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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第23話 辺境の嵐


――宇宙暦813年/帝国暦504年――

超長距離ワープを連続してロアキアに到着した帝国軍は、そこでガーシュイン、ガムストン、パナジーヤ、ブルーナ、ウィンディルムの5個艦隊と合流。艦艇数をおよそ40万隻にまで膨れ上がらせた。
これは通常戦力だけのことであり、輸送艦艇や後方拠点として随伴する移動要塞群の駐留艦隊を全て合わせれば、その数は凄まじいことになる。

その大艦隊の中央に位置する戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの艦橋で、皇帝アドルフ・フォン・ゴールデンバウムはテンションを無駄に上げていた。

「フハハハハハハハ。見ろ、この大艦隊を! 圧倒的ではないか我が軍は。これだけの艦艇を以ってすればティオジアだろうがルフェールだろうが恐れるに足らん。何やらルフェールは九王国連合だか旧王国連合だかという国家と手を組んだようだが、そんなの関係ねぇ! ケーニヒス・ティーゲルの主砲で吹き飛ばしてくれるわ!!」

見事に死亡フラグを立ててしまった。

「これで勝つる、勝つるぞ…フヒヒ……」

しかし、テンションがハイになっているアドルフは逸れに気づかない。
周りの人間も完全に白けているが、そんなのお構いなしである。

「ケーニヒス・ティーゲルは既に沈んだ筈では?」

「陛下は……酔っているのでしょうか?」

「私の知る限り、ここ数日アルコールの類を摂取してはいない筈です」

「であれば、これはいったい………」

参謀長であるチュン・ウー・チェン上級大将と幕僚総監エルネスト・メックリンガー元帥の会話である。
そして、この会話にアドルフのお目付け役にして一番の被害者である苦労人シュトライト上級大将が交ざった。

「おそらく、ティオジアを征服した後のことでも考えてらっしゃるのでしょう。先日、『ウェスタディアとシャムラバートの女王は若くて美人だとか…グヘヘ』と仰っていたことですし」

「それは……なんとも………」

3人とも互いの目を見合い、同時に苦笑する。
彼らに言葉は不要であった。

そんな間にも、アドルフの暴走は止まらない。
いや、むしろアクセル全開で加速していた。

「進め進め~、勝利の女神がパンチラどころかお尻を丸出しにして俺たちを誘っているぞ~。誰が最初に犯すか競争だ~!」

その姿は、とても一国の皇帝には見えなかった……。


* * *


6月28日。
大軍で以ってティオジアの領域内へと雪崩れ込んだ帝国軍は、手始めにイグディアス、オルデラン両国へと襲い掛った。

「敵軍接近、数30000隻以上!」

「迎撃だ! とにかく、国王陛下が脱出されるまでの時間を稼ぐのだ!」

両国とも抵抗したが、元より10000隻程度の艦艇すら揃えられない小国である。
迎撃に出た艦隊は瞬く間に殲滅され、王族と軍の残存部隊は慌てて脱出した。

「遂に来たか」

「来ましたね。数は40万隻だそうですよ」

レオーネ・バドエルとアルベルト・アルファーニは帝国に潜入させた密偵による情報から、帝国軍の侵攻が近い事を予測していた。
そのため、既に各方面に伝令を飛ばし、戦力を掻き集めていた。

「イグディアスとオルデランから無事撤退できたのは何隻程だ?」

「合わせて5000隻程です。およそ10000隻が撃沈ないし拿捕されたと思われます」

「10000隻か、痛いな。……まったく、俺達の忠告をちゃんと聞いてればもっと多くが脱出できたものを」

「まあ、これだけ集められただけでも僥倖といえば僥倖ですけどね」

ティオジア星域には連星艦隊のほぼ総戦力が集結していた。
その数11万2000隻。
これにイグディアス、オルデランから脱出してきた艦艇の内使用可能な4000隻が加わることになる。
また、ルフェール軍8個艦隊と九王国連合軍2個艦隊も援軍として派遣されており、総勢は25万3000隻となっていた。

「それで向かう先はあそこで良いのか?」

「はい、かねてからの計画通りミンディア星域に布陣します」

ミンディア星域はウェスタディア王国の領土内にある星域の一つであり、恒星ミンディアの周囲に無数の小惑星帯が存在する。
アルファーニは、この星域を銀河帝国軍との決戦場にするつもりであった。

「しかしなぁ……お前の策はこちらが半壊状態になるのが前提だろ………」

「それしか手がありません。まともに戦えば僕達は戦力差で磨り潰されます。ですが、双方がこれだけの戦力を投入している以上まともにぶつかるしか方法は無いんですよ。戦力をあるていど分散すれば奇襲は可能でしょうが、この場合敵の戦力が大き過ぎるので返り討ちの上、各個撃破されるのが関の山でしょうね。それに………」

アルファーニはここで言葉を切った。
本人としても、このような策を採るしかないのが悔しいようだ。

「それに、彼らに移動要塞群を前面に押し立てた戦術を採られるとこちらは手の出し様がありません。大出力の要塞砲と大艦隊を相手にしながら要塞内に籠る皇帝を討つなんて、いくらバドエルさんでも不可能でしょう?」

「俺に不可能はねえ……と言いたいところだが、確かにそれはキツイな。1つだけならともかく、今回の遠征に参加している移動要塞は大型だけで8つもある。しかも内3つは大出力砲付きだしな」

敵の大艦隊と要塞群に挑んでいく光景を頭に思い描いて、顔を顰めるバドエル。
今まで幾多の困難を乗り越えてきた彼でも、それを達成するビジョンは浮かばなかった。

「僕達が勝利するには戦場で皇帝を討つしかないんです。なので……次の戦いは僕も出ます」

アルファーニはウェスタディア王国の宰相であり、もう軍人ではなかったが、この度の戦いに同行を申し出た。

「ああ、次の戦いはお前がいないと話にならん。期待しているぞ」

「ええ、任せてください」

『ウェスタディアの双星』

そう呼ばれる2人が今、真の意味で復活した。


* * *


ウェスタディア王国領内に侵入した銀河帝国軍総旗艦フリードリヒ・デア・グロッセの下へ偵察艦からの報告が寄せられた。

「陛下、偵察艦から連絡が入りました」

「敵はミンディア星系に陣取っているようです」

「ほう、奴等はそこを墓場に選んだか……良いだろう、決戦はこちらも望むところ。その挑戦受けてやろうではないか。全軍、ミンディア星系へ向け進軍せよ」

アドルフの命により、銀河帝国軍40万はミンディア星域へ進路をとった。


かくて、舞台は幕を開く。
 
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