十字架
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第一章
十字架
彼女が僕に最初にくれたもの、それは。
十字架だった、僕は銀のそれを見て彼女に尋ねた。
「これ、くれるんだ」
「うん、胸が寂しい感じがしたから」
だからだとだ、彼女は僕に笑顔で言ってくれた。
「あげるね」
「神様なんてね」
僕は苦笑いで彼女に応えた。
「僕には縁がないよ」
「神様信じないの?」
「そうだよ」
ほんとうにその通りだ、僕は神様なんて信じたことはない。そんなものは嘘だと頭から決めてかかって生きてきていた。
それで彼女から貰った十字架を見てもこう言ったのだ。
「そんなの信じる位なら自分で何とかするよ」
「そうなの、けれどね」
「それでもなんだ」
「よかったら貰って」
こう笑顔で言って来た。
「そうしてくれたら嬉しいから」
「まあ僕は神様は信じないけれど」
それでもだった、折角の好意の貰いものだから。
「僕にくれるんだね」
「よかったら貰って」
「有り難う、じゃあ大切にするよ」
「そうしてね」
こうした何でもないただの贈りものだった、けれど。
大好きな彼女からの貰いものだから大事にした、いつも胸にかけてそのうえで見ていた。それで彼女も僕の胸の十字架を見て言って来た。
「似合ってるわよ」
「いや、それはないよ」
僕は彼女の笑顔のこの言葉をいつも否定した。
「だって僕は神様は信じないから」
「だから似合ってるから」
「だといいけれどね」
こんな話をしながらお互いに贈りものをしていった、そして。
二人で何時までも幸せに生きられると思っていた、けれどそれは突然変わった。
あの日僕達は僕のアパートで二人でゲームをしていた、そうしながら休日を二人で過ごしていた。そしてだった。
僕は彼女にだ、こう言った。
「ちょっと悪いね」
「悪いって?」
「だから休日に昼からゲームなんてね」
「いいじゃない、楽しいし」
彼女は新作のソフトを楽しみながら僕に答えた。
「このゲーム面白いよ」
「それはそうだけれどさ」
「だって仕方ないじゃない、お金ないから」
そのせいだった、僕達が今ここに二人でいるのは。
「それで二人でいるとなるとね」
「これしかないか」
「そうでしょ、それにお金がないのも」
「お互いにプレゼントしてだからね」
「次にお金が入る時までね」
二人共バイト料が入るまでだった、大学生はお金がないものだ。あっても入ればすぐに使ってしまう、それは僕も彼女もだ。
それで今もこうして遊んでいる、僕はそのことはあまりよく思えなかったけれど彼女は違っていた。
にこにことしてだ、こう言ってくれた。
「こうしてるのも楽しいからね」
「ゲームでいいんだね」
「ええ、いいわ」
こう二人で話しながらゲームをしていた。僕は時々今も胸にかけている十字架を触った。その日はこれで終わる筈だった。
急に部屋全体が揺れた、そして。
本棚から本が次々と落ちてきて壁にかけてある時計なり何なりも落ちた、それから。
激しい物音がした、それを見た瞬間に。
僕も彼女もすぐにベッドの下に潜り込んだ、そこが一番安全だったからだ。
それで何とかものが落ちてくることから逃れた、それで揺れが終わってからだった。
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