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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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仲間の為に、他人の為に。


時は遡り、6年前。

「卵だー!卵拾ったー!」

ある日、幼いナツが大きな卵を抱え、ギルドにやってきた。

「卵だぁ?そんなもん一体どこで」
「東の森で拾ったんだ」

すると、その光景を見ていたグレイ(当時12歳)が口を開く。

「何だよ、ナツにしちゃ気が利くじゃねーか。皆で食おーってか?」
「グレイ。服着なくちゃダメだよ~」

上着もズボンもない、早い話がパンツだけ状態のグレイをルー(当時13歳)が注意する。
今と変わらず呑気にニコニコ笑っているが。

「冗談じゃねぇ!これは(ドラゴン)の卵だ!孵すんだよ!」
「「ドラゴン!?」」

グレイとルーの声が重なる。
確かに普通の卵と比べれば大きいが・・・。

「見ろよ。この辺の模様とか竜の爪みてーだし」
「そ、そうか?」
「んー・・・見えなくもない、けど・・・」

模様を指さしながらそう言うナツだが、グレイとルーは首を傾げている。

「ドラゴンの卵?」

と、そこに桃色の髪をツインテールにした少女サルディア(当時9歳)が歩み寄る。

「あ、サルディア!」
「いたのか?」

こくっと頷き、ナツの持つ卵をまじまじと観察する。
鞄から魔法書を取り出し、ペラペラとページを捲りながら首を傾げた。

「うーん・・・確かに見た事ない模様だね。本にも載ってないし・・・ドラゴンの卵の可能性もあるかもね」
「だろ!つー訳でじっちゃん、ドラゴン誕生させてくれ」

ナツはマカロフにそう頼むが――――――

「何を言うかバカモン」

素早く却下された。

「この世界に生命を冒涜する魔法などないわ。生命は愛より生まれるもの。どんな魔法もそれには及ばぬ」

マカロフは大真面目にナツに説明する。

「じっちゃん大丈夫か?何言ってるか全然わかんねぇ」
「よく解らない」
「ガキには早すぎたか」

が、見事なまでにナツには理解できなかった。
ついでにその後ろにいたルーも不思議そうに首を傾げる。
すると、そこに緋色の髪を靡かせた少女がやってきた。

「つまり孵化させたければ一生懸命自分の力でやってみろという事だ。普段物を壊す事しかしてないからな。生命の誕生を学ぶにはいい機会だ」
「エルザ!」

その少女こそ、後にギルド最強の女魔導士と呼ばれるエルザ(当時13歳)だった。

「い、いたのか」
「お、俺達、今日も仲良くやってるぜ」
「エルザ、おかえり」

エルザを見て肩を組みながら後ずさるナツとグレイ。エルザを恐れているのは昔から変わらないようだ。
そしてヒルダ(当時10歳)がエルザに歩み寄る。

「ああ、ただいま。ヒルダは仕事に行かないのか?」
「昨日行ったばかりだからな」

藤紫色の髪を耳にかけ、微笑む。
10歳ながら、かなり大人びた雰囲気を持つ。

「エルザが帰ってきたって?この前の続きやるよ。かかっておいで」

すると、髪をポニーテールにし、露出高めのパンク調な服を着た少女が指をクイクイッとさせ、エルザを挑発する。

「ミラジェーン!」

そう。
そのパンク調な少女とは、幼き頃のミラジェーン(当時13歳)だった。
今のあの優しい看板娘は影すらも見せない。

「ミラ。そういえばまだ決着がついていなかったな」

そう言って睨み合う2人。

「くたばれエルザぁ!」
「泣かすぞミラジェーン!」

そして、殴り合いの喧嘩を始めてしまった。

「エルザの奴、あれで俺達に喧嘩すんなって言うんだから頭くるよな」
「くそー!エルザもミラもいつかまとめてぶっ飛ばしてやる!」

そんな様子をグレイは少し引いた様子、ナツが憤慨した様子で見ていた。
その近くにいたサルディアとヒルダが苦笑いし、ルーが口を開く。

「でも、もうすぐ終わるんじゃない?」
「は?どうして?」
「ほら、赤い悪魔が来たよ」

くいっと顎でギルドの入り口を示すルー。
全員の目がそこに向かい、「ああ・・・」と納得する。

「お・ま・え・ら・は・・・」
「「ん?」」

一言一言区切り、にっこりと笑顔を無理矢理張りつけたような表情をする少年。

「喧嘩すんじゃねーーーーーーーーっ!」
「「フギャッ!」」

その少年はエルザとミラに交互に蹴りを決め、溜息をつきながら着地する。

「ったくよォ・・・お前達はいつもいつも・・・」
「何しやがんだアルカァ!」
「邪魔をするな!」

その少年とは、幼いアルカ(当時13歳)である。
真っ赤な髪を揺らし、変わらないモノトーンの服を着ていた。

「邪魔してほしくねぇなら・・・っ!」

自分に向かってくる緋色の少女と銀の少女を真っ直ぐに見つめ、アルカは構えをとり―――――

「そもそも喧嘩すんなああああああああああっ!」
「「うわあああっ!」」

綺麗に回し蹴りを決めた。
因みに、この時はまだアルカとミラは付き合っていない。
付き合ってたら回し蹴りなんてお見舞いしないだろう。

「っと・・・全く、周りの事も考えろってんだ」
「さっすが『赤い悪魔』」
「そう呼ぶなって・・・」
「えー、でもさぁ。地火の威武(テールフラム・フォルテ)って怖れられてるアルカだよ?赤い悪魔って呼ばれてもおかしくないんじゃない?」
「どうしてそうなるんだよ」

呆れたようにアルカが溜息をつく。

「ねえナツ、その卵あたしも一緒に育てていい?」

すると、ミラの妹のリサーナ(当時11歳)が声を掛ける。

「リサーナ!手伝ってくれんのか?」
「うん!なんか面白そうだし!卵育てんの」
「卵は育てるって言うのかな?」
「さあ?」
「どうなんだろう?」

ナツとリサーナの会話を聞いたグレイとルーとサルディアが首を傾げる。

「って言っても、卵ってどうやって孵るんだろ?」
「昔・・・あっためたら孵るって本で読んだ事あるよ」
「何!?あっためる?俺の得意分野じゃねーか!」

そう言うと、ナツは口から炎を吹き、直に卵に当てる。

「きゃーーーーー!ナツ君ダメだよっ!」
「アホかお前は!」

まさかの直火にサルディアとアルカが叫ぶ。

「ダメだよ!そんなに強くしたらコゲちゃう!」
「そうか?」
「焦げる前に焼き卵になるんじゃ・・・」

そんなナツを必死に止めるリサーナ。
冷静にヒルダがツッコみを入れる。

「ここはあたしの魔法で。接収(テイクオーバー)・・・動物の魂(アニマルソウル)!」

魔法を使ったリサーナは、鳥の姿へと変わった。
これが彼女の魔法、動物の魂(アニマルソウル)である。
そしてその姿のまま卵を包み込む。

「これであっためてみたらどうかな?こうやって」
「やるなリサーナ!」

和気藹々と卵を育て始める2人。
そこに、氷のように冷たい声が響く。


「・・・バカみたい」


近くの席に1人で座っていた少女が、小さく声を零す。
青い髪の一部を指にくるくると巻きつけながら、頬杖をついてナツ達を見ていた。

「ティア・・・」
「何だよ水女!なんか文句あんのかよ!」

ナツはその少女・・・ティア(当時11歳)に突っかかた。
何故かナツはティアを『水女』と呼んでいる。
が、当のティアは冷たく、バカにしたような目を向けた。

「別に・・・アンタみたいなバカに卵なんて孵せるのかしら、と思っただけよ」
「何だとォ!?」
「そのうち、自分で食べてしまうんじゃない?」
「テメェ!」
「何?炎バカが私とやる気?言っておくけど、手は抜かないわよ」
「やめなよ2人とも!」

炎と水。相反する2つが一緒になる事はない。
その通り、ナツとティアは仲が悪い。淡々とティアが呟き、ナツが怒りを燃やし上げる。
一触触発・・・というか、ナツがキレているこの状況を何とかしようと、リサーナが必死で止める。

「相変わらず仲悪いね、あの2人・・・」
「悪いっつーか、ナツが一方的にキレてるだけな気もするぞ」

ルーとアルカが呟く。
すると、そんな空気の中に明るい声が響いた。

「ティアちゃーん!たっだいまー!」

底抜けに明るい声にティアが反応し、ギルドの入り口付近を見る。

「イオリさん」
「イオリ!」

ニコニコと嬉しそうに笑うイオリは暖色の髪を揺らし、マカロフに向かって歩いていく。

「マスター!ただいま!」
「イオリ、帰っておったのか」
「うん、今さっきね」

そう言って荷物を置くと、腰に手を当ててティアを見つめる。

「それじゃあティアちゃん、今日も特訓いっくよー!」
「はいはい・・・テンション無駄に高いとウザいんで、ほどほどにしてくださいね」
「ちょっとティアちゃん!師匠に向かって失礼だよ!」
「師匠だとは思ってません。他人です」
「何てクールなのあなたはぁ!」
「それと自惚れる気はありませんけど、もうギルドに入って7年なので修業も特訓も必要ないです。それに、どうして自分より実力のない人を師匠にしないといけないんですか」

どっちが師匠でどっちが弟子か解らなくなる会話をしながら、イオリはティアの背中を追ってギルドを出ていく。
ギルドを完全に出る前、ティアはふと後ろを振り返り・・・

「ま、せいぜい頑張る事ね。自分で食べないように」

小さく舌を出し、嫌味を残して行った。









「ナツー!」
「ハッピー」

時は戻り現在。
ナツの元にはハッピーが飛んできていた。

「1人で何やってるの?」
「ちょっとな」

気のせいか、ナツの声にいつもの元気はない。

「てか、さっきから何1人でぶつぶつ言ってたの?」
「は?」
「聞こえたんだ。『あん時ティア性格悪かったよなー』とか『エルザはやっぱ怖ぇよなー』とか」

どうやら、6年前の事を思い出している間に自然と声が零れていたようだ。

「ねぇ、教えてよナツ」
「おう、それがな・・・」

相棒に屈託のない丸い目を向けられ、ナツは先ほど蘇らせていた6年前の事をハッピーに話す。
しばらくして、ハッピーは首を傾げた。

「ナツって昔、ティアの事『水女』って呼んでたの?」
「まぁな。最初はアイツが『炎バカ』って呼んできたし。だからお互いを名前で呼んだ事はなかったんじゃねーかな」
「でも今は普通に『ティア』って呼んでるよね?ティアも『ナツ』とか『バカナツ』って。いつから名前で呼ぶようになったの?」

ハッピーの問いに、ナツは首を傾げる。

「ん?そーいや・・・いつからだ?」
「覚えてないの?」
「いあ、名前で呼び始めたのがいつかは覚えてんだけどよ。毎日口喧嘩しなくなったのはいつからだったかなーと思って」
「今もよく喧嘩してるじゃん。今日も」
「でも毎日じゃねーだろ?前は1時間に1回のペースで口喧嘩してたんだぞ」

それは喧嘩しすぎだ。

「じゃあ、何時から喧嘩の回数が減ったの?」
「んー・・・そうだ!あの日からだ!」

ナツは思い出したようにポンと手を叩くと、その日の事を話し始めた。










時は再び6年前。
ナツが卵を見つけてから数日が立っていた。

「ナツ~、まだ着かないの?」
「もうちょっとだって」
「それさっきも言ったわよ炎バカ」

卵を抱えたナツとリサーナ、ティアは東の森へとやって来ていた。
この3人はナツが卵を拾った場所に向かっているのである。

「つーか、何で水女までいんだよ?」
「好きでいるんじゃないわ。卵の話を聞いたイオリさんが『じゃあティアちゃんにも育ててもらおーっと』なんて無責任な事言ったからよ・・・」

はぁ、と溜息をつくティア。

「別にお前の力なんていらねーけどな」
「私もアンタの力なんてアテにしてないわよ」
「んだとテメェ!」
「喧嘩はダメ!」

口喧嘩しかけるナツとティアをリサーナが止める。

「3人で協力して卵を育てようよ!ね?」
「無理!」
「嫌」
「即答!?」

まさかの即答に驚くリサーナ。
それとほぼ同時に、3人は卵を拾った場所に辿り着く。

「ここで卵を拾ったの?」
「おう!この木の上から降ってきたんだ」

ナツは1本の大木を指さしながら言う。

「だったら普通に考えて、それはその辺に巣を作ってた鳥の卵じゃない」
「違う!これはドラゴンの卵だ!」
「生憎、推測を簡単に信じるなんて事は出来ないのよ。何の根拠があってドラゴンの卵だと言い切れるの?」
「だから、こことか竜の爪みてーな模様じゃねーか!」
「だからと言って中身がドラゴンとは限らないじゃない。それに、竜の爪なんて見た事ないし。いや、そもそもドラゴンを見た事ないわね」
「喧嘩はダメって言ってるでしょーーー!」

変わらず淡々と言葉を口にするティアにナツがキレる。
そして再びリサーナはそれを止めようとし―――――――

「!」

突然、大きな足音が響いた。
3人の視線が音のした方へ向く。

「ウホッ!」
「「出たーーーーーっ!」」
「凶悪モンスターゴリアン・・・別名森バルカン・・・」

ハコベ山などに生息するバルカンの亜種ゴリアン、別名森バルカン。
森などに隠れたら見えなくなるんじゃないかと思うほどに、その姿は自然と一体だったりする。
そしてそんな森バルカンの大好物は・・・

「卵♪食うからよこせ」

卵だった。

「んだとコラ!?俺の拳でも・・・食っとけーー!」

叫びながらナツが拳を振るう、が。

「ウホホ!かゆいかゆい♪」

全く効いていなかった。
その拳はこんなにデカいモンスター相手にダメージを与えられる程のものではない。

「クソザルー!」

ナツは負けじと再びバルカンに向かっていき、何度も殴る。

「ホイ!」
「ぐあぁ!」
「ナツ!」

が、森バルカンの腕の一振りによって吹き飛ばされた。

「コノヤロー・・・!」
「止めなさいな炎バカ!相手とアンタじゃ体格が違いすぎる!」
「うるせー!」

ティアの静止を振り切り、ナツは森バルカンへと向かっていく。
しかし、またもや吹き飛ばされてしまい、大木に叩きつけられその場に倒れる。

「くっ・・・そぉ・・・」

地面に倒れたナツは起き上がろうとするが、ダメージが残り上手く動けない。

「っ・・・入って1年の新人が!」
「ティア!?」

その姿を見て、見かねたティアは森バルカンへと向かっていく。
歳は対してナツと変わらないのだろうが―――ナツが年齢不詳の為不明―――彼女は事情があって7年前からギルドに属している。
つまり、X784年の現在から数えて、13年前からギルドにいる事になる訳だ。

「ウホ?」

森バルカンがこっちを向く。
が、加入して13年間、様々な仕事を基本1人でこなしてきたティアは、この手のモンスターの相手さえも何度もしてきた。
実績・魔力の量・経験・・・どれをとっても、ティアはナツに勝っている。

「消えなさいゴリアン!」

叫び、その手に一瞬で水の剣を造り出す。

「大海・・・一閃!」

そして森バルカンの頭上に飛び、勢いよく剣を振り下ろした。
そのまま距離をとり、剣が刺さったままの森バルカンに向かって指を鳴らす。

「爆!」

ティアが短く言い放った瞬間―――――――

「ウホーーーーー!」

爆発音が響いた。
爆煙が起こり、視界が悪くなる。

「ティア凄い!」
「・・・違う。来る!」

リサーナが歓喜の声を上げるが、ティアは一切気を抜いていない。

「ウホーー!もう怒ったーーー!」

爆煙の中から飛び出して来たのは、多少傷は負ったもののピンピンしている森バルカンだった。

(コイツ・・・体が頑丈に出来ている!?この程度の魔物なら、いつも一撃なのに・・・!)

降って来る大きい拳を持ち前の身体能力を駆使して避けながら考えるティア。
実は、彼女は仮にもS級魔導士だ。X777年、当時10歳ながら。
歳はかなり若いが加入したのが早かったのと、持ち前の冷静さと情報判断処理力、生まれ持っての天才に近い魔法センス等の彼女の長所が強さへ変わり、S級になったのだ。

(まさか、コイツはS級クラスかそれ以上!?だとしたら、私でも倒せるかどうかじゃない!・・・だけど、ここにいるのは炎バカとリサーナの2人。エルザとかミラ辺りがいれば良かったんだけど・・・いない奴の事を考えてる場合じゃないわね)

森バルカンの腹に蹴りを決め、距離をとる。
そこで再び戦闘態勢を取った、瞬間。

「ウホォ!」
「なっ・・・きゃあああああっ!」

突如頭上に森バルカンが現れ、勢い良く蹴り飛ばされる。
ギリギリのところで体を水に変換していたとはいえ、凄まじい威力の蹴りに、ティアは地面に転がった。

(動きが速い!こんなに図体デカいのに・・・嘘でしょ・・・!?)

驚愕に目を見開きながら、ティアは立ち上がろうと脚を動かす。
そして、気づいた。

「!」

右脚が、近くの木の根っこに引っかかっている。

「ぶっ潰してやるーーーー!」

目の前には血走った目を向け、両手をハンマーのようにして振り下ろそうとする森バルカン。
避けようにも、足はなかなか根っこから離れない。

「っ・・・!」

ティアは覚悟を決め、目を閉じる。

(拳が振り下ろされたと同時に体を水に変えて、隙を見て距離をとる・・・大丈夫。冷静になれば不可能じゃないわ)

ティアがその事を確認した、瞬間。

「ティアーーーー!」

リサーナの叫びをかき消すかのように、激しい轟音が響いた。
目を閉じていたティアは、すぐさま違和感を感じる。

(・・・拳が、来ない?)

衝撃が来ないのは想像していた。
体を水へと変えてしまえば、小細工なしの物理攻撃など効かない。
が、押し潰されるような感じは全くなく、そもそも拳がティアに届いていない。

(どういう事?)

不思議に思いながらもゆっくりと目を開ける。
そして、驚愕した。


「ぐっ・・・コイツは・・・やらせねぇ・・・!」


ナツが、森バルカンの拳を必死に両手で受け止めていたのだ。

「アンタ・・・何で・・・?私は体を水に変えられるし、別にこの程度の攻撃はどうって事・・・」
「だったら傷ついていいのかよ!」

ティアの言葉を遮り、ナツが叫んだ。

「体を水に変えられるから何だ?それを知ってるから助けるなってか?ふざけんじゃねぇ!」

怒りを含んだナツの声に、ティアはただ沈黙する。
わざと沈黙している訳じゃない。

(・・・どうして?)

目の前にいるのは、自分より実績も経験も魔力の量も、全てとは言わないが劣っている、ギルドに加入してまだ1年ほどの少年。
明らかにティアの方が強く、魔法でも頭脳でも素手の戦いでも、素手の戦いを除けば基本ティアが勝つだろう。素手での勝負はあまりしない為、結果は解らないが。

(どうして・・・)

そのハズなのに。
目の前で拳を受け止めているナツは、明らかに自分より弱いハズなのに。

「仲間がやられそうなトコ見て・・・黙ってられる訳ねぇだろうがあああああああっ!」

叫んでいる言葉でさえ、何の根拠もないものなのに。

(どうして・・・コイツが、強く見えるの?)

ティアの青い目に映るのは・・・いつもと変わらないナツ。
なのに、その姿は、いつもよりも強く見えた。

(コイツは―――――――)

そして、唐突に理解する。
ナツが強い意味を。そして、いつもより強く見える理由を。

(私とは違う・・・己の為に戦っているんじゃない・・・)

理解した時――――

(他人の為に・・・『仲間と名付けた他人』の為に、戦っているんだ!)

ティアに溢れ出てきたのは・・・驚愕だった。
元々、自分のいるギルドは仲間意識が強いと思っていた。
が、基本他人に興味のないティアは、他人に他人以上の名前を付けようとはしなかった。

(でも・・・コイツは違う・・・)

だが、ナツは違った。
ギルドにいる人間全員を仲間と呼び、好んで孤立していたティアさえも、喧嘩というイマイチな繋がりではあるが、絆で繋いだ。

(他人の為に戦うなんて、愚かとしか言えない・・・でも、コイツはそれが『戦う理由』だと信じて疑ってない・・・)

初めてだった。

(なんて・・・なんて、コイツはバカで・・・)

他人を、何の繋がりもない人間を『仲間』と呼ぶ人間に。

(なんて・・・強いの・・・)

強さを覚えたのは。

(強い・・・コイツは強い!私とは違う意味で・・・強い!)

その瞬間、ティアの体を闘志が走る。
立ち上がり、叫んだ。

大海銃弾(アクエリアスガンス)!」

展開した魔法陣から、森バルカンの首辺りに勢いよく水が発射される。

「ウホ?ウホォォォォオオオっ!?」

突然の反撃に、森バルカンは大きく身体を仰け反らせた。
手が空いていれば防げたかもしれないが、生憎手はナツが受け止めている。

「今よ!」
「おう!」

ただ短い言葉で、意志の疎通くらい出来る。
1日に何回も口喧嘩をする2人は、ギルドで1番と言っていい程に仲が悪く・・・ギルドで1番と言っていい程、息が合っていた。
ナツは森バルカンに向かって跳び、そして―――――

「火竜の・・・鉄拳!」

勢いよく、炎を纏った拳を叩き込んだ。

「ウホアアアアアアッ!」

ナツの拳は森バルカンの顔面に叩き込まれ、相手は気絶する。

「・・・アンタ、私の力はいらないんじゃなかったの?」
「お前こそ、俺の力はアテにしてねぇんじゃなかったのか?」

互いに憎まれ口を叩く2人。
が、しばらくすると――――――

「ぷっ・・・ははははははっ!」
「くくっ・・・」

ナツは大笑いし、ティアは小刻みに肩を震わせた。

「ナツー!ティアー!」

するとそこに、卵を抱えたリサーナが駆け寄ってきた。

「リサーナ!無事だったか?」
「うん!卵も無事だよ!」
「そう。ドラゴンが無事でよかったわね」
「「え?」」

ティアの言葉が意外だったのか、ナツとリサーナが目を丸くする。
その視線を受け止めたティアは、視線を逸らし、もごもごと呟いた。

「前言撤回してあげる。・・・その卵はドラゴンの卵・・・かも」

照れたように呟くティアを見て、ナツが笑う。

「ようやく認めたかっ!」
「うるさい!くっつかないでよ、暑苦しい!」
「んだとコラー!」
「だから、喧嘩はダメだって!」

そんな会話をしながら、帰路へ着こうとする3人。
すると――――――

「ウホォォォォォオ!」

先ほど気絶させた森バルカンが、飛び掛かって来た。

「何!?」
「もう復活したの!?」
「このガキどもがああああああっ!」

そう叫びながら拳を振り上げ、3人を叩き潰そうとする森バルカン。
咄嗟の事に素早く反応できない3人。
もうダメだと思った、その時―――――――

大雨蝶乱(レインシュメターリング)!」

振り下ろされると思われた森バルカンの腕に、水で構成された蝶が直撃する。

「ウホォオ!?」
「!?」

その蝶が飛んで来た方向には・・・


「ふぅ・・・危なかったね」


右手を前に突き出した状態で笑う・・・イオリがいた。

「イオリさん!」
「「イオリ!」」

その姿を見たナツとリサーナは嬉しそうな笑みを浮かべ、ティアは無表情を崩さない。
イオリはそんな3人に微笑を浮かべると、ゆっくりと森バルカンに目を向けた。

「ゴリアン・・・消されたくなかったら消えな」

そしてそのまま、尋常じゃないほどの殺気を放出させた。
ティアが殺気を放出させるのは、イオリ譲りなのかもしれない。

「ウ・・・ウホォ!失礼しましたー!」

その殺気に怖気づいた森バルカンは、慌てて森の奥へと逃げていく。

「皆、大丈夫?」
「うおー!イオリすげー!」
「すごいすごーい!」
「確かに、凄い・・・」

イオリが3人に安否の確認をすると、3人からは称賛の言葉が返ってきた。

「あははっ!大丈夫そうだね。よーし、皆帰るよ!」
「「おおーっ!」」
「はい!」

こうして、ナツ達のちょっとした激闘は幕を閉じたのだった。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
・・・おかしいな、前後編で終わるはずが、意外にも長く・・・。
という訳で、もうしばらくお付き合いください。次回には終わるはずです。

感想・批評、お待ちしてます。 
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