パンデミック

ーーー【エクスカリバー本部内・第8医務室】


エクスカリバー本部内には、合計で9つの医務室が備えられている。
数字が大きいほど重症者が運ばれてくる。第７医務室以降から個室になる。


ソレンスは第8医務室のドアを開けた。第８医務室の長い廊下が奥まで続いている。
長い廊下の左右には、重症者が入れられた個室のドアが、廊下と共に続いている。

ソレンスはその個室の中から、"ブランク"と小さく書かれたドアの前に立っていた。

「………………入りますよ」

ドアをノックし、中へ入る。



小さな個室には、ベッドと椅子が2つ備えつけられている。
ベッドの上に、穏やかな表情でブランクが寝ていた。

「ブランクさん………一体、何が………」


本部防衛作戦の時に見たブランクの暴走。
あの時のブランクは、他の兵士達が知るようなブランクとは明らかに違っていた。
一人の立派な兵士ではなく、血に飢えた化け物のようだった。

それを目撃した兵士達の間で、様々な噂が飛び交っている。
"人間の皮を被った化け物"や、"本部を攻撃した化け物の手先"など、良くない噂ばかりだが。

防衛作戦で見せたブランクの暴走は、他の兵士達の信用を失ってしまったのだ。









「ん？見舞いに来ていたのか？」

ドアを開け入って来たのは、ヴェールマンだった。

「………そう言う司令もお見舞いですか？」

「あぁ。今一人一人に見舞いをして回っているんだ。ブランクで最後だ」

「そうですか…………聞きましたか？ブランクさんの噂………」

「あぁ聞いたよ。だが下らない。同胞を化け物呼ばわりとは……」

ヴェールマンは静かな憤りを見せた。
仲間が仲間を疑うことが許せないのだ。



そんなヴェールマンになら、自分の聞きたいことを聞けるだろう。



「司令……教えていただけますか？ブランクさんと………あの"スコーピオ"と名乗る適合者のことを」









しばらく沈黙が続いた。

ヴェールマンは考え込むように押し黙っている。
ソレンスは黙ってヴェールマンの次の言葉を待っている。

そしてソレンスの期待通り、ヴェールマンが沈黙を破った。








「そうだな………隠していても仕方がない。お前になら話しても問題ないだろう」








「まず、"スコーピオ"と名乗る適合者についてだが……あの男は元々私達と同じ兵士だった」


「あの男の本名は"フィリップ"。ブランクとは同期だ」


「とある事件で、私とブランクはフィリップを"置き去り"にした。」


「他の兵士達は"仕方がなかった"と励ましてきたが……私は心底自分を責めたよ」


「もし無理にでもフィリップを連れ帰っていれば……彼はあそこまで歪むこともなかったはずだ」












ヴェールマンは語り始めた。

4年前に起きた「ホワイトアウト事件」についてを。