ローリング=マイストーン
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第二章
第二章
足下に何か転がってきた。俺はそれに目を止めた。
「何だこりゃ」
それは小石だった。白い小さな、ダイスみたいな形の小石が俺の前に転がってきていた。
「石か」
何てことはない。本当に唯の石だった。
俺はそれを見て何にも思わなかった。別に気も留めず立ち上がろうとした。その時だった。
「ねえ、おじちゃん」
「おじちゃん!?」
子供の声がした。俺はその言葉にムッとした。
俺はまだ二十代だ。確かにもうすぐ三十だがまだ二十代だ。それでおじさん呼ばわりされると流石に少し頭に来る。
「あのな、おい」
俺は子供の声がした方に顔を向けた。だが顔を向けたところで目を止めてしまった。
「えっ!?」
公園にはベンチと木々があるだけの筈だった。だがそこにあるのはそれだけではなかったのだ。
見ればそこにはジャングルジムもあればブランコも滑り台もあった。砂場まである。町の中によくある子供が遊ぶ公園がそこにあったのだ。
「ここ、こんな場所だったか!?」
俺はそれを見て思わず呟いた。幾ら気に留めていなかったとはいえこんなのは見たことさえなかった。
「どうなってんだ、こりゃ」
「ねえ」
そこにまた子供の声がした。
「ん!?」
「そこの石取って」
それは男の子の声だった。その声の主の子供の顔を見て俺は思わず呟いた。
「御前、確か・・・・・・」
そこにいたのは俺だった。子供の頃の俺がそこにいた。
「何でここに・・・・・・」
「ここにって」
その子、いや俺は驚いた顔になっている俺ににこやかに笑って話し掛けてきた。
「僕、ずっと前からここで遊んでるよ」
「ずっと前から!?」
「うん、皆と一緒にね」
「皆とか」
「そうだよ。それがどうかしたの?」
「あっ、いや」
そういえばそうだった。俺は子供の頃いつも友達と公園で遊んでいた。それを今思い出した。
「それでねおじさん」
「何だ?」
「この前のこと覚えてる?」
「この前って!?」
俺はその言葉に目を顰めさせた。何の話だと思った。
「ほら、前言ったじゃない」
「前って」
やっぱり何のことかわからない。疲れに酔いも回ってきて何のことか本当にわからなかった。
「何の話だよ」
「ほら、石の話」
「石の!?」
「白くて大きな石だよ。僕にくれるって」
「そんな約束・・・・・・したか?」
俺は自分にも尋ねた。だがやはりわからなかった。
「石って」
「覚えてないの?」
「ちょっと待てよ」
俺は思い出すことにした。
「ええと」
だがふと頭の中に思い出してきた。そういえばガキの頃なんか自分が遊んでいた公園によくベンチで座っていた若いサラリーマンの兄ちゃんがいた。よく疲れた顔をしてそこに座っていた。その人によく話し掛けたものだった。今納得がいった。それは俺だったのだ。
「ああ、あれか」
「思い出してくれた?」
「ああ」
俺はその問いに応えた。
「石だよな」
「そうだよ」
「白い大きな石だったよな」
「そうだよ。今持ってる?」
「今は」
持っていないと言おうと思った。仕事が終わったばかりでそんなもの持っている筈がない。筈だった。
たわむれ半分でポケットに手を入れる。すると何かに当たった。
「!?」
「あったの?」
「いや」
あるのだ。何とポケットの中にそれがあった。信じられなかった。
「ああ、あるよ」
俺は応えた。そしてそれを取り出した。
見ればそれは確かに白い大きな石だった。しかし厳密にはそれは石じゃなかった。
「サイコロ・・・・・・!?」
「あれっ!?」
俺もそのサイコロを見て目が点になった。手の中にあるうちは石だったのに。何時の間にかダイスになっちまっていた。
「サイコロ、だよな」
「うん」
もう一人の俺もそれに頷いた。
「サイコロだよね」
「何でこんなモンがここに?」
正直訳がわからなかった。石があったのもわからなかったがそれがサイコロになっているのはもっと訳がわからなかった。酔っていて間違えたのかと思った。
「それでいいよ」
けれど俺は笑顔でそれを受け入れていた。そういえばガキの頃にこんなことがあった。
「おじちゃんがくれるものだから」
「だからおじちゃんじゃねえって言ってるだろ」
「じゃあお兄ちゃん?」
「まだ二十代なんだよ。そう読んでくれ」
「うん、わかったよ」
と応えても次に会う時にはまたおじさん呼ばわりだ。そんなものだ。
「じゃあお兄ちゃん」
「ああ」
俺はそれに応えた。
「有り難うね」
「それで双六でもするんだな」
「うん、そうするよ」
「他にも遊び方はあるけどな」
「他にって?」
「そのうちわかるさ」
博打のことだがそれは教えない。今からそれを教えたら俺はサラリーマンからヤクザになっちまうからだ。
「そのうちな」
「そうなの」
「で、今からそのサイコロで遊ぶのか?」
「ううん」
だが子供の俺は今の俺の言葉に首を横に振った。
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