黒い烏が羽ばたく魔世に
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第一章 「グレン・ポッターと賢者の石」~Glen Potter and The Philosopher's Stone~
3話 Malfoy family.「マルフォイ親子」
三話「マルフォイ親子」
「で、何を買わねばならんのだ?」
「えーと・・・」
グリンゴッツを後にしてモラルドに尋ねられたグレンは、ホグワーツから送られてきた教材リストを巾着から取り出した。
必要な物は制服、教科書、その他学用品に鍋や望遠鏡など。だが、その中でグレンが一番買うのを楽しみにしているのはもちろん自分用の杖だった。
「うむ・・・だが、こういうのは面倒なのを先に済ませた方が良いだろう」
グレンから教材リストの内容を聞いたモラルドは、最初に制服を買いに行くことに決めた。確かに、他の買い物の後に採寸だの何だのの疲れる作業をするのはかなり嫌だ。グレンもモラルドの意見に賛成した。
だが、グレンとモラルドがマダム・マルキンの店の近くまでいったとき、店の前にはどうやらすでに先客の親子がいた。黒いローブを纏った男と、そしてその男と良く似た容姿のグレンと同じくらいの年の子供だ。
そしてその男が顔を上げ、グレン達の存在に気づいた。グレンはモラルドが横で舌打ちをする音をしっかりと聞いた。
「おやおや・・・これはこれは、なんと珍しい・・・こんな所であの外出嫌いのモラルド・レイモンド氏を拝めるが出来るとは」
男はモラルドの目の前までやってきてモラルドを薄ら笑いで見下ろした。血色の悪そうな顔色だが、全身を覆う黒いローブと伴って、男はどことなく高圧的な雰囲気を醸し出していた。
「ふん・・・わしは出来れば、2度とその傲慢な面を見たくは無かったがな」
モラルドは男を見知った様子で、そっぽを向いて嫌味を返した。グレンはモラルドと男が知り合いなのに驚くのと同時にこの男は何者なのかと訝しんでいた。男はモラルドの嫌味を大して気に留めることなく、グレンを興味深そうに眺めて口を開いた。
「私の見立てでは・・・グレン・ポッターとお見受けするが?」
「えぇ、そうですが・・・あなたは?」
話しかけられたグレンは、下手に男に因縁を付けられないようにとなるべく丁寧に聞き返した。
「ほう、君の祖父上がが私のことを君に話していないのですな?私はルシウス・マルフォイ。君の祖父とは古い知人でね。君のことももちろん知っている」
(へぇ、そうだったのか)
あのモラルドと親しく話せる人物が存在していたことに内心驚いていたグレンだったが、その男がルシウス・マルフォイだったことにはなおのこと予想外だった。
そういえば考えてもみなかったが、レイモンド家はレイブンクローの末裔で純血魔法族の家系なのだからかなり有名であり、純血主義の一族であるマルフォイ家が知ってるのは当たり前だろうし、純血の家系同士では面識や交流はあるだろう。
しかし、こんなに早くマルフォイ一家と遭遇するとは思わなかった。たしかに原作では、ハリーはグリンゴッツの後にマダム・マルキンの店でドラコと接触するわけだから、時間系列的には遭遇して当然だったのだ。
「私の息子のドラコも君と同い年でね。明日からホグワーツに通うことになる。きっと君の良い学友となることだろう。仲良くしてくれたまえ」
「よろしく」
紹介されたドラコは、薄ら笑いを浮かべながら手を出した。自分の立場故に、グレンと絶対に仲良くなれるという自信があるのだろう。この世界での彼は原作とあまり変わらない性格のようだ。グレンは、何とも言えない気持ちでドラコの握手に応じた。
「あぁ、よろしく」
それを見たルシウスは満足ように頷いて、二人の肩に手を乗せてから言った。
「折角なのだから、二人で一緒に制服を買いに行くと良い。私は、君の祖父上と少し話したいことがあるのでね」
「わしにか?」
モラルドはルシウスの言葉に嫌悪そうな表情をしながら聞き返した。モラルドは、人と会話するのも、一方的に話を自分に向けてされることも嫌いなのだ。
「なに、お時間は取らせませんよ。それとも、都合が悪いようでしたらまたにしますが?」
「ふん、まぁ良いだろう。隣の店を見るついでになら聞いてやる」
モラルドはめんどくさそうに鼻を鳴らした。その様子と言葉から、グレンはモラルドが真面目にルシウスの話を聴く気が無いことを察した。
隣の店は「フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店」だ。グレンたちがホグワーツ指定の教科書を買うために次に行こうとしていた場所だった。モラルドはついでに用事を済ませつつ、ルシウスの話は適当に聞き流すつもりなのだ。
「グレン、教科書のリストを貸せ。ついでに買って来てやる」
「はい、これ」
グレンは教科書のリストを取り出した。モラルドはグレンからそれを受け取ると、先にさっさと店に入ってしまった。
ルシウスはちらりとグレンを見た後、自分の息子のドラコに声をかけてモラルドを追いかけて店に入っていった。
「じゃぁ、僕らも行こうじゃないか?」
父が去った後、ドラコが先導してグレンはマダム・マルキンの店に入った。出迎えたマダム・マルキンは、全身藤色の服を着たずんぐりとした魔女だった。マルキンはニコニコとしながら声をかけてきた。
「坊ちゃんたち、ホグワーツなの?」
「あぁ、そうだ。制服を買いに来たんだ」
真っ先にドラコが答えた。
「ホグワーツの制服は全部ここで揃いますよ……じゃあ丈を合わせるから、お二人ともそこの踏み台の上に立っててくれるかしら」
言われた通りにグレンとドラコが踏み台に立つと、マルキンはもう一人の魔女を呼んでその魔女にドラコを、マルキン自信はグレンにかかって丈合わせを始めた。
「君はもう他の店は見てきたのかい?」
しばらくして、ドラコは気取った話し方でグレンに話しかけた。その話題は、原作でハリーに向けて言っていた内容とほぼ同じだ。
「いいや、まだこれからだ」
「そうかい。君はクディッチはやるの?僕はこの後、父と母を連れて競技用の箒を見に行くつもりさ。君も良かったら一緒にどうだい?」
そういえば、その後ドラコは箒を父に買わせるつもりなのだ。グレンは眉を顰めた。
「一年生はクディッチの寮代表選手になれないし、個人用の箒は持ちこみ禁止って聞いたけど?」
グレンの言葉にドラコは僅かにムッとした顔になった。
「そりゃぁ選手にはまだなれないけど、それでも一年生が自分の箒を持っちゃいけないなんて訳が分からないね。今に父に頼んで学校の制度を変えて、持込み可にしてもらうつもりさ。僕の父はホグワーツ理事の一人だからね」
「へぇ。それだと、確かに持っていけるようになるかもしれないな」
それは、ルシウスがホグワーツ理事でいる後2年の間にホグワーツの新しい制度の申請が間に合えばの話ではあるが。
グレンが同感の意を示したことで、ドラコはまた気を良くした。
「そういえば、君はもうどの寮に入るかは決まってるのかい?確か、レイモンド家はレイブンクローの末裔だって聞いたけど」
グレンはその質問に即答できず、少し考えた。
「どうだろうな・・・じいさんはレイブンクローだけど、オレの両親は二人ともグリフィンドールだったって話だ」
「へぇ、それはおかしな話だね。僕の家族はみんなスリザリンで、他の寮に行った人なんていないよ!」
マルフォイの家族が全員スリザリンなのは、家系が代々純血主義思考による所以だろう。他の魔法使いの家では、家族が皆それぞれ異なる寮になった所だって在る筈だ。それに、家系が代々同じ寮に入っていても、シリウス・ブラックやグレンの母のように一人だけ別の寮に入った例だってある。
「それじゃあ、君は君の両親と同じようにグリフィンドールに入りたいと思っているのかい?」
ドラコの問いかけに俺は断言した。
「いや、それは無理だろうな。多分じいさんと同じレイブンクローになると思う」
正直、グレンは自分自身に勇敢さも騎士道も存在しているとは思っていない。だが、今までに祖父から叩き込まれた魔法に関する知識に対してのみ唯一、誰にも負けることのないという自信を持っている。
「ふーん、でも君は是非ともスリザリンに入るべきだと思うな。スリザリンは他の寮と違って高貴で素晴らしい寮だからね。それに他の寮だと、クディッチで僕とライバルになるだろう?まぁ、どの寮になるかは実際行ってみないと分からないけどさ」
「・・・あぁ、そうだな」
確かにどの寮になるかは、実際に組み分けが行われるまでは分からない。グレンはドラコの言葉に曖昧な返事で返した。
制服を購入し終えたグレン達は、店の外でルシウスとモラルドが隣の店から出てくるのを待った。しばらくして隣の店から出てきたモラルドは、どこか暗い雰囲気であるとグレンは感じた。
「では、我々はこれで失礼しよう」
ルシウスが意味ありげにグレンとモラルドを見てから言った。それを聞いたドラコが慌ててルシウスに抗議した。
「父上!グレンともう少し店を一緒に見て廻っても良いのではないですか?」
「レイモンド氏はお忙しいのだよ。それに、グレン・ポッターとはまたホグワーツで会えるだろう」
自分の親には逆らえず、ドラコはそれを聞いて不満そうな顔で押し黙った。そんなドラコを宥めるために、グレンはドラコの肩を叩いた。
「仕方ないさ。ドラコ、また学校で会おうぜ」
「あぁ・・・そうだな。今度はホグワーツで会おう」
互いに挨拶を交わした後、マルフォイ親子と別れたグレンとモラルドは次に杖の店に向かうことにした。
自分の持つ杖がどんな杖になるのかというのは、グレンが何年も前から楽しみにしていたことの一つだった。しかし、今になってグレンはそれよりもさらに気がかりとなることが胸中にあった。
「ルシウス・マルフォイは一体何を話したの?」
どうしても気になってしまい、グレンは思わずモラルドに「フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店」で何をルシウスと話していたのかを尋ねていた。
「お前は知らなくても問題ないことだ」
モラルドはグレンの方へ振り向かずに静かに言った。それを受けて、グレンはこれ以上の詮索をするのを止めた。その後のモラルドはずっと、何か考え込むように沈黙したままで結局次の店に着くまでの一度もグレンに話しかけることはなかった。
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