我が剣は愛する者の為に
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黄巾の乱
前書き
更新遅れて申し訳ないです。
春蘭、季衣、秋蘭が賊の鎮圧を終えて戻ってきた。
鎮圧と言っても完璧に倒したのではなく、相手は不利な状況になればすぐに撤退するらしい。
春蘭も歯ごたえのない相手に少し苛立ちを覚えている。
賊が集団を作って街を襲うと言う報告を聞いたのは今日で三度目。
彼女達は一度目の報告を聞いてから続けて、二回賊達の相手をしているのだが、さっき言ったように不利になったら撤退するという戦法を取っている。
そして、報告を聞いた俺達の視線を集めているのが、秋蘭が持っている黄色い布。
「そう・・・やはり黄色い布が。」
受け取った華琳は黄色い布を見ながら言う。
幾度となく現れる賊の集団に共通しているのは、撤退する戦法と黄色い布を身につけているということだ。
何の予兆もなく現れる集団。
兵の練度は高くはないが、短期間で集団を作り街を襲われたらこちらとしても厳しいものがある。
「桂花、そちらはどうだった?」
「はっ、面識のある諸侯と連絡を取ってみましたが、陳留と同じく黄色い布を身につけた暴徒の集団に手を焼いているようです。」
「具体的な場所は?」
机の上に広げられている地図に石をマーカーの代わりにして、置いていく。
この時代、地図と言うのは非常に貴重な道具である。
一刀や俺が暮らしていた時代でなら、コピー機などを使って量産すればいいが、そんな便利な物がある筈がなく、模写しようにもテリトリーであり、自軍の地の利全てが書かれている地図を量産すれば必ず他国へ流れてしまう可能性もある。
戦いで一番重要なのは情報。
地図は合戦の際、地形を上手く使う為に必要不可欠であり、地形を把握していれば数で負けていても逆転できる。
なので、筆なので地図を書く訳にはいかず、こうして石などでマークしている。
「それと、一団の首魁の名前は張角というらしいのですが、正体は全くの不明だそうです。」
「正体不明とは、些か不気味ですな。」
「兵とか捕えたのであれば、尋問で聞き出せなかったの?」
「したわよ・・・でも誰一人とて張角について誰も口を割らなかったのよ。」
星と月火の発言を聞いた桂花は不機嫌そうに答えた。
賊や暴徒なら簡単に口を割るかと思えば、全く逆だったのだから。
拷問する手もあるが、それは華琳の名を落す事でもあるし、俺も賛成はしない。
「なぁ、縁。
これって・・・」
「間違いなく、黄巾の乱だな。」
俺と一刀は二人だけしか聞こえないように小声で確かめ合う。
黄巾の乱。
張角が起こした農民反乱。
目印として黄巾と呼ばれる黄色い頭巾を頭に巻いた事から、この名称がついたとされている。
これがきっかけで後漢の衰退を招き、劉備、曹操、孫策といった英雄が頭角を露にする。
(となると、俺達が独立する時はここだな。
華琳には悪いが、利用させて手柄を取らせてもらう。)
実際、華琳も俺の思惑に気づいているだろう。
彼女も俺の立場なら同じことを考える筈だ。
「ねぇ、この暴徒の名前、黄巾党って名前にしないか?」
「黄色い布を身につけ徒党を組む暴徒、悪くないわね。」
「一刀さん、その黄巾党という名前も天の知識なのですか?」
華憐に聞かれ、一刀は頷く。
「なら、それ以上、奴らについての情報は聞かないわ。」
「だな、天の知識は絶対に合っている保証はないし、下手すれば混乱を巻き起こす種になりかねん。」
「了解、注意しておくよ。」
曹操や夏候惇などが男の筈なのに、女になっている時点で俺や一刀が持っている知識はほとんど意味をなさない場合がある。
何より司馬懿、もとい胡蝶が曹操ではなく一応だが俺の下に来ている時点で歴史は変わっているからな。
転生する際、麻奈は歴史とか気にするなみたいなこと言っていたけど、少し心配ではある。
「黄巾党という名前は貰っておきましょう。
他に新しい情報を持っているのは?」
一同に視線を向けるがさっき桂花が伝えた情報以外ないのか、誰も口を開かない。
「なら、まずは情報収集から。
張角の正体を掴まないことには話が進まないわ。」
軍議はこれで終わりと言う空気が漂った瞬間、慌てて兵士が入ってきた。
「会議中失礼します!
南西の村で新たな暴徒が発生したと報告がありました!
また黄色い布です!」
さっき春蘭達が鎮圧してきたのに、またこれだ。
「休む暇もないわね。」
「全くだな、して華琳殿よ。
誰を向かわせるおつもりで?」
「はいっ!
ボクが行きます!」
豪鬼の問いに答えたのは華琳ではなく、元気よく手を挙げた季衣だった。
「季衣ね。」
いつもなら立候補した季衣を向かわせる華琳だが、今回は何も答えず何か考えている。
「季衣、お前は最近働き過ぎだぞ。
ロクに休んでいないだろう。」
「だって、春蘭様!
ボクの村のように困っている人達を救えるようになったんですよ!」
「華琳様、ここは私が。」
季衣の意見を無視して春蘭は自分が立候補する。
「どうしてですか!
ボクは全然疲れていないのに!」
無視されたのが頭にきたのか声を荒げながら異議を唱える。
「そうね。
今回の出撃は季衣を外しましょう。
最近、季衣の出撃回数は多すぎるわ。」
「華琳様!」
華琳なら自分を出撃させてくれると思っていたのか、納得いかない表情を浮かべる。
「季衣、あなたのその心は尊いものだけれど、無茶を頼んで身体を壊したら元も子もないわよ。」
「落ち着くのだ、季衣殿。」
「落ち着いてなんかいられないよ!
みんな困っているのに・・・」
「あなたが無茶して、目の前の百人は救えるかもしれない。
でも、その先の未来にいる何万人の人を救えないのに繋がることもある。
分かるかしら?」
「じゃ、その百人を見殺しにするのですか!?」
「する訳ないでしょう!!」
華琳の強く凛とした声が部屋中に響き、季衣だけでなく俺達をも黙らせた。
「季衣、お前が休んでいる間に私がその百人を救ってやる。
だから、お前は休んでおけ。」
「そうですぞ。
季衣の周りには頼れる仲間がいるのですから、存分に頼ればいい。」
「今日の百人も救うし、明日の万人も救う。
救う為に無茶が必要なら幾らでも無茶してもらう。
でも、今はその時ではない。」
春蘭と星と華琳の言葉を聞いて季衣は下を向き、それ以降何も答えない。
実際、季衣は働きすぎていると思う。
俺が知っている中ではもう十数回は出撃しているはず。
ちなみに編成は春蘭ではなく、秋蘭になった。
彼女では情報収集なんて器用な真似が出来る筈がなく、満場一致で秋蘭になった。
季衣も自分の思いを秋蘭に託し、彼女は鎮圧に向かった。
軍議が終わり、季衣は一人で部屋を出て行き、それを見た一刀は心配になったのか様子を見に行った。
俺達も秋蘭の情報に期待しつつ、部屋に集まり地図を眺めていた。
「うーん・・・・」
桂花が軍議の時に印した所に石を置きながら考える。
それに今朝から続く黄巾党が出現した場所などにも石を置いて、俯瞰するように地図を眺める。
『どうしたの、縁様?』
「いや、黄巾党の目的をずっと考えていてな。」
黎の竹簡を見て、報告を聞いた時からずっと考えている事を口にする。
例え情報がなく、目的が分からなくても行動を鑑みて目的などが見えてくるかもしれない。
そう見えてくると思っていたのだが。
「全く見えない。」
「黄巾党の目的がかい?」
椅子に座っている俺にもたれ掛ってきながら、かつ胸を押し付けながら胡蝶は言うが俺は無視する。
無視しないと隣にいる黎や優華が鬼の形相で見ているからだ。
てか、何で優華まで怒っているんだ?
「黄巾党が出現した位置を把握したのはいいんだが、この出現に対する意図が全く見えない。
だって、こことか出てきた所で全く意味がないんだよな。」
地図の上に置いてある石を指さしながら俺は皆に意見を求める。
「もしや、私達を混乱させようとしているんじゃあ?」
「幾ら組織化してきているとはいえ、ここまで考え回らないだろ。
何より相手は飢えに困って賊にならざるを得ない事になった農民とかが大半だ。
そんな彼らが無駄になるかもしれない行動を起こす何て考えずらい。」
その固定概念を持つのは駄目なんだが、どうしてもそうは思えない。
全員が頭を悩ませていると。
「もしかしたら制御できていないのかもしれないわね。」
優華が不意に呟いた。
「どういう事だ?」
「つまり、大きくなり過ぎた組織を首魁である張角が制御できず、結果部下達が勝手に行動しているのじゃあないの?」
豪鬼の質問に優華は答えた内容を聞いて、俺も合点がいった。
それならこの行動にも説明がつく。
「一理ある。
なら、今も大きくなっているのをどうして張角は放っているの?」
俺は月火の問いに答える
「俺の予想だが、張角は人を集める才能があるがそれを纏めて指揮する才能がないんだろう。
だったら質が悪いな。
野心を持って集めているのではなく、勝手に集まった集団を制御できず困っているかもしれない。」
「はた迷惑な野郎だね。」
胡蝶の言うとおりである。
この内容を華琳に一応、報告する必要があるな。
夜、鎮圧に向かった秋蘭が戻ってきて、集めた情報と季衣と一刀が思い出した情報が合わさり張角と言う人物の姿が見えてきた。
「間違いないのね。」
「確かに今日向かった村でも、三人組の女の旅芸人が立ち寄ったという情報がありました。
おそらく、季衣の言った張角と同一人物でしょう。」
「はい、ボクも見た旅芸人も女の三人組でした。」
「季衣の報告を聞いて、昼間に兵士を陳留周辺の村に向かわせたところ、同じ目撃証言を聞いたとのこと。」
秋蘭、季衣、桂花の情報でほぼ確定した。
黄巾党の張角と旅芸人の張角は同一人物であることが。
しかし、分かっていたが女の子か。
「彼女達の目的は、昼に縁が言った推測で合っているでしょうね。」
「歌い手なら、周りが暴走しているという推論も真実味が増してくる。」
「都からもようやく軍令が届いたようだし、これで派手に軍を動かせる訳だけど。」
今になってようやく軍令とか遅いってレベルじゃない。
やはり、朝廷は衰退しきっている。
この乱が終わる時、新たな時代の幕開けになるのが見えていた。
「華琳様!」
「どうしたの?
兵の準備が終わったのかしら?」
軍令が届いてから春蘭は兵を纏めていた春蘭だったが、慌てて玉座の間に入ってきた。
「いえ、それはまだですが。
件の黄巾党が現れたようです。
それも今までにない規模だそうです。」
「相手の方が速かったか。」
後手に回っている事に軽く苛立っているのか、俺の発言を聞いて落ち着かせるように息を吐く。
「本当にね。
春蘭、兵の準備はどのくらいできている?」
「最後の物資搬入が明日の払暁になるので、兵達に休息を取らせています。」
『間が悪い。
このままじゃあ、街が落ちてしまう。』
「えっ、どういうこと?」
「一刀さん、今回の黄巾党は小さい集団が現れていましたが、今回は違います。
小さい集団が集まり、大きな集団となって街を襲っているのです。
これは誰かが指揮をして、辺りの黄巾党を集めているということです。」
華憐の説明を聞いて一刀は納得する。
張角ではないだろうが、指揮できる人物がいると言うのは非常に厄介だ。
「星の言うとおり。
万全の状態で当たりたいけど、準備をしていれば街は落ちてしまう。
どうしたものか・・・」
「華琳様!」
声を張り上げて華琳の名前を言ったのは、軍議が始まってから黙っていた季衣だった。
「華琳様、ボクが行きます!」
「季衣、お前は休んでいろと言っておいただろう。」
休めと言われたのにまだ半日程度しか休んでいない季衣を気遣ってか、春蘭が言う。
「華琳様、おっしゃいましたよね!
無理すべき時はボクに無理して貰うって!
百人の民も見捨てないって!」
「・・・・・・・・そうね、その通りだわ。
春蘭、すぐに出せる部隊は?」
「当直の隊と、最終確認をさせている隊はまだ残っていますが。」
「なら、その部隊を率いて先発隊としてすぐに出発しなさい。
補佐に秋蘭を付けるわ。」
「秋蘭様が?」
いつもなら立場が逆な事に、季衣は若干驚いている。
「秋蘭は最近無理をさせているから、指揮を任せたくないの。
やれるわね、季衣?」
「はい!」
「ただし撤退の指示は必ず秋蘭に従うこと。」
「よろしく頼むぞ、季衣。」
「本体もすぐに編成出来次第向かわせる。」
華琳は桂花に部隊の編制、春蘭は朝に来る荷物を受け取りに向かわせる。
本隊の指揮は華琳、補佐は華憐。
もちろん、俺達も何もしない訳はない。
「華琳、先発隊には俺と豪鬼と一刀を同行する。
黎は桂花の補佐をして部隊の編成を手伝い、星と月火は春蘭の代わりに部隊の編成を。
優華と胡蝶は春蘭について行き、荷物を取りに行くのを手伝え。」
優華はぶつくさ文句を言いながらも胡蝶と共に春蘭について行く。
黎と星と月火も言われた指示を聞いて、行動に移す。
「豪鬼、お前が培った経験を頼りにしているぞ。」
「期待に応えるとしましょうか。」
「俺がついて行く理由は?」
「天の知識が必要になる場面があるかもしれない。
俺には知らない知識、期待しているぞ。」
「縁、ちょっといい?」
一通り指示を終えた俺に華琳に呼ばれ近づく。
「今回の働き次第で、あなたの独立を手伝ってあげても良いわ。」
「・・・・・どういう風の吹き回しだ?」
「この騒ぎに乗って独立を考えているのでしょう?」
「良くお分かりで。」
流石にばれていたか。
「あなたとそして部下の働きは非常に大きなものを与えてくれたわ。
できればこちらに引き込みたいんだけど、そのつもりはないでしょうし。
名残惜しいけど、独立を手伝うと言う形で借りを返さして貰うわ。」
「気前の良くて非常に助かるよ。
なら、結果を出さないとな。」
「そうね、これが失敗したら独立は自分の力でやってちょうだい。」
「任せろ、誰も死なせることなく街も救って見せそう。」
挑発的な発言に軽口で返し、最終確認を取り玉座の間を出る。
馬に乗り込み黄巾党に襲われている街に向かう。
後書き
戦国恋姫出ましたね。
書きますよ、SS
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