久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六十二話 十二時の決戦その十三
「ありません」
「最後の審判までと言いましょうか」
スペンサーはクリスチャンだ、プロテスタントである。それでミケランジェロも描いたその時のことを言ったのである。
「その時まで」
「そうした意味で永遠ですか」
「はい、私は合衆国の為に戦います」
「それは変わるでしょう」
今度は達観した目で言うマガバーンだった。
「それもまた」
「私の心は不変ですが」
合衆国、祖国への忠誠はというのだ。
「何があっても変わりません」
「貴方が変わらなくとも周辺が変わります」
それでだというのだ。
「アメリカ自体もまた」
「合衆国が」
「それによって貴方も変わるでしょう」
「合衆国もまた不変ですが」
マガバーンの言う意味を誤解していたがそのことに気付かないまま彼に返す。
「あくまで世界の盟主であろうと」
「考えておられますか」
「はい」
そうだというのだ。
「ですから」
「そのこともおわかりでしょう、その時に」
「どうお考えかわかりませんが私も合衆国も変わりません」
スペンサーはマガバーンを見据えつつ語る、そのうえでだった。
彼に空軍の敬礼をしてからこう述べた。
「またお会いしましょう」
「では」
別れの挨拶を軍人らしく律儀に告げてそのうえでスペンサーも去った、既に高代や広瀬、権藤もいない。王もコズイレフも。
中田は残っていた、彼は戦うことを選んでいるがそれでも上城と共にいてそのうえでマガバーンに対して問うた。
「いきなり出て来てくれたけれどな」
「そうなりましたね」
「あんたの名前は聞いたよ。マガバーンさんだな」
「そうお呼び下さい」
「名前は覚えたよ。あんたが剣士だってこともな」
このこともわかったというのだ。
「そうしたことはな、けれどな」
「それでもですか」
「戦いを止めたい、終わらせたいっていう理由は因果か」
「はい、因果です」
スペンサーに話したことをそのまま話す。
「それを終わらせるのです」
「この戦いの因果ねえ」
「それをです」
「宗教的な話になってきたね」
中田は首を少し左に捻ってどうかという顔を見せて語った。
「俺はそういう話はどうもな」
「苦手ですか?」
「神様も仏様も信じてるけれどな」
それでもだというのだ。
「そうした話は得意じゃないんだよ」
「そうですか」
「そうなんだよ、因果ねえ」
「お聞きになりたいですか?」
「気になるけれどな」
それでもだというのだ。
「そうした話は得意じゃないからな」
「では今は」
「帰るよ」
右手を上げて言う。
「そうさせてもらうよ」
「わかりました、それでは」
「あんた見たところだけれどな」
中田はマガバーンも見た、そのうえでの言葉は。
「いい人だよな」
「自分ではそう思っていません」
「それはどうしてだい?」
「私はこれまで多くの罪を犯してきましたので」
だからだというのだ。
ページ上へ戻る