八条学園怪異譚
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第五十一話 オペラ座の怪人その十二
「戦後もな」
「よくなかったの」
「コストの割に性能がな」
自衛隊の兵器の宿痾だ、どうしてもコストが高くなるのだ、これは製造数の少なさが影響している。そもそも軍需産業の市場が小さいから仕方がないところがあるが行政の悪さも影響していることは否定出来ない。
「今はかなりましだが」
「そうなのね」
「やはり戦車はドイツか」
これが怪人の見立てだ。
「あの国だろうか」
「何か男子が喜びそうな話ね」
「そうよね」
二人はミリタリーな話なのでこう思った、とはいっても二人にとっては何の興味も関心も起こらない話であるが。
それでだ、首を傾げさせつつ言うのだった。
「虎は好きだけれど野球の虎だからね」
「私達はそっちだから」
「マジックもあと僅かだし」
「このまま優勝ね」
「いいことだ、そのことはな」
怪人も阪神の好調にはこう返した。
「それに対して巨人は百二十敗のダントツの最下位だ」
「この状況が百年続いて欲しいわね」
「巨人が弱いと盛り上がるのよね」
これは日本全体のことだ、球界だけのことではない。
「親会社も大赤字だし、新聞が売れなくなってね」
「お金がなくなった権力者って無様よね」
「あの会長も老いらくの身体で怒り過ぎて健康不安らしいし」
「監督は一シーズンで四人替わったわね」
「このままずっと最下位であり続けて欲しいわね」
「何か日本全体が綺麗になってきたわ」
経済も株価も賃金も治安も就業率も鰻登りでよくなっているのだ、皆巨人の無様な敗北を見て元気になっているからだ。
「いや、こうね」
「巨人はこのまま負けていってくれれば」
「もうこれでいいわね」
「来年も再来年もね」
「巨人には無様な負けがよく似合う」
怪人も言う。
「私としても嬉しい」
「そうそう、本当にね」
「何よりよね」
「野球も好きなのだよ、私は」
「ドイツ生まれでもなのね」
「野球好きなのね」
「うむ、フェシングや乗馬、テニス等が一番好きだが」
この辺りは欧州それも貴族と縁が深いだけあると言える、貴族といえばこうしたスポーツを嗜むものであるからだ。
「野球もな、それとサッカーもだ」
「サッカーはドイツだからよね」
「それでなのね」
「いや、ドイツがサッカーが強くなったのは比較的最近だ」
怪人はドイツサッカーについてはこう言った。
「ベッケンバウアーからだ」
「ああ、皇帝からなの」
「あの人からなのね」
「彼が出てから強くなった」
それがドイツのサッカーだ、一人の偉大な選手がその国のスポーツを押し上げることはままにしてあるがドイツサッカーもそうだったのだ。
「それまでは大したことがなかったのだ」
「怪人さんがドイツにいた時もなの」
「特にだったのね」
「そうだ、このことも覚えておいてくれ」
「ええ、わかったわ」
「そのことはね」
二人も怪人の言葉に頷く、そうした話もしてだった。
怪人から扉の鍵を受け取った、そのうえで。
鍵を開けて中に入った、だが。
扉の中、部屋の中に普通に入られてそうしてだった。部屋の中を見てみると。
何もなかった、ただの暗がりだった。それで。
愛実が懐から懐中電灯を出した。その懐中電灯で部屋の中を隅から隅まで見てみたがそれでもだった。
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