ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百三十七話:受け継ぐ剣と想い
ルラフェンの町で買い物を終えて準備を整え、荷物を積み込んだ馬車を引き連れて町を出て、西に向かいます。
馬鹿な野良キラーパンサーが喉元過ぎた恐怖を忘れているようなら思い出させてやらねばなるまい、と警戒しながら歩いていると、視界の端でコソコソと姿を隠す、黄色っぽい野生生物の姿が。
うむ、きちんと学習したようで何より。
そんなわけで相変わらず寄って来ない野良キラーパンサー以外の魔物を倒しつつ、巨大なテーブルマウンテンを迂回して北に回り込み、目的の場所を目指します。
折角なので観光がてら、このテーブルマウンテンも登ってみたいところではあるが。
そんなことしてルラムーン草の捜索に支障を来す訳にはいかないので、後で余裕があったらということで。
しばらくルラフェンにはいるつもりだから、今日じゃなくてもまた機会はあるかもしれないし。
などと今後の観光予定を考えつつ、パパンの教えを思い出しながらパパンの剣を振るっていると、ヘンリーが声をかけてきます。
「ドーラ、その剣。使ってるのか」
「うん。剣は初めてだけど、ずっと練習はしてたし。子供の頃に教えてもらってたし、折角だから」
「そうか。……そのままじゃ、お前には少し握りが大きいんじゃないか?」
「……うん。そうなんだけど。でも、あんまりその辺いじりたくないし」
パパンが、この状態で使ってたわけですからね。
そういう意味でもこのままにしておきたいし、気持ちの問題以外にも、いずれ本人に返すつもりであるわけだし。
どうしても必要な手入れをする以外は、できるだけそのままにしておきたい。
私の返答を受けてしばらく考え込んでいたヘンリーが、改めて口を開きます。
「……お前が、俺に教えてくれたのも。パパスさんに教わったことなんだよな?」
「うん。サンチョに教わってた部分もあったけど、最終的にはそっちの比重が大きかったかな」
サンチョもそれなりに強かったけど、やっぱりパパンは次元が違ったからね!
同じ国で生まれ育って二人とも基本の型は共通してたし、サンチョに基本を教わって、その後パパンの戦いを見て学んだり実際に教わったりしたら、完全な上位互換であるパパンの技術でほぼ上書きされてしまったというか。
剣というか武術全般の師にあたる二人の大事な家族を思い返していると、またヘンリーが声をかけてきます。
「……その剣。俺に、使わせてくれないか?」
「え?」
ゲームでは、パパスの剣を装備できるのは、主人公とその息子たる勇者だけだったわけですけれども。
でも現実的に考えてこの剣をヘンリーが装備できない理由が見当たらないというか、そもそもこれが装備可能かどうか確認できる状況になる前にヘンリーは離脱するので、ゲーム中でも確認はできていなかったわけで。
仮に装備可能であるのなら、後は気持ちの問題だけなわけで。
「……」
パパンの剣を、ヘンリーが使うのか。
……うん、嫌ではない。
他の人ならきっと嫌だけど、十年一緒にいて、パパンの技術を私経由でそれなりに引き継いで、今も一緒にいて私を守ってくれるヘンリーなら。
手の大きさが合わない私が無理矢理使い続けるよりも、有効に使ってもらえるかもしれないし。
……だけど、ずっと一緒にいられるわけじゃないのに。
パパンが私を置いて逝ってしまったみたいに、ヘンリーとだって、いつか離れる時が来るのに。
また離れてしまう人にこの剣を預けて、別れる時に返されて。
それで私は、平気でいられるのか。
黙って考え込む私に、またヘンリーが問いかけてきます。
「……嫌、か?」
嫌じゃない、けど。
「……どうして、ヘンリーは。この剣を、使いたいの?」
私にとっては。
自分を偽ったままでも、この世界に生まれてから死に別れるまでの六年間、愛を注いで育ててくれた、大切な人だけど。
ヘンリーにしてみれば、十年前に一度会っただけの人なのに。
自分のせいで死なせてしまったなんてことも、もしかしたら今でも思ってるのかもしれないけど。
絶対にヘンリーのせいでは無いんだから、そんなの背負わなくてもいいのに。
「……パパスさんが死んだのが、本当に俺のせいじゃないかどうか。十年前に聞こうとして、やっぱりやめたの覚えてるか?」
「……うん」
どう考えてもヘンリーのせいでは無いから、ヘンリーがもういいならと思って、私も特に説明しようとはしなかったから。
ちゃんと、覚えてる。
「あの時、聞くのをやめたのは。どっちでも、もう関係無いと思ったから」
「……」
確かに、あの時点でパパンが死んでしまった事実はもう変わらなかったわけだから、誰のせいでも別に関係無かったけど。
その前までかなり気にしてたのに、なんで急に割り切れたんだろう。
「パパスさんが死んだのが、俺のせいでもそうでなくても。俺はお前に着いていって、お前を助けて守るって決めたから。俺のせいならそれも背負うし、そうでなくてもやることは変わらない。だから、お前がいいって言うなら、そこはもういいと思った」
「……」
自分のせいだから背負わないといけない、じゃなくて。
することを先に決めたから、背負うのも重荷にはならないから。
だから、聞かなかったの?
「あの時パパスさんが死んだのが、仕方なかったんだとしても。お前を置いて死んでいくことが、……あんな状況に残して逝くことも、その先ももうお前を守れないことも。パパスさんは、悔しかったと思う。パパスさんのことが無くても、俺はお前を守るけど。今、お前を守れないパパスさんの分も、俺はお前を守りたい。パパスさんの剣でお前を守れれば、俺を気にかけて助けに来てくれたパパスさんも、少しは浮かばれるような気がするから」
「……」
……私は、パパンにも、ヘンリーにも。
そんなに気にかけてもらう価値のある人間ではないけど。
でも、私が実際どんな人間であるかと、周りの人がどう思ってくれてるかとは、別のことだから。
だからきっと、パパンならそうなんだろう。
「だから、お前が嫌じゃないんなら。その剣で、俺にお前を、守らせてくれ」
「……嫌じゃ、ない」
だけど、いいと答えてしまっていいのかどうかわからない。
ずっと着いて来てもらおうなんて、思ってないのに。
本当は、もっと前に別れてるはずだったのに。
「……前にも、言ったが。いる間だけでいいから。その間だけ、俺にその剣を預けてくれないか」
要る間だけ。
私がヘンリーを必要とする間だけ、一緒に居る間だけ。
そんな言い方を、自分が使い捨てでいいみたいな言い方を、またして。
そんな扱いはしたくないのに、そんなのに甘えたらいけないのに。
「……わかった。私が無理矢理使うより、きっとその方がいいし。……大事に、使ってね」
なのに、もっともらしい理由を見付けて。
甘やかしてくれるのをいいことに、甘えてしまう。
こうなるってわかってたから、逃げたのに。
こんなことすればするだけ、後で辛くなるだけなのに。
微笑んで鞘ごと剣を差し出す私に、ヘンリーも嬉しそうに微笑み返して受け取ります。
「ああ。大事にする。絶対に、使いこなしてみせる」
「うん。ヘンリーなら、できるよ」
十年鍛えるうちに技術は私と大差無くなってたし、レベルはともかく力のステータスはきっともう私よりも高いし、私と違って男だから手も大きいし。
きっと私にはできないことを、この先もどんどんできるようになっていくんだ。
……私が、男だったら。
きっと今、ヘンリーはここにはいなくて、私の手も大きくて、このままでもこの剣を使いこなすことができていて。
こんな風に、自分のズルさと向き合うこともなかったのかな。
微笑みを顔に張り付けたままでなんとなく下を向くと、足元に影が差して。
それでも顔を上げずに俯いたままでいると、歩み寄っていたヘンリーに抱き締められます。
「……ドーラ。お前が出来ないことは、全部俺が出来るようになるから。お前は絶対、俺が守るから。だから」
「……大丈夫。遅くなるから、もう行こう」
慰めるように囁いてくるヘンリーの言葉を途中で遮って、胸を押し返して抱き締めてくる腕の中から逃れます。
だから、の後に何て言おうとしてくれたのかわからないけど。
私が女なのはどうしようも無い事実で、十六年前の、この人生の最初からわかってたことで。
今さら、くよくよ悩んでも仕方ない。
今、甘えて逃げた分も、結局は後で自分で背負うことになるんだから。
いつまでもそんなことに囚われてないで、まずは目の前の、絶対に必要なことを。
ルラムーン草を大量にゲットして、まずはルーラを復活させたのち、あらゆる魔法の適性を身に付ける作業を済ませないとね!
後書き
パパスの剣の装備可能者について感想でご指摘いただき、修正しました。
修正前)主人公だけ
修正後)主人公とその息子たる勇者だけ
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