃメサイア側の圧勝で終わっちまうんじゃねえだろうな?」

ネオ・ジェネシスが発射された事からそう推測するダナ。このままでは戦争の継続が成されずにあっさりと勝ってしまうのではないか。そうなったら自分が楽しめない。これは一度自軍側も引っ掻き回すべきかなどとそう考える。先程から円盤型の何かが飛散しているがデブリの一つだろうと推測する。

「なら、早速母艦に戻ってメサイアに行くようにすべきか?」

『それはいけない。だって、君は此処で落とされるんだから』

突然、入った通信。そして、その瞬間巻き起こる爆発。爆発の粉塵から咄嗟に逃げるようにして現れたのは、やはりというべきかダナのネロブリッツであった。一見して損傷はそこまで酷くはない。実際に爆発したのは沈没していたナスカ級と近くに舞っていた円盤型の何かであり、ダナ自身はやられていない。
至近での爆発が起こったとはいえ、VPS装甲であった事とその場からすぐさま離れたことで、そこまで酷い被害は受けなかったのだ。

「オイオイオイオイィ……冗談じゃねえぞ!?」

しかし、焦りと驚愕は止まない。心臓の鼓動がやたらと耳に響く。冷や汗を拭おうとするがヘルメットに阻まれてしまった。ヘルメットをかぶっていた事に気づけない程、今のダナは驚いていたのだ。

『惜しいね。今のはよく気が付いたと思うよ、躱されるとは思ってもいなかったし』

ダナの目の前にいる機体は黒いリゲルグだった。ビームライフルの銃口は正面に構えられており、ネロブリッツのコックピットに狙いを定めている。

「ちょっと待ってくれよ!なあ、アンタ議長側のパイロットだろ?俺は味方だぜ?」

『初めましてになるけど知ってるよ、ダナ・スニップ。議長から直々に聞かせてもらってるからね』

誤解が無いか、或いは少しでも打破する手段はないかとダナは必死に考える。

『ま、自己紹介は省かせてもらうよ。悪いんだけど君はもう用済みらしいから死んで欲しいんだ』

「チッ、ふざけんじゃねえぞ……」

苛立ちを募らせながら悪態をつく。一見銃口を向けられていてはどうしようもないように思えるが、ネロブリッツの切り札である大型アームは未だにミラージュコロイドによって隠されている。

『それにしても仕掛けてた機雷に気付くなんて意外と繊細、いや神経質なのかい?』

つまり、デブリだと思っていたあの円盤型の何か機雷だったという事だ。ダナも直前まで気付かなかったが、随分と不自然なものだとは思っていた。その違和感が無ければ今頃お陀仏だったかもしれない。

「俺みたいな臆病者はそういうのに察しが良くねえと生き残れねえからな(今だ!!)」

油断したかのように動きを止めたその瞬間を狙って大型アームで捕らえようとする。見えない武器である以上気付かれないと、そう思ったのだが――――

『残念、それじゃあ俺はやれないよ』

一閃――――ビームライフルを持っていないもう片方の腕に握られていたビームサーベルによって大型アームは二本とも根元から切り裂かれた。咄嗟にトリケロスや六連ランチャーに取り付けられているクローで斬りかかろうとするが、それすらも撃ち抜かれ、そしてそのまま容易く切り裂かれた。

『言っただろ?知ってるって。考えてる事ぐらい予想がつくし、実力だって把握してるさ。それに、ミラージュコロイドは通用しないよ』

ゴールデンギャンと似た方法によってミラージュコロイドによって大型アームが隠れていることは既に見透かされていたのだ。背部の大型アームは愚か、両腕も失い、挙句余計な抵抗はさせないとばかりに頭も貫く。

「ま、待てよ!?俺はこんな所で死にたかねェ!?」

必死に懇願するダナ。生き恥を曝そうが、どんなに意地汚かろうが、最後には自分が楽しめて、勝てるような世界が欲しいのだ。普通は誰だって負けたくない、死にたくない。だが、黒いリゲルグのパイロット――――クラウ・ハーケンにとってはそのような普通の理由は最早理解できない類のものだ。

『知らないよ。来世にでも期待すれば?じゃあまあ、死の価値を見いだせないままに死んでしまいな』

放たれたビームの光、巻き起こるネロブリッツの爆発――――そしてダナはこの世から去った。
 
 

 
後書き
た゛な のたくらみはしっは゜いした!
割と「え?」と思うかもしれませんけどダナの出番はマジでこれで終了です。元々脇役ですし最後に一矢報いるとか、そういうのはありません。
そろそろこのあたりからクラウの存在感が高まってくる、はず! 
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