黒い烏が羽ばたく魔世に
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第一章 「グレン・ポッターと賢者の石」~Glen Potter and The Philosopher's Stone~
2話 Diagon Alley.「ダイアゴン横丁」
二話 「ダイアゴン横丁」
ダイアゴン横丁へは、モラルドの手を借りて「付き添い姿現し」で向かった。正直、「姿現し」でいきなりダイアゴン横丁に直接辿り着いたことにグレンはかなり拍子抜けしていた。
原作の賢者の石でもそうだったし、グレンの中ではダイアゴン横丁の入り口は「漏れ鍋」の印象だったから、グレンはてっきりダイアゴン横丁に行くために、最初は「漏れ鍋」に行くものだと思っていた。
だが良く考えてみると、店を通らないと絶対にダイアゴン横丁に行けないということは無い筈なのだ。イギリス中の魔法使いがダイアゴン横丁に行きたいがために、全員が「漏れ鍋」に押し寄せたら恐らく店はパンクしてしまうに違いない。
それに、モラルドも漏れ鍋にわざわざ寄る用なんて無いんだろう。誰かと酒を酌み交わすよりも、一人でじっくり呑みたい派だろうからな。下手すれば、モラルドは一度も漏れ鍋に行ったことが無いんじゃないだろうか。
そんなだから、ダイアゴン横丁の通りを歩いている時もすれ違う人々にいちいちぶつかりそうになったりして、モラルドは四六時中イライラしながら愚痴を溢していた。あまりにも人混みに慣れていないから、上手な進み方が分からないのだ。
そして残念なことに、グレンは地味に人混みにはそれなりに慣れていたので、モラルドの後をついていきつつも辺りのダイアゴン横丁の様子をゆったりと観察することが出来た。
ダイアゴン横丁にはさっと見るだけでも本屋、箒屋、洋服屋、薬問屋などの店はもちろん、魔法生物のペットショップや、色とりどりのじゅうたんばかりが置いてある店や、見たこともないいろんな形のお菓子を売ってる店、さらにはお菓子と分かっているだけ前の店がマシだったと思えるくらい、一体何に使うための物なのか良くわからないものばかりが置いてある店まであった。どれを取っても好奇心の揺さぶられる物ばかりだ。
だが、すべてをくまなく訪れることは出来ないし、まだどこにも買いに行くことは出来なかった。まだグレンはお金を持っていない。今、モラルドとグリンゴッツを目指している所だった。
まもなく、グリンゴッツが見えてきた。間違い無く、他のどの店よりも目立って大きい建物だった。グレンはグリンゴッツの白い建物を目に焼き付くぐらいにしげしげと外観を眺めまわしてから、モラルドと白い石段を登り建物の中に入った。
レイモンド家の屋敷しもべ妖精のルクドーは見慣れているが、そういえば子鬼を見るのは生まれて初めてだったと、建物の中でそれぞれ思い思いに働く子鬼達を見てグレンは気付いた。子鬼達を頭の中でルクドーと見比べてみたが、いつも暖かさのある微笑みを浮かべているルクドーと違って、皆どことなく狡賢そうな顔突きをしている気がした。それに、表面上では丁寧な対応をしていても、その目は不快なぐらいにギラギラと、グレン達を観察していた。ある意味で、彼らは職業病なのだろう。
「あー、グレン・ポッターの金庫から金を引き出したいんだが」
モラルドはカウンター越しに、働いている子鬼の一人に声をかけた。
「鍵はお持ちでいらっしゃいますか」
「あぁ、もちろんだ」
子鬼の問いにモラルドはすかさず鍵を目の前に出して見せた。恐らく子鬼製の、小さな黄金の鍵だ。
そういえば原作でも同じようなやり取りをしていたなと、グレンはぼんやりとそのやり取りを眺めていた。祖父が自分の金庫の鍵を持っていただなんて知らなかった。でも、つい今日未明に出会ったばかりの人が自分の金庫の鍵を持っていた、という話よりは身内が持っていた方がまだ自然なんじゃないだろうかとも思える。そもそも、ハリーの両親の財産を仕舞った金庫の鍵が、一体どういった経緯を辿って原作では「禁じられた森の番人」の元へ辿りついたのだろうかが不思議だ。ホグワーツ学校長の手に在っただろうことは推測出来るのだが。
「確認致しました。それでは金庫に案内致しましょう」
慎重に鍵を隅々まで調べ終えた子鬼は、そう言ってからグレン達を地下にある金庫に案内した。グレンがそこで必要なお金を引き出し終えてグリンゴッツのホールに戻ると、モラルドはグレンに金庫の鍵を渡した。
「これはお前が持っていろ。これから先、お金は必要になるだろうからな」
グレンはその言葉に頷くと、鍵を受け取って魔法のかかった巾着袋に仕舞った。この巾着袋はグレンが今日鞄代わりに使っている。持ち主以外が中身を取り出すことは出来ないし、失くすこともない特別製だった。
お金を引き出し終えたので、グレン達はグリンゴッツを後にした。ちょうどその時、グレンはグリンゴッツに行く所の髭も混じって毛むくじゃらの大男を見た。
グレンはその人物を見て思わず「あっ」と声を上げて、そしてしまったと後悔した。モラルドも大男もその声に気付いてグレンを見た。彼には会ったことが無いから知らぬ振りをしなければいけないのにし損ねてしまった。2メートルをゆうに超えるこの大男は、実際に目にしたことがなくても、それは明らかにルビウス・ハグリットだった。
ハグリットはグレンをまじまじと見てから、そして恐る恐る尋ねた。
「お前さん・・・ひょっとしてポッターの子か?」
「うん・・・そうだよ」
グレンは、迂闊なことをしてしまったと冷や汗を掻きながらも頷いた。恐らく、父のジェームズとそっくりだからハグリットは分かったのだろう。実際、ハリーもジェームズにそっくりだと、原作では何度も書かれている。
ハグリットはグレンの返事を聞いた途端、目をキラキラと輝かせて子供のようにはしゃぎだした。
「そうか!やっぱりグレンか!お前の父さんとそっくりだからすぐ分かったぞ!随分と大きくなったもんだなぁ!」
息を吐く間も無い程、ハグリットは言葉を捲し立てた。横にいたモラルドは何が何だか分からずそれを唖然と見ていた。
「あれから随分と経つもんなあ。10年ぐらいだったか?しっかり元気にしとったか?えぇ?」
「ま、まぁ―」
「─ウオッホン!!」
モラルドが大きく咳払いした。それを聞いたハグリットは、ようやくモラルドの存在に気づいて落ち着いた。自分が我を忘れて興奮していたことを知り、ハグリットは顔を赤らめ口をもごもごさせた。
「あぁ・・・ええと、その・・・お前さんは誰だ?」
どうやら、咄嗟に出てきた言葉がそれだったらしい。だが、ハグリットのその言葉はモラルドの神経を逆なでしてしまった。
「誰だ、だと?人にものを尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀だろうが!先ほどから黙って聞いておれば、人の孫に訳の分からん事ばかり言いおって・・・!」
今度はモラルドが怒りで顔が真っ赤になる番だった。ハグリットはしどろもどろになって言った。
「そ、それはすまなんだ。あんまりにも嬉しくなっちまってつい・・・何しろここでグレンに会えるなんて思ってもみなかったもんで・・・そう、名乗るんだったな。俺はルビウス・ハグリットっちゅう者だ。ホグワーツの鍵と領地を守る番人をやっとる。・・・待て、孫と言ったか?そんじゃお前さんは、モラルドか?ミリアの親父の?」
どうやら、目の前にいるモラルドが誰かは気付かなかったが、モラルド・レイモンドという人物自体はハグリットは知っていたらしい。モラルドは滅多に外出なんてしないから、会ったことがないんだろうなとグレンは思った。
「あぁ、そうだ。ワシがモラルド・レイモンドでグレンの祖父だ」
「そうか。お前さんがグレンを育ててくれたんか・・・いや、何と言ったらいいか・・・」
二人の間に気まずい雰囲気が流れた。少なくともグレンはそう思った。どうやらこの二人はあまり反りが合わないようだ。
ともかくも、このまま二人のこの状態が続いたら買い物に行くことができない。なので、グレンは取りあえず話題を逸らすことにした。
「ハグリットもお金を引き出しに来たの?」
「おっといけねぇ、忘れるとこだった。・・・いや、俺はちょっとしたおつかいでな・・・ま、まぁ、大したモンじゃねぇんだが」
なるほど、やはりハグリットは隠し事が苦手だなとグレンは思った。最後の言葉を言うときハグリットは目が泳いでいた。しかしそれは、グレンが事情を知っているからこそ良く見ていたから気付いたというのもあるだろう。
「じゃぁ俺はそろそろ行くんでな・・・じゃあな。グレン。ホグワーツでまた会おう」
「うん、またね」
グレンは手を小さく振って、ハグリットがグリンゴッツへと向かう石階段を上っていく姿を見送った。
グレンはハリーと違い、ホグワーツに行く前にハグリットとあまり関わることは出来なかったが、それでも少しの接点があることは大きな違いだと思う。物語の関係においても、少なくともハグリットと親密になることは重要だ。だから、モラルドと口論してしまう形にはなってしまったが、今回この場所で出会えたのは結果的には良かったと思う。
とにかく、ホグワーツでハグリットを見かけたらなるべく一番に挨拶しよう、とグレンは思った。
後書き
原作キャラ登場ですが、あまり良い見せ場を用意できませんでした。残念。ハグリットファンの方にはごめんなさい。
オリジナルキャラクターのモラルド爺さんは独りよがりの気難しい性格になるべくしようと思っているので、他人に対して罵声を浴びせるようなそんな展開にいつのまにかなっているような感じで、多分あまり好かれるキャラじゃないと予想します。
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