パンデミック
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第四十一話「本部防衛作戦後」
ーーー本部防衛作戦から12時間後………
エクスカリバー本部内では、感染者、突然変異種、生物兵器の死骸の処理、死んだ兵士達の遺体回収
が始まっていた。第2装甲壁内の作業はほぼ終わりに近いが、第1装甲壁内は、いつ作業が終わる
のかさえ分からない状態だ。
感染者等の死骸は一ヶ所に集められ、冷却処理が施される。本来は焼却し、廃棄する方が効率的だが、
コープスウイルスがある限りそんなことはできない。本部内でコープスに活性化されるのは困る。
ソレンスとオルテガは、同胞達の遺体回収を進めていた。
「……あれだけの化け物共が来て……生き残れた俺達は、幸運だったのか?」
オルテガの問いかけに、ソレンスは静かに答えた。
「……………俺は……幸運とは思えない」
「……なんでだ?」
「ここで死んだ同胞達に"生き残れてよかった"と言えるのか?」
「そう………だな」
会話が途切れた。そのまま2人は、何も話さないまま作業を続けた。
第2装甲壁内では、ヴェールマンと一部の兵士達で、本部復旧の話し合いが進められていた。
「まず、本部内の被害報告ですが……建物の被害は第1、第2装甲壁のゲートが大破し、
第1装甲壁自体も、外部の損傷が激しく脆くなっている可能性が高いです。第2装甲壁も
外部の損傷は確認されましたが、問題になる程のものではありません。
人的被害の方ですが……一般の兵士は確認されているだけで627名。"クラウソラス"のメンバー
は2名。"カラドボルグ"は0です」
「………………そうか」
「司令、どうします?」
ヴェールマンはしばらく考え込んだ。
「そうだな……」
結論が出たヴェールマンは、指示を出した。
「ひとまず、瓦礫の撤去や、復旧作業は後回しだ。まず死んだ兵士達の遺体を一刻も早く回収しろ。
遺体回収と並行して、感染者共の死骸の回収も進めろ。死骸の冷却処理も忘れるな。
それらが済んでから本部の復旧作業を開始する」
「「了解しました」」
ヴェールマンの周りにいた兵士達の後ろから、一人の兵士がこちらに来た。
「司令、支部長がお呼びです。緊急の会議を始めるそうです」
「分かった。すぐに行こう。お前達、今の指示を全兵士に伝えておけ。あとは任せる」
そう言うと、ヴェールマンは本部の方へ向かった。
ーーー【エクスカリバー本部・医務室】
本部の医務室の中は、大勢の怪我人で埋め尽くされていた。
軽症者は怪我の治療後、医師の手伝いに回っていた。
重症者にはベッドが貸し出された。
「クソ、痛え………」
「鎮痛剤、急げ!」
「ベッドがもう満杯だ!」
「なら本部内からソファーをありったけかき集めろ!」
医務室の中は、まるで作戦前のような喧騒に包まれていた。
医師達も兵士達も、忙しく動き回り治療に勤しんでいた。
治療した兵士の中には、一歩間に合わず死んでしまった兵士も少なくない。
しかし、一番辛いのは"兵士の最期"を見ることではない。
もちろん、それも十分辛いが………
「クソ、感染している……」
負傷した兵士には、感染者に噛まれた兵士が複数人いた。
そういった兵士達は、発症前に………殺さなければならない。
残念なことに、コープスウイルスに対して有効なワクチンや治療法は確立されていない。
「…………感染した兵士を医務室の外に」
医務室の外に、感染した兵士達が連れ出された。
連れ出された兵士達は、第2装甲壁内まで連れられた。
「グゥ……オオォ…………」
一人の兵士の様子がおかしくなった。ただの唸り声というより、獣のような唸り声だった。
「まずい、発症するぞ!」
「グゥォォ、早ク……殺セ………」
感染した兵士が、朦朧とした意識の中で、「殺せ」と頼んだ。
「……………すまない……!」
兵士が武器を降り下ろし、感染した兵士の頭は切り裂かれた。
「あぁクソ………もっと長生きしたかったなぁ………」
感染した兵士の一人が、そう呟いたのが聞こえた………
兵士達にとって最も辛いのは"仲間を殺す"ことだ。
たとえ感染していたとしても、仲間は仲間だ。それが親友だとしたら、尚更辛い。
本部防衛作戦から23時間後………
全兵士の治療。亡くなった兵士の遺体回収。感染者の死骸処理。
そして、感染した兵士の処理。その一切が完了した。
感染した兵士を"処理"した兵士達は、泣きながら顔を伏せていた。
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