久遠の神話
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第六十七話 人相その八
「あそこが一番厳しいだろうな」
「昔は海軍兵学校でしたよね」
「そこで八ヶ月いた」
工藤は部内幹部のコースで幹部になった、下士官になり四年で試験を受けることが出来るコースだがその教育期間はそれだけなのだ。
「その間にさらに叩き込まれた」
「入隊の頃からさらにですね」
「部隊の頃はそうでもなかったがな」
幹部候補生学校の時程厳しくなかったというのだ。
「だが候補生学校ではだ」
「徹底していたんですね、そこまで」
「そして今もだ」
身だしなみには気を使っているというのだ。
「靴もこうして時間があればな」
「磨くんですね」
「そうだ、君もどうだ」
「そうですね、俺もたまには」
高橋も工藤のその言葉に頷く、そしてだった。
彼は駆動から靴ズミを借りた、布はその辺りにあった。
それで自分の靴を磨く、それでこう言った。
「いや、靴も気付かないですけれど」
「汚れているな」
「はい、結構」
「そうだ、靴は地面に最も近いからな」
「それだけに、ですね」
「汚れやすいのだ」
「黒い靴でも結構目立ちますね」
高橋は左手に靴を持ち右手で磨きながら言う、工藤はその彼にこう言った。
「夏は余計に辛い」
「あっ、海自さんの場合はですね」
「そうだ、白だからな」
「海自さんは夏は白い制服に白い靴だからですね」
「白は汚れが目立つからな」
「そもそも今時白エナメルの靴って履いている人他にいないですよね」
「ヤクザ屋さんでもな」
かつて白エナメルといえばそうした職業と言っていいかわからないがヤクザな者が履いていた、しかしそれはあくまでかつてのことだ。
「今はいない」
「海自さんだけですね」
「陸自さんや空自さんは履かない」
「はい、この地連にもどの自衛隊の人達もいますけれど」
三つの自衛隊が共同で勤務している、自衛隊ではこうした三つの自衛隊が共同する場所も結構多いのだ。
「白い靴は海自さんだけですjね」
「伝統だ」
海上自衛隊を常に縛る言葉が出た。
「これはな」
「夏に白は、ですか」
「そうだ、海軍からの伝統だ」
海上自衛隊の伝統は全てここからはじまる、自分達を海軍の後継者かそのものだと認識しているのである。
「だから変わらない」
「ややこしいですね」
「白は光を反射して涼しいからな」
「合理的な理由もあるんですね」
「それに海に落ちた時に見つけやすい」
工藤は高橋にこのことも話した。
「青い海の中に白い海の者がいるとな」
「青、マリンブルーですね」
「青の中に白は目立つからな」
「成程、その方が助かりやすいんですね」
「おおむねそうだがそうとも限らないがな」
工藤は言いながらここではその顔を曇らせた。
「残念だが」
「といいますと」
「人間が見つけやすいということは鮫も見つけやすいということだ」
海にいると必ず意識する恐怖だ、海の恐怖rといえばこれを挙げる者も多い。
「青と白の対比の中でな」
「それってまずいですよね」
「船が沈んだ時に鮫に襲われた話は多い」
こうした話は付きものだ、メルヴィルの白鯨では鯨の亡骸が鮫に貪られる場面があるがそれは生きている人間も同じだ。
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