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久遠の神話

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第六十五話 犠牲にするものその一

                      久遠の神話
                 第六十五話  犠牲にするもの
 広瀬は牧場にいた、そこでだ。
 牛や馬達を見ていた。その彼に。
 作業服姿の由乃が後ろからこう声をかけてきたのだった。
「ねえ、どうしたの?」
「いや、馬や牛を見ていたんだよ」
「そうだったの」
「何に見えたんだ?」
「考えごとしてるみたいにね」
 そう見えたというのだ。
「そんな顔してたから」
「いや、何も考えていないさ」
 広瀬は由乃に顔を向けて言った。
「特にな」
「そうだったのね」
「そんな顔だったか」
「真剣だったわ」
「そうか」
「ええ、けれど違うのね」
「本当に見ていただけだよ。牛や馬を見ていると」
「落ち着くでしょ」
「不思議とな。馬は最初からだったが」
「牛もでしょ」
「豚も羊もな」
 牧場にいるあらゆる動物がだというのだ。
「見ているとな」
「落ち着いてきて癒されるわよね」
「ああ、本当にな」
「動物が好きだとそうなるの」
 好きだと、それならといいうのだ。
「自然とね」
「自然とか」  
「そう、なるのよ」
 こう広瀬に話す由乃だった。
「だからあんたもね」
「そうか」
「実際に最初から馬好きだったでしょ」
「まあな」
 それはその通りだ、だから乗馬部にいるのだ。
「一緒にいて心が和む」
「馬は優しい動物だからね」
「優しくて繊細だ」
 それが馬だというのだ。
「そして牛もだな」
「そうよ、牛もね」
 馬だけでなく牛もだというのだ、由乃はこう返す。
「優しくて繊細な生き物なのよ」
「心は綺麗だな」
「中には悪戯好きな子もいるけれどね」
 由乃は笑ってこうも言う。
「それでも基本はね」
「優しくて繊細だな」
「それで純粋なのよ」
 牛のその澄んだ目を見ての言葉だ。
「ほら、牡牛の目をしたっていうじゃない」
「確かギリシア神話だったな」
「そう、ヘラよ」 
 天空の神にしてオリンポスの主であるゼウスの姉から妹になり正妻でもあるヘラである。何故姉から妹になったかというと彼女もゼウス以外の兄弟も全て生まれてから父神クロノスに飲み込まれ後で末っ子のセウスに父の口から吐き出させられてもう一度生まれた、だから最初はゼウスの姉だったのだが妹になったのである。お産と女性そのものの守護神である。
「あの女神様の目だってね」
「牡牛の目でだな」
「凄く綺麗だって言われているのよ」
「ギリシアか」
「知ってるわよね、ギリシア神話は」
「ああ、よく知った」
 由乃に顔を向けて答えた言葉だ。
「この前な」
「そうよね」
「アルテミスもオリンポスにいるな」
「月と狩猟の女神様よね」
「背が高く髪は銀色で目は緑だな」
「ええ、よく知ってるわね」
「知っている」
 聡美、即ちそのアルテミスのことを思い出しながら語る。 
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