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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第十九話

 
前書き
注意
今回の話には、神話に関する作者の自己解釈が多分に含まれます。

本日二話目の投稿です。 

 
 一時間弱たつと、護堂とエリカの二人は帰ってきた。

「意外と早く帰ってきたな。やることから考えて、もっと長いかと思ったんだが?」
「そんなことまで知ってるのかよ・・・あんまり待たせるのも悪いかと思ってな。なんせ、相手は天空を統べる主神の力を使うんだから」

 護堂はそう言いうと、言霊を唱えた。

「これらの呪文は雄弁にして強力なり。我が敵を斬り裂く智慧の剣なり。我は最強にして、全ての勝利をつかむもの。全ての障害を打ち砕くもの!」

 護堂は黄金の剣を抜き、世界が黄金の世界に変わる。

「へえ・・・これが戦士の化身か!」
「ゼウスはギリシア神話における主神。オリュンポス十二神を含む神々の王だ。彼は全知全能であり、宇宙、天候、社会秩序をつかさどる神。故に彼は人々から主神とあがめられたんだ!」

 言霊にあわせて、いくつもの小さな光の球が現れる。
 その全てが黄金色に輝き、俺の中にあるゼウスの権能が危険だといっている。
 ただ・・・なんだか、護堂が哀れに見えるな、この状況だと・・・

「神々の父といわれる彼にも、父親はいた。だが、父親であるクロノスは自分の立場を奪われることを恐れ、ゼウスも他の兄弟と同じように飲み込もうとした。だが、それは母であるレアーの機転によって防がれることになる。クロノスは、ゼウスの代わりに石を飲み込み、ゼウスはクレーテー島でアルマティアに育てられる。こうして親の元を離れ、育てられる伝承は多くの鋼・・・英雄神の物語に見られる。彼もまた、鋼の属性を持つ神だ」

 言霊を重ねるごとに増えていく光の球は、もう既に千を越している。
 一撃一撃が神を切り裂ける、言霊の剣だ。

「故に、成長したゼウスは父であるクロノス・・・人一人を丸呑みにする、蛇の神から兄弟を取り戻し、後の戦争でこれを殺害する。その後にも様々な戦争に勝利し、神々の頂点に立った!」

 そこで、光の球・・・言霊の剣は、行動を開始した。
 俺は、蚩尤の権能で作った槍で、それを弾く。

「ゼウスを鋼とする要素はこれだけではない。主神となった後にはヘラ、メティスなどの大地母神や蛇の女神を妻とし、自らの子を生ませる。彼女達蛇の女神や、自分の子である蛇の女神アテナは、鋼が蛇を重複した物語を彼に与え、ゼウスを鋼の神とするんだ!」

 さらに増える光の球を俺は弾ききれなくなったので、避け始める。
 器用に操るってよりは・・・数に物言わせる感じなのか?

「だが、彼は元来の主神だったわけではない。ギリシア神話において、最初の主神はアテナであり、ゼウスはオリュンポスの神でしかなかった!」
「そこまで細かくやるのか・・・面倒だな・・・」

 少しやる気を失いながらも、俺は避け、弾き、黄金の剣を喰らわないように気をつける。
 別に食らっても何の被害もないけど、少しでも使い方を見ておきたい。

「そんなゼウスが主審の座につくことができたことには、古代ギリシアの歴史が背景にある!元々女性優位だった古代ギリシアは、あるときを境に男尊女卑に変わり、主審の座は天空を統べるゼウスのものとなった!本来女性優位だったことは古代ギリシアの歴史にから消えることが出来ていない。例として、神殿神聖売春がある!」
「あれもどうかと思うものだけどな!だが、確かに女性優位の名残だ!」

 女性優位であれば、乱交も許された。
 別に父親が分からなくても、女性優位なのだから母親だけがわかればいい。
 だからバッコスの信者達は乱交をしていたし、それは男性優位に変わっても続いた。
 そして、ゼウスも多くの女神と行為に及び、夫を持つ女神や人に暴行を加え、自分の子供を孕ませている。

 これは、ゼウスが女性優位の時代から存在する、女性優位の歴史が存在した証拠とも言えるだろう。

「そして、男尊女卑に変わってからは古代ギリシアの人間は徹底的にそれを主張した!ゼウスに捧げるオリンピア競技に女性が関わることは禁止され、女性の扱いも男性の従属物、奴隷の扱いとなった!故に神話でも、多くの女神は蛇の魔物に落ち、アテナやメティスはゼウスの娘、妻・・・古代ギリシアにおける、奴隷の扱いまで落として、ゼウスは主神の座を勝ち取ったんだ!」
「その通り!それが、ゼウスという神の歴史だ!」

 もう使い方は分かった。さあ、俺を切り裂いて見せろ!

「我は最強にして、全ての障碍を打ち破るもの!輝く勝利(ウルスラグナ)のため、剣よ、悪しき者を切り刻め!」

 輝く光の球は俺に向けて一斉に照射され、もう使える状態じゃないゼウスの権能を、完全に切り刻んだ。

「へえ・・・俺の中のゼウスを、一切感じ取れないな。つまり、俺は完璧に護堂の権能の攻撃を喰らったわけだ」
「ああ・・・これで、あのでたらめな破壊は出来ないぜ」
「だねえ・・・まあ、特に問題はないけど。むしろ・・・好都合だ」

 そう、これで好都合。
 だって・・・ようやく、始めのうちに仕込んでおいた隠し球が使える。

「我は今ここに、全ての条件を満たした。技の知を知り、業の源に触れ、その技をこの身で受けた。故に、今ここにこの力を振るわん!」

 これで、簒奪者であるプロメテウスの権能は完成した。
 最初に言霊を唱えながら護堂に触れ、ダグザの権能でこの権能について知り、ゼウスの権能を差し出すことでこの身で権能の攻撃を十二分に受けた。

「これらの呪文は雄弁にして強力なり」

 俺が言霊を唱えだすと、二人が目に見えて動揺した。

「まさか、他のカンピオーネの権能を使えるはずが・・・」
「いや・・・多分、アイツは使ってくる」

 正解だよ、護堂。これが、プロメテウスから簒奪した、俺の最後の切り札。

「我が敵を斬り裂く智慧の剣なり。我は最強にして、全ての勝利をつかむもの。全ての障害を打ち砕くもの!」

 そして、その場は再び、黄金色に包まれた。
 
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