ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百四十六話:夢と現と乱れる心
前書き
タイトルにルビが付けられなかったのでそっちは外しましたが、現です。
「……あれ?……寝てた?……ヘンリー?あれ?」
目を覚ましたら、ヘンリーの腕の中でした。
まだ寝ているヘンリーに、しっかりと抱き締められてました。
……ああ、そうだった。
そういう状況だった。
寝る前よりは抱き締める腕の力は抜けているようですが、ヘンリーの上に乗っかって抱き締められた、完全に同じ体勢のままなんですが。
ヘンリーはこのままで寝てて、重くなかったんだろうか。
寝てる間に、寝返り打って落とされるくらいはあるかと思ってたのに。
……世の中には落ちてきた岩に押し潰されながら熟睡できる猛者もいたことだし、それを考えればこれくらいは、まだ普通か。
しかし私もずっと同じ姿勢で寝てたことになるわけで、しっかり休めないんじゃないかとか逆に疲れるんじゃないかとか思ったりもしたわけですが、痛んでた頭はすっきりしてるし、体も楽な気がするし。
……え?
私も、そっち側?
岩に押し潰されても熟睡しちゃうような、そっち側の人間なの?
……いやいや、私、押し潰されてないし。
押し潰してる側だから、そんなんじゃないって。
人生の半分以上奴隷生活で、今も旅の空で野宿とか普通にできちゃうからって!
いくらなんでもそんな、そこまで図太くはないって!!
自分で思い付いた可能性を自分で否定して頭から振り払ったところで、いつまでもヘンリーに乗っかってるのも何なので、起き上がろうとしてみます。
と、またすかさず腕に力が込められて、しっかりと捕まえられます。
……ほんとに寝てるのか?コイツ。
……いや、寝てる。
気配から言っても、それは間違いない。
気配まで変えて本気で寝たふりなんかされたらわからないかもしれないが、そんなことができるものかわからないし、できるとしてもやるとも思えないし。
寝る前の苦しそうだった様子から考えるとやけに安らかと言うか、いっそ幸せそうなヘンリーの寝顔を見上げ、まじまじと見詰めながらそんなことを考えていると。
じっと抱き締めていた腕が動いて、背中を撫でられます。
「ひゃっ!?」
上がった声に自分で驚いて、思わず自分の口を押さえます。
……ぞわっとした!
気持ち悪いとかじゃないけど、なんか鳥肌立った!
「……ヘンリー?」
……寝てるよね?
問いかけるように声をかけ、また寝顔を見詰めると。
「……ドーラ……」
え、寝てる、よね?
……寝言?
私を抱き締めながら、私の夢でも見てるわけですか?
さっき捕まえられたのも、夢で見てる私が逃げようとするのを、捕まえようとかしてたわけなんですか??
また動揺して顔が熱くなってきた私と、またも動くヘンリーの手。
「ひゃっ!……んっ……んんっ……!」
また妙な声を上げてしまい、また口を押さえて声も抑え。
なおも動き続ける、ヘンリーの手。
……一体、どんな夢を見てるんだ!
現実で本人を相手にこういう動作をしながら、そういう夢を見るとか……!
……散々触られた挙げ句に、全てが夢として処理されるわけですか?
起きた時に覚えてるのかどうか知らないけれども、こんなことされたのもこんな声出させられたのも、全て無かったこととして、ヘンリーの頭の中だけの、ただの夢の中の出来事として扱われると?
「……んっ……やっ……、嫌」
また撫でられながら思わず漏らした私の言葉に、ヘンリーの手が反応するようにピクリと動きます。
……聞こえてるのか?
感触だけじゃなく、耳から入った情報も、夢の中に反映されるわけですか?
「……ヘンリー。こんなのは、嫌。やめて」
低い声で囁くように、でもはっきりと、間違いなく聞こえるように言うと。
まだ微妙に動いていた手が完全に止まって、幸せそうだったヘンリーの表情が曇り、眉間に皺が寄ってうなされ始めます。
「…………うーん、ドーラ……悪かった……もう、しない…………」
……完全に、聞こえている!
そして、反映されている!
折角の夢の中で、イチャイチャラブラブが可能だった夢のドーラちゃんに、現実の私の意思が反映されてしまったわけですか。
それは悪いことをしたが、そもそも現実の私を捕まえてなければそんなことにはならなかったのに。
私ばっかり悪いわけでは無いと思うが少々の罪悪感を覚えたので、うなされ続けるヘンリーにまた声をかけます。
「…………うーん、ドーラ……許して、くれ…………」
「……怒ってないよ。大丈夫だから。許してあげる」
たぶん間違いなく私のことが好きなんであろう健康な十八歳の体を持つ男性が、ずっと側にいて守ってくれながら、抱き締める以上の妙なことはしないで我慢してくれてるわけですからね。
抱き締められること自体は私も落ち着くわけで嫌じゃないし、そうやって現実で我慢し続けた結果、ちょっと妙な夢を見てしまったからって。
夢の中だけで済ませてくれてる分には、怒るほどのことでも無いと言いますか。
抱き締める腕が緩んで私も手を伸ばせるようになったので、ヘンリーの頭に手を伸ばして撫でながら、まだうなされているヘンリーに声をかけます。
「…………うーん……ドーラ…………」
「怒ってないよ。大丈夫。だから、ゆっくり休んで」
うなされ始める前はやけに幸せそうだったから、頭の痛みはもう大丈夫なんじゃないかと思うけど。
私がさっき起きたところだから、私よりもかなり辛そうだったヘンリーは、もう少し休んだほうがいいんだろうし。
そう思いながら声をかけ続け、頭を撫で続けていると。
また安らかな顔に戻って、ヘンリーが規則正しく寝息を立て始めます。
……それは、良かったけど。
私はいい加減起き上がりたいので、そろそろ離してくれまいか。
「……ヘンリー。離して?」
ダメ元で、また囁いてみますが。
「……」
寝言でも返事はなく無言のままに、またしっかりと腕に力が込められました。
やはり、そこはダメなのか。
このままヘンリーが起きるまで、捕まっているしかないのか。
溜め息を吐きながらまたヘンリーの頭を撫でて、呟きます。
「……ヘンリー。私は、大丈夫だから。だから、着いてきてくれなくても。こんなに無理して一緒にいてくれなくても、いいんだよ……?」
起きてる時にこんなこと言っても、聞いてもらえないのはわかってるので。
夢としてでも認識してもらえるならと思って、そんなことを言ってみます。
やはり返事はありませんが、また腕には力が込められたような。
「……こんなに、苦しい思いして。……他の女性にすれば、こんなこと無いのに。私以外なら誰でも、マリアさんでも他の誰かでも、誰が相手でも私以外なら。普通に、幸せになれるのに。……なんで」
なんで、他の人にしないの?
なんで、私と一緒にいようとするの?
私が、好きだから?
……そうだとしたら、なんでそんなに好きなの?
こんなに苦しい思いをしても、どんなに大変でも一緒にいたいと思えるほど、なんで私が好きなの?
私は、ドーラは綺麗で可愛いけど。
マリアさんだってクラリスさんだってすごく綺麗だったし、大人になったビアンカちゃんだって、まだ会ってないし性別もわからないけど、いるならフローラさんだって。
きっと、すごく綺麗で可愛いのに。
ドーラは可愛いけど、中の私はすごく残念なヤツで。
マリアさんもクラリスさんもビアンカちゃんも、いればきっとフローラさんも。
中身も、すごく素敵な人たちなのに。
ゲームで名前の付いてた人たち以外にも、きっと世の中には素敵な女性がたくさんいるのに。
……理由はわからなくても、それでもヘンリーは私が好きなんだって、それだけはもうほとんどわかってしまってるけど。
私と一緒にいたら大変な人生になるって、それだけじゃなくて。
「……私は。……こんなに、ずるくて……酷い、ヤツなのに」
私が残念なヤツでも、一緒にいたら大変でも、それでも私が好きで、一緒にいたいと思ってくれてるヘンリーを。
好意を向けられるのをいいことに便利に利用し続けるみたいなのが嫌で、置いてこようとしたのに追いかけてきて、便利に利用されてもいいって言ってくれて。
結局は甘えて利用し続けるみたいになってしまってる私を、ずっと甘やかしてくれるヘンリーを。
それでも私は選ばないって、もう決めてしまってるのに。
勝手なのは自分なのに、なんだか涙が出そうになって、ヘンリーの胸を押しながらまた言います。
「……ヘンリー。……離して」
最後に突き放すと決めてる相手の胸で、自分勝手に泣きたくない。
そう思って、今度こそ腕の中から逃れようとしますが。
逆に閉じ込めるようにまたしっかりと捕まえられて、またヘンリーの声が聞こえてきます。
「…………ドーラ……泣く、な…………」
間違いなく寝てるから、私がどんな様子かなんて見えてないはずなのに。
夢の中の私も、タイミング良く泣きそうになってるとでも言うのか。
片手でしっかりと私を抱き締めながら、もう片方の手が頭にやられ、起きてる時よりはややぎこちない感じに撫でられます。
「…………俺が、いる、から……ずっと……一緒、に……だから、大丈夫、だ…………」
ずっと一緒には、いられないから。
だからこんなに、悲しいのに。
なのにヘンリーがそんなことを言うから、堪えきれなくなった涙が溢れ出して。
寝てるというか、たぶん半覚醒状態のヘンリーに、頭を撫でられながら。
結局そのままヘンリーの胸に顔を押し付けて声を殺しながら、ヘンリーの胸で。
思いっきり、泣いてしまいました。
それからしばらくして、私がすっかり泣き止んで、腫れた目はホイミで治して。
さすがに起きるんじゃないかとドキドキしながら、涙で濡らしてしまったヘンリーの服はドライヤーの魔法で乾かして、無事に証拠隠滅も済ませたところで。
「……ドーラ?…………なんで?」
「……ヘンリーが、離してくれなかったんだからね?」
ヘンリーがようやく目を覚まし、結局離してもらえずに腕の中に収まったままの私を見て混乱しつつ、言葉を発します。
見た感じ、私が押し倒して襲ってるみたいになってるからね!
事実とは大きく異なるので、そこは間違いなく主張しておかねば!
「……そうか。……あれ?……夢、だよな?」
「なに?なんか、夢見たの?」
私の言葉を疑うどころでも無く(状況はともかく、内容的には疑う余地の無いことではあるけれども。普段の関係からして)、まだ混乱した様子で呟くヘンリーに、すっとぼけた問いで返します。
夢でもあり途中からは現実でもあったわけですけれども、現実として認識されると困ることが多々あるのでね!
全部が夢だったんだと、そう思って頂きたい!
私の問いに、心なし気まずそうな感じでヘンリーが答えます。
「……いや。……別に」
「そう。ならいいんだけど」
後半に関しては気まずいのは主に私だが、前半で気まずいのは間違いなくヘンリーのほうでしょうからね!
実際に抱き締めながら、やらしい夢見てたとか!
しかも実際に撫で回してたとか……そこまでわかってしまうと、今度は私も気まずいけれども!
とにかくだから、ここですっとぼけておくのはお互いのためなんですよ!!
「ヘンリー、もう大丈夫?大丈夫なら、先生のところに行こう?」
「……そう言えば。ここ、どこだ?」
今さら気付いたように、ヘンリーが部屋の中を見回します。
「ベネット先生のお宅の客間。ヘンリーはもう倒れそうだったし、私も頭は痛かったから。ベッドを借りて、休ませてもらってたの。ヘンリー、覚えてる?」
「……お前の肩を借りて、実験室を出るくらいまでは……」
呟くように答えたヘンリーの顔が、なんだか赤くなってますが。
散々抱き締めたり肩やら腰を抱いたりしてたのに、今さら肩を借りたくらいで何を照れているのか。
私が貸す側になってた辺りが、問題だったんだろうか。
「……ヘンリー。この後も適性を身に付けるなら、回復とか蘇生系は、やっぱりヘンリーのほうが負担が大きいと思うけど。もう、一人で倒れようとしないでね?ちゃんと頼ろうとしてくれれば、私だって倒れずにヘンリーを支えるくらいの力はあるんだから。変に倒れて頭でも打ったら余計に大変なことになるし、私を守ってくれるって言うなら、自分のこともちゃんと大事にして。死んじゃったり体が不自由になったりしたら、もう私を守れなくなるでしょ?」
私を守るために自分を大事にして欲しいなんて、そんなことを思ってるわけじゃないけど。
そう言うのが一番効きそうな気がしたから、そういう言い方をしてしまったわけですが。
「……わかった。次からは、お前にも頼るから。悪かった、ありがとう」
まだ赤い顔で目を逸らしながらも、素直に応じてくれました。
よっぽど私に頼りたくないのかと思ったが、これなら別にあんな言い方しなくても良かったか。
なんにしても受け入れられたならそれはそれでいいとして、そもそもの問題として。
「……ヘンリー。別にヘンリーは、無理して」
「適性は身に付ける。俺も絶対、身に付けるからな」
「……そう」
私のためって言うなら、本当は止めたいところだけど。
言っても聞かないだろうし、理由はともかく決定に関しては私が口を出す問題ではないし。
本人がそう言うなら、これはもう仕方ないか。
ちゃんと私にも頼ってくれるって言ったし、その辺で妥協しよう。
「それじゃ、行こうか。ベネット先生のところに」
「ああ」
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