ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
第一層攻略会議
──ゲーム開始から一ヶ月で二千人が死んだ。
【始まりの街】の中心にある巨大な宮殿、黒鉄宮の、元は《蘇生者の間》であったところには、金属製の巨大な碑が配置され、その表面には一万人のプレイヤー全ての名前が刻印されていた。
なんとも有難い配慮で、死亡した者の名の上には解りやすく横線が刻まれ、横に詳細な死亡時刻と死亡原因が記されるというシステムだ。
最初に打ち消し線を戴く栄誉を手にする者が現れたのは、呆れたことに、ゲーム開始からわずか三時間後のことだった。
死因はモンスターとの戦闘ではなかった。自殺である。
人づてに聞いた話だと、ナーヴギアの構造上、ゲームシステムから切り離された者は自動的に意識を回復するはずだ、という持論を展開したその男は、【始まりの街】南端、つまりアインクラッドそのものの最外周を構成する展望テラスの高い柵を乗り越えて身を踊らせたらしい。
浮遊城アインクラッドの下には、どんなに目を凝らしても陸地等を見つけることはできず、ただどこまでも続く空と幾重にも連なる白い雲が存在するだけだ。
たくさんのギャラリーがテラスから身を乗り出して見守る中、絶叫の尾を引きながら男の姿はみるみる小さくなり、やがて雲間に消えていった。
男の名前の上に簡潔かつ無慈悲な横線が刻み込まれたのは、それから二分後のことだったらしい。死亡原因は《高所落下》。二分の間に彼が何を体験したのかは想像もしたくない。実際に男が現実世界に復帰できたのか、それとも茅場の言葉どおり脳を焼かれるという結果を招いたのかはゲーム内部からは知る術がないのだ。
ただ、そのように手軽な手段でここから脱出できるのなら、すぐに全員が外部から回線切断、救出されていてもよいはずだ、というのがほとんどのプレイヤーの共通する見解だった。
それでも、その男がゲーム世界から消えたあとも、この単純な決着の誘惑に身を任せる者は散発的に出現した。レンを含めたほとんど全てのプレイヤーは、SAO内での「死」に実感を持つことがどうしてもできなかった。
HPがゼロになり、体を構成するポリゴンが消滅するその現象は、あまりにも慣れ親しんだ、いわゆる「ゲームオーバー」に酷似しすぎていた。
多分、SAOにおける死の意味を本当に悟るには、実際に体験する以外の方法はないのだ。その希薄感が、プレイヤーの減少に拍車をかける一因となったのは間違いない。
そして、外部からの問題解決は、結局もたらされなかった。それどころか、何らかのメッセージが届くことすらなかったのだ。
レンは直接目にしてないが、この世界から本当に出られないとようやく理解した時のプレイヤー達のパニックは、狂乱の一言に尽きたという。
わめく者、泣き出す者、中にはゲーム世界を破壊すると言って街の石畳を掘り返そうとする者まで出たそうだ。無論建築物は全て破壊不能オブジェクトで、その試みは徒労に終わったのだが。どうにか全員が現状を呑み込み、それぞれに今後の方針を考え始めるまでに数日を要したと聞く。
そんな激動の一ヶ月間だったが、未だに第一層はクリアされていない。
だが今日、第一層ボス攻略会議が開かれることになった。
集合場所は第一層の村【トールバーナ】の石造りの集会場だった。
レンとユウキが集会場に行くと、近くに見知った顔があることに気付いた。
「あっ、キリト!」
「キリトにーちゃん、おっはー」
前者はユウキで、後者はレンだ。
その声に気付いた革のハーフコートを着た剣士が振り向く。
「よぉ、レン、ユウキ」
笑いかけてきた剣士、キリトの隣にレンとユウキは腰掛ける。
「レベリングはどうだ?」
キリトは笑いながら聞いてきた。
「んー、ボクは昨日上がって12で、レンは18だよ」
ユウキの邪気のない笑顔付きの言葉に、驚愕の表情を浮かべる。
「もうそんなになったのか。俺なんてまだ11なのに……」
そこまでキリトが言った時に、パンパンと手拍子の音がコロシアムに響きわたった。
三人が、音のした集会場の中央に目を向けると、そこには青い髪を持った男性プレイヤーが立っていた。
「はーい、それじゃあそろそろ始めさせてもらいまーす!」
よく通る声が集会場に響きわたる。
「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!」
笑顔でそのプレイヤーは続ける。
「俺の名はディアベル、職業は………気持ち的にナイトやってますっ!」
ディアベルと名乗ったそのプレイヤーは軽い冗談を混ぜ、場を和ませる。
始めは緊張気味だった、集まったプレイヤー達はその冗談に緊張をとき、声援や野次を飛ばす。
その声に手を振って答えたディアベルは一転、真剣な顔をして言う。
「今日!俺達のパーティーがあの塔の最上階でボスの部屋を発見した!」
その内容の重大さにプレイヤー達の間に、ざわめきが走る。
「俺達はボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームをいつかきっとクリアできることを【始まりの街】で待っている皆に、伝えなくちゃならない!それが今ここにいる俺達の義務なんだ!そうだろ?みんな!」
情熱的に言い切ったディアベルにプレイヤー達の拍手が浴びせられた。
それに笑顔で答えつつ、ディアベルは続ける。
「OK!それじゃあ早速だけど、これから攻略会議を始めたいと思う。まずは六人のパーティーを組んでみてくれ。フロアボスは単なるパーティーじゃ対抗できない!パーティーを束ねた《レイド》を作るんだ」
その言葉にユウキは躊躇いもなく、レンとキリトにパーティー申請を送る。周りのプレイヤーも次々とそれぞれ近くにいたプレイヤーとパーティーを組んでいる。
そんな時、レンがユウキの肩を叩いた。
「ん?」
ユウキが頭上にハテナマークを浮かべながらレンを見ると、レンが集会場の端の方を指差す。
ユウキが釣られてそちらを見ると、端の方にポツンと座っている赤いマントを目深に被ったプレイヤーが見えた。
それを見たユウキはにっこりと笑い、レンの頭をわしゃわしゃと撫でて、席を立つ。
「ねぇ、アナタもボク達のパーティーに入らない?」
「……………………」
明らかに警戒している、そのプレイヤーにユウキは慌てて言う。
「あっ、もちろん嫌だったら、今回だけでいいよ!」
「………………………わかった」
やっと喋ってくれた言葉は、ユウキの意表をつく女性の声だった。
そのことに軽く驚きつつ、ユウキはそのプレイヤーにパーティー申請を送った。
すぐに了承が返ってきたユウキの視界右上に、自分とレン、キリトのHPに加え、新たにHPゲージが追加された。
その新しく追加されたHPゲージのすぐ上には───
「ア…ス…ナ、へぇーアスナって言うんだ!よろしくね、アスナ!」
その声にアスナという名前らしい女性プレイヤーは、ビクッと身を震わせる。
「………どうして私の名前が分かったの?」
「あれ?パーティーを組むのは初めてなの?」
「…………………………」
沈黙を肯定と考えて、ユウキは続ける。
「パーティーを組んだら、視界のここらへんに──」
そこでユウキは自分の視界右上のあたりを指差して言った。
「───パーティーメンバーのHPゲージと名前が表示されるんだよ」
「………………三つあるけど」
「ああ、それは──」
「僕達だよー」
ユウキが言いかけた時に、後ろからレンとキリトが来た。
「始めまして、アスナねーちゃん。僕はレンホウ、レンって呼んでねー」
「俺はキリトだ。……アスナって呼んでいいか?」
無言で頷いたアスナにキリトは笑顔を向ける。
「それじゃあよろしくな、アスナ」
一通りプレイヤー間の自己紹介が済んだことを確認した後、再びディアベルが話し始めた。
「よーし!そろそろ組み終わったかな?じゃあ───」
そのよく通る声を大きなダミ声が邪魔をした。
「ちょお待ってんかー!!」
レン達を含めた、その場にいる全プレイヤーが咄嗟に声のした方向、集会場の上の方を見る。
そこには、茶色い髪をツンツンに逆立てさせた小柄な男性プレイヤーがいた。
その男は一気にディアベルのいる、コロシアムの中央に降りる。
「ワイはキバオウってモンや、ボスと戦う前に言わせてもらいたいことがある」
そこでキバオウと名乗ったその男は振り向き、チンピラのような目でプレイヤー全員をねめつけた。
「こん中に、今まで死んでいった二千人に詫びなアカン奴がおるはずや!」
そしてキバオウは誰ともなしにプレイヤー達に指を差す。
そんなキバオウにディアベルが戸惑い気味に声をかける。
「キバオウさん。君の言う奴らとはつまり、元βテスターの人達のこと、かな?」
「決まってるやないか!ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日に、初心者を見捨てて消えよった。奴らは旨い狩場やらボロいクエストを独り占めして、自分だけポンポン強なって、その後もずぅーっと知らんぷりや。」
ここでキバオウは一際プレイヤー全員を睨み付けて言った。
「こん中にもおるはずやで!ベータ上がりの奴らが!そいつらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出して貰わなパーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれん!!」
自信満々に言ったキバオウに、隣のキリトが辛そうな顔をする。
そんな時──
「発言いいか?」
低音の渋い声が言った。
その声とともに席を立ったのは、百八十センチはある体躯を簡素な鎧に包んだ禿頭の黒人プレイヤーだった。
その黒人プレイヤーはキバオウの元に行くと
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ。その責任を取って、謝罪、賠償しろ、ということなんだろ?」
見た目に無駄な迫力があるからか、キバオウは少しどもりながらも答える。
「そ、そうや。」
その返事を聞き、エギルと名乗ったその黒人プレイヤーは懐から、薄っぺらい手帳のようなものを出す。
「このガイドブック、あんたも貰っただろ。道具屋で無料配布してるからな」
「貰たで、それが何や!」
「配布していたのは、元ベータテスター達だ」
噛みつくように言うキバオウに、淡々と答えるエギルの言葉にプレイヤー達にざわめきが広がる。
ここで、エギルはざわついているプレイヤー達に振り向き、言う。
「いいか、情報はいつでも手に入れられたんだ。なのにたくさんのプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえて、俺達はどうボスに挑むべきなのか、それをこの場で論議されると俺は思っていたんだがな」
皮肉たっぷりに言ったエギルは、キバオウの方に振り返る。キバオウは相当不満げながらも、何も言わず手近な席に座る。
エギルも元いた席に戻ると、思い出したようにディアベルが喋り始める。
「よし!じゃあ再開していいかな?」
そう言って腰のポーチから、先程エギルが取り出したのと同じような本を取り出す。
「ボスの情報だが、実は先程例のガイドブックの最新版が配布された。それによるとボスの名前は【イルファング ザ コボルドロード】、それと『ル インコボルド センチネル』という取り巻きがいる。ボスの武器は斧と円盾、四段あるHPバーの最後の一段が赤くなると、曲刀カテゴリの《タルヴァール》に武器を持ち替える。攻撃パターンも変わる、ということだ」
そこでディアベルは開いていたガイドブックを閉じて言った。
「攻略会議は以上だ。最後にアイテム分配についてだが、金は全員に自動均等割り、経験値はモンスターを倒したパーティーのもの、アイテムはゲットした者のものとする。依存はないかな?」
その声に、肯定の声があちこちから上がる。
「よし!明日は朝十時に出発する。……では、解散!」
その一言で第一層ボス攻略会議は終了した。
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
ユウキ「いぇーい!!」(何だか分からないけどノリで騒いでいる)
レン「うるさい」
なべさん「やっと感想第一号が来ったよぉぉぉ!!」
ユウキ「イェーイ!!」
レン「こんな小説に送ってくる読者なんていたのか………」
なべさん「しかも応援メッセージでぇぇぇす!!」
ユウキ「ヤッホォォォォイ!!」
レン「こらこら、事実を隠蔽するんじゃない!ユウキねーちゃんがいるの
が時間軸としておかしいと指摘されたじゃないか」
なべさん「いいじゃん」
レン「いいのか」
なべさん「この世でノリで解決しないものなんてない!!な、ユウキ!」
ユウキ「アッハハー、そーだよぉー!この世でノリで解決しないものなんてないんだよぉぉぉ!!」
レン「ユウキねーちゃん、何か壊れてない!?」
なべさん「えー、という訳で霊獣さん、ありがとうございました。これからも当作品をご愛読よろしくお願いします」
ユウキ「随時、感想、キャラを募集中でーす!」
──To be continued──
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