Element Magic Trinity
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バトル・オブ・フェアリーテイル編
その男、ラクサス
ここはとある田舎町。
そんな街の酒場『KING・BAR』では、笑い声が響いていた。
「ださすぎんぜ、妖精の尻尾!」
「何でこんな奴等がハバ利かせてんのかねぇ」
「何でギルド内にプールとかあんだよ、意味わかんねーし」
「見ろよコイツ、弱そー」
ぎゃははははっと笑う男達が見ているのは、今週発売された週刊ソーサラー。
妖精の尻尾の大特集という事で取材が入ったあれだ。
「ぎゃははは!」
男達は笑う。
―――だから、気づくのが遅くなった。
「あ?」
顔を怒りに染め、こっちを見下ろす形で鋭く睨む、ラクサスがいる事に。
「!」
「こ、こいつ、妖精の尻尾のラクサスだ!」
「何でこんな田舎の酒場に・・・!?」
「し、失礼しましたァ!」
その姿を確認した瞬間、男達は慌てて逃げ出す。
傾いたテーブルから落ちた週刊ソーサラーを、拾う事はせず表紙だけ見つめ、呟く。
「バカ丸出しもいいトコだぜ、ジジィ」
そう呟き終えたと同時に、手を叩く音が酒場に響く。
「いっやー!ぎゃっほっほー!さすがは有名人。ニラミで人を蹴散らすなんて・・・シビレますな~」
ぱんぱんと手を叩き、バカにしたように言う男。
アフロヘアに猿のような顔、今にもはち切れそうなまでに膨らんだシャツ、たくさんの指輪がついた指。
「マスターマカロフの孫・・・でしたっけ?こういうの何て言うんです?親の七光でいいのかな?ぷぅ~、だっせぇ」
ぎゃほほほ、とやはり猿とかゴリラをイメージさせる笑い声を上げる。
『七光』という言葉に、ラクサスはギルドにいる自分が嫌いな口の悪い少女を思い浮かべながら、男を睨みつけた。
「おお~、怖い怖い」
酒場中がざわつく。
「ザトー・・・揉め事はやめてくれよ~」
「こんな腰抜けギルドともめても、一銭にもなりゃしねぇさ。ダラス」
頭に瓶を付けたこのバーの店員『ダラス』の言葉に、『ザトー』と呼ばれた男は更に笑う。
「ザトー?聞いた事もねぇ名だ」
「ええ・・・ええ!そうでしょうねぇ。ウチらは暗闇でこっそり仕事してますからねぇ。本に載って醜態さらす事も敵いませんわ~」
それを聞いた瞬間、ラクサスの髪辺りからバチバチと電撃が音を立てる。
「そんなに死にてぇなら手伝ってやろうか?」
「お、お客さん!やめておいた方がいいですよ!ザトーは・・・」
「外に出な」
ダラスの言葉を遮るように、ラクサスが言う。
「ぎゃほー、外に出んのは」
俯き、サングラスを直し―――――
「テメェ1人だヨ」
顔を上げた瞬間、キランとサングラスが光った。
「!」
異変に気付いたラクサスが目を見開いたのもつかの間、酒場の壁を突き破ってラクサスは外へ押し出される。
「ひぃー!」
「きゃああ!」
悲鳴が飛び交う酒場。
「ぎゃほほほほっ!弱すぎんぜ、妖精の尻尾!明日はボインの妖精ちゃん狩りにでも行っちゃおうかなー!」
倒れたラクサスを見て、ザトーは笑う。
自分がラクサスを倒したと・・・思っているから。
「ん?」
だから、気づかない。
「ぎゃぼォグァ!」
地面から突如、雷が自分目掛けて昇ってきた事に。
「うわぁっ!」
「雷が・・・」
「地面から!?」
宙を舞ったザトーはドスッと床に落ちる。
サングラスは割れ、黒焦げになっていた。
「ザトーが!」
「あのクレイジー・モンキーザトーがこうもあっさり!?」
「ウソだろ!?」
「何者なんだ、あの男!?」
酒場が別の意味でざわつくなか、左手を地面につけた状態のラクサスは、ただ呟く。
「くだらねぇ」
そしてゆっくりと、顔を上げる。
「いつから俺のギルドはこんなになめられるようになりやがったァ・・・ジジィ・・・」
その顔には、明らかな怒りが浮かんでいた。
そんな空気の中、ダラスはオロオロと震える。
(ま、まずいぞ・・・ザトーがやられるなんて・・・あの方たちが報復に出なければいいが・・・)
一方、そんな田舎町で自分達がバカにされているとは知らない妖精の尻尾では。
「う~ん・・・あたし1人で行けそーな仕事あるかな~」
腰に手を当て、ルーシィが依頼板を見つめていた。
すると、隣で同じように仕事を選んでいたナブが声を掛ける。
「1人?ナツやグレイ達と一緒に行かねーのか?」
「それがね~」
ルーシィは、溜息まじりにいつも一緒に仕事に行くチームメンバー及び最強チーム傘下のメンバーの事を話す。
『悪ィな』
グレイはというと。
『しばらくコイツのめんどー見ろって言われててさ』
『お仕事行ってきます♪グレイ様とジュビアの【2人で】』
『あ・・・そう』
ギルドに入ったばかりのジュビアの面倒を見ろと言われ、2人で仕事へと出かけていった。
エルザはというと。
『新しい鎧に不具合があった!胸がキツイ!けしからん!これからHK社に抗議に行ってくる!』
『頑張って』
新しい鎧の不具合を抗議するべく、鎧を作ったハートクロイツ社へと出かけていった。
アルカはというと。
『ごめんなルーシィ。あとちょっとでこのジグソーパズル完成しそうなんだ。終わるまで仕事にゃ行けねぇ』
『そ、そう・・・』
1000ピースほどの風景画のジグソーパズルと格闘していた。
そしてこんな時こそやって来そうなルーはというと。
『ルー?アイツならまた腹痛起こして家にいるぞ』
『あら・・・』
腹痛を起こし、そもそもギルドに来ていなかった。
「ナツとティアがいるだろ?」
「はぁー・・・見てあれ」
ナブの問いに溜息をつきながらルーシィが指さす。
その先には、今名前が挙がった2人がいるのだが・・・。
「ナツ!ホラ・・・火だよ。食べて」
「食欲ねぇ」
「ティア。お前の好物のリンゴだ。ほら、食え」
「悪いけど・・・今は食べる気にはならないわ・・・」
よく食べるナツが火を見ても食べようとせずにボーっとしており、その隣に座るティアも、テーブルに突っ伏していつもの鋭さを失っていた。
「どーしちまったんだあの2人!」
ボーっとする所を見た事が無いような性格の2人の姿に、ナブは驚愕する。
「今頃になってエーテリオンを食べちゃったり吸収したりした副作用でも出てるのかしら」
ルーシィがそう言う間にも、ナツはくらくらと体を揺らした後、バタンと後ろに倒れてしまった。
「ありゃあ当分仕事はムリそうだな」
「でもねっ!何か仕事行かないと、今月の家賃払えないよォ~。ナブ手伝って!」
「俺はやめとくよ。自分にしか出来ねぇ仕事をずっと探してんだ」
「何それ・・・」
ナブのよく解らない言葉に呆れながら、ルーシィは再び仕事を探していく。
「『魔物退治』・・・なんかできる訳ないし・・・『深海の宝探し』・・・も、あたし1人じゃな~」
ルーシィに討伐系の依頼は難しい。
いつもなら困ったらとりあえず相手をぶん殴るタイプのナツ達がいるからまだ大丈夫だが、今回はそれがないのだ。
「ん?『子供向け魔法教室の先生募集』!?これなら!」
漸く自分にも出来そうな依頼を見つけ、その依頼書に手を伸ばす。
が、横からその依頼書を取る腕が伸び、ルーシィより早く取っていってしまった。
ピタッとルーシィの動きが止まり、その依頼書を取ったガジルに目を向ける。
「ちょっと!それ、あたしが見つけた・・・」
「早いモン勝ちだろ?」
「つーかアンタ、こんな仕事できんの!?」
まぁ、ルーシィのいう事も解る。
ガジルは顔が強面というか、少し怖い。
子供向け魔法教室には向かないだろう。
「どんな仕事やろうが俺の勝手だろーが。それに、こういうのはアイツの得意分野なんだよ」
そう言って、ガジルは視線をギルド入り口辺りに向ける。
ルーシィもそっちを見ると、いつもと変わらない膝丈のメイド服を纏ったシュランがいた。
「あの子、いつもメイド服よね・・・そういえば、アンタ達っていつも一緒にいるけど、どうして?」
元ギルドが同じだから、とも考えられるが、そういえばこの2人はファントム時代も一緒にいた。
何か理由があるのだろうが、誰も理由を聞いていない。
「テメェにゃ関係ねぇだろ。はりつけんぞ、バニーガールさんよォ。行くぞシュラン」
「はい」
ガジルはその理由を答えず、理由とは別の言葉を残して立ち去る。
その後をシュランが追い、2人は仕事へと向かっていった。
「キィー!くやし~!」
ガジルの態度にルーシィは地団駄を踏む。
そんな様子を柱の陰から見るメンバーが3人。
「調子コキやがって、あのヤロォ」
「気に入らねぇ」
「やっぱコワイな~、ルーちゃんとシュランってスゴイ・・・」
チーム、シャドウ・ギア。
ジェットとドロイは苛立たしげに呟き、レビィは体を震わせる。
「ねぇねぇナツってばぁ!アイツに何か言ってやって!」
がくんがくんと未だに調子の悪いナツを揺らしながら叫ぶルーシィ。
揺らされながら、ナツは鼻を動かす。
「お前、ワキの下くせぇぞ」
「サイテー!」
ナツの失礼な発言に、ルーシィは容赦なく顔面を殴る。
「やっぱ帰ろ・・・調子悪ィ・・・」
「あい」
「待ってー仕事行こーよ!家賃払えないんだってばー!」
「お・・・おお・・・」
歩くのすらやっとなほどに調子の悪いナツが帰ろうとするのを、家賃が払えないルーシィは止めるべく、ナツのマフラーを引っ張る。
「きゃっ!」
「ぐもぉ!」
すると、するりとナツのマフラーが外れ、ナツは背中が床に直撃し、ルーシィは尻餅をついた。
「んじゃなルーシィ・・・」
「今日はもう寝た方がいいよ」
「うん」
「うわーん!」
が、ナツは何事も無かったかのように、やはりフラフラと歩きながらハッピーと帰って行った。
「ティア。お前も帰った方がいい」
「・・・そうね。帰りましょうか」
「待ってよティア!ねぇっ、仕事!家賃が払えないの!」
ヴィーテルシアに言われ、ティアもフラフラと立ち上がる。
そんなティアに声を掛けると、気分が悪いからかいつも以上の冷たさで睨まれた。
「アンタの目は節穴?こっちは気分が・・・悪いのよ。他人の家賃の為に・・・どうしてこんな状態で仕事なんか行かなきゃいけないの・・・てか、アンタだって魔導士なんだから、仕事の1つや2つ1人でこなしなさい。いつも人に頼ってばかりいるから・・・こういう時困るのよ・・・」
頭痛がするのか頭を押さえながら、ティアは途切れ途切れに呟く。
「フラフラしているぞ、ティア。乗れ」
「・・・悪いわね」
「気にするな」
ナツ同様、歩くのすらやっとなティアを心配するヴィーテルシアは、先にギルドを出る。
そして自分の魔法を使い、姿を狼から人間へと変えた。
銀髪を後ろで1本の三つ編みにし、花弁のような形のスカートのワンピースを着た少女となったヴィーテルシアは、自分の背にティアを乗せ、軽い足取りで家へと帰っていく。
「ティア!一緒に仕事ーーー!」
ルーシィの叫びだけが、そこに残った。
ガジルとシュランは、マグノリアの広場にいた。
仕事に行く予定だったのだが、呼び出されたのだ。
「こんな所に呼び出して何のつもりよォ。俺達ぁこれから仕事なんだヨ」
ガジルは自分達を呼び出した張本人、前に立つジェットとドロイを見つめ、そう言った。
「仕事だァ?ギルドを壊した張本人2人が何言ってんの?」
「仕事ならどのギルドでもいいだろーが!空気読めねぇのか?」
苛立たしげにジェットとドロイが言う。
彼らにはギルドを壊された、という事と、もう1つあるのだ。
「器の小さい奴等だねぇ。過去の事をネチネチ・・・ギヒヒ」
「かつて破壊したギルドに破壊者は加入禁止等という人種差別的法律は存在致しませんわ」
その2人の言葉に対し、ガジルは挑発的に笑い、シュランはやはり淡々と告げる。
「やめようよ・・・ジェット、ドロイ・・・私・・・あんなのもう、全然気にしてないよ」
あんなの・・・それは、妖精の尻尾と幽鬼の支配者の抗争の際。
チーム、シャドウ・ギアの3人は、ガジルとシュランの強襲を受けたのだった。
「俺達のケジメだよ」
「やられたままじゃ、妖精の尻尾の名折れだ」
「フン」
笑みを崩さず、ガジルが鼻で笑う。
「余裕かましてられんのも今のウチだぜ!」
そう言うと同時にジェットは自身の魔法、神速で素早く動き、ガジルに拳を決める。
「くっ」
ガジルは何の抵抗もせず、それを受ける。
「秘種!」
その間にドロイは肩から下げた容器から種を辺りに巻く。
その種はドロイの魔法、植物によって急速に成長した。
「ナックルプラント!」
「うぐっ」
「うあっ」
急速に成長した植物は先端が拳のようになっており、その拳がガジルとシュランを殴る。
「隼天翔!」
「ぎっ」
「ガジル様!」
ドロイの攻撃に続き、畳み掛けるようにジェットの超高速飛び蹴りがガジルに決まる。
が、またしてもガジルは何の抵抗もなくそれらを喰らい、吹き飛ばされた。
「大丈夫ですか!?」
それを見たシュランは慌ててガジルに駆け寄る。
「おいコラ・・・何のマネだ」
「テメェの力はそんなモンじゃねぇだろ」
こっちに全く手を出さず、防御態勢すらも取らないガジルを睨みつけるジェットとドロイ。
すると、そこに足音が近づいて来た。
「これは何のイジメだ?あ?」
突然後ろから聞こえてきた声に振りかえる。
そこにいたのは、金髪に豹柄のような模様のシャツ、コートに腕を通さず肩にかけた男。
「ラクサス!?」
妖精の尻尾最強の男候補の1人、ラクサスだった。
「なるほど・・・こいつ等が俺のギルドに上等かましてくれたガキ共か。ジジィの奴・・・またやられねぇ為に仲間にしやがったのか?」
そう言いながら、ラクサスはづかづかとガジルに歩み寄る。
「そんなんだからなめられんだよ、クソが」
そう言い放つ顔は、怒りに染まっていた。
「っ離れろシュラン!」
「きゃあ!」
ラクサスから放たれるただならぬ殺気を感じたガジルは、シュランを突き飛ばす。
突き飛ばされたシュランはゴロゴロと地面を転がり、メイド服の真っ白なエプロンは茶色くなっていた。
「ぐああああっ!」
直後、ガジルに激しい雷が落とされる。
「テメェのせいで・・・」
「ぐああああ!」
ラクサスは怒りをガジルに向け、更に雷を放っていく。
その光景にジェットやドロイでさえ恐怖に似た感情を抱いた。
「よ・・・よせよラクサス!やりすぎだっ!」
ジェットが静止の言葉を掛けるが、ラクサスは止まらない。
「いくらラクサスが強ェからって・・・こうも一方的なものなのか・・・」
「違います」
ドロイの震える呟きを、シュランが即否定した。
シャドウ・ギアの3人の目がシュランに向かう。
「オ、オイ!ガジルを助けねーのかよ!」
「そのような命令は受けていません」
「命令どうこうの話じゃねーだろ!お前・・・」
ジェットが言いかけ、止まった。
シュランはぎゅっとワンピースのスカート部分を掴み、耐えるような表情を浮かべている。
「私が受けたのは・・・『手を出すな』という命令だけ。ガジル様がそれを撤回し、別の命令を出すまで、私はこの命令を受け続けるだけです」
その言葉に、3人はようやく気付いた。
何故ガジルが手を出さず、防御もせず、ただ攻撃を受けていたのか。
「ま、まさかガジルの奴、初めから・・・」
「私達の仲間って認めてほしいから、手を出さずに耐えようと・・・」
ジェットとレビィが呟く。
「う・・・うう・・・」
ラクサスの怒りを表すかのように強力で激しい雷を喰らったガジルは、地面に倒れる。
「テメェのせいで俺達はなめられてんだァ!死んでワビろやオオ!?妖精の尻尾に逆らう奴は全員殺してやるァァ!」
しかしラクサスはそんな状態のガジルを見ても攻撃を止めず、雷を纏った足でガジルを何度も踏みつける。
「やめろラクサス!もういい!」
見かねたジェットがもう1度静止を声を上げる。
「うるせぇよ!ザコは黙ってろや!」
が、それに逆上したラクサスは、雷を放つ。
しかしその雷が向かう先にジェットはいない。
いるのは―――レビィ。
「「レビィ!」」
「ひっ」
それを見たレビィは身構える。
そして、雷は当たった。
「ぐぎっ!」
―――――レビィを庇う形で前に立った、ガジルに。
「ガジル・・・」
痛みが来ない事を不思議に思ったレビィが恐る恐る目を開き、驚愕する。
「レビィを守った・・・のか」
「お前・・・」
その行動に、ジェットとドロイも動揺と驚愕を隠せない。
ヨロッとよろけながらも、ガジルは自分の荷物を手に取る。
「もういいか?仕事があるんだ」
「あ・・・あの・・・」
「放っておいてくれ。行くぞシュラン」
「仰せのままに」
荷物を引き摺りながら歩くガジルの横に並び、その腕に治癒の蛇を巻きつけるシュラン。
「あ・・・」
その後ろ姿を見送ったラクサスも怒りが冷めたのか、その場を後にする。
(くだらねぇ・・・妖精の尻尾・・・俺が目指すギルドはこんなんじゃねぇ!)
マグノリアの街を歩きながら、ラクサスは拳を握りしめる。
(ガマンの限界だ!妖精の尻尾は俺が頂く!)
後書き
こんにちは、緋色の空です。
話の中でルーシィが「どうしてガジルとシュランは常に一緒にいるのか」を訪ねてますが、いつかちょっとやるかも知れません。
一応、考えてはいるんですよ。
書くタイミングがないだけで・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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