少年と女神の物語
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第二十話
前書き
本日三回目の投稿です。
注意
今回の話には、作者の神話に対する独自解釈が多分に含まれます。
「これは、やっぱり戦士の・・・」
「何で武双が使えるんだよ・・・!」
さて、護堂たちに種明かしはするつもりがないけど、ヒントくらいは上げようか。
「ヒントとしてはな、護堂。オマエにすごく関わりがある魔道書を思い出せ」
っと、これはほとんど答えか。実際、二人も納得したような顔をしてるし。
では、簡単に種明かしをするとしよう。
これが、俺がプロメテウスから簒奪した権能。出来ることは、相手の権能のコピーだ。
発動条件は、①盗人の言霊を唱え、権能の持ち主に触れる。②その権能について、十分な知識を持つ。③その権能による攻撃を十二分に喰らう。
そして、俺はこの条件を全て満たして、コピーした『戦士』の権能を発動したのだ。
「ウルスラグナはゾロアスター教に伝えられる、勝利を神格化した女神、英雄神だ!」
言霊を一つ唱えると、俺の周りに黄金に輝く球が現れる。
なんと頼もしいことだろう・・・
「女神が勝利の属性を持つことは、特に珍しいことではない。日本にも勝利の女神という言葉があり、ギリシア神話にもニケという勝利を神格化した女神がいる。だが、英雄神・・・鋼の属性を持つことは、非常に稀有なことだ」
初めて使うのだから、少しばかり慎重に行こう。
俺はそう決めて、もう少し黄金の球をふやすことにする。
「だが、実際に彼女はアジ・ダカーハという龍の退治に参加することで鋼の属性を持つ。何故女神でありながらにして鋼の属性を持つのか。この謎を解く鍵は、ウルスラグナと同一視される神や、ウルスラグナの元となった神にある」
そして、ダグザの権能でえたウルスラグナの知識を、言霊として黄金の剣に込める。
「まず、ウルスラグナはギリシア神話のヘラクレスと同一視される。そして、ヘラクレスは生まれると同時に蛇を絞め殺した、れっきとした鋼の神格だ!」
そこから、ウルスラグナは鋼の神格を得るのだが、なにもルーツはこれだけではない。
「そして、ウルスラグナの十の化身はある神の化身に対応する。その神は、インド、ヒンドゥー教の神、ビシュヌだ!」
ウルスラグナの歴史を紐解き、権能を斬り裂く刃を鍛える。
「護堂!急がないと」
「分かってるよ!」
そして、護堂も何もしてこないわけがない。
俺のすぐ後ろにある・・・いや、これがあるからこそこの場を指定した、巨大な建築物・・・東京タワーがある。
「主は仰せられる。咎人には裁きをくだせ。背を砕き、骨、髪、脳髄を抉り出し、血と泥と共に踏みつぶせと。我は鋭く近よりがたき者。主の命により、汝に破壊を与える獣なり!」
護堂は猪の化身を使い、巨大な猪を召喚した。
そして、その猪はソニックウェーブを発しながら、こちらに突っ込んでくる。
「ウルスラグナの第五の化身、猪の化身は、ビシュヌの第三の化身と同じものだ。荒々しく破壊する猪とその牙で大地を支えて沈まないようにする猪との違いはあるが、同じ猪であることに変わりはない!」
俺は黄金の剣を放ち、猪の化身を切り刻む。
あれがウルスラグナの権能で召喚したものである以上、これの前には何の意味もなさない。
「そうしてみれば、確かにこの二柱の神の化身には共通するものが見られる。ウルスラグナの白馬、戦士はビシュヌのカルキに」
カルキとは、悪を滅ぼすために現れる、白馬に乗って剣を抜刀した戦士だ。
「民の心を束ねる山羊は、宗教を作ることによって民の心をまとめるゴータマ・ブッダに。人々に助言をする少年は、洪水の際に人々を救う助言をし、自分に乗せることで救ったマツヤに。他の化身もこのように対応する。これは偶然ではなく、必然による一致だ。なぜなら、ゾロアスター教が出来たのはインド周辺、ゾロアスター教自体がインド神話の影響を多分に受けているのだから!」
そして、護堂は使える化身のうち、この場で使える最後の化身を使ってきた。
雄牛を使っても俺に届かないのだから、残るのは一つ。白馬だけだ。
「我がもとに来たれ、勝利のために。不死の太陽よ、輝ける駿馬を遣わしたまえ!」
護堂の言霊で、天から炎の白馬が俺に向かって進んでくる。
「こうして出来たのが、ウルスラグナという女神だ!勝利と英雄、女神という三つの属性が同時に存在するゾロアスターの英雄神!」
そして、残弾の全てを使うくらいの勢いで白馬に黄金の剣を放ち、自分は護堂に向かって走る。
「速い・・・避けれ」
「オマエは、そんな神を殺したんだ!」
そして、自分の手にある黄金の剣で護堂を・・・護堂の持つ、ウルスラグナの権能を切り裂き、完全に戦士の権能を使い切った。
◇◆◇◆◇
「あー・・・頭痛い・・・」
使い切ると同時に、俺は激しい頭痛に見舞われた。
プロメテウスの権能は面倒な条件が多い上に、使いきった後に激しい頭痛に見舞われる。
まあ、自分のでもない権能を無理矢理に使うのだから仕方ないとは思うが・・・正直、勘弁して欲しい。
ただでさえ相手の権能を十二分に喰らうのだから、その時点で死に掛けているときもあるというのに・・・
「希望的観測のもと聞くけど・・・護堂。権能は感じられるかしら?」
「駄目だ・・・全然感じられない!」
さて、戦士の権能はしっかりと働いてくれたようだし、再開しますか。
「護堂!彼は私が抑えるから、その隙に逃げて!」
エリカはそう言って、クオレ・ディ・レオーネを構えた。
王のために王に立ち向かうか・・・すばらしい騎士道精神だこと。
「鋼の獅子よ、汝に嘆きと怒りの言霊を託す。神の子と聖霊の慟哭を宿し、聖なる末期の血を浴びて、ロンギヌスの聖槍を顕しめよ!聖ゲオルギウス!御身の御名にかけて、今こそ我は竜を討たん!」
そして、クオレ・ディ・レオーネは長さ二メートルほどの槍に変わる。
言霊からして、ロンギヌスと同じようなものか・・・
「紅き十字の楔よ、竜鱗を裂き、臓腑を抉れ。殉教の騎士よ、願わくば御身の武勲を我にも分かち与え給え!」
そして、こちらに投げてきた。
さて、あれはさすがに喰らうわけには行かないし・・・
「護堂!速く逃げなさい!」
「ふざけんな!エリカを措いて逃げれるわけねえだろ!」
かっこいいねぇ、護堂。
まあ、まずはこっちだよな。
「真なるロンギヌスよ、偽りのロンギヌスを砕き、汝の存在を顕しめよ!汝は二振りと存在せず、唯一無二のものなり!」
そして、俺はロンギヌスを『召喚』し、エリカの投げた槍にぶつける。
結果、エリカの槍は砕け、二人の足元にロンギヌスは着弾、二人は吹っ飛んだ。
「ぐ・・・エリ」
「それ以上喋るな、動くな」
護堂はすぐに立ち上がろうとするが、俺が槍の先端をのどに突きつけたことでその動きを止めた。
「護堂!」
「エリかも、それ以上動くなよ。今から始まるのは、王と王の交渉だ」
念のためエリカに釘を刺し、俺は護堂との話を再開する。
「さて護堂、交渉をしないか?お前が一つ誓ってくれれば、二人とも殺さない。ただし、誓わないのなら二人とも殺す」
「誓っては駄目よ、護堂。同等の存在との間に何か契約すれば、どんなことになるか分からない!」
「ってエリカは言ってるけど、選択肢がないことくらいは分かるよな?」
「・・・ああ」
護堂は、重々しくそう答えた。
「じゃあ、この槍の穂先に誓え。俺の家族に手を出さない、と」
「・・・分かった。誓おう」
エリカが何か言っているが、そんなことは気にせずに契約はなされる。
穂先から小さな光の球が現れ、護堂の口の中に入っていく。
「ふう・・・契約完了。約束どおり、開放しよう」
「・・・やけにあっさりと開放するんだな?」
「まあ、もとから殺す気はないしな。この契約さえ出来れば、それでよかったし」
「だったら、最初からそういえよ・・・」
「エリカが邪魔してくるのは目に見えてたからな」
まあ、エリカさえいなければ戦わなくてもよかったのだが、いた以上は仕方ない。
誓わざるを得ない状況を作るしかなかったのだ。
「・・・武双、先ほどの誓いで護堂はどんな影響を受けるのかしら?」
「まあ、そこまで複雑ではないよ。正当防衛でもないのに俺以外の家族に殺意を持ってかかれば、誓いを破ったことになり護堂は死ぬ」
「何でわざわざそんなことを・・・誓わなくてもよかったんじゃないか?」
「そうでもない。まあ、見てみれば分かるだろ・・・あ、アテか?終わったから来てくれ」
俺はアテに電話をし、こちらに来るよういった。
「アテって・・・私達のクラスにいるアテよね?今回の件にかかわっているのかしら?」
「まあ、こんなことをしたのは全部あいつのためだしな。お、来た来た」
近くにいるように言っておいたので、アテはすぐに来た。
「きたよ、武双。それに・・・こんにちは、エリカに護堂」
「さて、ブレスレットを外してくれ」
「うん」
そして、アテはブレスレットを外し・・・神性を開放した。
「な、この感覚・・・力が、みなぎってくる・・・?」
「護堂、まさかそれって・・・」
「うん、そう。私の正体は女神。ギリシア神話の、女神アテです。あ、でも。気にせず今までどおりでいいですからね?」
アテがそう言うと、二人は今までで一番驚いた顔をした。
そういえば、こうして純粋に驚いたのは、今までにアイーシャくらいかもしれない。
「さて、これで分かったか?俺がカンピオーネに釘をさしてた理由」
「ああ、理解したよ・・・まさか、家族に女神がいたなんてな・・・」
「それより、何で相対する存在である神と神殺しが家族になってるのが受け入れられないのだけれど・・・」
「といわれましても、武双が神殺しになる前から家族ですし」
「もう、どんな出会いをしたのか全く分からなくなってきたな・・・」
「色々あったんだよ、色々」
そんな感じで、俺と護堂の戦いは終わった。
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