久遠の神話

「そうしていました」
『貴女も想う心が強いからこそ』
「そうしていました」
『貴女も辛い恋をしていますね』
「はい」
　その辛い恋、それそのものを思い出しての返事だ。
「それは」
『だからこそ』
「恋程辛いものではありません」
　聡美はここでこうも言った。
「オリオーンとのことも」
『彼は』
「ああした想いをする位なら」
　俯いて、そのうえでの言葉だ。
「もう二度と」
『そう思いますね』
「だから貴女は」
『貴女は私を最もわかっている方です』
　セレネーは聡美に対して告げた。
『私はそう考えています』
「私もです」
　聡美もこうセレネーに返す。
「お姉様は私のことを最もよくわかっておられる方です」
『お互いにですね』
「はい、お互いに」
『しかしですね』
　また言うセレネーだった。
『貴女は私を止めますね』
「お姉様もそうされますね、私の立場なら」
『おそらくは』　
　セレネーの言葉は俯いているものだった、しかし。
　その言葉でだ、こう言ったのである。
『そうしています』
「同じですね、私達は」
『そうなりますね』
「同じだからこそ」
　聡美は自分がセレネーの立場なら彼女と同じことをしていたというのだ、彼女の様に剣士達を戦わせていたというのだ。
　それは何故そうするか、聡美はこのこともよくわかっていた。
「愛は、失うにはあまりにも辛いです」
『はい』
「オリオーンの時の痛みは忘れません」
『私はエンディミオンを失いたくないのです』
　セレネーは言った、はっきりと。
『だからこそです』
「それ故に」
『私は貴女が何をしようとも私の願いを適えます』
　剣士達の願いではない、彼女自身の願いをだというのだ。
『絶対に』
「そうなのですね、では」
　話は平行線だった、聡美もセレネーもそれはわかっていた。
　しかしそれと共にだった、聡美は。
　その去るセレネーにだ、この場で最後にこう言った。
「私はお姉様と同じ様にします」
『そうですか』
「ではまた」
　最後にこう言ってだった、聡美はセレネーの声の方に背を向けた。そうしてだった。
　一人その場を後にした、後には形となるものは何も残さなかった、だがそうでないものは残していったのだった。


第六十五話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１３・４・１７