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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第24話 ミンディア星域会戦 前編


――宇宙暦813年/帝国暦504年 7月15日――

ミンディア星域外縁部においてティオジア、ルフェール、九王国連合の連合軍と銀河帝国軍は対峙していた。

「敵はティオジア軍9個艦隊、ルフェール軍8個艦隊、それと所属不明の2個艦隊……おそらく九王国連合軍と思われますが、これらの総勢は19個艦隊25万隻に達します」

「25万か……よく集めたと褒めるべきかな?」
 
「我が方より10万隻以上少ないとはいえ、油断は禁物です。敵軍の総司令官レオーネ・バドエルの手腕はあのマリナ様が認める程。これにアルベルト・アルファーニなる人物の知略が加わるとなれば……ヤン・ウェンリーに匹敵すると考えておいた方がよろしいかと愚考いたします」

「そうだな……ならば、先ずは小手調べといこうか。ミッターマイヤー、パエッタ艦隊を前進させろ」

アドルフが最初の命令を下す。

13時21分。
ミンディア星域の会戦が開始された。

「前進!」

「前進せよ!」

ミッターマイヤー、パエッタの2個艦隊は命令に従い、連合軍に向け前進していく。
それは、連合軍旗艦である新鋭戦艦バルトクロスへ直ちに知らせられた。

「敵、前進してきます。数、30000!」

「艦形照合。戦艦ベイオウルフ、及びプロメテウスを確認。ミッターマイヤー艦隊とパエッタ艦隊です」

「最初からいきなり疾風ヴォルフ(ヴォルフ・デア・シュトルム)か……先手を取られたな」

連合軍の総司令官であるレオーネ・バドエルはそう言って溜息をついた。
これに、総参謀長に就任したアルベルト・アルファーニが同意する。

「確かに、敵は初手から大胆な手で来ましたね。出来ればこちらが先手を取りたかったですけど……」

「仕方ねぇだろ、戦いなんてそんなもんさ。一喜一憂してたらやってられねぇよ」

「ですが、緒戦で下手を打てば流れが完全に向こうに傾いてしまいます。数で劣る僕たちにとってそれは敗北と同義です」

「なら、尚更いきなりコケる訳にはいかねぇな。ガストー、コムーシュ艦隊を当てて防がせろ」

バドエルはガストー、コムーシュの両艦隊を前に出し、帝国軍の前進を阻む。

「ガストー艦隊とコムーシュ艦隊はそれぞれ13000隻。対する敵は15000隻と数で上回っている上、片方はあのミッターマイヤーです。そう長くは持ちませんよ」

「だろうな、ガストーやコムーシュではちょいと荷が重いか……モルゲン艦隊を支援に向かわせろ」

バドエルの命を受け、モルゲン艦隊が支援に向かう。
これによって、戦線はいきなり膠着した。

・・・・・

14時35分。

「戦闘開始から1時間が経過しました。そろそろ両翼を動かしてみませんか?」

アルファーニはそう提案し、バドエルは二つ返事でOKする。

「いいぜ、受け身ばかりでは芸が無いからな。ラミン艦隊とルフェール第四艦隊は前進して敵を叩け!」

ラミン艦隊が右から、第四艦隊が左から前進を開始する。

「そう来るか、ファーレンハイト艦隊、スプレイン艦隊で迎撃せよ!」

ラミン艦隊をスプレイン艦隊が、第四艦隊をファーレンハイト艦隊が迎え撃つ。

「敵はスプレイン上級大将の15000隻。相手にとって不足は無いわね」

ラミンはそう言って、不敵に微笑んだ。


「左翼ザーニアル隊、マリネッティ隊はそのまま前進。右翼デュドネイ隊は長距離射撃で援護しつつも戦局に応じて適切な行動を取れ。中央マリノ隊、デッシュ隊は本隊と共に別命あるまで待機せよ」

スプレイン上級大将はバルバロッサ級戦艦ヴェスヴィオの艦橋から、麾下の分艦隊に命令を下す。

スプレインの作戦は、左翼が圧力を掛け、耐え切れず右翼方向に流れたところを狙い撃ちし、然る後に温存していた中央の戦力で勝利を決定付けるというものであった。

「敵左翼の攻撃激しく、防御で手一杯です」

「このまま正面からやり合うのは愚の骨頂だわ。攻撃を受け流しつつ艦隊を左にシフトして敵の右翼を叩きましょう」

「しかし、それは敵の策に乗せられているのでは?」

「勿論そんなことは分かっているわ。けど、それはあくまで押された結果の話。こちらから積極的に左へ流れた場合は別よ。こちらの右翼を完全に防御に回し、残りの全艦艇で敵右翼を攻撃することで裏をかけるわ」

スプレインの思惑を読み切ったラミンは、それを逆手に取ることで見事に裏をかくことに成功した。

「デュドネイ提督の艦隊に敵の攻撃が集中しています」

「やるな、こちらの策を逆手に取るとは……。マリノ隊を動かしてデュドネイ隊の援護に回らせろ。それと、ザーニアル、マリネッティ、デッシュの分艦隊を敵側面に張り付けて防御ラインを削り取っていけ」

スプレインは作戦を変更する。

ラミン艦隊は右翼の防御に多くの戦力を割いている関係上、増援を得たスプレイン艦隊の右翼に圧力を掛け切れずにいた。

「本隊が手薄だけど………」

「側面に敵分艦隊が取り付いています。このまま本隊に攻勢を掛ければ敵旗艦を撃ち取る前に我々が分断されかねません」

「でも、あまりモタモタしていても右翼の防御ラインが削り取られてこちらの負けよ」

「では……いったん退いて陣形を再編するしかありませんな。この状況では二進《にっち》も三進《さっち》も行きません」

「……そうね。このまま袋小路になるよりは多少の損害覚悟で退くしか無さそうね」

・・・・・

一方、ファウスト・ベルゼー中将率いるルフェール第四艦隊はファーレンハイト艦隊と死闘を繰り広げていた。

「撃て撃てー、このまま突撃して敵を突き崩すのだ!」

第四艦隊は、機動性を伴った突撃と戦闘艇による近接戦闘でファーレンハイト艦隊を翻弄する。

「うむ……これは厄介だな」

「ファーレンハイト提督、どうなさいますか?」

「なに、そう難しいことでもないさ。こちらもワルキューレを出し、敵戦闘艇を艦砲の射程内に誘い込むだけのことだ」

果たして、ファーレンハイトの思惑通り誘い込まれたルフェール軍戦闘艇は艦砲射撃によって尽く屠られていく。

「何をやっておるか! ……ええい、こうなれば直接引導を渡してくれる! 全軍突形陣を取れ、我が艦隊はこれより前方の敵に突撃を掛ける!」

「真っ向勝負か……よろしい、本壊である」

ファーレンハイト艦隊も突形陣を取り、両艦隊は正面から激突した。


* * *


16時27分。

「そろそろ頃合いだな。パナジーヤ、ブルーナ、ウィンディルムの3艦隊は天頂から、ルッツ、ワーレン艦隊は天底より最大戦速にて敵本陣へ突入せよ!」

天頂よりパナジーヤ、ブルーナ、ウィンディルムの3個艦隊40000隻が、天底よりルッツ、ワーレンの2個艦隊30000隻が連合軍へ向け進軍を開始する。

「敵が動きました! 天頂方向より3個艦隊、天底方向より2個艦隊です」

「天頂からの敵にはルフェール第六、第九艦隊を、天底の敵にはユリアヌス艦隊を当てて対応して下さい」

アルファーニは即座に指示を出す。

「各艦隊には負担が大きくなりますが……」

両方の迎撃部隊は敵より1個艦隊少ない。
それを承知で尚、送り出さなければならないことにアルファーニは良心の呵責を感じているようであった。

「いや、こちらは数で劣っている。お前の判断は正しいよ。それにしても……これだけの戦力を簡単に投入してくるとはな。大国の物量ってのはいつ見ても嫌なもんだぜ」

バドエルの脳裏に、かつて戦ったロアキア軍との戦闘が思い出される。

かつてのストリオン星域会戦はロアキア軍15000隻に対してバドエル率いるウェスタディア、ラミアム連合軍は4000隻。
其れに比べて、今回は比率こそマシではあるが、以前とはスケールが違い過ぎた。

「25万もの軍勢の総司令官ってのは僥倖だが、敵が40万もいるんじゃ楽じゃないぜホント」

そう言っている間にも、新たな戦闘は開始される。

ルフェール第六、第九艦隊とユリアヌス艦隊は数で劣勢にありながら良く凌いでいた。

「まだ敵の戦力には余裕があります。おそらく近いうちにもう一度動きがあるでしょう」

アルファーニは確信に満ちた声で、そう断言した。

・・・・・

アルファーニの予想通り、アドルフは新たな策を実行に移そうとしていた。

「アイゼナッハ、シューマッハの両提督に連絡を。外側より迂回し、敵の後背もしくは側面を突け…と」

アイゼナッハ、シューマッハの両艦隊が動き出す。

アドルフの戦術は至極単純なもので、要するに数で圧倒することにある。
古来より、数を頼みにした力押しは最も有効な戦術であり、艦艇数で圧倒的優位な立場にある銀河帝国がその戦法を採らないハズがなかった。

とはいえ、その全てを一度に投入するなど出来ない。
そこでアドルフは戦力を逐次投入にならない範囲で小分けに投入し、多方面に戦線を構築させた。

いかなレオーネ・バドエル、アルベルト・アルファーニといえど、その処理能力には限界がある。
アドルフは複数の戦線を構築することで、彼らの処理能力オーバーを狙ったのである。

「両側面に敵出現。数…各15000」

連合軍の側面にアイゼナッハ、シューマッハの両艦隊が出現する。

「回り込まれましたか……」

「ドズール、ブレッサー艦隊を当てろ」

ドズール、ブレッサーの両艦隊は九王国連合の艦隊である。
正確には、ドズール艦隊がタシリム王国所属の艦隊。ブレッサー艦隊がドルドラム王国所属の艦隊であった。

「前面に両翼、天頂に天底、それに左右側面と戦線が広がり過ぎています。今は各艦隊の奮戦により何とかなっていますが、このままでは……」

「ああ、分かっている。前衛部隊に反撃を命じろ、ここは攻めの一手だ!」

連合軍前衛部隊はこれまでと一転して攻勢に出る。
この突然の変化に、ミッターマイヤー、パエッタは対応が遅れた。

「よし、左の艦隊へ集中砲火だ!」

パエッタ艦隊に砲火が集中し、その勢いに押され徐々に後退し始める。

「反撃しろ、敵を押し戻すのだ!」

パエッタ元帥はそう言って鼓舞したものの戦況は変わらず、パエッタ艦隊とミッターマイヤー艦隊との連携が一時的に途絶してしまう。

そして、それを見逃すバドエルではなかった。

「よし、一気に斬り込む。カルデン!」

「了解、俺の艦隊の快足を見せてやるぜ」

カルデン艦隊はその快速を活かし、一瞬の空隙を突いて一気にパエッタ、ミッターマイヤー両艦隊の間に突進。楔を撃ち込むことに成功した。

「よぉし、全艦突撃だー!」

カルデン艦隊の攻撃が激しさを増し、それを帝国軍は支えきれなくなった。

「しまった、食い破られる!」

ミッターマイヤーは焦りを顕わにするが、もうどうにもならない。

「今だ、最大戦速で突入しろ!」

カルデン艦隊は空いた穴へと入り込む。
遂に、ティオジア軍は銀河帝国前衛部隊の中央を突破することに成功したのである。

「針の穴を抜け目なく突いてくるか……だがそう簡単に俺の首はやらんよ。ガムストン艦隊に迎撃させろ」

アドルフは、ガムストン艦隊に開いた穴を塞ぐよう命じる。

「前方に敵艦隊、数15000」

「戦艦ナグルファルを確認。ガムストン艦隊です!」

「ロアキアの名将ガラハット・ガムストンか……流石にこれの突破は容易じゃないな。だが、無理やりにでも押し込ませてもらうさ!」

カルデンは艦隊の勢いそのままにガムストン艦隊へと突っ込む。
元々勢いがついていたこともあり、一時的にガムストン艦隊を後退させることに成功した。

「カルデン艦隊が敵を押し込んでいる内にルフェール第八艦隊を敵本陣に突入させましょう。この機を逃せば勝機は無いですよ!」

第八艦隊が間隙を突いて帝国軍本陣へと突入する。
が、その前にシュムーデ艦隊が立ちはだかった。

「敵の侵入を許すな! 皇帝陛下をお守りするのだ!」

このシュムーデ艦隊によって連合軍の攻撃は失敗に終わった…かに見えた。しかし……

「ん? あれは……」

総旗艦フリードリヒ・デア・グロッセのスクリーンに映るのは通常の戦艦の3倍(約2000メートル)はあろうかという数十隻の巨大戦艦。
『空色の守護天使』とも呼称されるルフェールのスカイキープ級戦艦であった。

その巨体からなる砲撃力は凄まじく、一本のビームで射線上の艦2、3隻を同時に落としてしまう程である。

「あれが噂のスカイキープ級か。それにしても2000メートルの戦艦とは……まだ無駄にデカイものを作ったものだな。その分機動性は低そうだが」

「あの艦体ですから通常の戦艦よりも機動性・運動性に劣ることは確実でしょう。ですが、一撃で2、3隻の戦艦を纏めて屠る主砲の威力は厄介です」

「しかしこれはマズイぞ! 今の状況ではシュムーデの艦隊はあのデカブツと真正面からやり合うことになる。如何にシュムーデと言えども………」

案の定、シュムーデ艦隊の艦艇はスカイキープ級の主砲の前に次々と撃沈されていく。
それは旗艦であっても例外ではなかった。

「ニーズヘッグ撃沈……シュムーデ元帥戦死」

「シュムーデが……おのれ!!」

怒りに打ち震えるアドルフ。
シュムーデは彼が第三次ティアマト会戦以来の部下であり、信頼する腹心でもあったのだ。

「目には目を歯には歯を……だな」

「はっ?」

「全艦前進! アースグリム級の艦首大型砲であの忌々しいうすらデカいだけの艦を始末してしまえ!」

怒りに燃えたアドルフは麾下の艦隊を前進させる。
そして、アドルフの直属隊に所属するアースグリム級戦艦群の艦首より、スカイキープ級の主砲を上回る威力を持つ砲撃が放たれた。

複数の光が走り、一瞬で数百隻の艦艇が薙ぎ払われる。
その中には、盾艦に守られていた筈である第八艦隊旗艦ヘイオームの姿もあった。
要塞砲に匹敵するこの大口径砲の前に、どんな盾艦も無力であったのだ。

「第二射用意」

アースグリム級は改装により、その艦首大型砲を2発まで確実に放てるようになっていたのである。

「撃て!」

止めと言うべきだった。
大口径砲複数の二斉射を受け、指揮官を失った第八艦隊は混乱の極みに陥り、烏合の衆と成り果てた。
さらに、アッテンボロー艦隊が第八艦隊側面より砲撃を開始したことで決定的となった。

慌ててバドエル、ジュラール、グルーデの3個艦隊が前線を突破して救援に駆けつけたものの、その時には第八艦隊の残存艦艇は5000隻を切っていた。

「第八艦隊が……」

「だが、敵本隊が前に出てきている今が好機だ。ジェントルーデ隊を先頭にして敵本陣に雪崩れ込め!」

真紅に染め上げられた1500隻の艦艇がバドエル艦隊の先頭へと出て来る。

「出番よ! 全艦突撃! 侵略者共にジェントルーデ隊の実力を見せつけてあげちゃいなさい!」

ジェントルーデ隊を指揮するロゼリエッタ・ルオ・ジェントルーデ中将はそう言い放ち、突撃を開始させた。

ジェントルーデ隊はティオジア軍最高の攻撃力を誇る部隊である。
しかしながら、ジェントルーデ隊が如何に精強であってもその数はたかだか1500隻。
出来ることは帝国軍本隊の面先を凹ませる程度であった。

が、バドエルにはそれで十分だった。

「よし、戦闘艇を発進させて混戦に持ち込め! マイラーノ、ロレダン隊はジェントルーデ隊を援護しろ!」

元より、バドエルの狙いは混戦に持ち込むことであり、それを可能な状況を作り出すのが目的であった。

「敵戦闘艇が発進してきます!」

「ほう、混戦に持ち込む気か。ならば、こちらも戦闘艇を投入して敵戦闘艇を駆逐せよ。丁度新型戦闘艇ヴァルキリーの実戦での性能評価にもってこいだ」

アドルフの直属隊の空母よりヴァルキリーが次々と発進する。

ワルキューレに対して3:1のキルレシオを誇るヴァルキリーは、ティオジア軍の戦闘艇に対しても圧倒的な性能を見せつけた。

「な、なんだこいつは!!」

ヴァルキリーは戦場を無人の如く駆け回り、敵戦闘艇をバタバタと撃墜していく。

このヴァルキリーの活躍が、後にルフェールでヴァルキリーショックを引き起こすのは余談であった。
だが、いかんせん数が少なく、遂には突破を許してしまう。

「敵戦闘艇の小部隊がこちらへ向かってきます」

「構わん、『回想シーン強制流し装置』を作動させろ」

「はっ、『回想シーン強制流し装置』作動」

『回想シーン強制流し装置』によってモニターを全て切り換えられたティオジア軍戦闘艇は唯の的と成り果て、次々と撃墜されていく。

「ふはははははははは、妨害電波によって敵艦隊には通用しないが、これだけ接近されれば『回想シーン強制流し装置』から逃れることなど不可能なのだよ……て言うか、砲戦で圧倒的防御力を発揮するパーツィバル級戦艦と戦闘艇による近接攻撃を無力化する『回想シーン強制流し装置』のコンボってチート過ぎね?」

『回想シーン強制流し装置』の活躍が嬉しかったのか、アドルフの顔は綻んでいる。

「しかしこれで、敵の近接攻撃を事実上封じることに成功しましたな」

「ああ、これだけの戦力差だ。奴らが勝つには俺を撃ち取る他無いが、その方法の一つが潰えたわけだ。さて、敵はどうするかな?」


その頃、バドエルとアルファーニは戦闘艇部隊壊滅の報を聞いていた。

「戦闘艇部隊が壊滅だと!?」

「敵は新型戦闘艇を投入してきたようです。それと、謎の怪電波によってこちらの戦闘艇が行動不能にされたようですね」

「厄介なものを作りやがるぜ!」

「ですが、その怪電波はこちらが敵旗艦に接近した時しか発動しませんでした。もしかしたら、射程か何かに制限があるのかもしれません」

「だが、何にしろ今詳しく調べている暇はねぇな。当面は戦闘艇を敵旗艦に近寄らせねぇようにして対処するしかないか」

「はい、それが妥当かと。それで、どうしますか? 戦闘艇を使った作戦は失敗に終わりましたが……」

「いや、突撃はこのまま続行だ。ここでなんとしても敵旗艦を討ち取る」

戦闘艇は大打撃を受けたとはいえ、バドエル艦隊が帝国軍の本隊に食い込んでいる事実に変わりはない。
バドエルとしては、このチャンスを最大限に活かしたかった。

「相変わらず狙いは俺か……本隊を後方へ下げろ。それでも追ってくるようなら縦深陣に引きずり込んで袋叩きにするまでだ」

帝国軍本隊が後退していくのはバルトクロスの艦橋でも確認された。

「敵本隊、後退します!」

「ちっ、皇帝には届かないか」

「そうですね。このまま進めば敵陣のド真ん中に飛び込んでしまい、四方から砲撃を受けるだけです」

「かといって、手を拱いていれば兵力差でこちらが圧殺されるって訳か……八方塞がりとはこの事だな」

「………ここは発想を変えてみましょう。確かにこちらは殲滅の危機ですが、敵の前衛部隊を挟撃する好機であるとも考えられます」

「なるほどな。お前は流石だよアルファーニ」

バドエルはアルファーニの献策を入れ、艦隊を回頭させる。

「む…いかん、直ちにミッターマイヤー、パエッタ艦隊を下がらせろ!」

この行動に帝国軍の各司令官は頭を捻ったが、唯一人ロイエンタールだけはティオジア軍の狙いに気づいた。

「もう遅い。全艦主砲斉射!」

ティオジア軍4個艦隊による砲撃がミッターマイヤー、パエッタ艦隊の背後から放たれる。
前方の艦隊を相手取っている両艦隊に成す術は無い。

「前進!ミッターマイヤーを救い出せ!」

「両提督を敵に討たせるな!」

窮地に陥った両艦隊を救出すべく、ロイエンタール、ガムストン、ミュラー、フィッシャー、アッテンボロー、クナップシュタインの6個艦隊が殺到する。

が、動いたのは帝国軍ばかりではなかった。

「今が好機だ、敵前衛部隊を殲滅しろ!」

ガストー、コムーシュ、モルゲン艦隊に加え、ルフェール第十、第十一、第十二艦隊が好機とばかりに突撃を開始した。

双方合わせて18個艦隊が入り乱れ、戦場は大混乱となる。


宇宙暦813年/帝国暦504年 7月15日 22時51分。
ミンディア星域の戦いは、予期せぬ乱戦の中にあった。
 
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