DOGSvsCATS
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第一章
第一章
DOGSvsCATS
「今夜だな」
「ああ、今夜だ」
俺は情報屋から話を聞いていた。聞いているのはいつものバーだ。そこでサングラスに黒いコートに如何にもといったそいつから話を聞いていた。
薄暗い酒場でバーボンをやりながら聞いている。今は夕方、今夜だとすると丁度よかった。
「今夜だって行って来た。向こうからな」
「で、タイマンかよ」
俺は情報屋からこのことを確認した。
「向こうから行って来たんだよな」
「信じられるか?」
「いや、全然」
首を横に振って情報屋に答えた。
「あいつの言うことが信じられるかよ」
「今までが今までだしな」
情報屋もそれはわかっていた。向こうのチームのあいつときたらどんなに汚いことも平気な糞野郎だ。このことはこのストリートじゃ誰も知っていることだった。
「何かあるに決まってるぜ」
「何だと思ってる?」
「どうせあれだろ」
俺は咥え煙草を取り出した。それに火を点けてから答えた。
「手下を一杯隠れさせているんだろうな」
「まあそうだろうな」
情報屋もそれはわかっているようだった。
「街のイタチって言われてる俺もわかるぜ」
「奴等は野良猫さ」
向こうのグループ名がキャッツだから言ってやった。何でも街の何処にでも目がいくってことを言いたいらしい。俺にとっちゃ泥棒猫だが連中はそうは思っていねえ。
「街のな。薄汚い野良猫さ」
「で、あんた達は犬だな」
「ああ」
イタチを自称するその情報屋に答えてやった。
「狼ってところまではいかねえからな」
「そうか、犬か」
奴等のグループ名がキャッツなら俺達はドッグスだ。俺達の名前は街の何処でも嗅ぎ付けるってところからだった。こう言うとどっちもどっちって気もするが俺達にはポリシーがあるつもりだ。連中にはそれがない。それだけの違いがあるって自分達では思っていた。
「まあ犬と猫だな」
「そういうことさ、俺達は犬だ」
またこのことを言ってやった。
「街のな。犬と猫は仲が悪いもんだ」
「そうだな。うちの犬と猫もそうだ」
「あんたの家の中だけじゃねえぜ」
イタチにまた言ってやった。
「この街でもな。同じさ」
「そうか。で、どうするんだ?行くのか」
「勿論」
口から白い煙を出しつつ不敵に笑って答えてやった。
「行かないでどうするんだ?お犬様が泥棒猫に負けてたまるかよ」
「そうか。じゃあいいんだな」
「ああ、やってやるぜ」
答えつつ自分の右手を見る。そこにはタトゥーがある。黒犬のタトゥーだ。俺がチームのリーダーだからあえて入れた。腕の甲のそれが笑っていた。
「絶対な。決着をつけてやる」
「そうか。それじゃあ」
「情報、有り難うな」
ここで俺は指を鳴らした。するとカウンターのマスターが愛想よく俺の前に出て来てくれた。そしてバーボンのボトルを一本俺達の前に差し出してくれた。
「おごりだ。取っておきな」
「相変わらず気前がいいね」
「犬はそうなんだよ」
冗談めかしてまた犬のことを話に出す。
「だからだよ。遠慮なくな」
「わかったよ。じゃあ遠慮なくな」
「そうしてくれ。さて、と」
煙草を灰皿で消してそれから席を立った。カウンターにコインを置いておくのは忘れない。
「マスター」
「何だい?」
「すぐに戻って来るぜ」
不敵に笑って白髪のマスターに言ってやった。
「すぐにな。それまで店開けておいてくれよ」
「すぐにかい」
「勝った後の酒が一番美味いんだよ」
だからだった。喧嘩の後はいつもここで飲む。このことは今回も守るつもりだしそうした。
「だからな。頼むぜ」
「わかったよ。じゃあ待ってるぜ」
「ああ、それでな」
「何人分だい?」
マスターは背を向けて店の扉に向かう俺に声をかけてきた。薄暗い店の中は他の客の煙草の煙とその匂いで一杯だった。ついでに酒の匂いもきつい。
「何人分だい?あんただけかい?」
「俺だけだったらいいんだけれどな」
立ち止まってマスターに顔を向けて言った。6
「そうもいかないだろうな」
「じゃあメンバー分だけ」
「ああ、頼む」
こうマスターに答えた。
「多分そうなるからな」
「わかった、それじゃあな」
「連中のことさ、どうせ潜んでいやがる」
不敵に笑いながら今度はガムを取り出した。早速それを口の中に入れる。
「こっちも用意しておくさ」
「集合かけとくんだな」
「ああ、念の為な」
「俺がかけようか?」
イタチが名乗り出てきた。
「何なら。どうだい?」
「それは情報屋の仕事越えてるだろ」
「バーボンの御礼さ」
笑ってこう返してきた。
「だからさ。それじゃあ駄目かい?」
「そこまではいいさ」
けれど俺はその申し出は断った。何もそこまでしてもらわなくてもと思ったからだ。幾ら何でも図々しい。電話位は簡単にかけられる。
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