僕のお母さんは冥界の女王さまです。
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拝啓お義母様。お義母様の元侍女にお会いしました。
前書き
シリアス? いえ、シリアルです
「た、タナトスさま? そ、それにネメシスさままでなんでこんな場所にいるんですかぁ!?」
現在私の目の前には冥界の女王が侍女として使えさせたていた精霊、ニュンペーが困惑した声を挙げながら正座させられている。
外国人(?)である彼女にはさぞきついものでしょう。慣れてなければものの数分で足が痺れてしまいますから。
現に目の前の方の足はプルプルとしており、それに必死に耐えているようで涙目になっています。
「妾がここにいること、それがそなたになんの不都合がある?」
「いえ、ありません」
「ナタ? 彼女の紹介をしてくれないかな?」
精霊と死の女神のやりとりに苦笑したルカ君はナタさんに彼女の紹介を促した。
「ナタ? ナタと言ったか! 小僧!! ここにおられる方々は貴様が軽々しく名を口にできるお方ではないぞ! 」
事情を知らない精霊は神をたかだててルカ君に詰め寄ろうと片足をたてます。
しかし
「小娘、誰が足を崩してよいと言った?」
二人の冥界の女神によって阻まれました。
血で錆び付いた槍の穂先を首筋に突き付け、後頭部を鷲掴みにするエリス様とネメシス様。
冷たい死の眼光に精霊は顔面を蒼白にさせる。
そんな精霊を無視して死の女神、タナトス様は私が知っているナタさんの表情で私達に彼女の紹介をしました。
「この者はかつて王に嫁がれる前に女王が侍女として使えさせていたニュンペーです。名をセイレーン。ひかりは知っていますね?」
「はい、セイレーン様の伝承は有名ですから」
「タナトス様!? 人間の子などにかしずくのはお止めください!!」
「いい加減黙らないかなぁ。この根暗ちゃん」
エリス様がエリスさんの表情で槍でツンツンと首をつつく。セイレーン様は滝のような涙を流しています。
あはは、二人ともふざけてますね。
「エリス、メネシス。それぐらいにしてあげて」
ルカ君が声を掛けるとお二人は素直に引き下がりました。
セイレーン様は未だに困惑しているご様子です。
「はじめましてルカと言います。母の侍女をされていたというセイレーンさんにお会いできて嬉しいです」
「貴様のような小僧に気軽に名を呼ばれるほど妾の名は安くーーー・・・母?」
セイレーン様が車椅子に座ったまま頭を下げたルカ君に再び罵声を浴びせようとして首を傾げました。
「セイレーン。ルカは女王の、いや今は6月だからコレー様のご子息だ」
「え、いや、この人の子はただの・・・」
「だからコレー様が認め自分の子としたんだよ。私達は勅命として護衛と教育を任されたの」
「あ、え? それは誠に?」
ナタさんの目を見て固まるセイレーンさま。その目が嘘を言っていないと悟り次第に冷や汗をかきはじめ、顔色を悪くすると
「も、申し訳ございませんでした!!」
全力でその場に土下座なされました。
「し、知らなかったとはいえご子息さまにご無礼な態度を!!」
地面に額を擦り付けてひたすらルカ君に謝罪するセイレーン様。私は苦笑しながらその光景を眺める。因みに私の姿勢はその場に正座し、息を殺して事が終わるのを待つ。
これは王と神々の会合。人である私は口を挟むことはできない。
このままセイレーン様がこの国から去ってくれるのを待つのだ。
「セイレーンさん。ご紹介したい方がいます」
ルカくんの言葉を聞いて私はキョトンとした表情で彼を見る。
光を映さない瞳を周囲に向ける彼にタナトス様は小さく苦笑すると
「ひかり、此方へ来なさい」
私を名指ししてルカくんの横に連れ立たされた。
「僕のお友達のひかりさんです」
と普通に知人に紹介するように私をセイレーン様に紹介しました。
「お、お初に御目にかかります。わ、私(わたくし)羅刹の君であらせられますルカ様に――――」
「ひかり、この根暗に対して下手にでる必要はありません」
「は、はじめまして、ひかりです」
目上の方なので最敬礼でご挨拶をしようとしましたがタナトス様に遮られ、仕方なしに簡単な挨拶をする。セイレーン様は頬を引き摺らせながら私を睨んでいて正直生きた心地がしません。もし一対一だったら問答無用に海へとダイブさせられていたことでしょう。
『言っておくけど、ひかりちゃんは奥方候補最有力だからね?』
『ま、誠でございますかエリス様!?』
『だから粗相のないようにね?』
『か、かしこまりました』
なにやらエリス様がセイレーン様に耳打ちしているようですが私はさっきからきになっていることがありましたのでタナトス様に話し掛けます。
「タナトス様、そろそろ場所を移した方がいいかもしれません。セイレーン様の呪歌もそうですがエリス様の槍が顕現したことで日本の巫女達に神の顕現を悟られた可能性があります。少なくとも姉は確実に霊視してます」
正直に言ってかなり不味いです。早くこの場を立ち去らないと近くにいる魔術士達が来てしまう。
「それは不味いですね。ルカ、申し訳ありませんが今日のピクニックはこれでおしまいです。早々にこの場を去りましょう」
「うん、仕方ないね」
「とりあえず、この後はファミレスでも行くか」
苦笑して片付けを始める面々。
そんな中、小さく俯いているセイレーン様。エリス様から事情を聞いてルカくんが表舞台に出る事を嫌がっていることと今日ピクニックに来ていた事を知り、自分がそれを台無しにしたことに落ち込んでいるようです。
「セイレーン様、あまり落ち込まないでください。セイレーン様はコレー様を探して、見付からなくて悲しくて泣いていただけですよね?」
「ひかり様・・・」
「セイレーン様はコレー様のこと大好きですもんね。私だって大好きな人がいなくなったら悲しいです」
「しかし、私はご子息様達のゆとりの時間を・・・」
「皆気にしてませんよ。ピクニックはまたできますから。その時はセイレーン様もご一緒にピクニックしましょう。まだまだ料理は下手ですが頑張って美味しいモノたくさん作りますので!」
「・・・ハイ、その時は必ずご一緒させていただきます」
やっと笑顔を見せたセイレーン様。小さく頷いた彼女は住まいを正し真剣な表情でルカくんに語りかけた。
「ご子息様。僭越ながら私目にこの国の魔術士達からご子息様達への目を誤魔化す為囮をさせていただきますようお願い申し上げます」
その言葉を聞いてルカくんはもちろん私も目を見開いた。
「セイレーンさんそれは呪歌を使うってことですよね? この国の方々を危険に晒す事はもちろん貴女自身が危険に晒される事になるなら僕は容認できません」
ルカくんは悲しそうな表情で首を横に振る。
私もルカくんのお母様の侍女でありピクニックに来てくれると約束してくれた心優しい彼女が危険に晒されるのは嬉しくない。
「しがないニュンペーである私の身を案じてくださりありがとうございます。しかし、かつて支えていた女神のご子息である御身を一番に考えるのが侍女である私の責務である事をご理解ください。ご心配には及びません。歌うのは確かに呪歌ではございますが人の子に身投げなどさせませんし、皆様が無事に逃げ切れたと判断しましたら私もこの国を離れますので」
彼女は笑顔で言った。
けど私は悟ってしまった。私の瞳に映る彼女の目は決意で充ちていた。
彼女は言葉にした通り誰も身投げをさせず歌い続けるだろう。私達が確実にこの場を離れたと確信できるまで“何時間”と呪歌で注意、意識を“全て”自分に向けて、たとえ魔術士達の猛攻に晒されその身朽ちようとも・・・
身体がふるえそうになる、涙がこぼれそうになる。
せっかく仲良くなったと思ったのにこれで最後になるかもしれない。そう思ったら次第に泣きそうになった。
けど、彼女は首を横に振る。ルカくんに悟らせるな、普通にしていて欲しい。どうか自分にコレー様の侍女だった頃のように誇りあるニュンペーとしての責務を果たさせてほしい。そう言っているのだ。
タナトス様とネメシス様は何も言わない。彼女の意を汲んだのだ。だとしたら私も何も言えない、言ってはいけない。
「わかりました。無茶は絶対にしないでくださいね。今度またピクニックをするのでその時はネメに行かせますから」
「若のご命令だ。背いたら神罰モノだからな」
「あはは、冥界の神罰は怖いので全力で逃げますね」
そして笑う私達。
「それでは皆様いってらっさゃいませ」
優雅に礼をして私達を見送る彼女。こうして私達はセイレーン様に別れを告げた。
「・・・エリスさん。ちょっと聞いていいですか?」
「なぁに?」
「セイレーン様の歌って凄いですね。こんなに離れた場所のファミレスの店内にまで微かに聴こえるなんてびっくりです」
「そりゃ、海岸から音の響かないだだっ広い海にいる船乗り達を海に身投げさせるくらいだからね」
「元気になりそうな声ですね」
「今頃あの場所はライブ会場になってるだろうね」
「注目と意識を集める呪を込めてますしね」
「高揚と踊りたくなる呪も込めてるよ」
「だったら気軽に魔術士達も攻めいることができませんね」
「ひかりちゃんのお姉さんも今頃ライブ風景を霊視してるんじゃないかな?」
「お姉ちゃんも混乱してると思います」
「ま、これで約束も守れるねと思うよ」
「ありがとうございます。けど、なんでプ〇キュアなんですか?」
「ひかりちゃん達と合流する前に布教して歌わせました♪」
「アニメオタクな女神様・・・」
「テヘ♪」
後書き
後日プ〇キュアファンが急増しました
作者ちなみに作者的には初代最強だと思う。
久しぶりの更新。遅くなって申し訳ありません。
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