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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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収穫祭


その日の夜。

「あーあ、いい仕事見つからなかったなー」
「プーン」

運河沿いの石段の上を歩きながら、ルーシィは家へと足を進めていた。

「じょーちゃん、危ねーぞ」
「つーかあの子、本に載ってなかった?」

小船から声がかかる。

「今月の家賃、どうしよぉ・・・こういう時ルーがいれば心強いんだけど・・・腹痛なら仕方ないわよね」

そう言いながら、脳裏に幼さ全開の笑みを浮かべるルーを浮かべる。
確かに今までも、家賃に困ったらルーが手ごろな依頼を持ってくることは多々あったのだ。

「ん?」

溜息をつき、ふと自分の右手を見る。
右手に握られていたのは、白銀の竜の鱗を模したマフラー。

「これ・・・ナツのマフラー。あの時・・・」

エーテリオンを食べた副作用により具合が悪く、帰ろうとしたナツを引き留めようとして掴んだマフラー。
いつもなら気づくのだろうが、ボーっとしていたナツはマフラーがなくなった事にも気づかなかったのだろう。

「よく見ると凄い汚れてるじゃない。洗濯でもしてあげよーかな」
「プーン」
「え?『ルーシィってば優しいっ!』だって?」
「プーン?」
「いいのよ、解ってるから」

とん、と石段を降り、部屋の鍵を開ける。
そっと部屋を覗き、きょろきょろと辺りを見回した。
当然ながら、誰もいない。

「誰もいない、か。何で自分ん家帰るのに、こんなドキドキするのかしら。ま・・・色々あったからね」

呆れたように呟くルーシィ。
こんなに警戒するのは、ナツやグレイ、エルザ達の数えきれないほどの不法侵入にある(主にナツ)。

「さーて、お風呂入ろー!」
「プーン!」

誰もいない事を確認したルーシィは、風呂場へと向かっていく。

「ひっ!アンタ、お湯に浸かるとしおれるの!?コワ!」
「プゥ~ン」

プルーはお湯につかるとしおれる、という新発見。
その後は化粧水を使ってケアしたり、小説を書いたり、歯を磨いたりと寝る支度を進めていく。

「ふあー」

全部を終えた頃にはかなり眠くなっており、欠伸をしながらベッドに向かった。

「おやすみなさーい」

誰に言う訳でもなく呟き、ばふっと枕に顔を埋め―――気づいた。

「ん?」

違和感を感じたルーシィは、そーっと目線を右へと向けていく。
ゆっくりと顔をそっちに向けると――――――

「ぎゃあーーーーーーーーーーーーっ!」

ナツとハッピーが寝ていた。

「ん・・・おはよルーシィ」
「ここあたしん家ー!てかあたしのベッド!」
「あい」
「帰れーーーー!」

近所迷惑になりそうな大声でツッコみを入れるルーシィ。

「あ・・・やっぱダメだ」

しかし、具合の悪いナツは上げた頭をぼふっとベッドに寝かせ、数秒も立たないうちにぐーぐーと眠り始めた。
代わりに眠い目を擦りながら、ハッピーが用件を伝える。

「ナツのマフラー、返してもらおうと思って・・・」
「返すわよ!返すから出ていって!」

とりあえず帰ってもらおうと思い、出ていくよう言うルーシィ。
すると、冷たい風が部屋の中に入ってきた。

「やっぱりここにいた・・・」

はぁ、と溜息の音がして顔を上げると、ベッド近くの窓にティアがいた。
軽くベッドを飛び越え、部屋に着地する。

「ティアまで・・・勝手に入ってこないでよ!」

ここまで来ると怒りは呆れに変わる。

「ギルドを出ていく時マフラーをしてなかったから、アンタが持ってるんじゃないかと思ったのよ。それ、コイツにとって大事なものだから」
「え?」
「イグニールから貰ったんですって」

ルーシィはハッピーにマフラーを渡す。
そして小さく呻き声を上げるナツを見つめた。

「ねえ・・・大丈夫なの?ナツ」
「あい」
「平気よ。コイツの取り柄なんて頑丈な事くらいじゃない」
「ティアはもう平気なの?」
「家にあった魔法薬を呑んだからね。呑んで5分くらいは痛みがあったけど、もう何て事無いわ」

そう言うティアの様子はいつもと変わらず、ギルドにいた時はふにゃふにゃになっていたあの鋭さも元に戻っていた。

「前にもあったんだー。その時はラクサスの雷食べたらこーなっちゃったよ」
「火以外の魔法を食べちゃダメなのね。元々魔法は食べ物じゃないけど」
「だからエーテリオンを食べた時も、火以外の属性があるから1度は吐き出してたわ」

楽園の塔での光景を思い出し、呟く。
あの時はシモンの死により呆然とさえしていたが、冷静さも微量に残っていたようだ。

「てか、何でラクサスの雷を?」
「昔、ナツが勝負挑んだんだよ」
「昔・・・っていうか去年くらいだったかしら?勿論瞬殺されたけど」
「ナツが瞬殺・・・って、そんなに強いの?ラクサスって」

今まで数多くの場面で強いナツを見てきたルーシィにとって、ナツが瞬殺されたという事は驚愕の対象、衝撃的だったらしい。

「認めたくないけど、あの七光りの実力は本物よ。ギルド最強の男候補だし。認めたくないけど」

天敵のラクサスの事を話すのは嫌なのか、「認めたくないけど」を2回繰り返すティア。

「オイラが思うにギルダーツ抜かしたらラクサスが1番なんじゃないかな。あ・・・ギルダーツって皆が『オヤジ』って言ってる人ね」
「あの人は最強に相応しいわよ。掠り傷1つ付けるのさえ不可能に近いし」

ギルダーツを思い出しているのか、ティアは小さく溜息をつく。

「あ・・・でもエルザがいるしなー。ミストガンも強いって噂だし。もちろんティアも強いし、アルカも昔はS級候補って言われてたし・・・ミラも昔はヤバかったんだよ、『魔人』って呼ばれててね」
「ま、魔人!?あのミラさんが!?」
「そうよ。昔はエルザと喧嘩するような人だったんだから」

優しい笑顔を浮かべる天然看板娘に魔人はどうしても結びつかない。

「てか、アルカって昔S級候補だったの?」
「2年前ね。いろいろあって大地(スコーピオン)を失ったから、自ら辞退したの」

失礼ながら、あの面白ければ全てよしがS級候補には見えない。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強決定戦やったら誰が優勝するんだろ!?わくわくするね」
「あたしは身内同士で優劣付けるなんてやだなー。皆『強い』でいいじゃない」
「グレイやエルフマン、クロスとかだって十分強いし・・・ガジルとジュビア、シュランは間違いなく強いよ」
「あら、凄いわね~じゃあまた明日~♪」

早く帰れ、の意味を込め、ハッピーを掴んで床に下ろす。

「あ!これ渡そうと思ってたんだ。ルーシィお金ないって言ってたでしょ?」

すると、ハッピーは何かを思い出したのか背負っているバックの中から四つ折りにした紙を取り出した。

「仕事?」
「・・・じゃないんだけど」

不思議そうに紙を開くルーシィに、ハッピーが説明する。

「来週、この街(マグノリア)の収穫祭だからね。妖精の尻尾(フェアリーテイル)もお祭りに参加するんだよ。右下の方見て」

そう言われ、ルーシィは目線をチラシの右下に向ける。

「ミス・フェアリーテイル!?」
「あい。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女のコ達の美人コンテストだよ。優勝したら50万J貰えるんだ」

それを聞いたルーシィは驚く。

「50万!?家賃7か月分!そしてなんてあたし向き!」
「・・・自分で言うかしら?普通」

ティアが呆れたように呟く。

「ミラやカナも出るけど、ルーシィだって負けてないよ」
「聞いた話じゃ、サルディアとヒルダも出るんですって」
「えーっ!?ミラさんも!?だって週ソラのグラビアやってる人よ」

ギルド1の美人と言ってもおかしくないミラが相手にいては、勝利は遠くなるだろう。

「で、でもあたしの方が若いし!フレッシュな魅力って事で・・・いける!いけるわ50万J!ミス・フェアリーテイル、絶対優勝してやるんだからっ!」
「あれ・・・?さっき身内同士の優劣がどうとか言ってなかった?」

やる気満々のルーシィに、ハッピーの呟きは届かなかった。
そこに、一気にやる気が失せそうな言葉が1つ。

「ああ、言い忘れてたけど・・・私も出るわよ。これ」

ピタリ、とルーシィとハッピーが動きを止める。
これ、とティアが指さすのはハッピーが持ってきたチラシの、右下。
ミス・フェアリーテイルの文字。

「「ティアも出るの!?」」
「出る気はなかったんだけどね。でも、クロスと約束してしまったから」
「約束?」

頷き、続ける。

「ほら、シェラザート劇団の仕事をクロスに行ってもらったじゃない?その時に『じゃあ今年の収穫祭のミスコンに出てくれないか?』って」

約束は守らないとよね、と呟くティア。

「ティ、ティアも出るんだ・・・」
「ルーシィ勝てないかもね」
「うるさいネコ!」

まさかの強敵出現。

「まぁいいわ。出る限り狙うは優勝だけだし。帰るわよハッピー」
「あい」
「ハッピ~ン♪お魚食べてく?」
「ワイロは受け取らないよ」










場所は変わり、ここはシロツメの街北西。
闇ギルド、屍人の魂(グールスピリット)

「どはぁっ!」
「ぎゃあっ!」

その闇ギルドに、突如崩壊が訪れようとしていた。

「俺達を笑ったな。貴様等」

ギルド入り口に立つのは、3人。
逆光で顔は見えないが、1人は頭に触角を思わせる髪が立っている。
1人は若干猫背で、その周りを手のひらサイズの何かが飛んでいる。
最後の1人は髪をアップにし、背中に羽のような物が付いた服を着ていた。

「殴り込みだと!?コノヤロウ!」
「生きて帰すなー!」

その3人の姿を確認したメンバーは武器を片手に向かっていく。

「やだやだ・・・日陰でこそこそしてるギルドが正規ギルドに楯突こうなんて」

髪をアップにした人―――口調や仕草から女だろう―――が扇子で口元を隠す。

「世も末ね」

そう言うと同時に、掛けていた眼鏡を上へずらす。

「!」
「な!」

その瞬間――――向かってきた奴等は、石になった。
武器を構えた状態で、石像に。

「おのれ~!」
「やっちまえー!」

それを見た他のメンバーも向かっていく。
すると、その背後に小さい樽のような形ににっこり笑顔の顔が描かれた何かが現れる。

「ごほぁ!」
「ぐぁ!」

それは回転し、口当たりから光線を放つ。

「な、何だこれは!?」
「ぎゃあああ!」
「がは!」
「うわああ!」

それに似たものが5つ宙を舞い、同時に光線を放っていく。
倒れる人たちにお構いなしに更に光線を放ち―――――

「もういい、ビックスロー」
「ア?」

真ん中に立つ、唯一何もしていない男に止められた。

「もう終わりかヨ?」
『かヨー』

『ビックスロー』と呼ばれた男が言い終わると同時に、エコーするように近くを飛ぶそれも繰り返す。

「これだけ弱くてよくギルドとして成立していたものだ」
「弱いから正規じゃなくなっちゃったのよ」
「足りねぇなァ!俺のベイビー達が暴れ足りねぇとよ」
『たりねー』

そう会話をする3人には、共通点があった。

「それなら、うってつけの話があったな」

そう言う男『フリード』の左手の甲に。

「ああ・・・ラクサスの話?いよいよやるのね」

そう言う女『エバーグリーン』の右胸に。

「俺はこの時をずーっと待ってたんだよ!ベイビー達もなァ!」

そう言う男『ビックスロー』の舌に。





「久しぶりに帰るか。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に」





――――――同じ紋章が刻まれていた。

「た、たった3人に・・・俺達屍人の魂(グールスピリット)が全滅・・・だと?」
「あ、あのロン毛は何もしてねぇ・・・実質2人だ」
「ひいいっ!」

震え、怯え、恐怖する。

「これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)ラクサス親衛隊」

その恐怖の対象の名は―――――――

「雷神衆!」











「雷神衆が帰ってくる。遂にこの時が来たぜぇ」

とある部屋のソファに、ラクサスはいた。

「妖精は共食いを始める。ジジィ・・・お前の時代は終わりだ!」











マグノリアの街は、収穫祭に向けて準備を始めていた。

「街は収穫祭ムード一色じゃのう」
「そうですねー」

こちらもギルドで収穫祭の準備をする為の物を買ってきたマカロフとミラ。
両手いっぱいに荷物を抱えている。

「皆も『ファンタジア』の準備で忙しいって」
「あれは我が妖精の尻尾(フェアリーテイル)が大陸に誇れる大パレードじゃからな」
「お、ミラ!」

そこにアルカが現れる。

「買い出しか?重そうだな・・・俺が持つよ」
「ありがとう」

バケットが3本ほど袋から姿を見せているミラの荷物を抱え、その隣を歩く。

「ラクサスも参加すればいいのにね」
「奴の話はよせやい」
「?何の話だ?」
「ファンタジアの話よ。ラクサスも参加すればいいのに」
「いあ、アイツが出たらティアが出ねぇだろ」

ただでさえアイツを出すのは一苦労なんだぞ、と困ったように肩を竦めるアルカ。

「レビィから聞いたんですけど、街には帰って来てるらしいですよ」
「あ、俺も聞いたぞ。何かガジルにいろいろあったとか」
「何じゃと!?」

ミラとアルカの言葉にマカロフは驚愕する。

「・・・」
「どうしました?マスター」
「・・・よりによってこんな時期に・・・」

溜息をつき、そう呟くマカロフ。
その脳裏に、昔の光景が流れた。








「じーじ、じーじ!」

紙吹雪舞うマグノリアの収穫祭。

「じーじはファンタジアに参加しないの?」
「今年はお前と一緒に見るって約束じゃろう?」
「そっかー」

満面の笑みを浮かべるのは、幼き頃のラクサス。
今とは真逆の素直そうな表情をしている。

「俺も早く妖精の尻尾(フェアリーテイル)入りてぇなー」
「まーだ早いわい」

嬉しそうに、楽しそうに笑うラクサスにマカロフが呟く。
沢山の人で溢れかえるマグノリアの街。

「見えねぇ」
「じゃの」

多くの大人が壁を作っており、子供だったラクサスがぴょんぴょん跳ねても全く見えない。
その様子にラクサスは悲しそうに視線を落として沈黙し―――――――

「!」

そんな孫を見たマカロフは魔法で巨大化し、ラクサスを肩車した。

「うわぁ・・・」

目の前に広がる光景に、声が零れる。

「どうじゃ、ラクサス。あれが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士じゃ」

魔法が舞い、輝き、煌めく。

「すげぇ」

その光景を見たラクサスの目が輝いた。

「すげぇよ、じーじ。俺のじーじはサイコーのマスターだぁ!」










「いつからあんな風になっちまったんじゃろうな・・・ラクサス」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
突然ですが、皆さんにちょっと聞きたい事が。
クロス達のチーム、名前がないんですよね。
レビィ達は『シャドウ・ギア』、あと『ヤングメガデス』ってチームがあるらしいし、ギルドは違うけど『トライメンズ』とか・・・基本チームにはチーム名があるものですが。
という訳で、何か「これだ!」って名前はないですかね?
私には思いつかなくて・・・。

感想・批評、お待ちしてます。 
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