ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百四十五話:獲得の痛み
「さて。何から始めるかの?」
「はい!ザオリクか、メラで!」
「高位蘇生呪文に初級火炎呪文か。また、両極端じゃの」
実験室の煮え立つツボの前でベネット先生に問われて、前から考えていた答えを返します。
ちなみにこの場にいるのはベネット先生と私の他にはヘンリーのみで、他の魔物の仲間たちは、間違いなく適性は得られないのに負荷だけはかかるかもしれないということで、念のため隣室で待機してもらっています。
それはともかく、最初のこのチョイスですが。
ザオリクは適性を付けてもすぐには使えないだろうけど絶対覚えないといけないし、メラは生活レベルの問題で覚えておきたいんですよね!
たぶん向いてないとは言っても初級呪文だから、それくらいならすぐに使えそうな気がするし。
どちらも絶対に覚えるつもりだからどっちからでもいいんですが、手始めにその辺を選んでみました!
私の答えを受けて少し考えていたべネット先生が、ヘンリーに話を振ります。
「我が助手の助手よ。我が助手はこう言っておるが、どうするかの?」
「……メラは、俺は元々使えるので。最初は俺も一緒に適性を身に付けて感触をみたいし、その二つならザオリクがいいです」
「ふむ、そうか。ならば、そうするか」
……なんだこの、子供の希望を聞いた後に付き添いの保護者に確認して決定するみたいな扱いは!
決定自体に不満は無いが、なんだか、なんだか……!
また微妙に納得のいかない気分に陥っている私を余所に、先生は手際良く調合を始め、先生の指示に従ってヘンリーも手伝いに入っています。
……いかん、これではどっちが先生の助手だかわからない!
このままでは、先生の助手だった人の助手の、ただの保護対象に格下げになってしまう!!
実害の無い問題に囚われていつまでもぼんやりしてる場合じゃないので、私も気を取り直して作業の手伝いに入ります。
きびきびと指示を飛ばす先生に、怪しげな液体やら粉末やら薬草やらを次々と手渡して、受け取った先生が必要量を量り取ってはツボの中に投入し、残りを押し付けてくるのをまた受け取って、素早く定位置に戻しては次を手渡して。
時折手元の資料を確認しながらも、ほとんど覚えている様子で淡々と調合を進めていた先生が、不意に声のトーンを変えます。
「……そろそろ、完了じゃ!次に世界樹の葉、最後にルラムーン草!二人とも、覚悟は良いな?……では、ゆくぞ!」
先生の確認に頷いて了解を示す私たちに先生も頷き返し、調合の仕上げとなるルラムーン草を投入します。
投入されたルラムーン草が沈み込むと共にツボの中がまた激しく反応を始め、前回の爆発を思い返して思わず先生に目をやると。
前回の反省を踏まえてか、投入完了後に速やかに退避し、ツボから遠く離れた部屋の隅に避難していました。
「……爆発はせぬはずじゃが、念のためじゃ!そなたらは念のため、ツボから離れるでないぞ!」
「はい!」
また何も言ってないのに私の視線の意味を正確に読み取った先生が、離れた場所から声を張り上げます。
先生は無理して適性を身に付ける必要は無いってか、付けてもどうせ使えないだろうけど、ここまでやってもらって私たちがうっかり失敗するわけにはいかないもんね!
爆発はしないと言う先生の言葉を疑うわけでは無いですが、私も念のため爆発に備えて身構えると。
ヘンリーに、庇うように抱き締められます。
「ヘンリー」
「念のためだよ」
それ以上なにかを言う間も無くツボから一気にケムリが噴き出して、部屋中がケムリに包まれてまた視界が真っ白になって。
強い耳鳴りと共に、脳髄が締め付けられるような痛みを感じます。
「……う……」
思わずふらつきながらも、なんとか踏みとどまりますが。
「……くッ……!」
「……ヘンリー?」
私を強く抱き締めていたヘンリーが大きくぐらついて、私から手を離して一人で倒れそうになるのを、反射的に捕まえます。
「……ドーラ……離、せ」
「暴れないで!ちょ、バランスが!」
私だって大岩を軽く運べる程度に力はあるわけなので、やろうと思えばヘンリーをお姫様抱っこだってできるはずなんですが。
やはり体格差は如何ともし難いというか、ちゃんとバランスが取れればの話であって。
私を巻き込まないように一人で倒れようとするヘンリーを支えながら持ち直すのは難しく、ずるずると崩れ落ちるヘンリーの頭を胸元で抱き止めて捕まえ、そのまま一緒に座り込むことでなんとか事無きを得ます。
はあ、良かった、頭は打たせずに済んだ。
それは良かったけど、でもこのままじゃ……!
「……ヘンリー?大丈夫?わかる?」
胸に抱え込んだヘンリーの耳元に静かに囁きかけ、意識を確認します。
「…………大、丈夫、だか、ら……!離、せ……!」
「離したら倒れるでしょ。ダメだよ」
苦しそうに切れ切れになりながらも返事があり、ひとまず意識は保たれていることに安堵します。
体に力が入らない様子なのに、それでも離れようとするヘンリーの頭をまたしっかりと抱き締めて、先生に視線を向けると。
「……我が、助手の助手よ!気を、気を確かに持つのじゃ!そんな、挟まれて、包まれて、埋もれて死ぬとは!!うらやまけしからん!!そなたはまだ若い、気をしっかり持て!生きよ!!」
取り乱した様子で、おかしなことを口走っています。
「先生!!死ぬとか、縁起でも無いことを言わないでください!!それより、どこか休ませる場所をお借りできませんか?ここでは、ちょっと」
ベッドを貸してくれとまでは言わないが、このケムリの立ち込める実験室で休ませるのは、ちょっと。
治るものも治らないっていうか。
私の問いに先生がハッと我に返り、咳払いして答えます。
「そ、そうじゃの!こんなこともあろうかと、客間のベッドを整えてある!そこで、休ませるが良い!こっちじゃ!」
「ありがとうございます!……ヘンリー、立てそう?」
また静かに、ヘンリーに囁きかけますが。
「…………ひ、とり、で、歩、ける、から……!!離、せ……!!」
真っ赤な顔で、と言っても顔自体は抱え込んでるのでほとんど見えないのですが、ともかく真っ赤になって怒ったような口調で言われます。
「一人とか無理でしょ、どう考えても。いいから掴まって」
ヘンリーの腕を自分の肩に回して、支えながら立ち上がろうとしますが。
「……」
真っ赤な顔で黙り込んだヘンリーに、無言で抵抗されます。
なんだ、何が気に入らないんだ。
私のことは無理矢理お姫様抱っこしたりなんかする癖に、私には肩を貸されるのすら嫌だとでも言うのか。
「……肩を貸されるのが嫌なら。抱いていってあげようか?お姫様抱っこで」
「……!」
無言のまま、ヘンリーがピクリと肩を震わせて。
「……」
さらに無言のまま、私の肩に掴まります。
「よし、じゃあ行くよ!無理されるとかえって歩きにくいから、しっかりもたれかかっていいからね!」
「……」
ほとんどヘンリーを担ぎ上げるようにして立ち上がり、先生の後を追って歩き出します。
私としては必要なら別に、本当にお姫様抱っこをやってみても良かったんだけど。
ヘンリーからしたら、男の沽券に関わるよね!
あと私としても、自分よりも圧倒的にガタイのいい男をお姫様抱っことか、ビジュアル的には進んでやりたくは無いし。
か弱い女性や、子供相手ならともかく。
優先順位は低いとは言え、絵面ってのもそれなりに大事だよね!
等ということを考えながらヘンリーを支えて歩き、ベネット先生宅の客間にたどり着いて。
二つのベッドがある客間の扉を開けて私たちを誘導しながら、ベネット先生が声をかけてきます。
「我が助手よ。回復呪文に適性のあるそなたは、我が助手の助手程には辛くは無かろうが。そなたも、少し休んだほうが良いじゃろう。わしは実験室で、後始末と次の準備をしておるゆえ。そなたの仲間たちにもわしから話しておくゆえ、ゆっくりと休むが良い」
「ありがとうございます。そうさせて頂きます」
あまりにもヘンリーが辛そうなので二の次になってましたが、実際私も結構、頭痛いんでね。
後始末を任せてしまうのは心苦しいが、ここはお言葉に甘えさせてもらいましょう!
私たちが客間に入ったところでベネット先生は扉を閉めて去り、私はそのまま振り返らずにヘンリーをベッドまで運んで。
支えていたヘンリーごと雪崩れ込むように、ベッドに倒れ込みます。
「……はー、着いた……。ヘンリー、大丈夫……?」
押し倒してのし掛かるような形になってしまったヘンリーに声をかけながら、顔を覗き込みますが。
「……」
既に意識が無かったというか、寝てました。
歩いてる間は一応起きてたと思うが、この一瞬で眠りに落ちたのか。
歩きながら既に、限界を超えていたのか。
まあ、でも痛みが酷くて眠れないとかよりは。
消耗した結果でも、眠れるならいいよね。
と思いつつ、私も隣のベッドで休むために、一旦起き上がろうとすると。
「……ん?」
動けない。
歩く時は片方だけを肩に回していたはずのヘンリーの腕が、いつの間にか両方とも背中に回されて、ガッチリと抱き締められている!
……本当に、いつの間に!
意識してやる余裕があったとは思えないから、無意識か!
……まあ、でも。
たぶんヘンリーのほうが力は強いとは言え、さすがに眠ってて意識が無い状態なら。
振りほどけないなんてことは
「……あれ」
なんてこと、ありました。
……ほどけない!
え、そんなに?
いつの間にか、そんなにも差を付けられてたの!?
……いやいや、体勢の問題とかあるし。
抱き込まれてる私のほうがどう考えても不利だし、そこまで力の差があるわけでは無い、……と、思いたい!
てか、離せ!!
なんとか逃れようともがくと、なぜか抱き締める腕に余計に力が込められて全く逃れられず、ただでさえ消耗してたのに暴れたせいで余計に体力を消耗して、私も本格的に眠くなってきて。
「……」
なんかもう、いっかなー……。
叩き起こして離させるとかしないともう無理っぽいし、あんなに辛そうだったヘンリーにそこまでしたくないし。
添い寝だって初めてってわけでも無いし、状態から言ってたぶん私のほうが先に起きるし、仮にヘンリーが先に起きても今さら寝込みを襲ってくるとか無いだろうし。
……あとは、靴を!
靴だけを、なんとか脱ぐことができれば……!
抱き締めてくる腕から逃れることは諦めて、最後の力を振り絞って足をもぞもぞと動かし、なんとか自分の靴を脱いで、ヘンリーの靴も脱がせることに成功して。
ヘンリーの靴をベッドから蹴り落としたところで力尽きて、ヘンリーの腕の中で私も眠りに落ちました。
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