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私立アインクラッド学園

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第二部 文化祭
  第49話 2人だけの秘密

 
前書き
最近はキリト君よりアスナが好き 

 
「キリト君、今日はわたしの手作り弁当だよー。さ、開けてみて!」

 屋上で肩を並べて座る和人と明日奈は、誰が見てもお似合いの恋人同士。
 明日奈は、親友である里香にさえ浮かべたことのないであろう笑顔を自身の恋人に向けているし、和人も満更でもなさそうに微笑んでいる。まりあはそれを、入口の陰に隠れて見ていた。

「じ、じゃあ、遠慮なく開けさせてもらうよ……ってブ━━ッ!?」

 弁当箱を勢いよく開けた和人が、何故か盛大に吹き出した。

「あ、アスナ、これ……!」
「な、なにキリト君? べ、別に、いつものお弁当でしょ?」

 明日奈が、顔の両側に垂らした髪を耳に引っ掛けながら言う。それが、照れたり、焦ったりした時についついやってしまう彼女の癖であることをまりあは知っている。

「ど、どこが……! いや、う、嬉しいけど……」

 和人は、頬を人差し指でぽりぽりと掻いた。これは、和人が照れている証拠だ。

「だ、だってわたし……最近全然キリト君に、その……お、想いを伝えられてないなあって……だからせめて、お弁当でと思って……」

 ━━いったい、弁当箱の中になにが入っていたというのだろう。
 まりあが首を傾げた、その時。

「はっはーん、さてはアスナ、"例の作戦"を決行したのねん」

 背後から、よく知った声が飛んできた。まりあは後ろを振り返り、小声でその声の主の名を呼んだ。

「り、里香! だめですよ、そんなに大きな声出したら!」
「これでも十分小声のつもりなんですけど」
「だったらもう喋らないでください……っ」
「……へえ~、まりあも言うようになりましたなあ」

 ニヤニヤしてからかってくる里香を軽くスルーして、まりあは話を変えた。

「で、なんなんですか、その……"例の作戦"って」
「えーっとね……前に、アスナがあたしに相談してきたのよ。『最近キリト君に、ちゃんと想いを伝えきれてない気がするよおー。どーしよおー、リズー?』ってね」

 演技が上手いような、大げさすぎるような。

「そんで、ほら、よくドラマとか漫画であるじゃない? 大好きな彼氏にお弁当作って、«○○くん大好き♥»とかごはんの上に海苔で書いちゃうようなの! あれやってみればって、あたしが提案してやったわけよ」
「そ、そんなのコメディでしか見たことありませんよ! どうするんですか、それで2人の仲が気まずくなっちゃったら……」

 自分で言って、まりあははっと気づいた。
 和人と明日奈は、本当に付き合っている。それなのに里香は━━前にも思ったが━━2人の恋を邪魔することなく、かといって完全に諦めてしまうわけでもなく、堂々と2人を応援している。
 ━━里香。私は、そんなに強くなれないよ。

「本当にそうかしらね?」
「えっ?」
「あの2人、案外いい雰囲気だけど」

 里香が明日奈、そして和人を指差して言う。
 ━━なんだ、そっちか。
 まりあは一瞬、まさか心を読まれてしまったのかと驚いたのだ。
 それにしても、里香の顔。
 ほんのちょっぴり切なさを纏ってはいるものの、里香は心から明日奈を応援する確かな笑みを浮かべていた。
 里香のような表情ができるようになった時、里香のように強くなれるのかもしれない。そう考えたまりあは、里香の表情を真似てみることにした。

「……むむむっ」

 しかし、やっぱり難しい。まりあ自身が、明日奈を心から応援しきれていないからだろうか。

「……まりあ? なにニヤけてんの?」

 しまいには、里香にドン引きされてしまった。

「ふ、ふえっ!?」

 なんだか変な声まで出てしまったし。

「ちっ、ちが……ニヤけてなんかいません! わ、私は、ええと、その……キ、キリトとアスナがすごく仲よしさんみたいだから、微笑ましいなあと思ってただけですから、はい!」

 なんか文法までおかしくなったし。

「ちょ、しっ……まりあ、そんな大声出したら!」

 ──和人たちにも見つかってしまったし。
 和人がやれやれとばかりに嘆息する。

「……どーすんのよまりあ、あんたのせいで気づかれちゃったじゃないのっ」

 里香が小声で言い、まりあの腕を肘で突いてくる。せめて責任くらいはとらねばと、まりあは和人に言い訳した。

「ぐ、偶然ですねー! わ、私、屋上大好きなんですよー。よく来るんです。今日は、屋上からの景色の綺麗さを里香に教えようと思ってここに来た次第なんですけど!」
「へえー。その割には、随分長く入口付近に立ってるんだな」
「えっ?」
「……俺、最初から気づいてたぜ。面白いからほっといたけど」

 ━━まさかの。
 溜め息混じりに言った和人の隣で、明日奈は頬を真っ赤にし、彼に言った。

「ええっ!? ちょっと、キリト君! 気づいてたなら言ってよー。わたし結構、人に聞かれると結構恥ずかしくなるようなこと言っちゃった気がする……」
「はは、そのために黙ってたんじゃないか」
「も、もう!」

 明日奈が和人をぽかぽかと物理攻撃を喰らわせる。

「アスナは可愛いですなー。キリトなんかじゃなくて、あたしの嫁に来てほしいわあ」
「キ、キリト“なんか”って……キリト君に失礼でしょー」
「はいはい、そうですねっと」

 そんな明日奈と里香の横で、和人はなにやらブツブツ呟いている。

「……アスナとリズベットが……女同士で、いったいなにを……なにを……なにを……ッ!?」

 和人の顔が、漫画ならボフンッと音がしそうなくらいに赤くなった。

「……キリト? あんた、いったいなに妄想してんのよ……変態。あんなの、冗談に決まってんじゃない」
「だ、誰が変態だって!? 俺は別に、そんな」
「はいはいはいはい、わかったから。……で、アスナさん。作戦は上手くいったようですなー?」

 里香の冷やかしに、明日奈の顔まで真っ赤になった。まったく似た者夫婦、いや恋人である。
 和人が首を傾げ、明日奈に訊ねる。

「え? 作戦って……何の話?」
「キ、キリト君は知らなくていいの!! そ、それよりキリト君、委員会! 委員会の仕事、ちゃんとやってるの!?」
「なんだよ突然……やってるけどさ」
「へ、へえ~、そうなんだ! 偉いね~、キリト君は!」
「俺は子供か……?」

 そう言って、和人は苦笑いを浮かべた。

「そ、そういえば……わたし、君の委員会がなんなのか知らないんだけど」
「……あれっ、教えてなかったっけ?」

 ━━アスナは、キリトがなんの委員会に入ってるのか知らないんだ。
 まりあはそれが、少し嬉しかった。

「知らないなら、知らないままでいいよ。教えたくないし」
「そんなこと言わずに、教えてよー」
「絶対嫌だ」
「えーっ」

 すると和人が、まりあにそっと耳打ちしてきた。

「……アスナ達には、絶対に言うなよ!」

 ──“アスナ達”
 ということは、委員会について知っているのは、まりあだけなのだろうか。
 思っていると、和人が更に囁いた。

「俺たちだけの秘密にしといてくれ」

 ━━俺たちだけの、秘密。
 2人だけの秘密。
 まりあは思わずくすっと笑い、小声で返した。
 ━━わかりました。
 和人はそれに頷くと、まりあ横からそっと離れ、明日奈の隣に戻った。少し残念に思っていると、今度は明日奈がこちらへ駆け寄ってきた。

「まりちゃん、もしかして知ってるの!? だったらお願い、教えて!」
「え、ええと……」

 ちらっと、和人を横目で見やる。和人はぶんぶん首を振っていた。まりあはにこっと笑みを浮かべ、明日奈に言った。

「いえ、知らないです。そもそもキリトって、委員会入ってたんですね? 意外ですー」
「そっかあ……。ふふ、意外ですって、キリト君」
「お、俺だって委員会くらいやるぞ、まりあ……」

 そして、和人はまりあに言った。よく聞き取れなかったけれど━━
 ━━ありがとな
 確かに、そう言っていた。
 
 

 
後書き
今日は大日イオンモールでリア友と遊ぶんだ~。楽しみだなぁ♪ 
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