ゲルググSEED DESTINY
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第八十七話 信念
『撃ち落とせ、ドラグーン!』
レジェンドのドラグーンが一度に大量に襲い掛かり、ミネルバ側のザフトのMS部隊は一気に蹴散らされる。
「レイ、もう止めろ!お前だってわかっている筈だろ!こんな闘争の果てに本当の平和なんてものは存在しないことに!俺達が争っても犠牲が増えるだけなんだぞ!!」
アスランのセイバーがビームライフルを構えてドラグーンを撃ち落とそうとする。だが、ドラグーンの複雑な軌道によってそれらの攻撃は容易く躱されてしまい、逆にビームを撃ちこんできた。
『裏切り者の言葉に耳を貸す気はないですよ。あなた達の無意味な抵抗とも言えるこの行動が戦況を混乱させているというのに!』
「くっ、違う!混乱を生み出しているのは寧ろ議長の方だ!あんな兵器を持ち出して、犠牲者を増やし、今もなお狙いを変えることなく撃とうとしている!それがどれほど人を恐怖させているか、どれだけの人を犠牲にしようとしているのか、お前はわかっているのか!」
ドラグーンのビームをセイバーはシールドで防ぎ、脚部の戦端から展開したビームサーベルで切り裂こうとする。しかし、それを邪魔する様にレジェンドのシールドドラグーンの一基が盾となる。本来シールドとしての役割を果たす為にあるシールドドラグーンは容易くセイバーの攻撃は防いだ。追撃を警戒してセイバーはすぐさま引き下がる。
『我々は個人的な行動で戦っているわけではない!あなたのように兵士の個人的主義による離反を容認すれば軍という組織そのものが成立しない!だからこそ、ここであなた達を撃ち、ギルの示す道を創り上げる!』
現状、戦線はアスランが必死にレイを抑えることで何とか保っていた。しかし、戦線の維持ではじり貧であることを理解しているアスランは、ミネルバのメンバーに先に進むように進言している。つまり、レイの相手をしているのは実質アスラン一人であり、マーレ達他のミネルバクルーはメサイアへと向けて進行しはじめていた。
セイバーはレジェンドに接近しようと画策するが、ドラグーンがそれを許さない。
「だが、だからといって、命令を聞かぬものを撃ち、従わぬものを虐殺して、その上で築き上げる平和など――――」
『ではどうしろと?武力に頼らぬ対話を行おうと言うのですか?あなたとあろうものが何を甘い事を――――武力行為によって今もなお争い続けている相手にどう問うというのですか?あなたのその言い分は所詮、自分に都合のいい言い訳でしかない!』
互いの主張は平行線だ。人という意志や自由といったあらゆるものを切り捨ててでも平和を得ることを望んでいるレイと、人の意思を信じて平和を求めるアスランとでは今ある立場も、価値観も共に違う。
「対話をせず何の抵抗も持たない相手を撃ったのはお前たちだろう――――あの時の追撃にだって最早意味などなかったはずだ!議長は急ぎ過ぎている!無理矢理人を引っ張るかのように自分の政策を推し進めていては、いつか足元を掬われることになるぞ!」
レクイエムで敵の艦隊を焼き払った事を、コロニーレーザーを奪取して使おうとしていたことを、そして今、目の前でメサイアからネオ・ジェネシスを放とうとしていることをアスランは認められない。
『警告ですよ、従わなければ従わせるまでです。逆らえばこうすると言う――――』
「恐怖で本当の平和が築けると思うな!!」
レイの言葉を遮り、アスランは一気にビームサーベルを連結しながら構えて近づく。ドラグーンによる攻撃を最小限レイはビームシールドを展開することでアスランの攻撃を防ぎ、もう一方の腕でビームジャベリンを引きぬいて切り裂こうとした。
「他人がそんなに信じられないか!人が創る明日に平和がないと、本気で思っているのか!」
レジェンドがビームジャベリンを引き抜いた手首をアスランのセイバーは同様にもう一方の腕で抑え込み、組み合うように互いに押し合う。懐に入り込むほど近い距離にいることでアスランは脚部のビームを展開することが出来ず、レイも迂闊に四方からドラグーンで狙う撃つことが出来ない。
『黙れッ!あなたが俺の何を知っているという!何も知らないあなたにッ……そんな事を言う資格なんて有りはしない!!』
しかし、力比べとなればハイパーデュートリオンエンジンであるレジェンドの方が確実に出力が上であり、セイバーとレジェンドの取っ組み合いはレジェンドが明らかに押していた。
『ギルだけが、俺を、俺の運命を理解してくれる!今更裏切ったあなたの言葉など――――一片の価値もありはしない!!』
レイがレジェンドの出力を高め、一気にセイバーの腕を振り払う。そのままビームジャベリンを掲げるように構え、そのまま振り下ろした。
「グッ……!?」
アスランはその攻撃を寸での所でシールドによって防ぐ。だが、吹き飛ばされたことで体勢を崩し、その大きな隙をレイは逃す気は一切ない。ドラグーンがセイバーに狙いを定める。
「そう簡単に死ねるか!」
体勢を崩した状態であったも武器は使える。アスランはセイバーのビームライフルと背面のスーパーフォルティスビーム砲を連射することで少しでもドラグーンを落とそうとする。とはいえ、体勢が整っていないセイバーでは狙いも正確に定めることは出来ず、放たれたビームもいとも簡単に回避されてしまう。
そのまま回避したドラグーンからビームが放たれた。一発目はシールドで防ぐ、二発目、三発目はAMBACを利用してかすめる程度に躱した。しかし、四発目でビームライフルが破壊されてしまう。そして、五発目から一斉に四発ものビームが放たれた。これまでの攻撃は逃げ道を奪い、確実に仕留めるための攻撃だったのだ。
「まだ、終わって堪るかッ!」
アスランは虎の子の切札であるセイバーの両手の甲部に取り付けられたIフィールドを起動させた。ドラグーンから放たれたビームがIフィールドによって霧散させられる。しかし、膨大な量のエネルギーが消費し、セイバーのエネルギーは一気に底を尽きた。
『今度こそ、これで!』
Iフィールドは機能を停止し、VPS装甲もダウンして赤かった装甲が灰色へと変色する。当然、レイは先程と同じように止めを刺そうとする。そうして数基のドラグーンが今度こそと言わんばかりにセイバーに狙いを付けた。アスランも何とかしようと機体を操作するが反撃の手立てが殆どないこの状況下ではどうすることも出来ない。
そして、ドラグーンがアスランの乗っているセイバーのコックピットへと撃ち貫こうとしたその時――――
『レイ!アスラン!』
二対の回転する刃、デスティニーのビームブーメランがアスランを撃とうとしたドラグーンを切り裂いた。
「シン!?」
『お前まで裏切るというのか!シン!!』
現れたのは光の翼が大きく広がって粒子が舞い散る様子を見せるデスティニー。ビームブーメランは弧を描いてデスティニーの元に戻って来る。それを二つとも受け止め、そのままシンは片方のビームブーメランをサーベルとしてブレード部分をより長く展開する。
『レイは俺が抑えます。アスランは一旦ミネルバに戻ってください』
「だが……」
『言い訳なんていらないんですよ!――――今はアレを止めるのが先決だって、あんただってわかってるんだろ!』
途中でいつもの口調に戻るシン。アスランはシンが本気だという事を感じ取り、ミネルバに戻れという言葉に従う事にする。
「わかった――――レイの事は任せたぞ」
『そう簡単に逃がすとでも!』
ドラグーンは元々一対多向けの武装である以上、敵を逃がさないようにすることは他の機体と比べて格段に容易く行える。敵の首級の一機であるアスランを逃す気などレイには当然ありはしない。すぐさまドラグーンがセイバーに襲い掛かろうとする。だが――――
『させるかッ!』
『チッ、シン!お前も、議長の敵となるというのなら!』
収束ビーム砲から放たれたビームがドラグーンを捉える。ビームブーメランもサーベルとして使う事でレジェンドに向かって斬りかかる。
『何故裏切る!何故、人は、お前たちは平和を得るための道のりを否定する!人が生きていく上で、平和を成す為の唯一の策がデスティニープランだと何故理解できない!』
『レイ……』
それは癇癪をおこした子供のような言いぐさだった。レイは嘆くかのように叫び、己の選んだ道を盲目的に信じている。デスティニーの攻撃をビームシールドで防いで、そのまま反撃しようとドラグーンを次々と起動させる。
一つ一つの稼働時間など関係ないとばかりに総てのドラグーンを一度に起動させ、シンのデスティニーを撃ち落とそうとした。
『俺のような存在をもう生み出さないために、人が身の程を弁えることのない飽くなき欲望を消し去るために――――俺は、俺達は戦ってきた!なのに何故、今更になって邪魔をする!お前たち自身がこの世界を望んだはずだろう!つかみ取ろうとしたのだろう!!』
『何で……何でそこまで執着するんだよ!レイ、今の議長に疑念は無いのかよ!人を人として見ない世界、遺伝子で管理された社会、未来も過去もない世界――――議長の創るっていう世界は今しか見つめないそういう世界だ!そうやって決められた運命で、本当に人は救われるのかよ!』
光の翼を利用し、一気に加速したデスティニーはドラグーンによるビームの弾雨を躱しきる。その最中に、サーベルとして展開していたビームブーメランを投げ、両手が自由になったことでアロンダイトを引き抜いた。
『救われるさ――――いや、救われなくてはならない!でなければ、クローンである俺達が生きている意味すらもなくなる!』
『く、クローンだって……!?』
言われた内容に愕然としてしまい、思わず動きを止めるシン。レイはそれに合わせて止まることなどせず、そのまま押し切ろうとして一斉にビームを放つ。ギリギリの所で我に返ったシンはビームシールドを展開することで攻撃を受け止めた。
『そうだ、キラ・ヤマトという夢のたった一人を創るために俺たちは造られ、束縛された時間の中でいつ訪れるかもわからぬ寿命に縛られる――――俺は『俺』を造った奴の夢など知らない。そして、俺達はお前たちのように人並みの幸せを望むことも、人並みの暮らしを味わうこともない。俺たちの総ては所詮偽りの作り物でしかない。テロメアが生まれつき少ない中で生まれた俺達に、そんな運命を、本物の人生を得ることはない!』
あまりの気魄に気圧されるシン。レイのその叫びは最早悲痛とすら言っても良いほどである。レジェンドはビームジャベリンを構えて一気に突撃してくる。気圧されてはいてもシンもエースパイロットだ。すぐさまアロンダイトを正面に構えてビームジャベリンに合わせて振りかぶる。
対ビームコーティングが成されているアロンダイトはビームジャベリンを相手に鍔迫り合いを発生させた。紫電が迸り、火花が散り、舞い散る粒子が互いの機体を輝かせるかのように魅せる。
『だから議長を、ギルの進む道を俺は信じる!誰も、もうこんな悲劇を生み出さないために!シン、お前はいったい何のために戦ってきた!争いのない世界を創る為だろう!そんな中で、ギルを……俺を裏切ると言うのか!!』
俺を一人にしないでくれ――――
ギルの言葉を共に信じていると言ってくれ――――
俺は、ラウ・ル・クルーゼでも、アル・ダ・フラガでもないんだ――――
ラウはもういないんだ――――
だから誰か、認めてくれ――――
俺を――――
レイ・ザ・バレルという存在を――――――
そんな叫びがシンには聞こえた気がした。
『議長は…定められた運命を受け入れることが幸せだって言った……』
鍔迫り合いの中でシンは呟く様にそう言う。その言葉は当然レイにも聞こえていた。
『でも、レイのその運命は?確かに、クローンとして生まれたレイには生きていける時間は短いかもしれない。だからって、俺達が一緒に過ごしてきた記憶まで全部偽者だっていうのかよ!運命は自分の手で切り拓けるものなんだ!俺は、お前の運命だって変わって欲しいんだ!!』
SEEDが覚醒する。ニュータイプとしての素質とSEEDの覚醒が拒絶することなく、寧ろ交じり合うように、すとんと頭の中でピースが嵌るかのごとく噛みあった。
『――――――――ツッ!!??』
最大加速によって光の翼が大きく展開される。それを警戒したレイは距離を一旦取り直してドラグーンでの攻撃に切り替えた。
ニュータイプとSEEDの両方の能力が噛みあったおかげか、初めてバイオセンサーが完全に反応する。これまでシンはニュータイプとしての素質こそ見せていたが、それを機体の操縦といった面で発揮することはなかった。寧ろ、その面だけで見るならばマーレの方が上だったと言える。
元々、ニュータイプ理論などというものが一般的に存在していないこの世界であれば、自身がニュータイプであるという事を知ることなど出来ない為、その能力がこれまで発揮しきれなかったのは当然だと言える。だが、シンはニュータイプとしての素質をSEEDの覚醒と合わせて発揮することで解消したのだ(本人に自覚は全くないが)。
『馬鹿な!ミリ単位で機体の操縦を行っているとでもいうのか!』
ドラグーンで狙いを定め、放ち続けているにもかかわず、一発もその攻撃が当たらない。いや、当たらないというだけならばまだしも、その攻撃が総て見切られ、僅かな隙間を縫うように躱していくのだ。機体を操縦するという一手間が存在しているにもかかわらずそのような動作。普通であればありえる筈もない操縦だ。
『一体何だ、それは!?どんなトリックを使っているという!?』
これまではあくまで理論上でしかパイロットの操縦を補佐しなかったバイオセンサーが今は正常に(寧ろ異常に?)反応し、思考を直接機体に反映させることで小さな動作を補っているのだ。
『レイ――――お前は、本当に自分が大切に思っていることを守ればいい。皆、自分の信念を貫き通すために戦っているんだから。でも、だからこそ俺も戦わないわけにはいかないんだ!他でもない、自分の意志を貫き通す為に!!俺が、俺達がこの戦争を終わらせる!!』
『…………ならば、お前も俺が倒すべき敵だ……』
デスティニーとレジェンド――――共にザフトが造り上げた最強の機体が皮肉にも敵としてぶつかり合う。互いの信念を貫く為に。
後書き
シンVSレイ
勝つのは果たしてどちらか?
ページ上へ戻る