戦国異伝
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第百四十九話 森の奮戦その五
「油断は出来ぬとのことじゃ」
「元から油断するつもりはないですが」
「一向宗は死を恐れませぬ」
このことは彼等もよく知っている、とにかく一向宗は死を恐れない。念仏を唱えて死ねば極楽に行けると考えているからだ。
だから彼等も言う、だがだった。
「しかしですか」
「そうした強さではないのですか」
「油断の出来なさでは」
「兵の強さらしい」
信心の強さだというのだ。
「死を恐れぬ者もおるが」
「それとは別にですか」
「そうした者も」
「うむ、そうした者達が門徒の中に多いとのことじゃ」
「確かに門徒には鉄砲を持つ者も多いです」
ここでだ、重臣の一人が言って来た。
「しかしそれは雑賀衆等限られた者達だけです」
「その通りじゃな」
「織田家は鉄砲の数では随一です」
その数は多いというのだ。
「間もなく何千丁にもなります」
「そうじゃな」
「他には薩摩の島津氏も多く持っているそうですが」
他の家は持っているが然程だ、武田や上杉もそれ程持っていない。
しかしだ、それでもだというのだ。
「織田家程持っていることは」
「ないな」
「その辺りはどうでしょうか」
「はっきり言おう、当家と比べてもな」
織田家、即ち彼等と比べてもだというのだ。
「数は変わらぬそうじゃ」
「まさか、雑賀衆から鉄砲を渡されているのでしょうか」
「そうなのでしょうか」
「その辺りはわからぬがな」
長政もそこまではわからない、だがだった。
それでもだ、彼はこう言うのだった。
「しかしその門徒達が来てもな」
「はい、当家はですな」
「何としても」
「勝ちそうして」
「与三殿を」
「与三殿を失う訳にはいかぬ」
長政は強い声で言い切った。
「断じてな」
「ですな、あの方は織田家に必要な方」
「大切なお方の一人です」
「殿にとっても掛け替えのないお方の一人」
「だからこそ」
「必ずお助けする」
例え何があってもだというのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「これより」
こう話してだ、そしてだった。
長政は一万の兵を宇佐山城まで向かわせる、そうしてだった。
近江、彼等の庭と言っていい場所を進む。しかしその中でだった。
ふとだ、放っていた忍の一人が駆け込んでこう言ってきた。
「殿、この前にです」
「敵がおるか」
「灰色の服と旗の者達が」
その色こそがだった。
「おります」
「そうか、わかった」
一旦頷く、そのうえで忍の者にさらに問うた。
「数はわかるか」
「四万程、しかも」
「しかもとは?」
「我等にすぐに気付き追ってきました」
「?向こうに忍がおるのか?」
雑賀衆が一向宗の忍だ、その棟梁である雑賀孫市は鉄砲と戦の采配だけでなく忍としても相当な者として知られている。
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