久遠の神話
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第六十五話 犠牲にするものその四
「例え何があってもな」
「ではです」
ここでまた言う聡美だった。
「勇気を出してです」
「言うべきか」
「双方に」
「双方か」
「由乃さんのご両親だけでなく」
彼等に加えてだというのだ、広瀬のその顔を見つつ言う。
「貴方のご両親にも」
「どちらにもか」
「そうされてはどうでしょうか」
「勇気を出してか」
「はい」
まさにそれを出してだというのだ。
「宜しいでしょうか」
「それはな」
そう言われてもだ、広瀬はというと。
苦い顔になっていた、そしてその苦い顔で聡美に対して言葉を返すのだった。
「出来ればいいがな」
「いいが、ですが」
「はっきり言おう、出来ない」
唇を噛み締めて、そして出した言葉だった。
「どうしてもな」
「何故出来ないかはわかります」
聡美は広瀬のその目を見ていた、広瀬も聡美の目を見ている。お互いに一歩も引かないままのやり取りだった。
「勇気がないからですね」
「俺に勇気はないか」
「他のことに対しての勇気はあっても」
それでもだというのだ。
「そのことに対しての勇気はないですね」
「俺は自分が動くことをこ我っているというんだな」
「断られたらどうしようかと思っておられますね」
また言う聡美だった。
「そうですね」
「それは」
聡美の目を見たままだ、だが。
一歩も引いてはいないが怯んだ、そうなっての言葉だった。
「認めろというのか」
「認めてからです」
はじまりはそこからだというのだ。
「貴方にとっては」
「俺がそのことを認めてか」
「前に出られれば」
「願いは適うか」
「一歩です」
ほんのそれだけだというのだ。
「それだけ出されれば」
「いいか」
「少なくとも」
聡美はこの言葉の後に言いたいことを述べた、言葉には出してはいない。
しかしその後に確かに述べてそして言ったのである。
「貴方はずっと楽に進めるでしょう」
「そうした方がか」
広瀬も重要な部分はあえて言葉の中に含ませ口では言わずに聡美に対して述べたのだった、言わない言葉で。
「俺は」
「受け入れられないことがそこまで怖いですか」
「生憎だがな」
またしても歯噛みしたがそれでもそのことを認めた言葉だった。
「そうだ」
「そうですか、しかしです」
「それでもか」
「認められてからです」
聡美はまたこう告げた。
「全ては」
「俺は絶対に一緒になる」
己の目を聡美の目から離しはしない、若しそうすれば負けになる、そのことがわかっているからそうした。だから由乃には今は言葉で言ったのである。
「絶対にな」
「よくお考えになられて下さい」
聡美も一歩も引かない、そして言ったのである。
「そうして動かれて下さい」
「わかったと答えればいいのか」
「いえ」
聡美は広瀬に対して怯まずに返した。
「動かれるだけで、私は」
「いいか」
「そうです、では」
話を終えた、そうしてだった。
聡美の方から広瀬に頭を下げた、勝負はここではこれで終わった。
そのうえで彼と由乃に背を向けてこう言ったのだった。
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